ファッションヤンキー、かつての敵と遭遇する
私は目の前に現れたクレメオに自分でもわかるほど顔を歪める。彼女とは仲良くした覚えがない。強いて言うならば敵対しているプレイヤーだ。青龍トルネイアを襲っていた大蜘蛛を倒したらそれが彼女のテイムモンスターでその復讐で戦ったことがある。あの時は拘束されてピンチだったけれど、情報屋に助けられたんだったね。
さて、彼女がいるということは土蜘蛛や帰蝶もすぐそばにいるのでは。辺りを見渡してみるけど……それっぽいのはいない?
「あらぁ、もしかしてリーダー様たちを探してます?うふふ、いませんよぉ」
怪しげに笑いながら私の疑問に答えてくれたクレメオ。しかし、土蜘蛛達いない?となると……
「なんじゃあ、別れて悪だくみでもしとるんか?」
「いえ、普通にリアルでお仕事だそうですよぉ?」
「あ、そう」
あいつら社会人だったの。流石に仕事さぼってログインはしないのね。
となると、相手をするのはクレメオだけでいいのか、それならば少しは楽かもしれないね。ただ、あの時のように数に物言わされたらきついかもしれないけれど。
私はしっかりとクレメオの方へ体を向けどっしりと構え攻撃に備える。今彼女の周りにスパイダー系のモンスターは見えないけどこのジャングルでは隠れるところはいくらでもある。警戒を怠ってはいけない。
「あのぉ?何か勘違いしているかもしれませんが私ぃ、今あなたと戦うつもりありませんよぉ?」
「嘘臭いのぉ」
「うふふ、信用されないのも悲しいですねぇ?でも、本当ですよぉ?だってぇ、このイベントでPKってあんまりうまみないんですよぉ」
全く悲しくなさそうに笑うクレメオは両手を上げ、降参のジェスチャーを取るが、どうも胡散臭さが拭えない。情報屋とはまた違った胡散臭さだよね、この子。
で、彼女の言っていることだけど本当かなぁ?私自分に関係なさそうな項目は読まないタイプだからPKに関しては見てないんだけど。
「じゃあ何で俺の前に現れたんなら」
「知り合いがいたら挨拶するじゃないですかぁ」
「そんないい関係だったか?」
少なくとも私の記憶の中では友好的に話した記憶ないんですけども?殺し合った仲ともいえるんですけど?
うーん、無視していきたいところだけど、こいつに背中見せたらすぐにグサリとやられてもおかしくないからなぁ。通常攻撃ならまだしも状態異常系の攻撃は貰いたくないんだけど。
「っていうか、戦う気無いって大蜘蛛――」
「フランソワちゃんですよぉ?」
やっぱりこだわるんですね、そこ。
「フランソワちゃんのことはもういいんか?」
「よくはないですけどぉ、今の私ではあなたに及ばないと思いましたからぁ。その眼ぇ、色々聞いてますよぉ?」
誰に聞いたかは……聞いたところで教えるわけもないよね。もしかしたら情報屋かもしれないけれど。ていうか、挨拶に来ただけならそろそろどっか行ってくれませんかね。ここで私から移動しようとすると逃げた感じになるから嫌なんですけど。クレメオは変わらず私を見ながらくすくす笑ってるし。
そう思っていたところ、不意にクレメオから表情が抜け落ち、まるで何かを察したかのように私に向けていた視線を横に向けだした。
「ん?どうしたんなら」
「何かが来ますねぇ?」
「はぁ?」
その"何"について聞こうとしようとした瞬間、ジャングルの木々を震わせるかのような爆発音が鳴った。あっぶないなぁ……危うく顔に出すところだったよ。
爆発音のした方を見てみると奥から何か悲鳴のようなものが聞こえる。いや、のようなものではなく実際に悲鳴だなこれ。しかもその声が段々と大きくなってきている。これ間違いなくこちらに向かっているよね?
「ひぃえええええええええええええ!!助けてぇ!!!ぶべぁ!!」
すんごい情けない声を上げながらプレイヤーらしき女が私とクレメオの間に躍り出た――と思ったら派手にすっころんだ。なんだこの存在を認知した瞬間に情けなさを惜しげもなく披露する奴は。あの怪しさオーラ満載のクレメオも口をポカンと開けて唖然としてらっしゃるぞ。
その倒れた女だけど……恰好的には魔法職かな?ガバッと起き上がったかと思うと私とクレメオを交互に見比べる。私を見て……クレメオを見て……また私、クレメオ……いや、いつまで見比べるん。
「どっちも助けを求めたらヤバそう……!」
何だこの失礼なの。まぁクレメオぱっと見お人形さんみたいで可愛らしいかもしれないけど、目が怖いからね。なんか狂気感じるもん。私?いやまぁ、私は言わずもがなだから。
まぁこんな失礼女はさておき。地面から脚に振動が伝わりはじめ、それが次第に大きくなってくる。失礼女が出てきた方向から木々をなぎ倒す音が聞こえ――音の正体が現れた。
「おいおい……」
「あらぁ」
「ひぃえええええええ!!きちゃああああああああああああ!!」
三者三様に反応を示す。私達の前に現れたのは――ピンク色のティラノサウルスだった。




