ファッションヤンキー、ムカついたので
目と目が合う瞬間恋に落ちれば……まぁいいんだろうけど、そこは私クオリティ。私が思い浮かべたのは暴龍眼の発動だ。相手も中々悪い面構えをしているが、そんなの関係ねぇとばかり効果は如実に現れ――
「ッ!?――ッ!――!?」
角男の体は金縛りに掛かったかのように硬直し、口を開こうにも声を発することが出来ない。
見たこともない種族で強そうな見た目。効かない可能性も考慮していたけれどそんなことは無くて安心した。とりあえず大きな隙が出来ましたんでカウンターを気にせず思いっきり殴っておこう。
「オッラァ!!」
掛け声と共に繰り出した鳩尾に向けて不動嚙行の突き攻撃。動くことのできない角男はもろにその攻撃を受けることになるが……堅いね。誘拐犯達同様殺さないように打撃モードでの突き攻撃だったけど、手ごたえが感じられなかった。
ただ、やはり人体の急所である鳩尾への一撃。角男は顔を青くし、膝から崩れ落ち……おぉ耐えた。鳩尾を抑え荒く息を吐き、苦しそうだ。まぁそれやったの私なんだけどね。
「ガッ……はぁ、て、テメェッ」
「おう、中々気合入っとるようじゃのぉ、でくの坊」
ちいせぇのと言ってくれちゃったんだ。でくの坊と言ったって構いやしないでしょう。勿論、リアルで自分からは言わないよ?
さて、追撃をしてもいいけどここは相手の出方を待ってみるかな。体力は十二分にあるし踏ん張り所も残っている。そう易々と死にはしないだろう。話も聞いてみたいしね。角男の眼前に不動嚙行の切っ先を合わせて話しかける。
「よぉ、でくの坊。お話しようや?出来るじゃろ?まずは自己紹介。俺はオウカじゃ」
「ッ!誰が話すかよぉっ!!」
「ぅおっ」
何と角男、弱っていたと思ったら不動嚙行を払い除け、そのままお返しと言わんばかりに私の腹を殴ってきた。うん、痛い。痛覚的なダメージこそないけどぼちぼちHPは減ってます。案の定、ノックバックはしませんけどね?で、そんな私に驚く角男よ。自慢の一撃だったとか?いやすまんな。そんで、君殴ったよね?
「お返しじゃあ!」
「ぶげっ!」
ターンアタックで強化された不動嚙行の一撃はさっきよりも痛かろう痛かろう!けど。倒れ伏しはしたけど気絶はしないんだね。やっぱりタフだ、こいつ。だけど満足に動くことは出来なさそうだね。これならこの場は私だけで大丈夫かな。
「犀繰、ここは俺がやっとくけぇ、お前はフェリーン様とやら助けてこいや」
『了解した』
もし、中にいる誘拐犯が角男と同レベルなら不味いかもしれないけど、以下なら犀繰でも十分対処できるでしょ。なんか犀繰がテントに入るや否や悲鳴が聞こえた気もするけど気のせいでしょ。
それよりも目の前のこいつだこいつ。さっさと話してくれればいいものを。
「クソがっ!生贄を運ぶ奴らの用心棒をするだけの簡単な仕事だと思ったのによぉ……!」
何か悔しがりながらベラベラ喋り始めましたけども?物騒なワードが出たね、生贄とな?話の流れ的にフェリーン様がその生贄って事かな。
これ、やっぱり厄介案件だな?生贄のお届け先から恨み買うパターンだなこれ。
「それを……!ドラゴニュートでもねぇくせに龍の一部を宿したヒューマ如きに!」
おっと、更なるワードが。ってか喋り過ぎでしょこいつ。私がここにいるの忘れてません?私はここですよー?でもここで遮ったら情報漏らしてくれないと思うと下手に口出しできない。
ドラゴニュートねぇ……いろんな作品でよく聞くけどこのゲームの中では割と人間に近い姿をしてるんだね。ドラゴンっぽい顔をしているって訳じゃないんだ。
「……」
「……あン?」
「チッ何見てんだ!」
あ、急に静かになったと思ったら自動的に喋ること終ったのね。それならそうと言ってよ。急に黙ると怖いじゃない。しかもまだ睨む元気はあるんだね。
とりあえずこいつも拘束しておかなきゃね。っても私の持ってるものじゃ拘束しきれなさそうだし……よし。
「どっこらしょっと」
「うがっ!?てめぇ、降りやがれ!」
馬乗りで座ってやりました。ドラゴニュートはジタバタともがき、脱しようとするが、私の体はビクともしない。これは私の体重が重いとかそういう訳じゃないと思うのよ。こういうのは大抵力勝負。つまりATKが高いから私はこいつを抑え込めている状況なんだよ、多分。
さて、テントの方は……何かどったんばったん聞こえるね。大騒ぎしてるのかな?フェリーン様に怪我がないといいけど。あ、犀繰出てきた。
「犀繰、終わったんかぁ?」
『問題ない。一部、損傷したが支障はない』
確かに所々傷がいっているが、犀繰自身が言っている様に大したことは無さそうだ。おっと、犀繰の後ろに隠れるようについてテントから誰か出てきた。もしかしてあれがフェリーン様かな?
ほほう、確かにコーネストと似た服を着ているね。年若い娘と言っていたけど、中学生くらいかな?何とも御淑やかそうな少女だね。ちょっとああいうのに憧れちゃう。少女は辺りを見渡すとやがて、私と目が合う。おっと、もしかしてまたビビられるかな?と思ったけど、その予想は覆された。
「龍の眼を持つ御方。貴女様が、ゴーレムの主人の方なのですね。お初にお目にかかります。私はフェリーン、巫女をしております。この度はお救い戴き、ありがとうございます」
何かめっちゃ丁寧にお礼を述べられちゃったよ。




