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ステージ1-5、俺は今、ホームシックだ、馬鹿野郎

常識。それは時と場所、生物によって違うもの。似ている常識はあれど二つと同じ常識を持つ国はない。

同じ国だろうと都会と田舎では全く常識が違う。

例えば挨拶。

ある国ではハグをする

ある動物は鼻同士をくっつける。

ある国では拳を合わせる

ある動物は尻同士をくっつける。

ある国では手を合わせる。


……などが地球という世界においての挨拶である。自分が今思いつくだけでもこれだけあるのだからもっと奇抜な挨拶だろうと存在するだろう。

もしかしたらキスが挨拶の国もあるかもしれない。

キスが万国共通の親愛を表す行為だ……というのはあくまで我らの常識の中での話である。森の奥深くにいる民族の常識なんて知る由もないのだから、確実にコレである。なんて言えないのだ。


さて、俺が何を言いたいのかわかるだろうか?


豪に入れば郷に従え、

国に入ってはまず禁を問え、

蓼食う虫も好き好き。


ようするに異世界に来たのだからまずは『常識』、すなわちこの世界にとっての当たり前を知らなければならないのだ。



……と、ここまでの全てが夢だったらどれだけ幸せだったろうか?

もしもこれが夢ならばそんなもの知らなくてよかったのに……


事の起こりは昨日だ。起きた出来事だ。……それはあまりの非現実さに途中からは『夢』だ……なんて思っていた。いや、『夢』だと思いこみ始めていたのだ。


昨日、異世界に降り立っていちばん最初にやったことは「は?」と言葉を口に出すことだった。

人間本当に驚くと第一声に「なんじゃごりゃあああああ!」なんていう絶叫はしないものだ。

だが、ひととおり「は?は?は?は?」と連呼したあとは「なにこれぇええええ!?!?は?は?ふざけんなよ?は?は?」と訳の分からない上に意味の無いことを絶叫始める。もちろん個人差はあるだろうが、俺の場合は「叫ばずにはいられなかった」のだ。


空に浮かぶ巨大な島々、やたらカラフルで色使い豊かな木々。

都会の電気豊かな住宅街から仮眠十五分で、そこは田舎の自然豊かな異世界である。

頭おかしい。

こんなドッキリ仕掛けたヤツただのアホだと思った。


と、昨日はそんな驚きのリアクションを1通りやった。


そう、こういう驚きは1度にいっぺんにやって来ると驚きがパンクして逆に冷静になるもんだ。

その時は『こんな有り得ないもの現実じゃない。異世界転移の夢だろう』と思い納得していた。

ありえない?

