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24 実地訓練 5

シュテルは喚き散らさず静かに怒る。

シュテル達がギルドへと入った少し後、学園の引率の教師……戦闘の担当もギルドへとやってくる。

大体冒険者からそっちに移ったり、騎士からそちらに移ったり……が基本である。

教師がギルドへと入るとシュテル達が受付にいる。あのパーティーは目立つのだ。


「その反応、本来我々はここにいるべきではないと?」

「はい。一月以上前から北の森でスタンピードの予兆が見られます。そして魔王の予兆も絡んでいるため規模が測れません。よって王都のギルドに連絡をし、応援の冒険者達がいるのです」

「だ、そうだぞ先生」

「俺は一切聞いてないぞ……。聞いていたら連れてくる訳がない邪魔にしかならんのだぞ……。実地訓練には長男ではないにしても、貴族の子供がいるんだぞ? んなこと黙ってたって良いことなんか…………まさか?」


シュテルと受付の会話を聞き、怪訝な顔をしている教師だが、思考の結果はある方向へ向かい……教師は勇者達を見る。

だが、それも自分ですぐに否定する。


「いやいや、あり得ない。確かに訓練で強くはなっているが、実戦経験は0だ。そんなんじゃ役に立たんぞ……だからこその実地訓練なのだから……なのにスタンピードに行かせるとかバ……とても得策とはいえない……ではなぜ……」


勇者達なら間違いなく国の上層部が絡んでいるから、言い直す教師である。

ただし、折角取り繕った教師の頑張りに意味はなく、気にすらしない少女が隣にいるのだ。むしろちょっと雰囲気がヤバい。


「ふはは、思い上がったな人間。スタンピードを利用して我々が使えるか試すだと? 何様のつもりだ……自分達の世界の問題を他世界から誘拐した人間に押し付けるクズどもが。大国の女帝を誘拐しておいて更にこの扱い。さぞかし命がいらないとみえる」

「全くですね。彼らは『見逃されている』ということを知るべきです」

「ここで勇者が死んでも使えない者が死ぬだけ……実にいい度胸だ。面倒だからするつもりも無かったが、愚王以外の王族が使えないようなら皆殺しにして乗っ取る必要もありそうだな」

「『なっ……』」

「ちょちょ、それは不味くない!? 出合え出合えされるよ!」

「……言わんとする事は分かるが、アホっぽいぞ清家……」

「こっちのことは良いの!」

「ちなみにお前のその行動も妾の立場を考えると出合え出合えされるぞ。女帝だと言っただろう。女の皇帝だ皇帝。……まあ、妾の場合自分で殺るが」


尻尾がピーンとした後、耳と一緒にフニャッとした。


「むしろ向こうから来るなら薙ぎ払えばいいだけなので楽でいいのだが。……まあ、スタンピードを片付けてからだな。力を見たけりゃ見せてやろう、壮大にな。……大規模殲滅ではなく、大規模破壊でも見せてやろうか。いやぁ、自分の世界じゃないから良心が全く痛まん良い機会だな。ハハハハ」


丁度いいと言えば丁度いいのだ。ついでに召喚陣も破棄させる。しなければ吹き飛ばせばいい。あれには自分も含め、神々がお怒りだ。


「学園生をどうするかは任せるが……そんな時間はなさそうだな。遅くても明日には来そうか。いやぁ楽しみだ。何使おうかねぇ……」

「『遅くても明日!?』」

「というか、既に少数来てますよね?」

「ああ、来てるな。こっちにも連絡が来るぞ」


扉の方を指差して2秒後、音と共に扉が乱暴に開かれ駆け込んでくる。


「スタンピードが来る! もう少数がこっちに来てて戦闘中だ!」

「『なに~!?』」

「この繁殖……というのもあれか? 増殖速度なら恐らく明け方が本番だろうか」


魔王の影響により魔物が攻撃的になるだけなら、正直とっくに魔物という種が滅んでいるだろう。

そうならないのは繁殖と成長速度が劇的に上がるのだ。よって、魔王により魔物が絶滅しなくて済んでいる。が、その分大量の魔物が現れる事になるのだが。

大量の肉と素材が手に入るから損ばかりではないと言える。しかし適度に間引いていかないと大群が餌を求め大移動を開始する。それがスタンピードとなる。

つまり今回のスタンピードは間引かなかったツケである。


人の入らない森の深いところで魔王の影響を受ける。つまり繁殖と成長を複数の種が繰り返す。森の深いところで増えに増えた魔物達は餌の問題で広がり出し、森は魔物で溢れかえる。

そうなると人里に出てくるのは時間の問題。そして魔王の影響を受けた魔物は、人類を感知したら襲いかかる。森に収まりきれなかった奴らが次々に村や街を襲い始める地獄絵図となる。

魔王がいない間に出来る限り奥へ入り魔物を減らしておかないと、魔王の復活予兆が出た瞬間……そこかしこの森でスタンピードがおきる事になるのだ。


魔王が討伐されてても魔物は『魔法を使う動物』に過ぎない。魔王の影響なくても繁殖はするのだ。よって、魔王がいなくてもスタンピードがおきる時はおきる。


ここだけでなく、他の森からも今後溢れ始めるだろう。

約370年かけて繁殖した魔物に、今魔王の影響で増殖。そして平和ボケしたこの世界の住民は戦う力が低い。今から気づき大慌てして、果たして間に合うのか。



「勇者達も参加した方がいいかもしれんな」

「「「えっ!」」」

「それは無茶ではないか? 流石にスタンピードで介護は無理だぞ」

「勇者達の面倒は妾が見る。お前達はともかく、騎士達は信用ならんしな。それに明らかに殺す気で来る大量の魔物。命を奪うことに対する悩みなどしている暇がないのはある意味好都合だ。全て終わってから悩めばいい」

