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07 実技

よくあるあのセリフ「100年早いわ!」

シュテル「生物(人間)辞めてから出直してこい」

普段騎士達が使う広い訓練場に、少年少女達の姿があった。

学生達服装が制服から、この世界の服に変わっている。

この国の騎士達もおり、興味深そうに見ている。


実技テストって何するんだろうと、そわそわしている学生達に告げられた事……。


「よーし、じゃあ走って体力を見るぞ。後は真っ直ぐ走って足の速さもな」


100メートル走と持久走だった。

それを聞いた学生達は揃ってガクッと行った。

『体育か!』ってツッコミも聞こえる。


「……そう言えばここ数百年走ってないわ」

「「「えっ?」」」

「と言うか、我々にこの2つはやるだけ時間の無駄だな……」

「ですねぇ……」

「ちゅいー」

「でもどうせやれって言うんだろうなー」


そもそも、訓練場に来て早々机と椅子を出し、ティータイムに入るやる気の無さである。周囲の視線が突き刺さってもなんのその。


5人ずつ見るようだ。とりあえず、位置に付く学生達の中にシロニャンを混ぜる。

4人の中にぽつんとハリネズミが混じってるの物凄いシュールだな。


「……じゃあ行くぞ。3……2……1……始め!」


どんっ!


音の発生源を見ると、シロニャンがいた場所が抉れており、肝心のハリネズミはそこにいなかった。

騎士達は勿論、一緒に走る予定だった学生達すら止まっていた。

そしてゴールの方を見ると、後ろ2本で立ち上がって合図をした騎士を見るシロニャンの姿。

飼い主である優雅にティータイムと洒落込んでいるシュテル一行を見ると、さもこうなることが当然のように変化が無かった。

そんな唖然とする者達をガン無視して、小さいお尻をふりふりしながら堂々と飼い主のところに戻るシロニャン。そのシロニャンに空間収納から果実を渡すシュテルである。


さぞ頭を抱えたい事だろう。だが、彼らの受難はまだまだ続く。

当然ブリュンヒルデでも同じ事がおきる。

そして、彼らの主の時はと言うと……。


「3……2……1……始め!」


地面が弾けるのを予想していたがその予想を裏切り、一切の音を出さずに姿だけが消え、当然ゴールの方で佇んでいた。


シロニャンとブリュンヒルデは身体能力に物言わせて踏み込んだだけ。

そしてシュテルはと言うと……短距離転移だ。足は一歩も動かしていない。空間を入れ替えたから当然音もないし、魔力反応もない。


100メートル移動したのは間違いないが、100メートル走と言ってはいけない気がする。が、当の本人はしれっとしていた。

シュテルにとってここ数百年、移動とは『歩き』か『転移』の2択なのだ。『走る』などという選択肢はない。優雅さに欠ける。

近距離戦闘する時ですら短距離転移を使用するレベルである。

口調は『女帝』を、動作は『令嬢』のイメージを突き詰めた結果の賜である。


「持久走はやらんぞ。我々に体力という概念は無いからな。やるだけ無駄だ」

「体力という概念がない……?」

「我々は人間ではない。肉体が無いから肉体的な疲労はない。走るだけ無駄」

「当然筋肉も無いので筋トレも無駄ですね」

「と言うか学生勇者達と違って、我々の世界にも魔物はいるからな。既に戦う術は持っている。盗賊も既に殺している」

「ああ、そうなのですね。では既に自分の戦闘スタイルも?」

「決まっているな」

「そうですか。なら我々が口出しするのもあれですね」


この隊長、聞き分けがいいと言うかなんというか。まあ、楽だからいいか。

ちなみに盗賊は、後半馬車から降りるのも面倒だしそのまま全員轢き殺した。そしたら余計に片付けが面倒になった。面倒な動物だよ全く。



持久走が終わりゼーハーしてる学生達に、今度は杖を持ったローブの女性が近寄っていった。


「では今のうちに魔法を覚えましょうか。誰でも使える魔法があります。それは《生活魔法》と言い、生活にかかせない魔法が何個か纏められています。《生活魔法》を思い出そうとして下さい」

「思い出すも何も……俺らの世界にそんなものは無いし、初めて聞いたけど……」

「まあまあ、騙されたと思って」


言われた通り思い出そうとすると、前から知っていたかのように頭に浮かんでくる。当然びっくりする学生達。


「ふふふ、わかりましたか? 勇者様達は私達とは違って……魔法図書マギライブラリという領域に使える魔法が保存されていくらしいです。では《生活魔法》の飲水ウォーターを使い水を飲みましょう。コップは用意してあります」


