ファッションヤンキー、力業で抑える
「……オイ、ヤンキー。何だお前その姿」
「後で説明しちゃるけぇ、今はネズミじゃ!」
歪な姿となった私に珍しく困惑気な土蜘蛛だが、ご丁寧に説明している場合じゃない。
「デブネズミ!こっちみぃや!」
姿が変貌した挨拶代わりに、シャンユエの時同様、暴龍眼から変化した禍龍眼を発動。私と目を合わせてしまったキングアバターは
「ヂヂュウアッ!?」
と、先程までの調子に乗ったような顔を一変させ怯えた様な表情と化す。デカくなって気も大きくなったとはいえ、元々は人間の足元サイズのネズミで様々な野生動物の被食者でもある。私の目を見て、本物の龍の目を幻視したのだろう。大きな音を立てて尻もちをついてしまった。……可愛げのある見た目なら好きな人いたんだろうが、ただただ汚いドブネズミだからなぁ。
ただ、隙が出来たのは事実。とは言え、今の合体した状態のキングアバターは私たちの攻撃が一切通じない。ならば動けなくすればいい!
「おっらぁ!」
「ヂュヂュッ!?」
尻もちをついた奴のどてっ腹に霊脈奔る龍腕のパンチを叩き込む。ダメージは無いだろうが、衝撃まで0になるわけではない。尻もちをついて万全な体勢では無かったキングアバターは抵抗むなしく、仰向けに倒れ込んでしまう。私の狙いはそこだ。顔の方に回り込み――その憎たらしい顔の額と口に両手を当て地面に押し付ける。
「ハッハァ!オラ、どうじゃあ!」
「お、おーいヤンキー。何しとるん?」
「何ってそりゃ四五六達が核ネズミ倒すまで抑え込んどるんじゃろが!」
「はぁ!?そんな無茶が――通っとるんかい!」
ムラムラマッサンのツッコミ通り、キングアバターは何とか私の手を逃れ起き上がろうとしているが、手は届かないし、尻尾は仰向けに倒れたせいでお尻に潰され動かすことが出来ないようだ。体を捩って起きようとしてもそれも出来ないでいた。
「ッ!いやアカン!ブレス吐こうとしとる!」
「マジ?」
瞬間、ボフンと空気が急に抜けた様な音がしたかと思うと、キングアバターの口を抑えている方の手の隙間から紫色の気体が立ち上っているのが見えた。ふむ、ブレスが放たれてから10秒が経過したが、私のステータスには何の異常もない。
「うん、効かんかったわ」
「どう言うことでござるか!?」
「この手で接触した状態異常は無効化されるんじゃ」
「お前……人間やめたのか?」
「この姿の時はほぼ止めとるかもしれんのぉ……」
土蜘蛛、そんな呆れたような目を向けないで。ムラムラマッサンは笑い噛み締めないで。いいでしょうが!実際今効果的なんだからさ!
「見とる暇あるんなら回復でもして備えろやぁ!」
「そうさせてもらうわー」
……しかし暇だな。勿論、キングアバターを抑える気を緩めるつもりはないが、まだ核ネズミを倒していないようだから動くことすらできない。移動することも出来ないからな……あ、そうだ。顔は動かせるんだから――
「オラ」
「モゴヂュア!?」
禍龍眼で強化されたレーザーでキングアバターの腹を撃ち貫く。やはりダメージはないが、その腹には立派に貫通した穴が開いており、そこから煙が立ち上っている。
パーティの面々からドン引きの視線を浴びてるが、気にしないでおこう。暇なのが悪い。ちなみに遊びでMP消費の激しい目からレーザーを効かない相手に撃っていいのかと聞かれれば、抑えている手がMP吸収を発動させているので割と問題なかったりする。なんなら、もう一発くらい放ってもいいんじゃね?そう思った瞬間、抑えられた口をモガモガとさせながらキングアバターが苦し気な声を上げ始め、体も波打ってきた。これは来たか?
「お前ら!分裂が来るけぇ準備せぇよ!」
さぁ、このターンで終わらせようか!




