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09 女帝は忙しい

国の名前と大体の地形決めるだけだから、大した事はなかった。

「今皆さんがいる国はフェルリンデン王国です。大国の1つになります」


今日も今日とて午前は座学。

今回は国に関してだから、重要ではある。


「我らの国、フェルリンデン王国の西側に大河があり、それの向こう側にルンドマルク帝国があります。そして、フェルリンデン王国の東側に樹海を挟み、エスカランテ王国があります」


フェルリンデン王国は勇者召喚が行われている大国。

ルンドマルク帝国は軍事力の高い大国。

エスカランテ王国は魔法に力を入れている大国。


3大国同士は結構離れているが、その間や周囲には当然小国が沢山ある。

今現在、表立って戦争している国は無い。


「そりゃあ……魔王がいるんだし戦争何かしないだろう……」

「いやいや、そうも言い切れんぞ。最低でも100年と言えば1世代変わるんだ。十分戦争できるだろうよ。信じる神の違い、自国には無い資源で殺し合う人間達だぞ? 魔王なんて大した問題にはならんだろ」


なぜなら魔王と戦う勇者は別の世界から召喚すれば良いのだから。

毎日寝る前に魔力を込め、電池を定期的に変えるだけであら不思議! 別の世界から手軽に最強戦力がやってくる!

一方通行で帰れないのだから、召喚された勇者には選択肢がない。人は1人では生きて行けんのだ。国ぐるみで行われているのだから、反発すれば国が敵に回るのだ。下手したら世界規模が敵に回ることになる。

召喚した国じゃなくても、召喚された勇者を当てにしているのだから、勇者に戦って貰わねば困るのだ。


なんと身勝手で、ふざけた話だろうか。自分達の世界の問題を、他者に……しかも選択肢がない状態で押し付ける。

『我らの世界を救ってくれ、勇者よ』なんて口車に乗せられ喜ぶ者もいるだろうが、落ち着いて考えれば勇者召喚なんぞこんなものだろう。


まあ結局は召喚された本人が納得できるかどうかだ。喜んで勇者するのもそれはそれで良いんだろうが。




お昼を食べ、食後のティータイム。なお、他の者達は実技訓練中な模様。


「しかし流石に暇だな……仕事するか……」


10番世界の分身体で、処理していない書類半分ほどを空間収納へと放り込む。

そして4番世界にいる本体で取り出し、処理をする。


空間収納に関しては、創造神様の管轄である1~10番世界なら場所が共通なので、世界を移動しても共通である。

和ロリは10番世界にいるベアテが作り、分身体がしまう。4番世界の本体が取り出し、清家に渡したと。


ピシッと背筋を伸ばしで書類を片付ける。横でシロニャンはお菓子を抱えてポリポリしている。ヒルデは相変わらず背後で待機。

まさにお仕事である。勇者? はぁ、私忙しいので。



何やら紙の束を取り出してそれを見始めた少女。

椅子に浅く座り、ピシッと背筋を伸ばして紙と向き合う少女は非常に絵になるのだが……奇妙なことがある。

あの少女はいつも目を閉じているのだ。開いているところを見たことがない。

にも関わらず、迷いなく紙に何かを書き込む。

行動だってそうだ。歩みに一切の迷いがない。

紙に書かれている事が分かるのか? 何がどこにあるかも分かるのか? いったいどうやって?

体の一部を除き、年相応の細い体をしている作り物のような少女だが、計り知れない。他の勇者の子供達と同じように遊んでいる事もあるが……突如雰囲気が変わる事もある。まさに今だが、とてもじゃないが少女には見えない。


本当に、いったい何を召喚したのだろうか……。



「む? ファーサイスからか。……妾の加護が欲しい? 大きく出たな。無理に決まってるだろうに」

「水の都からジャングルに転身ですか?」

「我が国ですら精霊達と妖精達が調整してやっとだと言うのに…………あー、これあれか。ディーボルト家からか」

「ふむ……。という事は、黙らせるためですか」

「だろうな。上層部が妾の加護を求めるとは思えん。と言うか、地の精霊皇女(グノーム)の加護が定期的に受けられるだけでも破格なのだ。それが分からぬ無能ではあるまい」


神々の加護、精霊の加護……加護と言っても種類がある。

どんな加護がかかるかも神々による。

大きく分ければ土地にかけるか、生物個人にかけるかだ。

豊穣神の加護なら当然土地だろう。そして精霊達は属性による。水と地の精霊の加護が土地には重宝されるだろう。

そしてそれらを凌駕する、豊穣系の上級神に位置するのが自然神だ。当然自然神の加護はかなり強力だが、強ければいいという訳でもない。

ヒルデの言った通り、水の都と言われるファーサイスの王都が速攻でジャングルへと早変わりすることだろう。すくすく育ちすぎて。


「と、言うことで……答えは決まりだな」


でかでかと『ことわる』とだけ書いて空間収納へ放り込む。

あまりにもふざけた、話すまでもない内容に返すお決まりの状態である。

格式張った挨拶も何もない、でかでかと『ことわる』の文字だけを紙いっぱいに書いただけの物である。ふざけた事言ってきてるんだから、ふざけた返しでも問題あるまいという主張であった。これほど突っぱねたという証拠は無いだろう。


