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え? もしかして、結構やばいの??


「……おい、貧乳高校生」


「誰が貧乳よ!! 誰が!!」


 思わず振り返っちゃった私の目に飛び込んできたのは、ぬいぐるみ達の悲しそうな視線と、お弁当箱に詰まった真っ黒い料理たち。


「……ぃぇ、……ひんにゅうです、ごめんなさい」

 

 目を覆いたくなる現実が、幻想の世界の中心に鎮座しちゃってた。


「で? こいつは、なんだ??」


表情を無くした彼が、箸で真っ黒い塊を拾い上げる。

 

 あー、それから聞いちゃうかぁ、そっかー。


「……サバの塩焼き、……だったもの、です」


 絞り出した私の声が公園内に響く。

 周囲の温度が少しだけ下がった気がした。


「…………こいつは??」


 次に持ち上げたのは、赤い卵。


「見てわかるでしょ、ゆでたまごよ!!」


「……なんで、赤いんだ??」


「えっと、それは……。

 お弁当は、彩が大事って聞いたから、唐辛子で色付けを……」


 ふぅ、と溜息を吐いた彼が、またまた黒い塊を拾い上げる。

 それは、メインのスペアリブ、……になる予定だったもの。


「肉も焦がしたと」


「……はい」

 

 一応味見をしてみたんだけど、苦みしか感じなかったやつです。


「この際だから、おにぎりの形は大目に見てやろう。

 ……で? なんでこんなに甘い香りがしてんだ??」


「肉と魚が苦くて、卵が辛かったから、甘い方がいいかなー、って思って。

砂糖とバニラエッセンスを……」


 ふぅ~、と今日一番のダメ息を吐き出した彼が、お弁当の蓋を閉め、その上からお札のような物をペタ、と張り付けた。


 残念な物でも見るような目を私に向けた後で、ライオンの方へと向き直る。


「ヤマツミ、申し訳ない。まさか食えないものが出てくるとは思いもしなかった」


「……そうじゃのぉ。わしも炭を出されるとは思いもせなんだ」


 私が頑張って作ってきたお弁当を覗き込んだライオンのぬいぐるみが、途方に暮れる。

 なんというか、……ごめんなさい。


「どうするんだ? このままじゃ死人が出るぞ」


「そうじゃのぉ……。このままじゃ、ちと、危険かもしれんのぉ……」


 どうやら、私が頑張って作ってきたお弁当は、死人が出るレベルらしい。


 ……って、それはさすがにひどくない!?

 炭は、否定できないけど……。


「ちょっとまってよ!! 死人って、さすがに毒なんて入れてないんだからね!!」


 料理は下手って自覚はあるけど、さすがにポイズンクッキングレベルじゃないよ!!

 ちょっと焦がしちゃっただけなんだから!! かなり焦がしちゃったかもだけど……。


 なんて、思ってたんだけど、事態は予想以上に大変だったみたい。


「あのなぁ、この花見の目的が厄払いだって知ってっか??

 しらけたまんま終わってみろ、明日からこの町全体が不幸になるんだぞ??」


「へ?? 厄払い??

 ……それじゃぁ死ぬってのは??」


「最低でも交通事故は増えるな。強盗犯や殺人犯なんてのも住み着きやすくなる」


「…………まじ??」


「嘘ついてるように見えるか?」


 まっすぐに私を見つめてくる碧眼は、何処までも透き通った色をしていた。


「…………やばいじゃん!! 友達とか死んじゃうじゃん!! どうしよ!!」


「んだよ。聞かされてねぇのかよ……」


 頭を抱えて項垂れた彼が、盛大な溜息を吐き出した。

 けど、正直、そんなことはどうでもいい。


 このままじゃ、お母さんとか由美ちゃんとか、大好きなみんなが交通事故で死んじゃう!!

 私が料理できなかったばかりに、みんなが……。


 なんて思いで頭が真っ白になっていた私の前に、綺麗な手が伸びてきた。


「しゃぁねぇな。ほら、食料調達と調理に行くぞ」


 見上げた先に見えたのは、優しそうな彼の顔。

 食料調達?? 調理って??


「……なに? どういうこと??」


「作り直すんだよ。食えるもんを。

 俺も一緒に行ってやるから、さっさとしろよな」


「……手伝って、くれるの??」


「仕方なくな。お前に任せてたんじゃ、もっとやばいもん作ってくる気しかしねぇし」


「……ありがと」


 恐る恐る伸ばした手を乱暴に掴まれたかと思えば、ひざ下に手を入れられて、お姫様のように持ち上げられてしまった。


「きゃっ!! ちょ、ちょっとまって、高い、高いから!!」


「うるせぇ!! ちょっとくらい静かにしてろ!!

 そんじゃ、ちょっと行ってくる。酒でも飲んで待っててくれ」


「ほっほっほ。そうさな。気長に待つとするかのぉ」


 ぬいぐるみ相手に出発を告げた彼が、空を見上げて、よくわからない呪文のような言葉をつぶやいた。


 キリキリとか、バッタがどうとか、なんかそんな言葉。


 トドメとばかりに、彼がフー、と息を吹きかけると、私達の頭上にブラックホールのような円が浮かび上がった。


「え? なにそれ??

 ちょ、動いた!! 黒い!! きゃーーーーーー!!」


「うるせぇ!! あばれんな!!」


 ゆっくりと降りてきた暗闇が、私達を包み込んでいった。


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