青春の激闘。
「青春だね~・・・」
テレビから聞こえてくる大歓声に混じり、聞こえてきた紫月さんの声はその大歓声を裂いてしまうほど静かだった。
それに私は『え?』と声を漏らし、その言葉の意味を訊ねていた。
「甲子園ってさ、青春じゃない? いいな~って思う」
そう言って微笑む紫月さんの右手にはお風呂あがりから5本目となる350ミリリットルの缶ビールが握られていてその缶はだらだらと汗を掻いていた。
だらだらと汗を掻くその缶ビールの様子はまるで持ち主と共にその青春の激闘をドキドキしながら観戦しているかのようだった。
「紫月さんの青春は・・・どんなだったんですか?」
私の問いに紫月さんは寂しそうにニヤリと笑うと手にしていた缶ビールを一気に煽り、その缶の中を空にしてしまった。
まるでそれが答えだとでも言うように・・・。
「どうだろうね? わかんないや。ただ、若い子たちにはたくさんのことを経験してもらいたいなって思うよ。いいことも・・・悪いことも・・・」
紫月さんはそう言うとソファーの前に据えられたローテーブルの上に空になった缶ビールの缶をそっと置き、文字入りTシャツの袖に隠れている左の二の腕にそっと触れ、痛そうに目を細められた。
「痛い・・・ですか?」
悪いかな? と思いつつも私は呟くように隣に居る紫月さんにそう訊ね掛けていた。
「痛くないよ。大丈夫」
そう答えてくれた紫月さんだったけれどその言葉とは裏腹にその表情は暗く、辛そうだった。
「私・・・紫月さんのことが好きです」
「お? どうしたの? いきなり~」
そう言ってクスクスと笑う紫月さんに私は寄り掛かり、目を閉じた。
トクン・・・トクン・・・と聞こえてくる心音は私の? それとも紫月さんの?
どちらにしたって今、茶化してなんて欲しくはなかった・・・。
「・・・私もいつかは紫月さんと・・・別れちゃうのかな?」
思わず漏れてしまったその言葉はいつも私が怯えていることだった。
付き合っていても私と紫月さんは決して対等の立場じゃない・・・。
「今、ご両親のこと・・・思ってる?」
紫月さんのその問いに私は目を閉じたまま小さく『はい』と声を発した。