表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

ここ、どこ?? え? これ、倒すの!?

「おら、ついたぞ。さっさと降りろ」


「きゃっ!! ……痛ったぁ。……なによ、落とさなくたっていいじゃない!!  

って……。なに、ここ??」


 気が付けば、見たことのない場所に居た。


 前後、左右、どこを見ても、「0」と「1」の文字が、弾幕のように流れてて、どう考えても現代日本じゃない。


 床は透明な板が敷き詰められてて、その下には、電子機器のような部品たちが並んでた。

パソコンの中に入っちゃったような、そんな場所。


 電脳世界、って感じかな?? ……そんなとこ、行ったことないけどね。


 ってか、この「1」と「0」ってなんなの??


「おい、あぶねぇから触んじゃねぇぞ」


「へっ!?」


 ふらふら~、って、壁の方に行こうとしたんだけど、乱暴な言葉で止められっちゃった。


 危ない、ってなによ!? 私、そんな危険な場所に連れてこられたの!?


「……おじさん、ここ、どこ??」


「っち、……狩り場だ、狩り場。

食料調達するって言ったろ?」


「…………」


 あ~、そういえば、そんなこと言ってた気がするけど、えっと、なに?? 食料調達って、買い物行くんじゃないの?? 


 狩りってあれ? 弓とか剣を持って、野原を走り回るやつ?? モンスターをハントしちゃうやつ?? この辺、希少種とか古龍とか出ちゃうの!?


 なんて思ってたら、部屋の片隅に、「0」と「1」の文字列が集まり始めた。


「おら、しっかり立っとけ。食材様のお出ましだぜ?」


「…………」


 彼の言葉に従って、その場で立ち上がった私は、固唾をのんでその文字列を見つめる。


 天井や壁に渦巻いていた「0」と「1」の文字列が、どんどんと流れ込んでいき、次第に大きさを増していった。


 そして気が付けば、隣に居る彼と同じくらいの大きさにまで膨れ上がっていた。


「嫌な、気配がする……」


「ほぉ。さすがにわかるか」


 胃の中から湧き上がってくるような緊張感と、息苦しい気配を感じた。


 なんかこう、嫌な人が近くに居るような。

友達がイジメられてるのを隣で見てることしかできないような。


 そんな気配。


「おら、くるぜ!!」


 文字列の流れが止まり、見上げるほどの大きさに膨らんだ「1」と「0」が真っ黒な光を放った。


 神々しさとはかけ離れた、悪魔でも召喚しそうな真っ黒な光。


 その光がゆっくりと消えたかと思えば、球体のコーヒーゼリーに大きな口を付けたような、ひどく不快感を覚える物体が、そこに浮いていた。


『書籍化したいぃぃぃぃ、しっとぉぉぉぉぉぉ』


 スピーカーを通したような籠もった声が、その大きな口から放たれる。

 周囲の空気がピリピリと張り詰め、逃げ出したくなるような光景だった。


『オフ会行きたいよぉぉぉぉぉ。都会うらやましいよぉぉぉぉぉ』


 コーヒーゼリーはその場から動こうとしないものの、その大きな口からは、おぞましい声が次々とあふれてきた。


 聞いていると今にも逃げ出したくなるような、そんな声。


 ってか、逃げていいよね??


「お兄さん、ごめんなさい。かえっていいですか??」


「あ゛あ゛?? いいわけねぇだろ!!」


「ケチ!! 無理やりこんなところに連れて、きてなによそれ!!  

 あんたなんて、かわいい女子高生を監禁した罪で――ぅひっ!?」


 コーヒーゼリーがその場から動かないことをいいことに、彼に向けて文句を言い続けてたら、突然、あいつが剣を握った。


 ゲームとか漫画でよく見る、大きな剣。


 どこから取り出したのかもわかんないけど、反射する光の具合とか、肌に感じるオーラとか、なんとなくだけど、本物って感じがする。


 ってか、え?? 怒っちゃった?? もしかして、本気で怒っちゃった!?


「ごめんなしゃぃぃぃぃ!!! かっこいいお兄さんのことをおじさんとか言っちゃって、ごめんなしゃい。

違うの、かっこよかったから、お兄さんが、かっこよかったから……」


「あ゛ん?? なに馬鹿なこと言ってんだよ。

ほら、さっさと受け取れ。でもって、さっさと倒してこい貧乳巫女」


「誰が貧乳よ!! って、へ??」


 剣で刺されるのかと思って必死に謝ってたら、剣の持つ部分を向けられた。


「……これ、私が使うの?  

私が、あの黒いやつを倒すの??」


「だからそう言ってんじゃねぇか」


 イライラした表情と一緒に、剣を押し付けられた。


 ……どうしてこうなったんだろう。

 今日はずーっと家でゲームしてる予定だったのに……。


「……それで、あれ、なに??」


「欲望の塊だ。人々の欲望を吸収して固まった思念体だよ。

まぁ、なんだ。モンスターって思っとけばいいさ。うまいらしいぞ?」


 いやいやいや!! 美味しいとか、美味しくないとか、そんな話じゃないと思わない!?

モンスターでもなんでも、どう考えても無理だから!!


「私、剣道部じゃないよ。剣の免許なんてもってないよ!?」


 銃刀法違反!! つかまっちゃう!!


「いいから持っとけっての!!」


 なんて抗議してたけど、無理やり持たされちゃった……。ってか、これ、めちゃくちゃ重たいんですけど!!


 ……けど、なんだろう? なんとなく、しっくりくる??

 わたし、これの使い方、しってる??


 湧き上がってくる感情に任せて、持ち手を両手で握ったら、体が自然と空に浮かぶコーヒーゼリーの方に向いた。


『重版出来、重版出来、重版出来、うけけけけ』


 さっきまで不快に感じていたコーヒーゼリーの籠もった声も、なんだか素直に受け止められる気がした。


『筋肉、ワイシャツ、スーツの袖口のチラリズム。腐、腐ふ、腐ふふふ』


 自分じゃない誰かが私の中に居て、優しい気持ちで包んでくれてる、そんな感じ。


「希望が嫉妬と混じり合って、自分を見失ってるんだね……。

 大丈夫。自分を強く持って。願い続ければ叶うよ」


 自然と湧き上がってくる感情に動かされるままに、剣を握って走り出した。


 飛ぶように走って、コーヒーゼリーの前に行く。急に重みを感じなくなった剣を振り上げて、踏み込むと同時に振り下ろした。


「やぁーーーー!!」


 鋭い剣先が、コーヒーゼリーの体に吸い込まれていく。

 そして、大きな抵抗も感じないままに、プルプルの体を真ん中で切り裂いてしまった。


 手応えは十分。


 素早く剣を抜き取って、飛び跳ねるように後ろに下がる。


『アニメ化したい、人生だった……』


 口が消えて、体の色が薄くなり、大きさも小さくなっていく。


 そして、全体が透明感のある綺麗な銀色に変わったかと思えば、私の方に向かってゆっくりと飛んできた。


「落とすなよ? しっかり受け取っとけ」


「う、うん」


 手のひらを上に向けて、落ちてくる銀色の玉を受け止める。

 あいつの顔くらいにまで小さくなった謎の玉は、なんだか優しい香りがした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