祝勝会
「オイ・・・嘘だろ・・・」
ギンは腰を抜かし地べたに座り込んでいた
「・・・」
イズルの体からは未だ激しい光が迸っていた。
「森から感じた魔力・・・あれはお前だったんだな・・・」
「ああ・・・すまない、隠すような真似をして」
それだけ言うとふと 思い出したかのようにアリサが
「・・・!!ゲルトさんは!?」
みんな今見た光景にあっけに取られていてゲルトの安否への反応が遅れてしまっていた。
吹き飛ばされた方に駆け寄ってみるとゲルトは壁に背を持たれかけるように倒れていた。
「どうですか・・・?ギンさん」
アリサが恐る恐る尋ねる
「・・・大丈夫だ。辛うじてだが息はある」
ギルドのメンバーが皆、安堵し胸をなでおろした
「しかし、相当強い勢いで殴られたみたいだ。ゲルトか俺じゃなかったら多分、死んでいただろう」
ギンのその一言で緊張感が再び彼らの間を漂わせた。
「すまないな・・・あまりこういう事は言いたく無いんだが、オレ達がこうして全員が無事でいられるのは 運が良かった事とゲルトの勇気、後はイズルがいた事だ」
いちばん後ろで少し後ろめたさを感じていたイズルは突然自分の名前を出されたことに面食らった。
「いや・・・俺は・・・」
「ありがとうな、イズル」
ギンの優しい笑顔に何も言えないまま ゲルトに応急処置を施し担架に乗せその場を後にした。
帰り道の最中、気絶してきたゲルトは目を覚まし、どうなった 何があったんだ とパニックになっていたがイズルの活躍 それにお前のお陰で誰も死なずに済んだ、とギンが言うと 目をキョトンとしてイズルの方に目をやり自分自身に何か言い聞かせるようにしてふたたび担架に倒れ込んでいた。
ギルドに帰ると皆んな元の元気な様子に戻り 祝勝会?だろうか、取り敢えずお疲れ様でしたと言うような感じで再び宴が催されることになった。
ゲルトもカラダ中包帯でぐるぐる巻きにされてはいたが楽しそうに仲間と飲んでいるのを見る限り多分大丈夫なのだろう。
しかし、
イズルだけは自分の素性を黙っていた後ろめたさから誰とも馴染めず一人で酒を飲んでいた。
そこへ・・・
「おい!イズル!!何一人で飲んでんだよ!!」
ギンがイズルの横にどかっと座ってきた。
「おーい、酒全然飲んでねーじゃねーか!!今日はめでたい日なんだからもっと飲まねーと!」
そう言うと両手に持っていた酒の入ったコップの内一つをイズルの目の前に差し出した。
「ギン・・・あの時は済まなかった」
イズルは深々と謝罪をした
「あの時・・・って何のことだ?」
「え?いや・・・ほら、魔力の事だよ。黙っていたのも悪かったしみんなを不安にさせてしまったことだって・・・」
と、イズルは言いかけたが
「馬鹿だなあ、お前!!あんな事何を謝る必要があるんだ?」
ギンは酒を一気に飲み干すと立ち上がって
「お前の魔力が化け物みたいだろうと俺たちになんの実害もなかっただろう?それに、お前はあのダンジョンの主を一人で倒してくれたじゃねえか!感謝する事はあっても謝罪される事なんざ一個もねえよ!!」
ギンは笑いながら大声で話した
「第一、今、この場で、誰か一人でもお前の事を悪く言う奴がいるか?なあ!お前ら!!」
ギンは両手を広げ他のギルド員に聞こえる様に大声で話をした
「そうだぞー!!イズル!」
「お前のおかげだ!ありがとよー!」
ギルドのメンバーからの声だ
それを聞くとギンはイズルの方を見てニカッと笑い
「ほら!いないだろう?つまりはそういうこったよ」
「お前が倒したんだろう?」
声の主はゲルトだった
「俺は途中でやられちまったから詳しくは知らんが お前があの化け物を倒して俺たちを助けてくれたんだろう?なら謝る必要は無い、それに礼を言いたいのは俺たちの方だ」
