決断と決別
翌朝——
体の痛みは無く、完治といっても良いはずなのにやはりアリサは心配なのだろう出来れば腰掛けといてくれというから木の切り株に腰をかけ一応、安静という形を取っている。
イーリアを待つこと30分が経過した。
来る人を待つのは待ち遠しく時間が経つのが遅く感じるだろう。しかし、来るか来ないかわからない人を待つのはさらに時間の経過が遅く不安や期待が入り混じり胸が痛くなる。
「イーリアさん..きますよね?」
「分からない、彼女にもやらなければならないことがあるんだろう。それを無下にはできないしな、あと30分待ってかなければ仕方ない、先に行くとしよう」
アリサの目に涙が溜まる。
せっかく同性の同年代の友達が出来たというのにあんなくだらないいざこざの所為で二人に溝ができたと思うと悔いも残るだろう。
とは言えイズル自身にも焦りがないと言えば嘘になる。
「ちょっと街の様子見てくるよ」
「...はい、気をつけて...くださいね?」
再び城門内に戻るイズル
このまま歩き続ければ騎士修道院に着く。そこに着く頃にはタイムアップ、すぐ引き返してアリサとこの町を出よう。
そうは思うが足はいつもより遅く一歩一歩踏みしめるような形で歩いていた。ただ歩いているだけだと暇なので一時期ハマっていた【錬金】というスキルを使い歩きながら魔力を練り上げイメージした物品を生成していた。
それを作るのに夢中になっていて出来上がる頃には修道院が目に見えてきていてイズルはがっくりと肩を落とす。
しかし——
その近くで剣と剣がかち合う音が聞こえた。
こんな早朝からそんな事をしているのは普通じゃない、急いで音のする方へ走ると、
イーリアとイーライがつばぜり合いをしている真っ最中だった。
「イーライ...そこを退いてくれ!!」
「貴様...!いつからそんなに偉くなった!!貴様如きが私に命令などふざけているのか!!」
激昂したイーライはさらに強い力でイーリアを威圧する。イズルはやばいと思い加勢しようとする刹那、足を止め近くの木の陰で隠れることにした。
「どこへ行く...?なぜ私のそばから離れようとする...?何故!!!私の所有物が勝手なことをするんじゃない!!!」
イーライの言葉が荒々しくなってきたと同時に力がさらに増しあと一押しでイーリアが押し負ける所まで迫られていた。
イーリアが一度目を閉じ一雫の涙が流れる。
「兄上....昔の貴方は立派だった。騎士として貴方に憧れたから私はこの道に進んだ、それに後悔は一切ない。しかし、最近の貴方は目に余る。だから道を分かつんだ!」
再び開眼したイーリアの瞳には先ほどまでの焦りや不安、絶望を感じさせるような弱々しい瞳ではなく、決別に近い覚悟を孕んだ様な瞳をしていた。
おそらく、彼女は自分の力を抑えていたのだろう
憧れた兄の技量を超えてしまったが兄のメンツを潰したくない一心でそれを抑制し拷問に近い苦痛に堪え日々を送ってきたのだ。
劣勢に見えたイーリアが体制を持ち直す。イーライも決して弱いわけではない
それでもみるみる開く力量差に次はイーライの方に焦りが見え始める。
どんなに速く、どんなに強く自信のある剣戟を飛ばしてもそれを全ていなされる。流麗という言葉が彼女のためにあるような体捌きにイズル自身も見とれてしまう。
そして、その時イズルが考えたことは二つある。
一つはイーリア自身が一つの武の完成形に位置してるということ。
もう一つはそんな奴を俺たちは仲間に勧誘していた事。
仲間になればこれほどまでに心強いことはないが物足りなく思わないかが心配になってきた。
決着は早々に片がついた。
イーリアの圧勝、イーライが地面に倒れるが彼女は息を荒げることもなくごく当たり前のように勝利を収めた。
「イズル!!」
あ、バレてた
「悪いが...もうちょっと待ってくれ!まだ荷造りが出来ていない!」
ああ、こういうあっけらかんとした所は彼女らしい
気が気でないアリサの元にイーリアを連れて行くと堪えていたものが一期溢れ出たのだろう声を上げて号泣しイーリアに抱きついた。なだめているイーリアの目元にも何か光るものがあった気がした。