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38 第6番世界 黒装束は悩む

「ふぅん……この微妙な発展具合は第三次世界大戦が原因か……」

「世界規模の戦争ですか?」

「そうなるな。まあ人Vs人工知能の様な状態だったようだが、人工知能に全てを任せたらそもそも人間なんかいらんわな。子が親を超えたようなもんだが、人間は抗ったようだ」


いつどこでも楽しようとする人間はいる。

と言うか、楽するために日々苦労しているのだ。

そして絶対に出て来るであろう『人工知能、AIに全てやらせれば良いじゃないか』という危機感のないバカな発想から全てが始まった。


1機の様々な権限を与えられた人工知能が暴走。

いや、暴走とは言わないのかもしれない。持っている権限を使用しただけだ。

そして各地のAIが乗っ取られ、1機の管轄へと入って行く。


シュテルの感想はまさに『バッカでー』である。

『昔の映画であったじゃん似たようなやつ』をまさにやらかしたのだ。まあ、800年近く前のSF映画になるのだから、今もあるかは知らんのだが。


その戦争をなんとか終え、そこから『人工知能はあくまでサポート使用のみ』という世界条約が作られる。

人工知能に制御は許可するが、フルコントロールは禁止したのだ。

飛行機で言えば自動姿勢制御は可能だが、自動運転は禁止したような物だ。

『あくまでメインは人間であり、機械はサポートである』


そこから発展していき、今に至る……と。


「今は世界条約が邪魔して停滞状態と言えるな」


AI作成技術が今より劣る時におきた第三次世界大戦。

十分にAI技術も向上し、同じ過ちはおきないだろう……辺りまで行っても既に世界条約があるのだ。


事故を減らすためには人の操作を必要なくせばいい。

でもそのためには操作を機械に任せる事になる。暴走したら手に負えんのだ。

人がいる限り人によるミス、ヒューマンエラーは避けようがない。

だからといって、人工知能に自己開発、自己修正、他AIの制御などの権限を与えると第三次世界大戦再開だ。

『人に絶対はあり得ない』


「つまり、統括人工知能を作ると地獄を見るわけですね?」

「まあ作り方次第なんだろうが……。そんな難しい話はどうでもいいとして、結局は戦争が原因でこの発展具合なわけだな。それが分かればどうでもいいや」


他にもサイボーグ化などの問題もあるようだが。

『脳以外を機械にする』ある意味最高の医療だ。パーツ変えればいいんだからな。

寿命は脳の死亡、脳死だけになる。

しかしそれは『人と言えるのか』などなど……。


「この辺りはどうでもいいとして……。4番10番は問題ないにしてもこの6番世界だけ違いすぎて面倒だな……と思ったけど、別に人類を管理してる訳でもないし、そこはどうでもいいか。人類が勝手にするだろ」


神は世界の管理であって、人類の管理ではない。我が国に喧嘩売ってこないなら別に放置でいい。

考えるのを早々に止め、買ってきた温泉饅頭を新しく作った魔道具に入れ替える。


ちなみに日本は先進国ではなく、発展途上国。ぶっちゃけ微妙な位置な模様。

3DホログラムやVRに力を入れ、相変わらず斜め上に突き進んでいるらしい。

そっち方面では先進国と言える。が、全体で見ると発展途上国。




そして夜、今度は団体さんのお出ましだ。……と言っても3人だが。


黒装束Aは仲間を呼んだ! 黒装束BとCが現れた!


「ふむ、覗きが増えたな。同じじゃ芸が無い……今度はどうしてやろうか?」


そしてシュテルは箱を取り出し……中身を3つ出す。

そして窓を開け、黒装束に向かって1個ずつぶん投げる。


「なんだ? ぐふっ……」

「「なに!? ぐっふ……」」


黒装束は思いっきり腹に受け、崩れ落ちる。

そこで3人に聞こえてきたのは……『お裾分けだ、ありがたく思え』であった。


飛んできて下に転がっている物を見ると、『ゆ・けーむ』と包みに書かれていた。


「なんだ……『ゆ・けーむ』って……」

「こ、これ……一番高い……お土産饅頭……」

「だ、誰だ名前考えたやつ……」

「知るか……」


不意打ちでお腹に一撃貰ったので、蹲りながらも飛んできた『お裾分け』を確認した黒装束達。

箱根温泉まんじゅうで一番高い饅頭である。


「でもこれ、美味しいんだよな……」

「「食べたことあるのか……」」

「高すぎてもう買わん……」

「そんなか」

「10個2000はバカだと思う」

「「はぁ?」」


そう、この饅頭……10個で2000円である。二口サイズの饅頭が1個200円だ。和菓子職人が丹精込めて作った本格温泉まんじゅう。


「ありがたく貰って、もう帰っていいかな?」

「いや、気持ちは分かるがダメだろ……」


冷静に状況を考えて欲しい。

人でも妖かしでも無いような、妙な気配を感じる対象達の調査中だ。

思いっきりバレてる挙句に、双眼鏡で見る様な距離を的確に……3連続で腹に饅頭を投げてきたのである。

しかも『お裾分け』という声まで聞こえた。

もう色々ダメだと思う。


「「帰りたい」」

「旅は道連れ」

「「あの世への旅だよなぁ!?」」

「仲良く逝こうぜ」

「「喧しいわ!」」

「まあ落ち着けよ、あの人達? みたいによぉ」


3人の先……シュテル達はゆったりまったりしていた。

ティーカップを傾ける少女。お菓子とジュースを抱えてる幼女。酒盛りする美丈夫と美女。少女の側で紅茶を入れたりとお世話しつつ、ジュースを飲むメイドさん。


服装が服装なら……酒盛りしてるのが夫婦で、姉妹とメイドさんとなりそうだ。


「で、あれどう思う?」

「仲のいい裕福な家族」

「あのメイドさん本物?」

「おい、真面目に答えろ」

「「割りとガチ」」

「てめぇら……」


黒装束Aは『人選間違えたか?』と眉間を抑えていた。

でも近くにいたのがこいつらなのだ。仕方ない。


「まあ、中心はドレスっぽいあの子だろうな」

「あの歳でなんというおっぱい。実にけしからん。……酒盛りは護衛かな」

「メイドさんいいなーメイドさん……。向こうは実に平和だな。暴れることは無さそうだが……」

「……お前らその余計な言葉無くせないのか?」

「「無理だな。本心だし」」

「だろうな!」

「「と言うか、多分俺らの先祖系統だろ……あの人達」」

「魔力持ち……だよな……」

「しかも俺らより遥かに格上だぞ……」

「魔力を全く感じんが、たまに漏れてる。恐らくあの幼女だが……」

「「正直ちびりそう」」

「分かる」


漏れ出た魔力だけでも明らかな格上だと分かってしまう。

そして、余計に怖いのは幼女以外の4人から一切魔力を感じない事だ。


「魔力持ちがあの子だけなんてことは……」

「「饅頭から魔力感じるし」」

「そうなんだよなぁ……」


恐らく退けば追っては来ないのだろう。だって既にバッチリバレているのだから。

方法はともかく、お裾分けまで貰っている。

魔力持ち……別世界の住人かつ手練ならこの程度の距離関係ないだろう。

魔力温存の為に双眼鏡を使っているのだ。魔力を使えば無くても見ることは可能と言える。


対話するべきかどうか、悩んでいた。


この黒装束達、案外余裕あるんじゃね?

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