頷く。
「しっかり泣けた~?」
私の顔を見るなりそう訊ねてきた紫月さんはニヤニヤしていた。
紫月さんはまだ濡れている髪を乾かしもしないでソファーに落ち着いて缶ビールを片手に今日行われた甲子園試合の録画を見られていた。
「・・・髪・・・傷みますよ?」
そう言うと紫月さんは妙に明るいニヤニヤ笑いを浮かべて私を手招き、自分の隣に座った私の頭をポンポンとしてくれた。
「図星だからって話をそらすのはみっともないよ~?」
そんなことをサラリと言ってくる紫月さんはやっぱり大人だ。
同級生ならきっとそんなこと、言ってこない。
ぶつかり合うのが面倒臭くて相手を傷つけるのが怖くて・・・。
まあ・・・そんな友達が私には居ないだけなのかも知れないけれど・・・。
「あの・・・ごめんなさい・・・」
私はとりあえずそう言って謝って俯いた。
「それは・・・何に対しての謝罪?」
そんな質問、ズルいと思った。
「真夜中に・・・突撃訪問してしまって・・・」
「違う」
紫月さんのそのきつい口調と声に私はビクリとさせられた。
「真夜中に突撃訪問されたことは何とも思ってないよ。ただ、なんで電話の一本でも寄越さなかったの? 事件や事故に巻き込まれたらどうするの? 危ないよ・・・本当に・・・」
紫月さんからお説教を食らうのは毎度のことでもうそのお説教にも慣れてしまっているけれど、今日は泣かずにはいられなかった。
ただ、私はお説教が嫌で泣いたんじゃない。
私のことを気に掛けてくれた紫月さんのその気持ちが嬉しかったのとその気持ちに応えることも気づくこともできなかった自分が恥ずかしくて悔しかった。
玄関ドアを開けた時、どうして紫月さんが不機嫌だったのかようやくわかった・・・。
そんな私はまだまだ子供だ・・・。
「夜、どうしても来たい時は連絡して? 迎えに行くから」
そう言ってくれた紫月さんはいつもの紫月さんに戻っていた。
私はただ、黙って頷いた。
ただ、黙って頷くことしかできなかった・・・。