「一理あるが……折れては元も子もないぞ?」

「こればかりはやってみないと分からんな。だが、折れたら折れたで面倒見るさ。本来戦う事など無かった子達だ。勇者以外はそちらに任せる。妾は興味ない」

「どの道言った通り朝方来るなら動けんな。正直邪魔にしかならんだろうし……宿で大人しくさせとくか……」

「何なら前哨戦の今のうちに戦わせておくのもありだが……まあ本番でいいか。覚悟決めておけよー」

「「「まじかぁ……」」」


となると、勇者達を集めなければならない。


『勇者達、重要な話があるのですぐ宿に集合』

「ではこれで失礼する」


くるっと踵を返しギルドから出ていく勇者一行を見送る教師と冒険者達。

そして、教師へと問いかける受付嬢である。


「えっと、あの子は……?」

「召喚された勇者だ。他の勇者達とは世界が違うらしいが……あのドレスの子と後ろの侍女は恐ろしく強い。俺らより強くて教えることがないぐらいだ……」

「それは防衛に参加して貰えるなら心強いですね……。少々発言があれでしたが」

「いやぁ、俺としてはむしろ女帝ということに納得したよ。容姿、動作、マナー含め全てが学園内トップだろう。普段から何やら書類仕事してるのも納得だ。女帝なら忙しいだろうよ。むしろ、異世界召喚されてなお繋がりを維持できているのが心底恐ろしい。とは言え基本かなり大人しいからこちらから絡まない限り問題はないだろう。何はともあれ、実力については保証しよう。むしろこちらも底が見えん」


半信半疑だが、毎年学園生を連れてくる元冒険者の教師だから一先ず納得しておく。実力は確かだし、教師をやるだけあって人柄に問題はない。

今まで積み重ねられた信用の賜物であろう。



「さて勇者諸君。スタンピードは知っているか?」

「魔物が沢山攻めてくるやつ」

「うむ。まあ正解でいいだろう。森から溢れた魔物が餌を求め大群で来る。それを迎撃するからそのつもりで」

「『ええっ!?』」

「言っておくが選択肢はないぞ。既に前哨戦開始中だ。つまりもう防衛戦が始まっている。本来王都のギルドからの連絡で我々はいないはずだったのだが、国の上層部に嵌められたようだ」

「まさか使い捨てのコマか!?」

「何だよそれ! やってることめちゃくちゃじゃねぇか!」

「バカ相手に何言っても仕方あるまい。とは言え、このまま逃げ帰るのも癪なので迎撃に参加する。その後王城に殴り込みだ。罠というのは真正面から全て引っかかり、にも関わらず無傷で仕掛け人の前に出ていくのが一番楽しいからな」

「『なるほど……』」

「いやでも、かなりの数来るんだよね? 超怖いんですけど……」

「『うんうん……』」

「だからこそ今行くんだ。ゲームとかと勘違いしないよう、怪我はするが死なないように見ててはやるから、今のうちに行って来い。実際行って無理なら無理で下がればいい。別に怒りはしない」

「あなた達はこれから明確な殺意を向けられるでしょう。それが怖くない訳がないのです。生物としてそれは正常と言えます。ですが、だからと言って受け入れ死を選びますか? 向こうはこちらに構わず来るのです。払いのける力や覚悟を持ち抗うか、いずれ来る死の恐怖に怯えて過ごすか。あなた達の人生、選ぶのはあなた達です。我々は背中を押すことしかしません」

「ここが間違いなく、お前達の分岐点となるだろう。自分達が生きるために、生物を殺す。命を奪うことを知るだろう。それを知りなお歩むか、無理と悟り別の道を選ぶか……。例え別の道を歩もうと『逃げた』などとは思わん。人には得意不得意があるのだ。無理な道を進む必要はない。道に迷おうが歩みを止めない限り、我々は手を貸すと約束しよう。……21時ぐらいに魔法で強制的に寝かせる。それまで武器と防具の手入れをしておくように」


そう言ってシュテルとヒルデ、シロニャンは部屋から出ていった。

残されて考え込む勇者達だが……。


「要するに……武器と防具の手入れをしておけばいいのか」

「嫌に落ち着いてるな楓」

「いやぁだって、結局は戦うことになるんだから、武器と防具の手入れするしかやること無いじゃん? ユニエールさんがいるうちに初戦闘できるならむしろその方が良い気がするしねぇ」

「まあ、そうなんだがなぁ……」

「防具はこの服のままでいいらしいから、武器の確認するかなー」

「ふむぅ……。確かに考えたところで無駄か。答えなんか出るわけないもんな。となると俺も確認するかなぁ……」

「ユニエールさんいるし、ダメならダメでその時考えようかなぁ……。私は何しよう? 防具はローブだし、武器は杖だから……《魔力操作》でもしようかな?」


割り切れる者はさっさと割り切り、今できることをやり始める。

割り切れない者も勿論いるが、考えたところで答えなんか出るわけもなく。

夕食後寝付けない者もシュテルに眠らされる。


そして、勇者達の初めての実戦……都市防衛戦が始まる。


やっぱスタンピードはお決まりよねー

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