ファッションヤンキー、解決にはまだ遠い
思えば、このゲームを始めてからNPCに笑顔でお礼を言われたことって……あんまり無かったなぁって。いや、お礼自体はままあるけど大抵おっさんだったりねぇ……少なくともこんな美少女にお礼を言われたことは無いね。これが男の子なら恋に落ちてもおかしくないレベルかも。
さて、こう言った時のヤンキーは素直にお礼を受け取らないというものだ。悪ぶろうじゃないか。
「気に喰わん奴がおったけぇ叩いただけじゃあ」
「ふふ、それでもお礼を言わせてください」
やだ、この子一切物怖じしないじゃない。あなたの御付きのナイスミドルも少しは反応した強面と眼なんだけど?そんな美少女スマイル向けられて綺麗にお辞儀されてもも困るんだけど?
ま、まぁいいや。兎にも角にもこの子をコーネストの元にお届けすれば晴れて依頼達成となるわけだ。あまり大きくない子だから犀繰に2人乗りは可能だね。よし、こんな男どもが倒れた所なんてさっさと離れて――ん?
音が聞こえた。まるで口に入れたばかりの飴をかみ砕いたようなそんな音。そしてその発生源は……私の下にいるドラゴニュートの頭の方からだ。
そして私同様に音に気付いたのだろうフェリーンが、ドラゴニュートの方に視線を向けると、驚愕に目を見開き口を抑えた。
「まさかあれを……っ!その者から離れてください!」
「っおう!」
並々ならぬフェリーンの焦りように私はドラゴニュートから腰を上げ、フェリーンとドラゴニュートの間に立つ。奴を見ると、顔の辺りに何やら粉々になった煌めく何かが散らばっていた。もしかして本当に飴食べてた?……とはさすがに思えない。でもこういう場合大抵面倒なこと起こるよね。
ドラゴニュートを観察していると悔しがっていたはずの奴の口から笑い声が漏れ始めた。
「クッ、クククッ……ンだよ、本当に喰えば力が手に入ンのかよ。あー、今まで必死こいて修行してたのがバッカみてぇ……クヒッヒハハ!ハハハハ!!」
「壊れたんか?」
狂ったように笑いだし、私という重しが無くなったことでゆっくりと起き上がるドラゴニュート。その目はどう見ても正気ではない。フェリーンはこいつがこうなった原因である煌めく何かについて何か知っていそうだから聞いてみようか。
「おう、フェリーン様よ。あいつは何を口にしたんなら」
「私のことはフェリーンとお呼びくださいませ。……彼の者が口にしたのは"覚醒玉"と呼ばれるアイテム。口にすれば己の中に眠る力を解き放つ――と言えば聞こえはいいですが、その実態は無理やり体の潜在能力を覚醒させ力尽きるまで獣同然に暴れさせるという禁断のアイテムです」
それを食べてああなったと。確かにその効果は如実に表れてるみたいだね。ドラゴニュートの彼は狂い始めたみたいだし。おや?何かあいつ体が徐々に大きくなってません?あれ?何かゴリュッゴリュッて不気味な音が聞こえるんですが?あれ?骨格そのもの変わってきてません?何か翼生えてません?肌真っ黒になってません?鱗生えてません?
「おい、ドラゴニュートの潜在してるものってことは……!」
"BOSS 狂劣竜ダリグリカが発生しました"
なったのね……ドラゴンに!じゃないんだわ。ボスが発生しましたってなんだよ!
えーい、とりあえずは非戦闘員をこの場から離さなくては!まだダリグリカは何のアクションも起こしていないけれど、狂劣竜って名前からして暴れることは間違いないだろう。
「犀繰!フェリーンを連れて出来るだけ離れとけ!あと護衛もしとけ!」
『了解だ』
「えっ?きゃあ!」
命令を受け取った犀繰の行動は早かった。即時にフェリーンを抱きかかえ人型のままさっさと走る。バイク型で駆けられればいいんだけど、フェリーンに1人で乗せるのはちょっと怖いからね。犀繰もそこをくみ取ってくれたようだ。優秀なゴーレムであたしゃ嬉しいよ。
「グルォオオオオオオオオオオオオ!!」
おほーっ何とも理性を感じさせない叫び声だこと。こりゃ元のドラゴニュートの意識は完全に消え去ったと思ってよさそうだね。
天に向けて高らかに雄叫びを上げたダリグリカは獲物を捉えたかのようにゆっくりと私に視線を向けた。ははっ、何見てんだコラ。折角目を合わせてくれたので暴龍眼を発動だ。
「グガッ!?グ、グルアアアアアアアアアアアアアア!!」
反応はしたね。けど、すぐに怒り狂ったように声を上げた。恐慌状態も解除されちゃったみたいだね。さーて、ドラゴンと会うのはこれで3度目か。サラマーダとトルネイア。2体と既に会い、更にはトルネイアから一撃貰ったことがある身からすれば、このダリグリカはそこまでの強さはないだろう。
私は初めて真っ向から戦えそうなドラゴンに笑みを深める。
「さぁ、遊ぼうやトカゲよぉ!」




