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本気の本気

翌日の朝


「アリサの奴遅いなあ」


イズルは街の前でギルドのメンバーとアリサが来るのを待っていた。


「まあそうカリカリするなイズル、女の子は身支度に時間がかかるもんだ」


「お前の顔でそんなこと言われるとちょっと気持ち悪いよ・・・ゲルト」


「ああ!?気持ち悪いこたーねーだろ!?なあ!」


ゲルトがギルドのメンバーに投げかけるが全員目を逸らした。ゲルトはそれが不服だったみたいで一人いじけて端の方で石を転がしていた。



「すいません!お待たせしました!!」



アリサとギンが走ってこっちに来るのが見えた。


「遅かったな、アリサ」


「あんま責めてやんなよ、女にはそれ相応の支度ってモンがあるんだからな」


「分かってるよギン」


「おい!!何でそいつは気持ち悪がらねーんだよ!!」


ゲルトが相当お怒りのようで持ってた石を地面に置き、イズルの肩を揺さぶった。


「ち・・・違う!今から言おうと思ってたんだって!!」


イズルは肩を揺らされながら精一杯弁解したがゲルトには聞こえてなかった。


「え・・・なんで喧嘩してんの・・お前ら」


ギンの仲裁でイズルは一命を取り留めたが旅に出る前からこんなにダメージを食らうとは想像もしていなかった。



「死ぬかと思った・・・」


「すまん・・熱くなりすぎた」


「そんで?アリサ、最初に行くのはどの街なんだ?」


ギンは何事も無かったかのように話を進めていく。こんな見事にスルーされるといっそ清々しいってもんだ。


「そうですね・・最初は【カルム】に行ってみようかなって思ってます。」


「【カルム】って言うと・・ここら辺じゃ一番デカイ都市だな」


「ええ、冒険者が集まる場所らしいですよ。それに確か・・・コロシアム?もあるみたいでイズルさんも退屈しないと思います」


「ん、そうなのか?楽しみだな」


異世界に来る前まではギルドに入ればいいだろうと思っていたが いまは違う。この力がどこまで通用するのか確かめたい。

それに、このリミッターのシステムとこの世界はあまり合っていない。

リミッターがあるから最初から強い訳じゃない、それを外さないと力も出せないし、仮に常時解放状態にすると魔力が強すぎて町中が混乱してしまう。常に発動していいのは今は一つか二つ程度が限界だ。


詰まるところ、不意打ちに弱いんじゃないかと思っている。

それを改善するためには俺自身もこのリミッターを自在に操らなければいけないということだ。


(課題が多いな・・・)


と、 イズルが一人で葛藤しているとギンが肩を組んできて


「よぉーし、それじゃあ最後の仕上げだ!!」


「イズル、俺ともう一度戦え!!」


周囲はあっけらかんとしていた。

なぜ、なぜ今このタイミングでまた戦わなければならないんだ。

最初に口を開いたのはゲルトだった。


「おいおい、今から二人の門出だって言うのになにを言ってんだお前は」


「いやあーなんか負けっぱなしってなんか悔しくてな。それに・・」


「俺くらい簡単に倒してもらわねーとアリサは任せられねーなあ!!」


「ギンさん・・・」


まただ


ギンの本気の顔、居合のような型をとり戦闘体制に入った。それにこの迫力・・・初めて戦った時とは段違いだ。


「行くぞ・・構えろ。イズル」


「・・・ああ、行くぞ!!ギン!!!」


イズルもリミッターを一つ解放しギンから貰った剣を抜き、戦闘態勢に入った。

試験の時とは違う、素手の組手じゃない剣を交えた本気の勝負

あの時のように真正面から突っ込んだりはしない

今それをすれば返り討ちにあうと本能が叫んでいた。

どちらも最初の一歩が踏み出せず睨み合いながら自分の間合いを保っていた。その中で最初に仕掛けてきたのはギンの方だった。

普段のギンからは想像出来ない畏怖を感じさせるほどの迫力、それにその剣の一太刀一太刀が敵を殺すために振るってきてるかの様な迫力がありイズルは避けるのが精一杯だった。


(なにが俺なんか簡単にだ 笑わせんなよ)



「めちゃくちゃ強いじゃねーかよ・・」


「どうした!イズル、避けてばかりじゃ勝てねーぞ!」


「ぐっ・・!!」


苦し紛れで振るった剣はギンには通用しない。完全に見切られ剣の腹の部分を剣の柄の部分で叩き落とされた。


このままじゃ勝てない


イズルがそう感じた時、勝利への可能性が一つ脳裏をよぎった。



スイッチバックシステム・・・



使ったこともなく試したことすらなかったこの能力。しかしいま使わないとギンには勝てない、そう直感した。


とにかくギンの動きを見ろ・・!!そしてそれを自分自身が扱うかのようにイメージをしろ!