学生達にコップを行き渡らせた後、魔法使いの女性も同じようにコップを持つ。


「右手左手どちらでもいいですが……」


魔法使いの女性は左手にコップを持ち、コップの上に右手を持ってきて、飲水ウォーターを使用しコップに水を注いだ。


「このような感じですね。ただ、皆さんは多少体からコップを離した方がいいですよ。まだ《魔力操作》が曖昧でしょうから、びしょ濡れになる可能性があります」


案の定何人か……と言うか、半数ほどやらかしたが、飲むことには成功した様だ。

走った後だから水かぶるのは丁度いいと、気にもしてない奴らもいたが。


「では魔法系は私の方へ、近接系はあの騎士の方へ行って下さい」



我々は魔法の方でも行くかな。


「では皆さん、しばらくは地味ですが基礎中の基礎《魔力操作》を鍛えましょう。休みながらでも可能なので早速始めますよ」


むしろ《魔力操作》に集中する分には疲れてる方が良さそうだな。下手したらそのまま寝るけど。

我々は変わらずティータイム。次元の壁修復が最重要。暇なのは丁度いいと言えば丁度いい。

裏では神の思考8割を回して次元の壁修復というとんでも作業をしながら、表は残り2割で優雅に過ごす。私なら2割もあれば竜との戦闘ぐらいなら容易いが。

ああ、一気に直したい。だが一気にやると地上がどうなるか分からん。

面倒くさい……。



ひとまず教え終わり、後は見守るだけになった魔法使いの女性が、こちらを興味深そうに見ている。


「(魔力を全く感じない……そんなことは……まさか? でもそうすると私より……いや、私達より確実に上……。人間じゃないっていったい何を召喚したの……?)」


おー、考えてる考えてる。ハハハハ。そう言えば勇者達には言ったが、こいつらには言ってないや。まあいいか。喧嘩売ってきたら薙ぎ払えばいいし。放置しよう。


近接組は……素振りか。頑張りたまえよー。

狐っ娘は《棒術》を選んだそうだぞ。頑張る子にはプレゼントをあげよう。



「そこの」

「はい?」

「あれは壊してもいい物だな?」


そこそこ離れた位置に鎧が固定されたカカシが立っている。

どう見ても練習用の物だから聞くまでもないのだが……。


「古い物を練習用にしているので構いませんが……」

「そうか」


鎧を着たカカシに人差し指を向け、殆ど見えない物を指先から飛ばす。その何かもやもやした物が飛んでいき、鎧に当たる。

すると一瞬で炎に包まれ木は勿論、鎧すらドロドロに溶かし地面に落ちた。


「……え?」

「ふむ、この世界でも全く問題はないな。ただの鉄ならあんなもんだろ」


殆ど見えないもやもやした物は炎だ。自然神の力により発生した超高温の炎。

それが触れた瞬間広がり、木は焼き尽くし、金属は溶かした。

科学で飛んでる間に酸素がなんだ、色がなんだ、温度が……などと言う6番世界の常識は通用しない。

自然神がそう言う炎を発生させたのだからそういう物であり、そもそも魔法には物理法則などとは違った魔法法則という物が存在する。

そのルールに従った結果があれだ。



目撃した者……してしまった者と言った方がいいだろうか。

その者達が見ると……やった本人はさも当然のように、ただ確認のためだけにやりました的に、相も変わらず空間収納から取り出したお菓子を摘んでいる。

つまり、本人からしたらなんの大した事じゃない。やれることが普通であり、世界が変わったから問題ないかと確認しただけ。それ以外には何もないから、別に慌てたりも、びっくりしたりもしない。

後ろに控えている侍女も、グリグリ甘えているペットも大した反応をしない。

怯えるどころかおだてたりもしない。

それはまさに、この者達にとってはあれが『普通』なのである。


あの鎧はこの国の騎士達の標準装備だ。古くなったから訓練用に回しただけ。

それはつまり、あの少女に喧嘩を売ったらあれが未来の自分達である。

少々小生意気な子供を見る目が変わった瞬間である。


面倒だから、やりたくないからと我が儘でやらないのではなく、言葉通りの『やる必要がない』だけなのだ。

あんなことを片手間にやってしまう少女に教える事なんて無いのだから。


シュテルは何故そんなことをしたかと言うと、次元の壁修復中に喧嘩売られるとムカつくから先に黙らせただけである。

これでもダメなら何言っても無駄だから、殴って物理的に黙らせる予定である。



しばらくは座学と、学生達の実技訓練が続くだろうから、暇だなぁ。




10番世界、アトランティス帝国、シュテルの分身体。


「ベアテー」


大神殿の中庭で、上に向かって声を出す。すると天を覆う神霊樹から、アラクネの従魔であるベアテがぷらーんと降りてくる。


「呼びましたか?」

「こういう服作って。妾が着るんじゃないから、聖魔糸じゃなくていい」

「分かりました」


今日中にはプレゼントができるだろう。


和風ロリィタファッション。

所謂和ロリを……狐っ娘に着せる!


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