大会当日
「イズルさん イズルさん、起きてください」
「う、う〜ん...」
「大会ですよ 当日ですよ 遅刻したら失格ですよ 起きてください」
「え...もうそんな時間?」
慌てて起きるイズル しかし時計は何時もの起きる時間
「...まだ時間あるように思えるんだけど」
「起こすのはこれが一番手っ取り早いんです」
アリサは手から小さな炎を出しその上にフライパンを持ち卵を焼いていた。
「お前、火の魔法も使えたんだな」
「ちょっとだけですけどね、それに少し火の魔法は苦手意識もあるので練習がてら料理をしてるんです。一石二鳥ってやつですよ」
アリサは慣れた手つきでフライパンを操り料理も手際よく作っていた。
自分でも言っていたが火魔法はやはり苦手みたいで時たまに火が大きくなったり小さくなったりし見ていて危なく感じたがこっちが不安そうな顔をする度に親指を立て片目を閉じ“安全だから大丈夫”みたいなサインを送ってきた。
「で、出来ました!」
パンにスクランブルエッグに焼いたベーコン、王道の朝ご飯って感じだ。それに水魔法で瑞々しさを演出しているサラダ(多分味に差はない)も完璧だ。
「!!美味しい...」
何故だろう特に手間を加えている様子もなかったのにすごく美味しい。
「えへー 美味しいですか?私料理好きなので良かったです」
「これなにか特別なことしてたのか?すごく美味しいんだが」
「? 特にはしてませんが...あえて言うならあれですね 美味しくなーれって念じながらやる事ですよ」
「まじで?それで美味しくなんの?俺もやっていい?」
美味しくなーれって念じればいいんだな
美味しくなーれ美味しくなーれ....
結果は凄惨なものだった
それはそうだ生まれてこのかたまともに料理をした覚えがない男がおまじない一つで料理が出来るわけがないってもんだ。それともあれか可愛い女の子のおまじないは受け付けているが男は願いさげって事なのか?神様も案外現金なやつなのな
てか神様ってあいつの事だったわ
「あ...わ、私食べますよ!イズルさん今日大会なんですから無理してはダメです!」
女の子にそんな拷問は強いられない、あれ?今遠回しに俺の料理がやばいって言わなかった?
イズルは自らの業を背負い目の前のたまご(だったもの)を喰らい尽くした。不味い、何故あんなに美味いもの食った後にこんなのを食べないといけないんだ、高いところから一気に低いところに落とされた気分だ 余計不味く感じる。
胃の中がピリピリしあまりの不味さに意識が遠のいていく中一つイズルの脳裏によぎった事がある
ああ、俺の電撃を食らった人たちはこれくらい辛かったんだろうな...
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「大会開会前から満身創痍いいハンデだ」
イズルの足は産まれたての小鹿のようにプルプル震えており立つのもやっとの状態だった
「だ、大丈夫ですか?今日の大会は棄権したほうが...」
「大丈夫だ お前のヒールで肉体的には完治している。問題は精神的なトラウマの方だ」
卵を見るたびにさっきの悪夢を思い出す もう俺は二度と自分で料理はしないだろう
会場についた、沢山の人で賑わっており大会の参加者らしき人も何人もおり、そこにはコロシアムの方を見て立っているイーリアの姿があった 。
こちらに気づいたイーリアは嬉しそうに近づいてきた
「おおイズル!時間には間に合ったようだな」
「まあな、イーリアありがとな 参加登録しといてくれて」
「気にするな!お前とはもう一度戦いたかったしな。しかし...なんか既に倒れそうじゃないか?」
「大丈夫だ たぶん それにお前の方も大丈夫なのか?昨日俺のせいで面倒な事にしてしまったから」
「ああ!このとおりぴんぴんしている!」
ホッとした。多分心のどこかに罪悪感があったのだろう 俺があそこででしゃばったばかりに彼女に迷惑をかけてしまったのではないかと、しかし今の彼女の様子を見て安心した
「そうか、それなら良かったお互い頑張ろうな」
何気なく彼女の肩に手をおいた 力など入れてもいない、のに
彼女は苦悶の表情を浮かべ地面に片膝をついた
「!?、おい!大丈夫か!?」
「だ、大丈夫だ!少し目眩がしただけだ...」
「目眩なんてそんな倒れ方じゃ無かったですよ!痛みのせいで立っていられなくなったんじゃないですか!?」
「大丈夫だ!!こんな事 今に始まったことじゃない!!」
「こんな事?」
イーリアの口が滑ったようだ取り繕おうとしているようだがもう遅かった
イーリアを人目につかない木の陰に連れて行き
「アリサ、こいつの体が本当に大丈夫なのか見てやってくれ」
「わかりました!」
イーリアは隠そうとしているのか肌を見せるのをいやに拒絶する。しかしアリサの腕力ですら振り解けない程、彼女の体は衰弱していた
「え!?なんですかこの痣!?何があったんですか!?」
アリサの顔がどんどん青白くなっていく。どんな痣が付いているのか想像に難くないだろう
「...大丈夫なんだ、別に兄のこれは今に始まったことじゃない」
「大丈夫って...それになんで手当も回復魔法も施されて無いんですか!」
「私はそういうことに疎くて...それに回復魔法も全く使えないんだ」
「騎士団の方は?一人くらい回復魔法ぐらい使える方がいるでしょう!?」
「ダメだ、兄がそれを禁止している すぐに治しては罰にならないと」
「そんなことで!!・・・ッッ!!」
アリサは何か色々言いたいコトがあったようだがそれを全て飲み込んでイーリアを回復魔法で治してみせた。
「はあ...助かった、やっぱり痛いのは敵わないな。ありがとう」
少し離れたところで一部始終を聞いていたイズルの元にアリサが帰ってきた。
唇を血が出そうになる程噛み締め、泣きたいのを我慢しているのか自分が彼女の為に何もしてやれないのが悔しいのか体を震わしていた。
「イーリアは?」
「少し休みたいと言って木の下で寝ています...」
「大丈夫か?」
「怪我は治しました、少し休めば大丈夫だと...
「違う、お前の事がだ」
「・・・私は大丈夫です。けど・・・」
彼女がなにを言おうとしているのか分からないでもない。それに俺たちが今してやれることは傷を癒すことくらいしかなかった。
「・・・今、俺たちがしてやれる事は何もない」
アリサが再び泣きそうになる
「少なくても今は、だ」
「・・・え?」
「イーリアはこの大会を楽しみにしていたんだろ?俺との再戦を楽しみにして、今俺たちがあのゴミをブン殴ればこの大会も俺たちもおしまいだ。だから・・・」
イズルが悪い顔で微笑む
「大会が終わった後に殴ってやりゃあいいんだよ。その代わりこの街には居られなくなるけどな、どうする?」
アリサもつられて悪い顔をしようとするが慣れてないのか全然できてない。
「全然構いませんよ!その代わり私も一回殴らせてください!」
「よーし決まりだ!この街の最終目標は
“大会でイーリアと戦って騎士団長をぶん殴って逃げる”
これで決定だ」
「あ、でもその後イーリアさんはどうするんですか?根本的な解決にはなってない気がするんですけど」
「まーかせろってその作戦も考えてあるから」
「そうなんですか?」
「可能性的には悪くない賭けだ。けどまあそれをするには先ずイーリアと戦って勝たないといけないけどな」
「信じても良いんですよね...?」
「ああ、任せろ」
イズルは親指を立て微笑んでみせた。