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一転

「おう、帰ってきたか」

ゴルドが机の上に足を置き暇そうに本を読んでいる時、国王の宮廷に行っていたイズルが帰ってきた。

「そんで、アイリードの依頼はどうなったんだ」

アイリードと言うのは国王の名前だろう

普通の人探しなら請け負っても良かったのだろうが相手がアリサでは話が変わってくる。何か事情があるのか分からない

が、一先ずは頼み事は断り アリサの話を聞いてみる事にしよう、イズルはそう思った

「かっーー!!もったいねえ!!取り敢えず依頼受けとけば前金で金貨何百枚もがっぽがっぽだったのによお!?」

(やっぱり受けようかな)


「それじゃあ俺は失礼します」

イズルが部屋を出ようとした時ー

「アリーシアは...楽しそうか?」

その一言にイズルの体は硬直する

「...なんの事ですか?」


「とぼけなくていいだろうがよ、観客席から手ェ降ってたの、あれアリーシアだろうが 見つけた時は目ん玉飛び出そうになったぜ」


「あんな遠くから...それにサングラスもかけていたのに凄いですね」


「舐めんじゃねェよ、言っただろうが昔はヒーラーゴルド言われて有名だったって」

それはヒーラー関係あるのだろうか、見た目は完全にファイターか若しくはダンサーだ

「国王に言うんですか?」


「言わねェよ、アイリードはダチだし尊敬してるがそれは別問題だ。あの嬢ちゃんがなんの理由もなく脱走なんてするわけねェしな、何かのっぴきならない事情があったんだろ。ただ...」

ゴルドは足を下ろしサングラスを少し下げ睨むように言う

「連れ回すって言うんならあの子はテメエが守れ 何があっても守れ それが出来ないなら今すぐ国王の所に返して来い」

その眼は鋭くいくつもの死線をくぐり抜けてきた強者の眼だった。

「やるよ、やってみせる」

ゴルドはニカっと笑いサングラスをかけ直す

「そうだ、その意気だ青年!ああそれと...」

こちらに歩み寄りイズルの肩を組み耳元に囁くように言う

(スレイには絶対言うなよ?あいつ堅物だからな)

スレイに言った時の事を考えてみるとアリサを引きずってでも宮廷へ連れて帰る彼の姿を想像した。

「あいつやばいな」


「な?あいつやべェだろ?」

自分のいないところで理不尽に株が下がっている事をスレイは知るよしもなかった。


部屋を出てフィールドを覗くと朝の盛り上がりとは打って変わって夕暮れ時にもなるとガランとして誰一人いなかった。取り敢えずアリサと会うために一旦宿屋に帰ろうとするイズル その時ー


街中で騎士団長と数人の騎士に出くわしてしまった。


イズルが慌てて距離を取り剣に手を置いて臨戦態勢に入っている

しかし騎士団長はこちらをちらっと見ると嘲笑しながらその場をあとにした

前なら部下たちをその場で襲わせてきていたのに、それに最後のむかつく笑い方

イズルは嫌な予感がし急いで宿屋に帰った


しかし、嫌な予感は的中するものだ


部屋は荒らされアリサの姿もない その中で壁に一枚紙が貼られており殴り書きでこう書いてある

『騎士修道院にてお前を待つ』

さっきのあいつの態度、それにこの部屋の惨状でイズルは理解した

アリサはさらわれた、と

その時部屋の扉が開く

「アリサ、頼まれていた食材...」

声の主はイーリア、部屋の状況を見て手に持っていた食材の入った紙袋を落としてしまう

「こ、これは一体...」

イズルが部屋に貼られていた紙をイーリアに見せつける

「やられたよ、あいつに」


「し...しかし、兄は仮にも騎士だ!騎士が民を誘拐するなど...」

イズルがイーリアの胸ぐらを掴みぐいっと引き寄せる

「目ェ覚ませよ、この街に来たばっかの俺たちに恨みがあんのは騎士団長だけだ。それにご丁寧に騎士修道院なんて書いてあれば誰がやったのかは明白じゃないのか?」

イズルが手をパッと離すとイーリアは地面に座り込んでしまった。顔は青白くなり冷や汗をかいている、まだ自分の兄が誘拐した事に納得できないのだろう

「俺はアリサを助けに行く、悪いがお前に兄貴にも少し痛い目を見てもらう事になる。それでも来るか?」

イーリアはふらっと立ち上がりこっちを見上げる

「・・・ああ、いく、兄上の真意が知りたい」


「決まりだ」


「案内は私がする、お前は後ろからついてきてくれ」


宿屋を出た時にイズルが提案する

「案内の事なんだが、俺がお前を担いで行った方が早くないか?おんぶでもして道さえ言ってくれればすぐにつくぞ?」


「むぅ...それもそうか、すまないが頼む」

よっこらせとイズルの背中に乗るイーリア

「・・・悪いがやっぱりお姫様抱っこでもいいか?」


「はぁ!?私はいやだぞ!なんで公衆の面前でお姫様抱っこをされないといけないんだ!!」

(俺が集中できないんだよ!!)

