力と力
ダンジョンの洞窟前にて
「野郎共!武器は持ったな!?」
ギンの一言でギルドの全員が声をあげ 活気付く
「今日はこの期待のルーキー、イズルを加えて今日こそこのダンジョンを踏破してやろうぜー!!」
また全員が声を弾ませる。
「イズル!何か一言あるか!?」
いやここでおれにふるのかと言いたいが 言ったところで仕方ないと諦め
「あー、今日初めて参加するイズルです。宜しくお願いします。」
と月並みな挨拶をするが多分おれが何を言っても関係無いのだろう、耳が割れんばかりの歓声が上がった。
「よーーし、落ち着けお前ら」
(誰が沸かしたんだ)
「おれはさっき今日踏破するといったがあれは嘘だ。今日はイズルのダンジョン体験が主な目的だ、出来れば俺もクリアしたいが危なくなったら早めに撤退をしようと考えている。」
「だが!心はいつでもダンジョン攻略だ!!!気を引き締めねーとおっちんじまうぞ!!分かったか!!!」
「まーかせろや、ギン!! おう イズル!!お前の初めてのダンジョン体験はクリアまで体験させてやるよ!!」
「ゲルト!今日もお前の斧捌きには期待しているからな!!」
「それじゃあ、お前ら!行くぞー!!」
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入ってから気づいた事、このダンジョンは地下へ向かうダンジョンな事、下に行くにつれて体力の消費が激しくなる事、もう一つは
最深部に近づくにつれて敵が強くなる事
俺はまだ剣を抜いていないが、今この最深部に着く頃には何人もが血を流していた。
ギンに言われていたアリサの観察だが特に悪いところは無く、むしろ回復魔法、氷を操る魔法なんかを巧みに使いこなしてサポートをこなしていた。
一つ気になることがあるとすればそれは何人ものギルド員が傷ついた時だ。
アリサの回復魔法は同時に二人は出来ないらしく、複数人の回復をしなければならない時は誰から回復したら良いのか迷ってしまい結果、全ての行動が少し遅くなってしまうのだ。
これは彼女が優しすぎるが故の短所なのだろう
「アリサ!!俺は後で良いからゲルトの傷を治してやってくれ!!」
「は、はい!!!」
「これ位どってことないんだがなあ・・」
「だ、ダメです!!些細な傷と侮ってはいけません!」
しかしその短所も皆の声掛けもあって 殆ど気にならない程になっている。
良いチームワークだ
イズルはそう考えていた
「ようし・・・ここまでたどり着いたな・・・」
皆の先頭で指揮を取っていたギンが大きな扉を前に一人で呟いている
「ギン・・・やっと着いたな」
「ゲルト、お前の斧のお陰さ」
「よせやい、照れんだろうが」
「しかし、それにしても今回はやけに体力が余っているな。過去最高のコンディションでここまで来れたぞ」
「ああ、今回ならひょっとすると行けるかもな」
「皆んな!!聴いてくれ。今日は初めてこの扉の奥・・・多分ダンジョンの主が待ってるであろうここに、挑戦してみたいと思う!!」
「しかし・・・まだ不安だ、次の機会でも良い、そう思う者もいるかも知れない、だからこの中で一人でもそういう奴が居るなら俺は、次の機会でも良いと思っている」
「全員で入らないときっと勝てないだろうからな。 どうだ?」
そんなの聞くまでもなかったようだ
今日一番にボルテージが上がった。
「ギン!俺たちはやれるぜ!!今なら主なんかに負ける気しねえよ!!!」
「お前ら・・・」
「イズル、お前も大丈夫か?」
「ああ、俺はあんたらについて行くよ」
「そうか!!よし!それじゃあ行こう!!」
ギンはそう言うとこの大きな扉を開け始めた
部屋の中は薄暗く周りが見えなかった。
メンバー全員が中に入ると扉は勢い良く閉まり、薄暗かった部屋は元々あった松明に火が灯され明るくなった。
そこには・・・
「なんだ・・・こいつは・・・」
ギンは正面を見たまま立ちすくんでいた
釣られてメンバーがそちらに視線をやるととそこには・・・
でかい牛頭が仁王立ちしていた。
「ちょっ・・・!!嘘だろ!?」
暗さのせいで分からなかったがそこには牛頭・・・いやミノタウロスといったほうが良いのだろう化け物が確かにそこにいた。
「ギン!!流石にこいつは・・・」
「・・・確かに今だと分が悪いかもしれんなリーダーもいない事だし・・・」
「駄目だ!!!」
後ろの方で誰かが叫んだ、振り返ってみるとすでに誰かが扉を開けようと試みていた。
「す、すまねえ!ギン!俺びびっちまって・・」
「それは後だ!扉は開かねえのか!?」
「あ、ああ、駄目だ!ビクともしねえ・・!」
「トラップか・・! やられたな」
するとそこにゲルトが一喝する
「ギン!!俺たちはこいつを倒すために来たんだろうが!!今更退路絶たれたくれえでお前ら狼狽えんじゃねえよ!!」
その一言に全員が奮起する
「そうだったな、よし!お前ら!いつも通りの作戦で行くぞ!」
そう言って組まれたのが、前衛に盾持ちを起き後ろから魔法使いが遠距離攻撃を仕掛ける、単純だが良い作戦だ。
しかし・・・
「おい・・こいつ全然効いてねえぞ!!」
魔力耐性が高いのかミノタウロスに効いているそぶりはなかった。
「やばい・・やばいぞギン!!どうする!?」
「くっ・・・!陣形を変えるぞ!物理攻撃のできる奴は前に出ろ!それ以外は回復魔法に徹した動きをしろ!」
しかしそれも・・・
「ぐぁっ!しまった!」
前衛の一人がバランスを崩し膝をついてしまった。そこをミノタウロスは見逃さなかった。こん棒の薙ぎ払いが襲いかかる。
「クソったれが・・!」
そこにゲルトが割って入り、バランスを崩した前衛を突き飛ばした。
「グッ・・・!!」
薙ぎ払いをモロに受けたゲルトは横に吹き飛び動かなくなってしまった。
(まずいだろ・・コレ)
イズルは動けなかった自分を呪った。
なんで、なんで俺は仲間がやられているのに動けなかったんだ、と
(クソが!!リミッター全て外して・・・
あいつをぶっ殺してやる。
「第1、第2・・」
「イズルさん・・?」
イズルの異変に気づいたアリサは心配気にイズルを見ていた。
「第3、第4リミッター解除・・!」
イズルの周りから異様なまでの気迫、オーラといったほうが良いだろう。他を圧倒するようなオーラを彼は放っていた。
初めて解除した時は分からなかったが自分の使える技もスキルも魔法もリミッターを一つ解除する毎に増えるようだ。
(今使える技で一番強力なのは・・・)
イズルは雷の如き速さでミノタウルスの頭上を取り
「こいつだ!!」
ミノタウロスの頭に手を置き
『神鳴!!』
イズルがそう言って技を使うと一面激しい光に包まれアリサやギン、他のすべてのギルドのメンバーが目を覆った。
次に目を開いたとき、
ミノタウロスの姿はなく、ただそこにイズルが立っているだけだった。