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27 影の支配者

遂にお は な し。

内容上、会話が多い。

フェルリンデン王国の王城、謁見の間。

そこには王だけでなく、王妃やその子供達もおり、それ以外に上流階級の貴族もいる。具体的には伯爵以上の貴族達だ。

シュテルが『この国の未来を決める話がある』と言ったからこうなったのだろう。


ぞろぞろと謁見の間に入ってくる勇者達。

勿論先頭はシュテル。頭にシロニャンが乗ってるだけにいまいち締まらない。やる気なさげにぐでっとしてるから余計に。

そして挨拶やら何もかもをふっ飛ばし本題に入る。


「抗議の内容は『スタンピードへの対応』に関し―――」

「無礼だぞ貴様! まずは頭を垂れ……カヒュッ!?」


貴族という生き物は形式やらを気にする。

だがどちらかと言えば、今のシュテルは機嫌が悪い。

早々に喉を潰され強制的に黙る事に。


「面倒だから最初に妾の立場を言っておこう。立場は2つ……いや、今は3つあるか。召喚されたから1つは勇者だ。もう1つはアトランティス帝国という大国の女帝をしている。最後の1つは今のところ内緒だ。つまり、王と王が話している時に割り込むなと言うことだ」

「ほう……大国の……」

「でも今は……そんなことはどうでもいい、重要な事ではない。スタンピードの対応について、どういうつもりなのか聞こうと思ってな」

「どういうつもり、とは? そもそもスタンピードがあったのか?」


シュテルの周囲の……いや、謁見の間の空気が一気に変わり、冷え重くなる。

その際、シュテルの存在感が増す。威圧である。

巻き込まれ勇者達の心は『やべぇ、来なければ良かったかも』である。


「随分と嘗められたものだな。……まあ報復はいつでもできるから今はいい。それより、スタンピードの対応を決めた無能はどいつだ? ここにいるのだろう?」

「なんだと?」

「妾がいなければ勇者は全滅し、街も滅ぶ愚策。実行させた無能は誰だと聞いているんだ。何度も言わせるな」

「そう言うからには、内容が分かっているのであろうな? 内容の確認とそちらが完璧と考える策を聞いてみたいものだな」

「愚王は質問に答えることすらできぬほど無能なのか。脳の病気か?」

「先程から言わせておけば小娘!」

「治してやる義理もないし、無能が死んでも特に困らん。だが会話にならないのは問題だな……」

「ええい! この無礼な小娘の首をは……ぐぅっ!」

「王!?」


同じく喉を潰され、椅子で痛みに悶える王様。

それを見た貴族達が騒ぎ出すが、その中でも軽く王に視線を向けただけで、すぐに視線をシュテルへと戻す者がいた。

騒がしさを物ともせずシュテルの声が響く。


「付き合うのも面倒だ。さて、自分の無能さを認められず、挙句の果てに支えとなるはずの王妃すら自分より優れると妬みの対象とした無能な王。いつか自分より優れているのがバレるのを恐れた王が、政から遠ざけた女傑……王妃よ、護衛の騎士からスタンピードの結末は聞いたな? 影の支配者よ、答えを聞こう」

