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41 第4番世界 国境の街 2

大部屋で雑魚寝する勇者一行。

シュテル一行と言う寝る必要のない番人がいるので、特に問題はおきていない。

フィーナは眷属ではないので、寝る必要がある。自分で召喚した召喚体に抱きついたり包まったりして寝たり、聖魔布の布団に潜り込んで寝たりしている。つまり、割と楽しんでいる。


むしろ大部屋なんて借りる事は然う然うない。今は3パーティー分ぐらいの人数がいるから大部屋だ。パーティーが別れれば4人なのだから2人部屋を2つで済む。

体育館で雑魚寝する様な状態なので、部屋代はかなり安い。と言うか、大部屋がある時点でかなり安め……下の宿だ。それはつまり、大体があまりいい宿とは言えないのだがこの宿は当たりである。

まあ、そういう宿をシュテルは狙ったので当然なのだが。


ちなみに、街や村への到着時間にもよるのだが、余裕がある場合はちゃんと勇者達にも宿選びをさせている。確実に必要になるからだ。旅人には必須技能である。



「朝ご飯食べたし、情報収集行くかー」

「んだな、いつも通りでいいべ?」

「おう」


シュテルが何も言わない場合、自分達で考えて動け……なので、各パーティーで動き始める。

まず冒険者ギルドで情報収集。お昼になったら食べ歩きしつつ、おばちゃんとかから情報収集だ。


「あー……寝癖が治らん……」

「梳かすからこっち来な」

「へーい」


寝癖が気になる清家は、宮武に髪を梳かされていた。

すっかり女の子している清家はおいておき……。


「フィーナ、何する?」

「うーん……お金は十分稼げたし、お母様といる」

「そう、じゃあ見て回りましょうか」

「うん」


シュテルの場合、情報収集でいちいち聞いて回る必要もないので、街並みを見て回るつもりである。


「あ、でもギルドには行っておきたいな。魔物の情報は欲しい」

「なら午前中はギルドに行きましょうか」


結局全員ギルド行きである。


準備を終え、冒険者ギルドへと向かう勇者一行。

少年少女が先行し、後ろに大人達が続く。

大人達と言っても、シュテルも含めパッと見は20歳ぐらいである。全員クール系の集団だ。シュテルは堂々と歩き、ヒルデは侍女であり、エルザとイザベルも職務を全うする護衛騎士のため、全員が真顔である。

学園生とかなら間違いなく『お姉様』と呼ばれる連中である。


例外がフィーナであり、シュテルの横をキョロキョロしながら歩く。フィーナと話すシュテルの表情は母のそれで、慈愛に満ちた表情と言える……が、向けられるのはフィーナだけである。