「どうした!イズル!お前はもう終わりか!?」


「まだだ・・・!!」


よけるのが精一杯、しかしその中でもギンの動きの一つ一つを見逃さなかった。

体中がボロボロになり極限状態に追い込まれ端から見るとイズルは絶体絶命のピンチなのだろう


「ギンさん・・・本気で倒しにかかってませんか?」


アリサの問いかけにゲルトが、


「ギンはな、今はあんなちゃらけて見えるが昔は相当荒れててな それこそ暴悪、なんて呼ばれていたくらいさ」


「今ああやって笑っているのが不思議なくらいなんだよ」


「そんな・・・、それじゃあイズルさんは・・?」


「・・・タダじゃすまんかもな」


不穏な空気が流れる


しかし、


( あれ・・・?)


イズルに異変が起こった


全ての動きがスローモーションに見え、ギンの呼吸が聞こえだし、次の攻撃が直感的に理解できるまでに至った。


「この感覚・・」


感覚が研ぎ澄まされていく・・・


直感的に理解した。



これが・・・スイッチバックシステム



「これで終わりだ!イズル!!」


この戦いの中で最も早い斬撃を繰り出し ギンはそう叫んだ。


「・・・!!」


誰もが終わったと思った。しかし、



「ありがとな・・・!ギン!!」


これまで避けることが精一杯だったはずなのにまるで見切ってたかのような動きを繰り出し最後の一太刀をギンにされた様に剣の腹を柄で払い落としていた。



《スイッチバック LV1 斬術の可能性》会得。


ギンと同じような居合の構えをとる。


これがスイッチバックの真骨頂

相手の戦い方を我がものとしそれを自己流に昇華し戦う。


剣を払われたことでギンは冷静さを取り戻しさっきまでの荒々しい覇気が収まった。


「おーい・・・まじかよ・・」


やはり少しショックだったのだろう、ギンは目に見えて落ち込み出した。自分が何年も積み重ねてきた型をこの一瞬で見切られ真似されれば落ち込むのも無理はないだろう。


「まあいっか・・・気を取り直して」


また剣を鞘に収め居合の構えを行いそのままこちらに突っ込んできた。多分この一撃で終わらせるつもりなのだろう。


「これで終わらせるぞ!ギン!!」


イズルも同じく居合の構えを取り、真っ向勝負を受けて立つ。


お互いがお互いを本気で殺そうとしている

刃と刃がぶつかり合い周りの木々が剣の振動で騒つく


「やっぱまだおわんねーか!」


ギンが再び剣を鞘に収めようと一歩引く

しかし、そこをイズルは見逃さなかった。


「いや、これで終わりだよ、ギン」


「なっ・・!?」


一歩引いたギンとは対照的にイズルは間合いを詰めてきた


「こっからが俺の



「がっ・・はっ・・!!」


「蹴り・・・とかありかよ・・!」


ギンはイズルの蹴りで吹き飛ばされ近くの木にぶつかった。これで勝負はあったのだろう


イズルはギンの近くにより


「かー!!やっぱ勝てなかったか!で、どうする?俺を殺すか?」


「んなわけねーだろ、お前を殺してどうするんだ」


「がはは!まあそうだわな・・っと」


ギンはふらふらっと起き上がりピースサインをしてきた。


「よーし、合格だ!イズル!!アリサを頼んだぞ!!」


「ああ、任せろ」


二人は握手をしてイズルはアリサの元へ向かい


「待たせたな」


アリサはいまにも泣きそうな顔をしており


「無茶しすぎですよお!!本当に二人ともやり過ぎなんですから!」


アリサはポカポカとイズルを叩いた


「痛い!痛い!傷だらけだから余計に痛い!」


その後、ギンと二人でアリサから長ーーい説教を正座で受けた後、仲良く回復魔法で治してもらった。

痛々しい冒険の幕開けだけどこれはこれで楽しい幕開けなのかな?

とイズルは思っていた。

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