ステージ1-10・創作と、初めての夜……怒られた
創作。
それは自分の夢を徒然と書き記すものだ。
何かを伝えたくてそれを書くもの。書きたくてそれを書くもの。そんなことを思っている人はたくさんいるだろう。
異世界なんていうジャンルが活性化し、異世界モノとよばれるジャンルが流行りに流行った時期もある。
だが、自分は『そんなもの関係あるか!』と言わんばかりに 『やったことも無い恋愛』『現代都市における妖怪事情』『世界が荒廃した世紀末後』……そんな小説ばかり書いている。世が『異世界』という未知の世界に憧れる中、俺は今後来るかもしれない悲惨な未来に思いを馳せていたのだ。
そんな自分だったのだが、俺はそんな憧れの『荒廃した世界』ではなく『物理法則すらも違う完全なる異世界』に来てしまったのだ。
俺は……異世界モノの小説を書きたくなってしまった。
俺は……自分の身に起こったことを書き記すナニカが欲しくなってしまった……。
気がつけば手にノートとペンを握っていた。
……と、そんな感じで無事に魔法を発動できた俺達は休憩時間が終わり、自分は持ち場に戻っていた。
ちなみに外で魔法を使ってみた……のは約三十分程度である。また、人生初の体験を『筆記用具生成』なんていうくだらない魔法に使ってしまったことに多少後悔しているのだが、ノートを生成できたことは普通に嬉しかった。
だというのに俺は「あ、もう少しで夜だ」と一言言って持ち場を離れて窓に駆け寄る。
この世界における時間のサイクルは地球における時間概念では32時間だ。
ただし、この世界に太陽はなく
光がある時間は直訳で『朝』
光がない時間は直訳で『夜』
と定義される。
この世界には『月』というものが無く、『夜』の間光を持っていなければ本当に何も見えないらしい。その代わりに発光する植物が数多くあるため、家の軒先には発光植物を生やしていたり、森に発光植物を生やしたりしているらしい。
また、朝は1日約26時間。夜は1日約6時間
それぞれ同じ時間あり、朝→夜→朝→夜の順で日が進むらしい。
何が言いたいかと言うと……休み時間の途中で時間が動き、今は『夜』という時間なのだ。
太陽のない世界においての『夜』は初体験である。
それに一日目は朝のうちにここにたどり着き、記憶カセットのせいでもう一度朝になるまで寝ていたらしい。だから時間の変わり目を目撃するのは初めてということになる。
ちなみに、俺が起きた時は明瞭だったらしいのだが……あの謎の『ウンチク美少女』のせいで朝になっていたらしい。
窓辺からソラをぼーっと見ていると空がその『夜』に変わってゆくのを見るとこができる。
イメージでいうと、空というキャンパスに黒のインクがしみていく感じで『夜』に変わってゆく。
徐々にではなく、水を凍らせる映像の早送りのように『夜』が浸透していく感じだ。
そしてその『夜』からは無数の星屑が見える。
それが星なのかどうかは不明だが、星のようなものが無数に空に瞬いている。
さらに空を切り刻むように出現した虹色のベールはまるでオーロラのようだった。事前に聞いていたが、この虹色のベールはこの世界に存在している生命全ての『希望』の流れで、生命の数だけの色があるらしい。
「私達には当たり前の光景でも、サトリを見てるとなんか違うっぽいね。どう?この世界の空は?」
そんなことをしているとホムルンが怒りをあらわにしながらやって来てしまった。
まぁ持ち場から2mも無かったのだがな。
「あ、ごめん。……いや、でもまだどこの部屋も空いてないしいいだろ?」
「いつでも行けるように2人ペアで行動しなきゃならんのを忘れてるっしょ?」
そう、今は仕事中だ。確かに初めて見る光景でも仕事中にぼーっとするのはダメなことだ。
確かにどこの部屋も開いていないのかもしれないが、寄生するための生物の死体のストックの状態確認とプランターグールの種の育成状況の確認はいつも人手不足らしいので手伝えるなら手伝う。
というのが清掃員の仕事の一つであったらしい。
だが、人手が一人増えただけで人手不足が解消し、暇ができた理由もある。
複雑な作業の多い清掃員はプランターグールの本体じゃないとできないらしいのだ。
通常プランターグールは枝木を死体に指して操り人形のように動かすことが出来るらしい。だがそれが使えるのは単純作業であるその他の仕事のみ。しかもきちんと動かせるのは本体込みで2〜3体だ。
ゆえに、プランターグール一体が清掃員を辞めるだけでその他の仕事グループに2〜3人程度の人手が増えたことになるらしい。
今回交代してもらったのは3人まで操作できるというプランターグールのため、足し引き3人の人手が増えたことになるらしい。
プランターグールの生態はよくわからないが、それなら仕方ないと思う。
と、そんな説明あったなーと思い返しながら
「っていうかなんでふたりじゃなきゃいけないの?」
と聞いてみる。
「あ、それは……とある種族が来たらわかると思うよ。」
すると怒った顔を一変。暗い顔でそんなことを言われてしまった。背筋に悪寒が走る。
五感を感じないプランターグールがこんな表情をするということはそうとうアレな内容だということだ。
と、ここで部屋のプレイ時間が終わったアナウンスが入る。
それを聞き『夜』の間も頑張らなくては……と気合を入れた。