だが、実際そうなったのだからそうなんだろう。


だが、そう納得したのにもかかわらず自分の中ではそれが『現実』だと気づいていたのだ。


そして、今日異世界に来て二日目。再び目を覚まして確信する。


やはりこれは現実だと。


覚めることのない夢。それは現実に戻れないということを意味する。


友達。

家族を失くし、途方に暮れていた俺に優しくしてくれた親戚。

傍若無人な姉。

オタク気質なウザい義理の妹。


そんな掛け替えのない自分の知っている人達。それに突然会えなくなったのだ。


そんなことになったら泣いてしまう。現に今、俺は泣いている。



……空に浮かぶ水滴の寝床で。


しばらくして……


「おはよー、よく寝れたー?」


俺は一晩中目をつぶって考え事をしがら泣いていた。だが、その水滴の中で寝ているのだからそれがバレることは無い。


「もちろんですとも!」


ゆえに俺は元気に返事を返す。泣いていたと悟られないように……

それに異世界二日目でまだ自分はこの世界の常識も知らないのだ。寂しい程度でへこたれている場合ではない。


ただ、この巨大な水滴の寝床から出て驚く。体のどこも痛くないのだ。俺は寝相が悪く、朝起きて体中が痛いなんて日常茶飯事だったからだ。


「サトリくん、今日からよろしくです。あー……そういえばサトリくん私の名前知りませんよね?私はホムルンといいます。これからよろしくです。」


「あ、よろしくです」


そう名乗るのは昨日一番最初にあった女の子だった。俺は彼女の話を聞いてそういえばそうだったなと思い出す。

俺は彼女の頭の上で揺れている草の髪飾り改めて本体を見ながら答える。


そう。この人たち……いや、この植物たちは人間の死体に寄生して知能と体を得る植物なんだそうな。


そんな物珍しいものを前にして、俺の視線は女の子の肢体よりも植物本体にばかり目がいってしまう。


「あ、そういえばプランターグールを見るのは初めてなのでしたね?」


「え?あ、まぁそうです。」


「実はこんなにジロジロと私自身を見られたのは久しぶりなので少し照れてしまいます。ここに来る男性の方々はみんな私の寄生体の裸姿に目を奪われますので……」


顔を赤らめながらそういう彼女。俺はそういう生々しい話に耐性はない。

だが、その程度で照れて顔を真っ赤にして「女の子がそんなこと言ったらダメだよ!」なんていう鈍感系主人公みたいなことも出来ない。それに俺はロリコンではない。

事実こういう話を振られてしまった男は十中八九


「そうですか。」


となるしかないのだ。

女の子の夜伽話など、そういう趣向のプレイ以外では場がさめるだけである。現に場は妙な空気になる。ついでにホムルンの額からは汗が出始める。


「……うん。ごめんちょっとしたジョークのつもりだったんだけどね。なんか妙な空気になっちゃった。」


「あ、いえいえ。」


というかまだ会って一日と経っていないのに会話をし続けろなんて酷な話だ。


と、少しグダグダしてしまったが、俺はこのプランターグール達の伝統衣装だという布をまとっていた。

表面には派手な模様があり、裏は光を一切跳ね返さないという黒の塗料が使われており、持ち上げると空中に穴が空いているように見えてしまう。


たしか地球にもそういう塗料があったはずだ。たしかナノカーボン技術を使って作られた塗料で光を98%カットするとかいうものだ。俺は結構前にTubewitterというSNSで見た。


まぁ、これのおかげでジャンプしてもこの布の中は影になって秘部が見えないんだとか。


俺も秘めたる聖剣を股間に携えているのでとてもありがたい。

まぁそんな布に袖が一つついているのがこの服だ。


着るのは楽だったし、この服の着心地は着物に似ていたのでそこまで忌避感はなかった。

これは着心地は着物なのだが、見た目はポンチョという不思議な民族衣装だ。


「うん、似合ってる似合ってる。じゃあ村の集会があるから行くよ。」


こうしてついにお仕事が始まる……。


数分後


俺は一際大きい空中の球体の中にいた。

ここに来るために生まれて初めて6mくらいジャンプした。

やはりこのジャンプ力の源はこのポンチョだったようで、ポンチョの右端についている金属具のところに手を置くと効果が発動するのだそうだ。


それには押し込み型のスイッチが二つついている。 ひとつ押すと重力が軽減して普段より高く飛べるようになる。

もうひとつの方を押すと自分にかかっている力が運動エネルギーが消えてブレーキがかかる。

二つとも押すと電源がオフになる。


エネルギー源はまぁ、地球でいえば魔力……と呼ばれるような物質なのだろうと思う。


とまぁそんな感じの道具を使ってこの建物に来たのだが、気がつくと視線が自分に集まっていた。


その建物の中には『人間ではない生物に寄生している』プランターグールもいた。頭の中でSANチェックが行われる……成功。

俺は発狂しなかった。


そこには多種多様な生物がいた。タコっぽい生物、四足歩行獣、獣人、ドリアード、スライム、龍。

まさにファンタジー!

そして圧倒的クトゥルフ感!


だがしかし、村長の話によると全員メスなんだそうな。


しばらく後期の目線に晒されながら待っていると集会が始まった。集会では新たな事務員として新しく入った俺に関する報告をしたり、現在の世界情勢などから今日の混み具合を予想したり、体調確認、種の個数確認……などをした。


なお、俺の仕事内容は『後処理』なんだそうな。


Tubewitterでラブホの清掃員は大変だ……とかいうかんじの内容のエッセイマンガを見たことあるので不安である。

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