勇者一行が冒険者ギルドへと入ると中はワタワタしていた。

基本的に冒険者達は朝に依頼を受けるので、依頼目当ての冒険者達。

それの対応に追われる受付嬢達と、ギルド職員達だ。


「うわぁ、こりゃ凄い」

「依頼見ようぜ」

「おう」


人混みを物ともせず突撃していく勇者達。

『動けるだけ余裕があるじゃん』である。すいすい動き板へと向かう……流石。


「すごい人だねー」

「フィーナが売った肉で商人達まで来てるな」

「……えへ」

「ワイバーンでこれとか、純正竜の肉を出してみたくなるな」

「溢れそうだね」

「まあ、我々が用あるのは2階だ」


資料などは2階にあるので、念話で勇者達に伝えつつ2階へと上がる。

1階とは段違いでガランとしている。

勇者達もどんな依頼がどのぐらいの値段であるのかチェックしたら、上に登ってくるだろう。


「いやー、この体であそこに行く気にはならん」

「私もちょっとねぇ……」


清家や宮武はむさ苦しいところに突撃する気はなかったようで、上に来ていた。

つまり、長嶺は犠牲になったのだ……。


早速魔物情報を得るべく、資料を漁っていく。

スライムやウルフ、コケッコーやゴブリンなどなど。


「ん~……実に代わり映えしない。……同じ国で劇的に変わる方が問題か」

「大問題だね」


しかし更にページを捲って行くと……。


「むむ……、かなり魔物の種類が多い?」

「うわ、ほんとだ……なんで?」

「……ここ東ってもう森だっけ。そのせいかな」

「あー……大樹海レベルなんだっけ? 回って行くんだっけね」


ちゃんと分かっているようなので、シュテルは特に何も言わずにティーカップを傾けていた。

清家と宮武は同じ資料を2人で眺めており、フィーナは1人で見ている。


「うーん……中層森林エリアぐらいかな? 問題はないけど、厄介」


フィーナはアトランティス帝国にある創造のダンジョンにいつも潜っている。

対魔物なら戦闘経験はかなりの物である。

フィーナの得物は魔導弓でハイエルフだ。森はホームと言え、隠密行動に優れる。


東に広がる樹海は動物系、植物系、昆虫系、鳥系が揃っており、人が入るには過酷過ぎる場所だ。

でも逆に言えば、食材や素材の宝庫とも言える。様々な魔物がいるのだから。森なので当然薬草系もあり重宝するが、取り行くのに命がけである。


「お母様」

「んー?」

「薬草系がやたら高かったのはなんで?」

「次元の壁のせいで神々が動けず《回復魔法》の使い手が消えたから、魔法薬しか手が無いのよ。だから材料の薬草系が必要だけど、取りに行くのが困難だからね」

「じゃあエリクサーとかパナケーアの材料が美味しそう?」

「上級レシピまで行くと逆に使い手がいなくて売れなさそうよ」

「え~……」


エリクサーは欠損回復薬だ。

パナケーアは所謂万能薬。全状態異常を回復させる。

上級レシピは当然加工が……配合などがシビアで難しい。


「中級レシピのハイポ系やペインキラー、トランキライザーを狙った方が良いでしょうね」

「鎮痛剤と鎮静剤かぁ……」

「《回復魔法》のない彼らは重宝するでしょう」


4番世界は《回復魔法》が最早伝説の魔法と言って良いレベルである。

加護を与える神々が次元の壁修復で長らく手を離せなかったのだから、当然と言える。4番世界は色々な意味で、手の込んだ高度な自殺をしていたわけだ。

散々迷惑かけられたから、神々はしばらく加護やらなそうだしな。異常気象の方を解決させる方が先だろう。


「昆虫系がいる時点でもう行きたくないよね」

「うん。自分達と同じ……下手したら以上の虫とか堪らんわ。鳥肌マッハ」

「虫といえば、蚊とか見てない気がする」

「そりゃあれだ、妾が近くに来た虫は消してるからな」

「えっ」

「回りをブンブン飛び回る羽虫のイライラは異常。前世は苦労したが、今なら問答無用さ。絶対に逃さん……絶対にだ……」


シュテルの目は据わっていた。ガチである。

シュテルの国、アトランティス帝国に虫はいない。果樹が大量にあるにも関わらずである。国自体が次元結界で囲まれ、東西南北にある門以外からの侵入は不可能である。当然攻撃も効かない。

虫は門すら超える事は許されていない。完全排除である。

果樹や花の管理は精霊と妖精種がやるので、虫は不要。


「一回虫のせいでファーサイスの城の廊下が爆ぜましたからね」

「若気の至り」

「「何してんの……」」

「窓から入ってきた虫がこっちに突っ込んできたからついな」

「だからって"エクスプロージョン"は無いでしょう……」

「「"エクスプロージョン"撃ったの!?」」

「羽虫に対する殺意は忘れられん」

「あの事件は忘れられません」

「あれ以降我慢して"ファイアボール"にした。今は風でバラバラにした後、空間操作でポイ捨てしてる」

「「生かすつもりが微塵もない……」」

「絶滅させないだけマシと思え……」

「「わぁ……」」


とか話しているうちに、ぞろぞろと依頼板を見ていた勇者達が上がってくる。


「依頼に関しては普通だった。他の街とかに比べたら薬草系が多かったかな?」

「樹海が近いからだろうね」

「人も多いし樹海も近いしで、かなり依頼自体は多かった」

「魔物が増えて気をつけろとか、稼ぎ時とかって会話が聞こえたな」


依頼関係の情報を貰い、皆で残りの魔物関係の情報を集める。

これから樹海を大回りしていくことになるので、樹海にいる魔物の情報は必須だ。入らないにしても、外に出てくる可能性があるから。


そして共有が終わった頃には丁度お昼になる。

下へ降りるとギルド員と交渉合戦をしている商人達がいた。未だにワイバーンの肉争奪戦である。そこまで欲しいか。

例えアトランティスでは微妙でも、この世界だとワイバーンの肉は最高級といえる食材だ。しかし逆に言うと……。


「あんなに貴族に売れる商人達いるんだね?」

「いや、あれはテンションが上がって気付いてないだけだろう」


最高級食材なんぞ、買えるのは王侯貴族のみ。

そして、それらと取引できる商人はそう多くないはずだ。正直2桁残ればいいぐらいには人が減るはずなのだが……。

仕入れても買い手がいなければ自分で食うのだろうが。


まあ、どちらでも構わないのでスルーしてギルドを後にする。

今度は店のおばちゃん達から街の情報を仕入れる。

食べ歩きしながらウロウロしていると清家がシュテルに念話を飛ばす。


『ユニエールさん……なんか違う感じで見られてる気がするんだけど?』

『ふむ、気づいていたようだな。悪意、敵意……覚えておけ』

『恨まれるような心当たりが全く無いんだけど……』

『人間そんなもんだ、気にするだけ無駄。対処法だけ考えておけ』

『はーい』


当然シュテルは既に特定している。

相手は奴隷商。遂に珍しい白と金の狐っ娘に目を付けたようだ。

つまり一方的な悪意であり、清家は最初から関係ないのだ。


『遂に奴隷商が清家に目を付けた。捕まるまでは清家達にやらせるつもりだが、警戒するように』

『この不愉快な視線は奴隷商でしたか』

『もう少しでガン飛ばすところでした』

『来たら叩き切っても構いませんよね?』

『構わん』


それなりに規模のでかい『他国の』奴隷商のようだ。中々いい度胸をしている。

しばらくすると見ていた者が下がっていった。

おばちゃん達から情報を集めたら後は自由行動だ。



この街での予定は、以下の通りである。

初日は到着してから売り捌き、宿を選んで終わり。

2日目はギルドとおばちゃん達から情報集め。

3日目は完全自由で休み。

4日目に出発。



3日目は各パーティーでのんびり過ごし、旅の疲れを取る。

そして何事もなく、出発の日になる。


「では世話になったな」

「またどうぞ!」

「この街に来ることがあったらな」


受付少女とバイバイして宿を後にする。

西門から入ったが、出るのは南門だ。南から大回りして東に向かう。

このルートは村や街を経由する場合1本道と言える。常に東側や北側が森になるため、中々油断ならない道だ。よって、冒険者ギルドでは護衛依頼が良くある。


今回護衛依頼は受けていない。

そもそも旅に慣れているとは言えないので、護衛するような余裕があるとは言い難い。更に12人と多いのもある。

最大の理由は一悶着あるのが確定しているからだが。



出発後しばらくしたら、後方に馬車が付いてきていた。


シュテルは羽虫……飛ぶ小さい虫全般がお嫌い。

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虫がいないと、小動物も居着かないんじゃ………?
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