「本当に……どこから情報を得ているのですか……。私の事は極一部の者しか知らないというのに」


シュテルの言葉を聞き静かになり、王を見つめる貴族達。

そして、続く王妃の言葉を聞き、貴族達にどよめきが。

その中でも極一部の……『知っている者』は静かであった。いや、むしろシュテルを凝視していた。『何故知っているのか』と。


王妃は気持ちを切り替え、口を開く。


「まずは謝罪を。止めることができなかった事、そして手回しが間に合わなかった事……申し訳ありません異界の勇者達」

「……御する事を諦めた事を後悔しているのか?」

「っ!?」

「妾に隠し事はできぬぞ」


どことなく、憂いを帯びた顔で頷く王妃。


「我々以外は上手くやっていたではないか。まあ、たらればを言っても仕方あるまい。これからを決めろ。歩むしか無いのだ」

「貴女は、何を望みますか」

「聞いたのだろう? 首の挿げ替えだ。政を行う者に、無能は不要。しわ寄せは全て民に行くのだぞ。我が国は実力主義。席に相応しい能力を持った者が座る」

「私が女王となります。それでよろしいですか?」

「『なっ……』」

「構わん」

「それは好きにして下さい。既に情などありません。と言うか政略結婚ですし」

「妾とて、そんなものいらんのだが。ゴミを押し付けるのはやめたまえ」

「では幽閉で」

「別にいいのではないか? 心底どうでもいい」


王妃はニッコリしていた。実に強かな王妃。

なんというか、シュテルと気が合いそうである。


「ま、待て! 何を勝手に決めている!?」

「王の決定に口を出すと?」

「さ、さっきからその王が喋れていないではないか!」

「……? それはただの肉塊だ。肉塊は王にはなれない」

「な、ななな……」


すっかり王座を貰った王妃と、シュテルの肉塊扱いに愕然とする王を含めた周囲である。


「あなた達は、魔王を倒す勇者達に喧嘩を売っている事に気づいていますか?」

「いつ喧嘩を売ったというのだ! 我々は何もしていないぞ!」

「『利用する』これがそうだと言っているのです」

「そんな物、される方が悪いのではないか!」

「そうですか。では私も利用させて貰います。国を残すために犠牲になって下さい。国の為に死ねるのですから問題無いでしょう。元より自分達が蒔いた種です」

「な、なん……」

「勇者達に暴れられては困るのですよ。誰が止められるというのです。既にあなた達にお怒りなのですから。貴重な戦力、我が国を放置されては困ります。しかも召喚しておいてその状態、恥さらしも良いところ。あなた達を切り捨てる事でその心配が無くなるなら安いものです」

「全くもってその通りだ。『利用』と言うのはバレずにする物だ。バレたら怒るに決っている。そもそも最初から妾にはバレバレだ」

「お、王妃様だって利用する気満々ではないか!」

「それは利用ではなく、利害関係の一致だから問題はない。国にいる間客人扱い。その間に敵が来れば当然敵を倒しに動くだろう。快適生活の邪魔だからな。国にとってはまさにその敵が問題なのだからそういう取引だ。どこに問題がある?」

「うぐっ……」

「そもそも……こちらの都合で誘拐した子供達を死地に行かせ、戦わせる。そんなまさに外道な事をしているのですよ。にも関わらず更に利用なんて、二児の母として心苦しくて仕方ありません……。まあ、王族なのでそれは置いておくのですが」

「『えー』」


最後で台無しである。

勇者達からのブーイングである。でもしょうがないよね、王族だもの。個人の感情は置いといて、第一に国。それが王族だ。


「それにな、そもそも貴様らは遥か昔の伝承を勘違いしているのだ」


元々勇敢にも魔王に立ち向かった『英雄』を『勇者』と呼んだだけ。

召喚された人類は『勇者』ではなく、異世界転移による影響で多少特殊な『だけ』なただの人類だ。

最初から『勇者』ではない。魔王に立ち向かい、勝ったから『勇者』と呼ばれる。

そもそも召喚された特殊なだけの数人が、間引きをサボった森からぞろぞろ出て来る大量の魔物を防ぎ切るなど不可能に決まっている。


「この世界の住人たるお前達が、自分達の居場所を護るために鍛え強くならなきゃ話にならん。サボったツケを、なぜ他の世界の我々が払わねばならない。勇者だけで人類の活動範囲全てを守れるわけ無いだろうが。魔王討伐に向かっている間どうするつもりだ、うつけが」

「やっぱりそうですよね。ただ、誰も聞かないのです……」

「王族は人を動かす者だからな。動く者がいなければ普通何もできまい。370年の平和ボケで危機感が無いのだろう? こればかりはな」

「耳から血が出そうなレベルでグサグサ来ます……」

「まあ、王が変わったなら『スタンピードへの対応』は一先ず良しとするか」


『ちゃんと処罰しますので』という王妃に青ざめる数人の貴族達であった。

だが君達……シュテルはまだ用があるのだ、残念ながら。


「では次の議題です」

「『えっ?』」


『終わりじゃないの?』って顔しても、終わりじゃないんです。

召喚陣、破棄しようね?


むしろ次が本題。

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