ファッションヤンキー、感情の爆発を目の当たりにする
「オラァ!ステープラぁ!早く起きんかい!」
「あと20秒ですー」
そんな気の抜けた声が私の背から聞こえてくる。普段だったら「20秒なんてすぐだね!」なんて思うかもしれないけれど、戦闘中の20秒は結構長い。そんな悠長に敵は――特にNPCのモンスターは待ってくれない。現にほら、火の玉が私の顔面にオブェ
当たった感触ドッジボールだったし、顔面セーフと言えたらいいんだけどね。現実はそんなに甘くなくしっかりHPは減ってる。というか仮にもティラノのっぽいモンスターがちまちま遠距離から攻撃してんじゃないよ!?
「ヤンキーさぁん、頑張ってくださいねぇ」
「いや、お前は何をしとるんなら!というかフランソワちゃんみたいなのはおらんのか!」
頭上から聞こえる緊張感を感じさせないようなクレメオの声援に多少のイラつきを覚えながら、そう返す。フランソワちゃんとは以前私がトルネイアのいた洞窟で倒したクレメオがテイムしていたマザーファンキースパイダーのことだ。
あのモンスターはかなり強力で、苦戦させられたので、テイマーであるクレメオがいるなら是非とも召喚してほしいんですけど。
「ロザリーちゃん達と協力して恐竜ちゃんをバインドしようとしてるんですけどぉ、駄目ですねぇ。すぐに引きちぎられちゃいます。それと、私ぃ今回のイベント子供たちの育成のために上位モンスターは連れて来てないんですよぉ。今頃通常マップでぇ、糸とか生産しているはずですよぉ」
「……そうか」
いないんですかマジすか。当てが無くなって割とショック。で、ロザリーちゃんは連れてきている蜘蛛モンスターのことだよね、どうせ。にしてもバインドが上手くいかないのは発狂と嫌がらせ魔法でATK上昇したのが原因だよね。あれ?ステープラさん?
そろそろ攻撃に転じたいところなんだけど背負ってるコイツが起きない限り私に攻撃手段は――あったわ。
「オラァ!!」
「グルルァ!?」
私の目から放たれたレーザーはティラノの右肩辺りをいとも容易く貫くことが出来た。やっぱりレーザー強いわ。もう撃てそうにないけども。
ただ、撃った意味はあったようで、ティラノが明らかに痛みによってか連続して放っていた火球を中断させた。ちなみに撃っていた火球は全部私に当たってたよ!そもそも遅いDEXにステープラ背負ってるんだから避けられないからね!後で褒めてよ!?
「おんぶして目からビームってぇシュールぅ」
「言うなや!今なら拘束できるじゃろうが!せぇ!」
私がプレイしてて一番気になることを!
まぁ、私が言わずともクレメオは動いていた。すぐに蜘蛛たちを向かわせて動揺していたティラノを糸で拘束する。そしてそのタイミングで――
「私、復活!」
「耳元で叫ぶなぁ!?」
ステープラも復活した。のは、いいんだけど今こいつにできることってあるのかな?今怒り狂っているティラノに嫌がらせ魔法をしたところでATKだけ上がる未来しか見えないんだけど?
うん?ちょっと?ステープラさん?何で私の前に歩み出てるの?
「ふっふっふ、いい具合に怒ってるねティラノ!」
「そりゃお前が怒らせたけぇの。ええけぇ下がれって」
「6割あなたが怒らせましたよねぇ?ヤンキーさんの後ろに隠れたほうがいいんじゃないですかぁ?」
「なんで2人とも下がらせようとするの!?」
バリア張っておいてスタンもらった人がなんか言ってら。いや、ぶっちゃけ邪魔だから下がっていて欲しい。攻撃魔法が使えるなら使えるで後方にいて欲しいんだけど何で私より前出てきた。シャドルみたいなプレイスタイルなら分かるけど、嫌がらせ魔法ってそういう魔法じゃないよね?
「いいんだよ!ティラノが怒り狂った今の状況こそ!私の必殺技が火を噴くときなんだよ!」
「「はぁ」」
「信じてないね!?」
信じろと言われましても……?って問答している場合じゃない!ティラノが拘束されている今がチャンス!いくら削れるか分からないが、攻撃しなければ……いや、だからステープラは下がっててって。
私がステープラを止めるべく手を伸ばそうとしたところで、彼女は杖をティラノに向けて指し示し、唱えた。
「怒れる感情にその身を焦がしちゃえ!"アウトバースト・エモーション"!」
魔法を発動させるが、別に杖の先から何か出るでもない。しかし、目に見える変化が、私にでもクレメオにでもステープラにでもなく――ティラノに現れた。何かティラノが光りだした。最初は小さな光が胸の辺りにあるくらいだったが、だんだんとその光量は増していき、やがて体中全てが発光したかと思うと――轟音と共にティラノが爆発した。