どうせ向こうの事だ、これをバカ貴族共にちらつかせて散々ビビらすのに使うんだろうよ。

『お前らの要求通り送ったらこんなの来たんだけど、どうしてくれんだ? お?』

っていい笑顔で言うんだろうよ。絶対目が笑ってないだろうけどな。


ちなみに、ヒルデの生前の名前はブリュンヒルデ・ディーボルト。

そしてディーボルト家は代々ファーサイスで農産相やってたりする。今回の当主は外交官してるようだが。重鎮には変わりない。まあ、ヒルデは4女で侍女に目覚めてたようだが。流石に400年とか経つし、既にあまり気にしてはいない。


せっせと書類を片付けているうちに、宮武が話しかけてきた。


「ユニエールさん、何してるの?」

「仕事だ仕事」

「え、なんの?」

「……言ってなかったか?」

「言ってないですよ」


ヒルデに確認したら速攻で返された。そうか、言ってないか。


「城に出入りする程度の立場にはいた……と言ったな?」

「あ、うん。聞いた」

「召喚の魔法陣が見えた瞬間に対策はしてきてな。今向こうの、転移前の仕事を継続している」

「魔法陣出てから転移まで早かったような……」

「3秒ぐらいだったな。それだけあれば十分だ。伊達に生物辞めてない」

「まじかー」


対策も何も、もう1人の自分……分身体を置いてきただけだがな。

私のは《多重存在》という物だ。

《幻影分身》や《多重分身》という似たようなスキルもあるが、《多重存在》は全く別物だ。


《幻影分身》は喋れないし触れない。スキルや能力も使用不可。

《多重分身》は喋れるし触れるが、スキルや能力は半分以下。

《多重存在》は文字通り複数の自分を作る。まあ、この能力は創造神様に貰った物だから、私専用だ。仮に私用じゃなくても生物が使ったら脳が死ぬんじゃないか?


分身系は自分の人形を操ったりする感じだが、存在はそうじゃない。

《多重存在》は『あぁー、自分がもう2人ぐらい欲しい』という願望をそのまま再現した様な物だ。パソコンならパソコンがもう1台増えるわけだ。

やれることが増える、考えられる事が増える、ただしそれらは全て共有される。

3人とかになって全員別々の行動したらまず脳が死ぬだろう。

まず処理しきれない。処理しきれないならやるだけ無駄である。

折角2人になったのに、2人の自分が同時に思いついたことを行動し、処理しきれず同じことをしようとしてロスをする。

同時に思いついた事を被らないように振り分けて……とかの処理が必須なのだ。

『お前あれ、俺こっち』『おk』というやり取りをどこにいても脳内で処理する能力が。この間にも当然それぞれの5感から様々な情報も入る。


まあ、流石に《多重存在》については内緒。


「お城でやるようなことって言うと……見ない方がいいのかな?」

「そもそも世界が違うから見たところでな。ちなみに重要な物だから汚さない自信がないなら触らないのが正解だ」

「……やめとこ。それは?」

「こくz……見ましたよーという印だ」

「へぇー、判子か」


『国璽!? 今国璽って言った!?』


やべぇ、騎士達にバレたかも。国璽こくじは普通王しか使わん。

多少の差はあれど、国璽を持つの許されるって相当だからな。

素知らぬ顔しとこ。国璽なんて私は知りませんよー。口滑ってないよ?

めっちゃこっち見てくる。

我々のポーカーフェイスは完璧です。一柱になってちゃんと普通に表情動くようになったけどね。表情筋を切り離す事も可能なのさ。ピクリとも動かんぞ。


……別にバレても問題ないのか。王族ってのは国のトップだからこそ、重要なんだ。王が命令すれば兵が動く。兵が動けば戦争だ。それを避けるのもあって、例え他国であろうとも王族は自国の王族と同じような対応をする。

召喚されて私の国がない状態なら恐れる物も無いと判断するだろう。

まさか1人で国落とすとは普通思わんだろうからな。


私とシロニャンは国落とし余裕。造作もない。2人して一撃で終わる。ヒルデも……時間はかかるが普通の国なら余裕だな。この国なら問題なく落とせる。

……可哀想に。まさに相手が悪いとしか言えん。


宮武を訓練に戻らせつつ……。


ベン! ベン! ベン! ベン!


む、学園か…………まあ、いいだろう。


ベン!


押した物からぽいぽい空間収納に放り込む。


「ふむ、ひとまずこんなもの……」


増 え た。

がっくりしながら束を取り出す。

ヒルデがいれたモモとミルクを混ぜたペルシアオレを飲みながら片付ける。

氷は入っていない。我々からすれば温度調整は片手間でできる。楽でいい。


ちなみに時空神ならではの共通の空間収納を作ってある。勿論眷属用だ。

それを使えば離れていても受け渡しが可能になる。

まあ、主な用途はヒルデ用なのだが。ほら、飲み物とかお菓子とか。ヒルデが出せるように共通化したのだ。私が個人のに入れてると、ヒルデが侍女としての仕事ができないんだよ。飲み物いれたり、服を着せたりとかとか。

そういうわけで、ヒルデが重宝している。

炭酸水とか作る魔道具も入ってるから、眷属騎士達も使ってるな。

炭酸水の魔道具は相変わらずペンギン型である。変えてない。



訓練している隅の方で、ひたすら書類という魔物と格闘するシュテルであった。


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