ゲルトが立ち上がり
「本当に、ありがとう」
と、深々と頭を下げた
イズルは後ろめたさからか、安堵の気持ちから来たのか はたまた皆からの感謝の気持ちが嬉しかったのか 分からないが目頭が熱くなるのを感じ それを悟られないようにギンから貰った酒を一気に飲み干した。
「だからさーそんなに気負うなよ?お前は正しい事をしたんだからさ!」
ギンはイズルの背中をバンバンと叩く、ガハハと笑い この宴を心の底から楽しんでいるようだった。
「それで、さ・・・一つ頼みがあんだよ」
急に神妙な顔をしイズルに話しかける
「なに?俺に出来ることなら何でもするよ」
イズルも酔いが回ってきたのか上機嫌で返答した。
「アリサと旅をしてくれねーか?」
「・・・え?」
言葉の意味は分かる、しかしなんで俺なんだ?話す相手を間違えているのか?など考えていたがギンの方から切り出してきた。
「アリサから話くらいは聞いてねーか?いろんな所や街を冒険してみたいって」
「ああ、それは聞いたことはあるけど・・・しかし、なんで俺なんだ?他にも適任はいっぱいいるだろうし それに俺は昨日入ったばかりの新入りだぞ?」
ギンはイズルの顔を覗き込み
「お前が一番の適任だと思ったんだよ」
ギンのこんな真面目な顔初めて見るイズルは少し気圧されてしまった。
「確かに俺やゲルトも良いかもしれん、が 俺は副団長でゲルトは戦いの要だ、俺達が抜けてしまえばファランクスの戦力は相当ダウンしてしまう
他の者も行くにしては些か不安要素があるしな」
「そこであらわれたのがお前だ」
「お前はここに入ったばかりの新人だ、言い方が悪いが重要な役職はまだ担っていない。
けど、お前は今、このギルドで一番強くアリサと共に旅をするには十分過ぎる強さだ
だから・・・どうだ?イズル」
ここまでギンの話を聞いて頼られるのは嬉しいし旅をするのもそれはアリだと俺は思った。しかし一つ腑に落ちないことがあった。
「なんで、なんでそこまで俺の事を信用してるんだ?こんな新人を」
ギンはまたニカッと笑い
「お前なら信頼できると俺が思ったからだ!」
イズルはあっけに取られたが直ぐに笑い出して
「なんだよそれ!ただの勘じゃねーか!」
「がっはっは!良いんだよ!こんなもんは勘で!!」
「ああ、だからアリサの事よく見とけって言ったのか」
「そうそう、戦っている時のあいつの事少しでも知ってもらいたくてな、良い子だろ?あいつ」
「優しすぎるのが玉に瑕だが、十分すぎるくらい強いな、アリサは」
「そうだろ?そうだろ?だから・・・任されてくれるか?」
再び真面目な顔をするギンにイズルは
「ああ、大丈夫だよ、俺に任せてくれ」
とだけ答えた。
するとギンは安心したのか再び元のえびす顔に戻り
「あーーよかった!もしかしたら断られるんじゃないかって心配してたんだよ!」
「アリサは知ってるのか?この事を」
「ダンジョン攻略の前にそれっぽい事をほのめかしておいたからな、多分覚悟は出来てるんじゃねーかな」
「ほんと、用意周到だな副団長さんは」
「あったりめーよ!これくらいしなきゃ副団長は務まらねーよ!さあ!飲め飲め!」
どこから持ってきたのか分からないがギンの両手には酒がなみなみ注がれたコップが握られておりイズルにまた飲ませようとしていた。
「いや・・・俺はちょっと休憩をだな・・」
「あ、これ只のジュースだ、安心して飲め」
そう言うとイズルにコップを渡した。
「ああなんだそれなら安心だ・・」
ギンはニコニコしながらこっちを見ている
「・・・・やっぱ酒じゃねーか!!」
ギンは大爆笑だった。