ファッションヤンキー、鼓舞する
そろそろ私も同じところを歩き続けるのにも飽きてきたんですけど……いつまでやってりゃいいのさ。なんて私の切なる願いが届いたのか、後ろに続く集団の中から1人が声を上げた。
「フレンドがキングトライブグラトラットとエンカウントしたって!」
その朗報にみんなが沸くが、私は安堵のため息が漏れた。これでようやくベースキャンプを歩き続ける作業ともおさらばだよ……まぁキングとは言え私にビビってすぐに逃げ出すようなネズミの親玉だ。大した強さじゃないんじゃないかな。
ま、恐らくだけどそのキングが倒されるまでネズミたちはポップし続けるのだろうから私達ベースキャンプ組の仕事はまだ続くんだけどね。ほら、またネズミが5匹物陰から出て来……うん?
「ん?逃げんのか?」
「嘘だろ?番長の怖さで逃げないのか?」
失礼なことを言われている気がするが、それよりも目の前の異変だ。今までは逃げるだけだったはずのネズミ――いや、トライブグラトラットが逃げていない。それどころか、こちらを睨み返している。
これは、先程までの逃げるだけの窮鼠じゃない。敵を襲う獣だ!
「全員構えぇ!っ!」
「ヂヂィッ!」
プレイヤー達に声を掛けようとしたところ、手のひらに静電気のような感覚が走る。釣られて手を見ると、2匹のトライブグラトラットが噛みついていた。格好つけて窮鼠だなんて言ってたら本当に噛みついて来たんだが!?
反射で手を払うが、こいつ等物ともせずに噛みつき続けている!?
「うわぁ!?」
「ちょっ、ネズミが!」
「いててててて!」
「結構怖いんだが!?」
どうやら襲われたのは私だけではないようで後ろからプレイヤー達の悲鳴が聞こえる。このタイミングから察するに、ボスと遭遇すると部下たちの行動パターンも変化し私達を襲ってくるようになるみたいだ。と言うか、手が痛いんだが!?もっと言うと状態異常の毒をもらっていやがる!ネズミらしく病原菌を持ってんの!?
「ちぃっ!"龍拳"!」
このまま嚙み続けられれば溜まったもんじゃあない。龍拳を発動させ、私の肌の表面を龍の鱗へと変質させる。すると、腕に深々と刺さっていたトライブグラトラット達の歯が鱗に押し返され、腕から離れる。そこを掴み上げ――思いっきり地面に叩き詰める!!
「「ヂギャッッ……!」」
地面とハグを交わしたトライブグラトラットは容易く命を落とした。どうやら私達を襲うほど凶暴化したところで、耐久自体は上がってはいないようだ。そこは幸いと言うべきか……とにかく今はボスがいる限りポップするこいつらを根こそぎ潰すしかない!
だけど今、この場は突然暴れ出したトライブグラトラットにプレイヤー達は喧騒にまみれ、慌てふためいている。今この状況で私がするべきことは……!!私は一旦、深呼吸をし――
「おぉち着けぇえええええええええええええええええええ!!!」
あらん限りの声を上げた。大気が揺れ、地が揺れる。本当に我ながらよくこれだけの声が出たものだ。気が付くと辺りを静寂が包んでいた。襲っていたはずのトライブグラトラットの声でさえ聞こえない。その場のあらゆる視線が私に向いていた。いや、あのそんなに見つめられると恥ずかしいんですが?えーっと、これ私の言葉の続きを待っているわけだよね?勢いで落ち着けって言っただけであまり考えてなかったんですけど……えっと、えっとぉ!!!
「ネズミ共は襲って来るだけでただの雑魚ということは変わらん!落ち着いて対応すりゃ倒せる!じゃけど毒を持っとるけぇそこは気をつけぇ!討伐組が倒すまでの辛抱じゃあ!窮鼠なんぞ踏みつぶしちゃれぇ!!」
「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」」」
私の一声に、プレイヤー達も叫ぶ形で返答する。いやぁ、勢いで言っちゃったけどなんかこう、いいもんだねぇ……ただ、1つ問題点を上げるとするなら……これを言っている私がボス討伐に参加しているわけじゃないって所だね!!
"スキル 叱咤激励を習得しました。"




