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21 実地訓練 2

今更だけど、ブリュンヒルデの私はわたくしである。

王都を出て、馬車に揺られることしばらく。


「……乗り心地の悪い馬車だ。落ち着いて紅茶も飲めやしない」


道はいまいち整備されてなく、商人達に踏み固められた様な状態。

更に馬車もそれほど良いものではなく、サスペンションなどもない。

結果、超揺れる。

他の勇者達がいればお尻が痛いというだろうが、残念ながらこの馬車にはシュテルだけである。

御者席に宮武がいるが、集中しているのでお尻の痛みに気づいてなさそうだ。


シュテルの移動は基本転移であり、女帝としての公の移動は騎士達と空路である。

遥か前に作ったお手製馬車は使わないからとプレゼントし、未だファーサイスの王族用として使われている。


「ああ、浮けば良いのか」


馬車と位置関係を固定して、重力を減らして浮く。揺れる物に触れてないから揺れることはない。そうしてゆっくりと紅茶を飲み始めた。

普通なら重力操作はしてる間だけゴリゴリ魔力が無くなるのだが……時空神の能力に入っているので何の問題もない。

飲み終わった後は無重力空間にして宇宙が如く漂って遊んでいた。


シュテルが遊んでいる中、馬車の外では騎士2人と長嶺と清家が歩いていた。

流石に王都を出たばかりでは特に何もない。平和な旅路である。



そして昼になったら道から横にずれ休憩だ。

練習なのでそれぞれのパーティーで全て行う。騎士達は指示をすれば手伝うが、自分からはしない事になっている。


「えっと、馬を休ませて……火の準備か」


宮武がヒルデの指示に従い馬を休ませる中、清家が《土魔法》を使用してカマドを作っていた。長嶺は近くの森の方へ歩いていき、感知系で探りながら浅いところで枯れた枝を集める。

