ステージ1-1・異世界へ、来てしまったよ、どうしよう
異世界……それを夢見る者は最近とても多くなってきているように思われる。
異世界転生、異世界転移。
そんなジャンルはネット小説、漫画界に幅広く進出してきていると言えるだろう。
だけどそれは全て『チート能力』『ハーレム』『ご都合主義』『主人公補正』『仲間が激強』『やたら美少女に会う』などなどといった小説的な表現があることが前提であるのではないだろうか?。
それら一切無しに異世界に行って、君達は何を思うだろう?
俺がもしそうならば単純にこう思うだろうと思う。
嗚呼、現代社会はなんて過ごしやすかったんだろう……と。
「まぁ、俺のことなんだけどもね」
俺は自分の運命を恨むようにそう呟いた。
俺は今、異世界に降り立っていた。
何故?と問われたら知らぬと応えよう。
目が覚めたらここにいた……とはなんとも典型的だがそうなのだから仕方ない。目が覚めたらここにいたのだ。
生まれ落ちた場所もこれまたとってもオーソドックスに草原である。
先程目覚めて、やたらとキレイな見たことない世界を見て騒いで、驚いて、発狂して、一通り終わってからなんか冷静になったのが今である。
さてさて、現状確認をしよう。
これは昨日のことだった……
昨日は高校の授業が終わり、自転車を飛ばしてさっさと帰ってきた。
そして、しばらくの間漫画や小説を読んでダラダラしたあと塾行く前に仮眠でも取ろうと思ってベッドに入った。
んで、起きたらそこは異世界だった。
……以上である。
そう。特に前触れとかも何もなくいきなり異世界に来たのだ。来てしまったのだ。
しかも仮眠をとった時の格好である白いTシャツで下は普通のズボンというとてもラフな格好でだ。ただ、うちは土足で入れるいわゆる洋式の家だったので靴を履いているのは幸いだったと言えるだろう。さらには寝る時、靴を脱ぐのが面倒でそのまま寝てしまうといういつもの自分の癖のおかげでもあるだろう。
自分は現代っ子なので裸足で外を歩くなんてこと無理な話である。
(というかこれが本当に異世界転移ならここらでなにかチュートリアル的なイベントが起こるはずなんだがな……)
神様?会ってないよ
チート?貰ってないよ
現代知識?雑学とか興味無いし全然知らん
武術?できないよ。体育の成績は3です
やってた習い事?小学校の時に水泳習ってたのと……今は塾に通ってるくらいかな?
中学の時の部活はバスケ。
高校入ってからの部活は家庭科部。
最近のマイブームは小説を書くこと。
ニートだったわけでもないし、友達もそこそこいる。
彼女はいないが女友達は数人いる。
普通だ。
この中で変わってることといえば……小説書いてたことぐらいだろうか?
でも高校生になってバンドとか初めてみる人とかもいるように、売れもしない小説を書くぐらい割と普通だろう。
まさに普通の高校生。それが俺だ。転移者特典のなんちゃらみたいなものは一切ない。
もちろん今も。
……どうしようか?
これがもしも小説とか漫画とかなら近くを行商人とかが通ったりして助かったり、美少女をチート能力でゴロツキから助けて街にでもでるのだろうが……そんなものに都合よく会えるわけないではないか。
だってここ山だし。
まずチートとか持ってないし……あー、実はチート能力持っててまだ目覚めてないだけと信じたいものである。
周りを見渡すと、木、木、木。
どうしようもない。
というかその木というのも見たことないものばかりだ。
その幹の色は黄色だったり赤色だったりとやたらカラフルだし、葉っぱも四角いのや三角なものもある。
ときおりカラフルな果物なども落ちているので、食糧事情がピンチになったら食うしかないだろう。
と、そんな木の中の一つにやたら枝が生えていてとっても登りやすそうな木があった。
近寄ってみると、その枝自体も丈夫そうであることに気づいた。
「あー……登るしかないか。」
木登りは子供の頃やったことある。ただし10m20mはありそうな巨木を命綱なしで登る経験などなかったが……。
まぁ、周りを見渡すにはちょうど良さそうなので登ることにした。
結論から言おう。この木はまさに天然のボルダリングブロックだった。とても登りやすい。現に自分はスルスルと登っていき、気がつくと高いところにいた。
今自分は巨木にセミのように張り付いている状態だ。
だが、高いのが怖くて肝心の周りの風景は見渡せない。
そう、怖くて下を向けないプラスまず後ろを振り向けないというダブルバインドにつき俺はそこで固まっていた。
だが、意を決して横を見る……そして左腕を外して……。
すると、目の前に広がっていたのは……延々と地平の彼方まで続く森だった。まぁここが実は家の2階ぐらいの高さで、そこまで高くないから地平線の彼方まで……もクソも無いのだが。
……怖がって損をしてしまった。
というかめっちゃ上まで登ったつもりだったのにまだ家の2階くらいって……ちょっとショックである。俺は木の四分の一も登っていなかったのにやたら達成感を味わっていたことになる。だけど今自分は他の木よりも少し高い位置にはこれた。
よってそこそこの景色は見える。
と、辺りを見回していると川を発見した。
それとともにあることを思い出す。
そう、「文明とは川を中心に成り立つものである」という歴史の時間に習ったことを思い出したのだ。
よって川に沿って歩いていけばいつか街にたどり着くのではないか……俺はそう考え、川へと歩を進めた。