ファッションヤンキー、発つ
「ぬうーん……」
イベント終了の翌日、私はウィンドウを前にしてうんうんと唸っていた。何に悩んでいるかってイベントの報酬だ。事前の案内通り勝利ポイントの交換なんだけど、とても悩ませてくれる。必要ポイントが低い物だと、ポーションなどの消耗品や序盤の素材アイテム。逆に高い物だと、ランダムでスキルを習得できるスキルルーレットなるアイテムや家具アイテムなんてものもある。武器は無いんだね。
ってか種類!種類が多すぎる!こんなの目移りしちゃうよ!おや?ゴーレムの銅核がある。ってことは銀核やはたまた金核が――はい、ありませんでした。銅核だけなんだね。
「犀繰は何がええと思う?」
『姉貴は、ポーションをよく使う。大量に交換しておいた方がいいだろう』
非常に現実的な意見が返ってきた。分かるけども。使わない日は無いと言っても過言では無いレベルで使ってますけども。それにこのポーションは、交換しても流通に影響を及ぼさないって書いてあるから交換するのも手だろう。でも……何か夢が無いと言いますか。でもちょっとは交換しておこうか。
「お?」
再び交換アイテムを眺める作業に没頭していると、1つのアイテムに目が留まった。その名も"職業おしゃれボックス"。名前通りに開けると、開封者の職業に見合った装飾品がランダムで1つもらえると言うものらしい。ただし、装飾品自体にステータス上昇効果やスキルは付与されておらず、本当にただ着飾るだけのもののようだね。
私の場合はヤンキーにちなんだものってことだよね。ヤンキーが職業云々はこの際いいでしょう。よし、このアイテムを……候補にしてもうちょっと確認しよう!よくよく考えたらいいってアイテムがまだあるかもしれないからね!
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1時間は悩みました。悩み抜いて私が導き出した答えとは――!!
"中級ポーション×15 職業おしゃれボックス×2 逃がさぬの陣×1"
というものにした。逃がさぬの陣というのはぱっと見は五芒星の書かれた布。効果は戦闘から離脱しようとする敵NPCを閉じ込めて強制的に戦闘を行わせると言うものだ。この目になってからモンスターに逃げられることも増えてきたからね。欲しい素材を持ったモンスターも逃げてしまうかもしれない。それを防ぐためのアイテムだ。ただ、耐久は無限じゃないからしっかりと考えて使っていきたいね。
さてとさてと、ガチャの時間で御座いますよ。おしゃれボックスから出現するのは完全にランダム。ガチャと呼ばずして何と呼ぼうか。今回の場合の当たりは、ヤンキーっぽくて格好いい物だ。逆に言えば格好悪い物は外れ。って、格好悪い物なんてあるのかなぁ?まぁいいや、とりま1つ目開けちゃおう!なーっにかなーなーにっかなー
"旗棒"
なぁにこれぇ。旗?無地の旗?しかも結構大きい。学校で見た優勝旗並みの大きさだよこれ。ヤンキーに……旗?あぁ!あれか、バイクに刺してパラリラパラリラする奴!あー、なるほどね!確かにヤンキーっぽいアイテムだ!……いや待て、装飾品?装飾品分類でいいのかこれ。やろうと思えばこれで戦えそうだよ?気持ち的には戦うならもう1本旗欲しいけど。
旗のデザインは今度竹輪天さんに相談してみよう。やってくれるかどうかは分からないけど。この旗棒に関しては外れよりかな。もっとこう、違うベクトルでヤンキーっぽさをだね……?是非とももう1つのおしゃれボックスには頑張ってもらいたいところ。頼む、頼みますよー!!
"金色のピアス"
箱の中から出てきたのはアイテム名そのまんまの金色のピアスだ。それもブランブランとぶら下がったりしないタイプのピアス。これだよこれ!私が求めていたのは!早速装備させていただこうじゃありませんか。本来であればピアスを付ける時はピアスホールを開けなきゃいけないけど……そこはゲーム。装備を選択することで痛みも何もなく付けることが出来るのだ―!いやぁ、これでヤンキーポイント3ポイントは入ったのではないだろうか。嬉しさで顔がにやけてしまうと言うものだね!
『姉貴、顔がなかなか凶悪だぞ』
「やかましいわ!」
犀繰に一喝を入れたところで、そろそろドヴァータウンから旅立つことにしよう。
へっこの街にはいろんな思い出が……街自体にはムラカゲとの一戦ぐらいしか思い出ないな!街の連中とあまり関わってなかったからなぁ。それこそムラカゲと……あぁ門番さんくらいか。
よし、次の街ではもうちょっと住人と交流してみようか!怖がられるかもしれないけどね!
ちなみに情報収集は抜かりない。次の街の名前はトレトゥレス。冒険者ギルドで得た情報では、何と王都に次いで栄えている街なんだって。ただそれ故にきな臭い連中もちらほらいる――だなんて噂もあるらしい。何とも楽しそうな情報に心躍らせながら私は洞窟へ向かうたびに何度も通った門を潜った。知らない仲ではないので門番さんには別れを告げておこう。
「ほう、そうか。この街を去るのか」
「おぉ、世話になったのぉ」
「本当にな!ま、精々トレトゥレスでも検問されるといい!」
「そこは紹介状とか書いてくれんのんか」
「馬鹿を言え。紹介するほど俺とお前はそこまで仲がいいわけではないだろう?」
そでした。門番さんは私の名前を知ってるけど私は門番さんの名前知らないわ。少し寂しい気分を覚えながら私はバイク状態の犀繰に乗り込みエンジン音をふかし、発進させる。今度は少しは住人と仲良くしようと心に決めながら。




