ファッションヤンキー、旗を受け取る
「さっすが竹輪天さん!俺のイメージ通りだ!」
「出来栄えに満足して頂けたのなら何よりだ」
メッセージが届いたのち、すぐさま竹輪天さんがトレトゥスにて借りている店舗に寄る。完成品を受け取った私は、即代金を支払いそれを広げて悦に浸っていた。夜を思わせるような黒の布に赤の筆文字で描かれた神風という文字。まるで月のような黄金の光を纏わせるのは1体の躍動感あふれるポーズを取った東洋龍。さらにはその東洋龍の周りには桜の花びらが舞うという私のリクエストそのまま――いや、それ以上の作品がそこにはあった。
「ってか竹輪天さん絵ぇ上手いのぉ」
「これは模写だけどな。この街の図書館に行って龍の姿について調べたら金華龍クリューソルスってのがいてな、それを参考にした」
そういや、この学ランの背中の龍も金華龍クリューソルスだったね。そうだ、クリューソルスについて調べたんだったら何かしら知らないかな、聞いてみよう。
「俺が調べたものはそういう姿が目撃されているくらいにしか記載はされていなかったな」
「そうかぁ……」
残念だけど仕方ない。そもそも龍に関する資料自体少なかったみたいだ。……思った以上に龍は世の中に姿を現していないようだ。にしては会っている気がするし、会おうとしようとしているんだけど、大丈夫なのかな?
おっと、念のためアイテムとしての旗棒を確認してみようか。
神風の族旗
神風の文字と金華龍クリューソルスの姿絵と桜の意匠が施された旗。これを掲げればあなたと志を同じくする者が集うことだろう。
はい。変わったことと言えばアイテムの名前とフレーバーテキストが変わったくらいだね。そもそも旗棒が出た職業おしゃれボックス自体がスキルもステータス上昇も持たない装飾品を出すものだからね。期待はしていなかったよ。私的には格好良ければOKだったからね。
「学ランの時同様スキルが生えるかと思ったが、流石にそんなことはなかったか」
「それは構わんって。とと、そうだそうだ。竹輪天さん、これ使ってなんか作れるか?」
そう言い私が取り出したのはシャンユエからもらった水虎の毛皮を竹輪天さんに見せてみる。
毛皮と言うだけあって服飾品に使うものだろう。後は精々お金持ちの床に敷かれてある虎の絨毯?でもこの毛皮の場合踏む度に水が滲んで足が不快なことになりそうだなぁ……
「触ってもいいか?」
「おぉ、もちろん」
手渡すと、それはもう穴が開くほど見つめたり裏返したり撫でてみたりと凄い職人感が漂って来る。果たして竹輪天さんはこの毛皮をどう生かそうとするのだろうか――!!
「無理だな」
「へぁ?」
「心躍る素材には違いないが、これは俺の手が出せる領域の上を行く素材だな。鑑定してみてもあまり情報が得られなかった」
「ち、竹輪天さんも無理なことがあるのか……!?」
「そんな戦慄するな。俺は別に第一線プレイヤーという訳ではないからな。ただ、いい品と言うのは間違いない。その毛皮、それそのものに水属性が付与されていたからな。」
名残惜しそうに私に水虎の毛皮を返しながらそう話す竹輪天さんの目はどこか悔しそうだ。私はどう言葉を返せばいいか分からず黙って毛皮を受けと……受け……
「竹輪天さん、離して」
「す、すまん」
まーさかの離そうとしなかったよこの人。声を掛けられてハッとして離してくれたことから本能が返すことを拒否したんだね……でも流石にあげるのはパスで。いやほんとに、片付ける毛皮をそんな目で見つめてもダメだから!いくらお世話になってる竹輪天さんと言えどもダメ!
「じゃ、じゃあ俺は行くけぇ」
「分かった。また何かあったら言ってくれ」
「おう!」
軽く手を上げ挨拶をし、ドアノブに手を掛け――あれ?ドアノブ掴もうとしたらドアがいきなり開いて空ぶってしまった。そのまま体勢を崩した私は前に倒れ……なかった。ドアの奥から伸びてきた腕に支えられて事なきを得た。うわ、恥ずかしい。助けてくれた人に礼を言わないと!
「おう、すまんのぉ」
「何、気にすることは……ん?オウカ殿?」
「オウカ様?あら本当!偶然ですわね?」
「へ?」
なんとそこにいたのは、トレトゥスでの道中に手助けたフェリーンこと黄金龍に仕える巫女フェイルリーン・ハウトゥーグムとそんな彼女の護衛のコーネストだった。
今私が会いたかった人堂々の№1の御登場だ。こんな偶然ある?