シュテルはと言うと……空中を書類と一緒に漂いながらお仕事という、器用な事をしている。


現地人から見ると驚愕な《重力魔法》の無駄遣いである。

現地人……と言うか、人類にとって《重力魔法》は非常に燃費が悪く、使い道もほぼ無いハズレ魔法である。

重力の向きや強さを変えるだけで速攻魔力切れをおこすのだ。使えた物ではない。

同じレア度では《空間魔法》が大当たりである。

生物が世界の理たる物理法則に逆らう魔法が燃費良い訳がないのだ。

そういう意味では《空間魔法》も消費自体は多いが、《重力魔法》のように継続系ではないので使い勝手が良い。

《時魔法》など使うことすら不可能である。


これにより保有魔力量のヤバさが騎士達に伝わる。きっと上に報告するだろう。

実際は能力だから魔力は消費してないのだが、ヤバいことには変わりないのだから問題はない。とんでもない情報ばかり入ってきてさぞかし震える事だろう。


せっせと皆がご飯を作っている最中、ガタガタガタ! と揺れがおきる。


「おぉっと……揺れるなぁ」

「……4ぐらい?」

「地震大国が霞むほど揺れてるな」

「でもそれにしては、慌ててるよね」

「それな。普段から揺れてればあそこまで慌てないよな」


揺れる度現地人は慌てすぎなのだ。

そのくせかなりの頻度で揺れるのである。勇者達からしたらもう嫌な予感しかしないわけで。しかしあの慌てよう、聞いたところで無駄だろう。

で、そうなると聞くとしたら1人だけ。


「ねぇ、ユニエールさん。この揺れ何なのか分かる?」

「さて、なんだろうな」

「ユニエールさんにも分からない事が!?」

「地震ではないとだけ言っておこうか。それ以上は勇者達には関係無いことだ」


『むむむ?』となっている清家は放置しようと思う。

実際勇者達は無関係である。この世界の問題だ。まあ、知ったところでどうしようも無いのだが。既に人の手に負える事じゃないのだから。


「夜の用意は妾がしてやろう。サボりと思われるのも癪なのでな」

「別に思ってないけど……」

「手を出さない理由を実際に見せてやる」



昼食を食べ終えたら再び進み始める。

馬車にガタガタ揺られ、空間にも頻繁にガタガタされながらの旅である。

空間振動は本来なら空中にいても揺れるが、シュテルのところは揺れていない。

わざわざ自分まで揺られる必要がない。


そして、流石に慣れてきた宮武はと言うと、お尻の痛みに悶えていた。

哀れに思ったヒルデが空間収納からクッションを取り出し、敷いてあげる。


「お、お尻が……!」

「これでも使ってください」

「……おお、マシになった。馬車を使うならクッション必須かな……。ヒルデさんは?」

「私は痛覚がありませんので」

「あ、そうなんだ……」

「ユニ様もありませんよ」

「でも痛覚がないって危ないんじゃ?」

「いえ、我々レベルになると別に問題はないのです。痛覚は体からの危険信号ですが、実は怪我をしていた……とか、毒がその傷口から入った……とか我々には関係無いので」

「えっと……怪我しない……とか?」

「そうですね。毒も我々には効きません。効く肉体がないので。言ってしまえば人間社会に紛れる為に人の姿をしているだけですからね」

「ほえー……」


そもそもシュテルを含め眷属達は《物理無効》持ちであり、肉体もないから毒が効かない。当然血も流れていない。怪我のしようがないので痛覚がない。

触れたとか触れられたという感触は勿論ある。ただ、抓られようと痛いとは思わない。ついでに環境効果……暑いとか寒いも無効である。呼吸もしていない。

完全に生物ではないのだ。あくまで『人』に見せかけているだけ。


見た目というのは重要だろう。人間理解できない物などは恐れる。人とかけ離れた姿をしていたら問答無用で敵対するだろう。人とはそういう物だ。個が弱いからこそ群れる。弱いからこそ外敵は排除するのだ。

シュテルは現人神として地上にいる。だからこそデフォルトの姿が人の形をしており、なおかつ幼い感じの姿を取っている。これだけで警戒心はかなり薄れるのだ。

逆に力を発揮した時は不気味なのだが。明らかに見た目とかけ離れた力を持っているのだから。

とは言え、最初から警戒され話にならないよりはマシだろう。幼くて話を聞かない奴もいるが……それはそれ。


「ここで野営するぞー」


教師の声により野営位置が決定したので、早速準備に取り掛かる生徒達。

その中で長嶺チームはと言うと……。


「さて、では準備するか」


そう言いながらシュテルが馬車から出てきたと思ったら、空間収納からカマドじゃなく簡易キッチンと調理道具が出て来る。

更にテント……ではなく土魔法で家が建ち。馬には勇者達にとって《神聖魔法》、4番世界の現地人にとって《回復魔法》の上級に位置する"リラクゼーション"が使用される。『馬に』である。

唯でさえ使い手の少ない《神聖魔法》。その中でも上級を迷いなく馬に使用。

シュテルの言い分は……。

「馬車を引っ張った馬を労っても問題はあるまい? 何か問題があるのか?」である。実際シュテル本人は馬車にいたのだから、この馬に運ばれたのだ。


「さて馬よ、何かあるか? ……水浴びがしたい? 贅沢なやつだ」


更に馬と会話しているかのように、上に小さな雨雲を出し水浴びさせ。その後乾かされ"ピュリファイ"もかけられ綺麗になる。

その後ご飯と飲水が用意される至れり尽くせりの馬であった。


馬のお世話中もキッチンの方では料理が進んでいる。

鍋に野菜やら肉やらが放り込まれグツグツされ、パンも何故か生地が出てきて箱に放り込まれた。ここで焼く気満々である。

しかも鍋の方はこっそり時間短縮が行われ、数時間煮込んだレベルの代物になる。


「さて、鍋の味付けは何にするか……? ……おお、そうだ。勇者達にとって懐かしい味を食べさせてやろう」


料理以外することが無くなったシュテルはしばらく考えた後、空間収納から茶色い塊が鍋に投入された。

そしてしばらくして漂うあの香り……。


「「「この匂い……カレー!?」」」


長嶺、清家、宮武の叫びにより他の勇者達がガバッと注目。その後ぞろぞろやってくる。食べたい食べたいとなるので、ルーを分けてあげると喜んで自分達のところへ持っていった。


「なんでカレーあるの?」

「我が国、アトランティス帝国の特産品だ。ダンジョンから香辛料各種と肉が採れるのでな。各種香辛料が採れるならカレーは作るだろう? 苦労したのは妾じゃなくて料理人だが」