そうは思いつつもそれを言い出せないイズル

「俺が雷を使って走るとき一番負荷が掛かるのが背中なんだ、もしおんぶなんかしながらそんな走り方をしたら俺は一生走れない体になってしまうんだよ」


「そ、そうだったのか、無理を言ってすまなかった...お姫様抱っこでも大丈夫だ」

適当に嘘をついてみるもんだなあ


イーリアをお姫様抱っこし街中を駆け抜ける、スピードは十分だし人々に見えてるかと言われれば多分見えないぐらいのスピードにはなっているだろう

それでもイーリアは恥ずかしがってか顔を隠し時折指の隙間から周囲を見渡しながら

「これバレてないか!?これお姫様抱っこバレてないか!?」


「バレてない バレてない、ほら次の道はどっちだ?」


「次の角を左!次は右!!」


「本当か!?お前今見てなかっただろ!!」



ついた

やっぱ騎士様は街のことを隅々まで把握してるんだね

イーリアが転げ落ちんばかりにお姫様抱っこを降りる

「ここが騎士修道院だ、私たちが寝泊まりしている場所でもある」

まるで何事もなかったのように冷静さを取り戻し眼前を見定める。

あ、いやまだちょっと顔が赤い


扉を開ける

中は薄暗く柱に取り付けている何本かの松明のおかげで何とか前が見えている状況だ。

「いつもこんなに暗いのか?」


「いや、いつもなら光属性魔法で照らされているからこんなに暗くなる事はないはずだ、おそらく意図的に...」

イーリアがそういった時、鋭い殺気を感じ咄嗟によける。少し頬をかすったが感触的に刃物のような何かで斬りつけられた様だった。

「だ...大丈夫かイズル!?」


「ああ、少しかすっただけだ問題ない」


すると奥の方から誰かが歩いてくる音がする

一人じゃない...何人も何十人もの足音だ

「ん??なんだ、殺せていないじゃないか!」

その声の主は、

「・・・イーライ兄様」


「お前も来たのかイーリア、ならばこっちに来い」


「しかし団長!!なぜこのような事を!?」


「お前が知る必要はない!!早くこっちに来い!!」

話は聞かない、口調は荒いそれでもイーリアはパブロフの犬の様に彼の言った命令を反射的に聞いてしまうのだった。

「すまない...イズル、やはり私は...」


「気にすんな、お前は悪くねーよ」

イーリアの顔は暗く沈み自分の無力さに絶望しているようだった。

「ふっ...君が探しているのはこの子かな?」

イーライが手に持った鎖を引っ張る すると、奥から手錠に繋げられたアリサが現れた。

「い、イズルさん...」

一応無事だった事に安心するが肝心な事を聞いていない

「そんで?どうやったら返してもらえるんスかね?

イーライは不敵に微笑み

「なあに簡単な事さ、君が大人しく私達に半殺しされればこの子には返してあげよう」

普通ならこんな事 信じはしないだろうが今はそれを信じるしかなかった。

「オーケー、死なない程度に可愛がってくれや」

それを待っていたとばかり数人の部下とアリサを連れてイズルの目の前にやってきた。

「やっと...貴様を私の手で粛清できる!!」

手にメリケンサックをはめ顔面に向かって拳を振り下ろす


「私を...っ!私を...っ!馬鹿に...っ!しやがって!!」

メリケンサックに棍棒に鞭、様々な武器の類、殺さずいたぶり続ける事に慣れているのかイズルは倒れる事すら許されず文字通りサンドバッグの様にされていた。

ふとイーリアの傷の事を思い出す

そうか、あいつはこんな目に遭っていたのか


「兄のこれは今に始まった事じゃない」


ふとイーリアの言葉が脳裏をよぎる

一回じゃない何回も何回も...

こいつは...!!


