ステージ1-11・寝る時間、異世界の時差、そして寝る
時差。
それは海外に旅行した時などに発生する時間のズレのことだ。
それが異世界に行ったら無い……なんて有り得ないんじゃないだろうか?
実際この世界の時間は1日が32時間である。
さて、24時間周期で生活していた人間がいきなり32時間周期の世界に来たとして果たして生活をそのまま続けられるのだろうか?
否である。
そう。日の周期すら違う世界で俺の体は『時差』に蝕まれていた。
要約すると……
「眠い。」
「え?まだ夜になったばっかりだよ。営業時間はあと3刻みぐらいはあるよ。」
三刻みとはこの世界の時間の単位だ。
地球でいう1時間ぐらいである。この世界の時計のような時間を表す装置は野球のカウントボードの様な外見である。
一番上の列に赤色の光が点灯しており右が光っている時が朝、真ん中が光っている時が夜、左が光っている時は明瞭。
その下に黄色い二十四個の光が点灯しており、今がなん刻みなのかを示している。
長々と三刻みについて解説したが、要するに今の状況は『今3時だけどまだ仕事あるからあと1時間ぐらいの残業オーケーだよね?』というセリフを悪意の全くない天使に言われたという感じだ。
まぁ、この世界ではそれが当たり前なのでなんとも言えないが、あと1時間俺の体は持つだろうか?
否である。
「あ、ごめん無理だわ」
俺はそんな言葉と共にゴミ袋に顔を突っ込んでしまった。
…………
………
……
…
目覚める。
もう二、三回ほど寝て慣れたプランターグール達の寝床である水滴から出る。
見覚えのある部屋、疲れの取れた体。
俺は一体どれほどの時間寝ていたのだろう?
目の前の机にホムルンの枝木が置いてあるのを見つけて、おはようと言ってみる。
するとどこからかドタドタと音がしてホムルンが部屋に入ってきた。
「ごめんよ!あんなに疲れてるとか思ってなかったんよ!本当にごめん!サトリ、あなたさっきぶっ倒れたんよ!朝が来ても起きないから心配したんよ!」
そのまま抱きつかれてそんなことを言われたのは素直に驚いた。彼女といると彼女が植物ということを思わず忘れてしまいそうである。まるで人間のように泣くので思わず照れてしまう。
「ごめんはこっちのセリフだよ。ごめん、どれくらい寝てた?」
「三刻みぐらい。」
「あー、えっと……地球時間だと……うー、あー……1時間ぐらいか。って三刻みって仕事の時間終わってんじゃん。」
俺がそう言うとホムルンは頭を掻きながら
「いやー、ほんとにごめんね。私疲れることもないし寝ないからさ。それにここの村の人たちは人間の常識なんてしらないし適切な休み時間もわからないのさ。あんたが死んだらまた客にクソめんどくさい接待をしなきゃならなくなるんだからね。」
と愚痴を漏らす。
ちなみに俺は彼女らが愚痴っている理由を知っている。
裏話なのでアレだし、男の夢を壊すのもなんだが、彼女らはあくまでプランターグールなのだ。寄生植物にとって寄生している対象の感覚というのは希薄なものらし。ゆえに感じる演技をしたり、痛みに悲鳴をあげたり、泡を出したり、客の求める反応をするのは大変らしい。
ちなみに人族に寄生しているプランターグールには面識のあるプランターグールも多いが、人外のプランターグールに寄生しているプランターグールは肉塊のクラスタさんと黒板のマララさんとゴリラのパキスさんにしか面識がないため、そっちの事情は知らない。
……情事と言った方が正確だろうか?
「ごめんな。あの後大変だったか?」
「ん?あー、この体にはまだ顧客付いてないからそっちの仕事はないから全然大丈夫なんだけどね。それに私には『新人の教育係』が一任されてるんだよね。ホントは面倒を押し付けられただけだったんだけど正直言って接待の方が面倒だしね。」
ホムルンは大変の意味をどう解釈したのかそう返してきた。この調子だと仕事は特に大変でも無かったのだろうか?たのだろうか?
その日はその後ご飯だけを食べて寝ることにした。
早くこの生活にも慣れないとなーと思いながら寝るために水滴の中に入る。
…………
………
……
…
異世界漂流二日目終了。
異世界生活、順応確認。
帰還願望、減退確認、機能正常。
希望能力、正常発動、機能正常。
監視命令延長?
命令受諾、監視継続実行。
試練発動、是非自由決定可能?
自己思考……現場状況、微良好。
現場判断、試練発動権受諾。
継続報告可能。
通信内容、全報告完了
任務続行。