学園から大神殿に雇われた料理人達は、各種スパイスの配分で地獄を見たらしい。

そして、文字通り『神の舌』を持つシュテルはかなーり厳しかった。が、地獄を見た料理人達も完成品を小躍りしながら食べていた。

大神殿の食堂から広がったカレーは各店で独自の味付けとなっていき、カレールーとして売られている。当然大神殿のルーが一番高い。大神殿のカレーはダンジョン品の香辛料ではなく、中庭で採れる物を使用しているからだ。


「アトランティス帝国! アトランティスって神話に無かったっけ?」

「ちなみにアトランティス帝国の神都アクロポリスが帝都だ」

「アクロポリスも聞き覚えがある……」

「「「マジで何者!?」」」

「ハハハハハ」


笑って流すシュテルである。

鍋の蓋を開けて匂いでとりあえず忘れさせる。焼けたパンも取り出し早々にご飯である。


「「「何このカレー、超うまいんだけど!」」」

「妾がわざわざ不味いもん作るわけ無かろうが」

「「「米が恋しい」」」

「黙ってパン食え。焼き立てが不味いわけ無かろう」

「「「うめぇ」」」


2人の騎士は黙って黙々と食べていた。

黙々と食べ続け、すっかり満腹。むしろ食べ過ぎとも言える。


「……お城のより美味しかったかも」

「あの城より良いの使ってるだろうしな」

「え、そうなの?」

「カレーに入ってた肉はワイバーンの肉だったしな。カレーに使われてた香辛料も精霊達が育てた物だ。この世界じゃ手に入らないんじゃないか?」


いまいちピンと来ていない勇者達と、『えっ』という顔で止まっている騎士2人の温度差であった。

ちなみにこの騎士2人は第一王子派である。


「で、1人1部屋あるから好きなところ使え」

「でも見張りは?」

「召喚騎士使えば済む話だ」


ダークナイトの最上位、カオスロードとライトナイトの最上位、ホーリーロード。

ロード2種がそれぞれ複数、家を囲うように召喚される。


「魔物なら殺せ、人類なら捕らえ音を出すように」


これで寝ることのない護衛の誕生である。


「うおおお……すげーかっちょいい。と言うか強そう」

「強いぞ。Sランク相当だな」


召喚騎士はそれぞれどのぐらいの魔力を込めたかでランクが変わる。

E+ダークナイト→C+ブラックナイト→A+カオスナイト→Sカオスロード

E+ライトナイト→C+ホワイトナイト→A+ホーリーナイト→Sホーリーロード

と言うように強くなっていき、見た目も豪華になる。

ただしあくまで変わるのは肉体性能であり、戦闘技術などはどのぐらい召喚騎士を使用しているかに依存する。使えば使うだけ技術的に成長するのだ、こいつらは。

シュテルは何だかんだ使いやすいから使用しているし、模擬戦にも使用するため400年近く訓練している騎士達と何ら変わらず、シュテルの魔力によりいくらでも増殖、修復される戦力である。大体自分が面倒な時に召喚して、遊ばせる。

1対1で勝つことができ、召喚する魔力があるなら《召喚魔法》はかなり強い。


攻撃型の黒は、ロングソードとカイトシールドを持ち、ブラック以上でロングソードの双剣になり、背中に両手剣を装備している。

防御型の白は、ロングソードとカイトシールドを持ち、ホワイト以上でロングソードとタワーシールドを持つ。

ランクで豪華さ……装飾が追加されていくが、デザイン自体はオプションで術者が変えられる。

シュテルの召喚騎士は禍々しい暗黒騎士と、神々しい守護騎士的な見た目をしている。オプションにしては魔力使いすぎだが、本人からしたら誤差である。

黒は夜の闇の中不気味に佇み、白は月明かりを反射し堂々と佇む。

サイズとしてはどちらも2メートルほどだ。


「《召喚魔法》使うなら召喚騎士はお勧めだぞ。そして実用化させたいなら頻繁に召喚し使ってやれ。じゃないと育たんからな」

「前衛として白の召喚はありかもしれないなぁ……」


宮武は一般的な魔法使いスタイル。つまり後衛だ。自分の護りとしてとりあえず白騎士を召喚するのはありだろう。まあ、魔力と相談だが。



その後、そそくさと即席寝室に入り眠りについた。

野営とはいったい。


召喚騎士のイメージはマビノギのパラディンとダークナイトである( ˘ω˘)

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