「ん??何だその反抗的な目は!!!」

無意識のうちにイーライを睨みつけていたのだろう、それを見たイーライは憤慨し

「おい!!お前たち!!」

部下を呼び自分の持っていた棍棒を投げ渡し

「お前たちもやれ!こんなやつ...殺してしまっても構わん!!」


「し...しかし!団長!彼は殺さない約束なのでは...?」


「関係ない!!私がやれと言ったらやるんだ!!」


「しかし...」

躊躇う部下達に憤慨していた様子が一転して雰囲気が変わり静かに話しかけその目には狂気が宿りだす

「お前達...俺に逆らうのか...?」

「分かっているのか?俺に逆らえば貴様らだけでなく貴様らの家族全員にも火の粉が降りかかるんだぞ?」


「そ...そんな...」


「おれが貴様らが反逆を企てたと上に報告すればそれだけで縛首だ、さてどうする?」

卑怯者め、そんな事言われれば従わざるをえないだろ

一人武器を持ち、二人武器を持ち、気づけば全員が武器を持ちイズルの周りを囲んでいたがその手は震えていた。


「やれ」

イーライのその一言で一斉に襲いかかってきた

イズルの意識は遠のき暗闇の中に溺れようとしていた

「さて、と...」

イーライがアリサに近づく

アリサの目には涙を目いっぱいに溜め今にも首元に噛み付こうとばかりに睨んでいた。

「お前もあいつが死んだら同じ所に送ってやるからな」

その一言でイズルの意識がはっきりする。

「てめェ...そいつは助けるって...!!」

イーライはゆっくり振り返りこちらを見下ろした感じに

「あ〜?そんな約束したか〜?」

そう言うと落ちていた棍棒を拾い上げ

「まあ...こっちも気が済むまで痛めつけてやるけどなあ!!」

アリサの顔に振り下ろされる棍棒、イズルは思わず顔を背けてしまう。


ゴンッ!と鈍い音がする


しかしアリサの声は聞こえない

もしかしたら死んでしまったのかと思いアリサの方へ目をやる、すると、、、


棍棒は確かに振り下ろされ顔面に直撃していた。


しかし当たったのはアリサではなく...


「お前...何をしている...?」

イーリアだった、イーリアが己の額で打撃を受け止めていた。額からは血が流れているが決して逸らさずただイーライを睨みつけていた

「もういいでしょう...イーライ」

そう呟く

「何がもういいだ!!いいからそこを退()け!!」


「なぜだ...昔の聡明な貴方はどこに行ったんだ...」

「ここにいる騎士は皆、貴方に助けられ 憧れを抱いたからこそ今ここに居るんだ」

「今の貴方にはそのときの面影をまるで感じない...」


「そんな事はどうでもいい!!退け!!退かぬなら貴様ごと...!!」

そう言い懐の剣に手を伸ばす

しかし何故だか剣を抜くのに一瞬のためらいが見える。その隙をイーリアは見逃さない

剣は抜かず、己の拳でイーライの顔面を殴りつける

「ぐぇっ!!」

間抜けな声を出し後ろに吹っ飛ばされる、壁にぶつかると倒れこみ動かなくなってしまった。

「 アリサ逃げるぞ!」

イーリアがそう言うと繋がれている鎖を引きちぎり逃げ出そうとする。

「待ってください!」

アリサがそう言うとイーライの方へ走り寄り後頭部へ向かってぺちんと叩く

反応が無かったのが不服だったのか少し不機嫌そうな顔をしてさらに落ちていたレンガをイーライに落とす

「がっ・・!!」

多分気絶をしていたみたいだがアリサの一撃で起きてしまう。

「アリサ!何をしている!?早く逃げるぞ!」

イーリアがアリサをお姫様抱っこし素早く外へ逃げる。起き上がったイーライが動かない部下に向かって怒号を飛ばす

「何をしている!!早く追いかけろ!!」

すると、イズルに群がっていた騎士達全員がバタバタと倒れていく

「!?」

騎士が倒れていく中、イズルが起き上がる

「あんたの部下なら全員気絶してるよ」

体から稲妻がほとばしり周囲に飛び散っていく

「なんで...私が...貴様ごときに...!!」

剣を抜くイーライ

「お前なんかがぁぁぁぁ!!!」

イズルに向かい剣を突き刺そうとするがイズルの体を電磁バリアが覆っており突き刺す事ができず剣が弾かれてしまう

「アリサに先やられちまったな...」

イーライの顔の前に手をやる、するとイーリアに殴られたときとは比較にならないスピードで後ろに吹っ飛び壁にめり込んでしまう

「おお、今度は気絶しなかったな 慣れたか?」

スタスタとイーライに向かって歩いていく

「お前は何なんだ!!私になんの恨みがある!?」

拳を思いっきり強く握り手に雷を纏わせる

「別に...恨みなんてねーよ多分、けど」

「お前は俺に喧嘩を売った、アリサを泣かせた、それに...これから仲間になるはずだった奴に怪我をさせた」

「殴る理由はそれだけあれば十分だろ?」

壁にめり込んだイーライを思いっきり殴る、次は壁じゃなく地面にもめり込む

「今度は完全に気を失っただろ?」


手をパンパンとはらうと外に向かって歩き出すがその足取りはおぼつかない様子で途中で膝をついてしまう

「やっべ...ちょっと血流しすぎたかも...」

倒れるイズルを誰かが受け止める

「おおー...助かるわ イーリア」


「気にするな、アリサも安全な所に待たせている 一緒に帰ろう」

イズルを抱えようとするが動きが止まる

「どうした?」


「いや...お前もお姫様抱っこの方がいいかなと思って」


「おんぶでお願いします...」

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