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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
2章 『王都の冒険者見習いたち』編
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第95話 11歳(冬)…ポーション完成?

 季節が冬に移りかわったある日――


「あれ!? うまい!?」


 部屋に拵えた棚にずらずらと並ぶ改良中ポーションのひとつを舐めてみておれは驚いた。

 美味しいのである。

 どうやらほとんどやけっぱちのような試行錯誤の結果、クソ不味かったポーションを美味しくする方法を引き当てたらしい。

 煮たり凍らせたり、砂糖や蜜をぶち込んだり、ジャムを混ぜたり、思いつくことをかたっぱしから試していって、そのうちのひとつが成功したのである。

 むしろ成功していてびっくりした。

 そのポーションにやったことはリカラの木と葉、それからすっぱいリチコの実をぶちこみまくって放置しただけだ。それなのにあの不味かった地獄の液体が、柔らかい甘みと爽やかな酸味のある不思議な飲み物に変わっていたのである。


「こいつはびっくりだ。……効果はどうなった?」


 いくら美味しくなったとしても、ポーションでなくなってはなんの意味もない。おれは〈炯眼〉でそのポーションを確認してみた。



 〈リカラの下剤〉


  【効果】腸内活動を活発化させ自然なお通じを促す。



 違う、そうじゃない。

 ってかポーションの効果が低下どころか、ポーションですらなくなってんじゃねえか。あ、いや、シアが言うにはポーションってお伽話にでてくる液状の薬らしいから、これもポーションと言えばポーションなんだが……、違うんだよ、そうじゃないんだよ。


「一気に萎えた……」


 一瞬喜んでしまっただけにこの結果には心の骨が折れた。


「おとなしく王都で買った方がいいなこりゃ……」


 意気消沈したおれは部屋をでてクロアとセレスのところへ向かった。

 すさんだ心をなごませたかったのだ。

 しかし――、それがまずかった。


「お掃除に来たんです。そしたらなんかいい香りがしたんです。それで気になって机にあったポーションをちょっと舐めたんです。そしたら美味しくてついつい……」


 クロアとセレスによってやさぐれたおれの心は癒えた。

 ポーションはリカラの下剤という予想もしなかった代物になってしまったが、一応は薬として使えるかもしれないと思いなおし、おれは専用の容器に入れて保存しようと部屋に戻った。

 そしたらシアがリカラの下剤を飲み干していたのである。

 おれはとりあえずシアを正座させて事情聴取を始めた。


「前にポーションの改良はけっこう無茶してるから間違っても味見しようとしたりするなって言っておいたよな?」

「違うんです。あれです。〝一休さんの水飴の話〟みたいなものかと思ったんです。悪気はなかったんです」


 一休さんの水飴の話とは、坊主どもに水飴を食べられまいと和尚が言った「大人が食べると薬だが子供が食べると毒」という話を逆手にとり、一休が水飴を平らげたあと和尚の大事な茶碗だか壺だかをぶっ壊してその償いに毒になる水飴を食べて死のうと思ったとのたまうというお話であるが――


「状況がぜんぜん違うじゃねえか!」

「へう。……すいません。せっかく完成したものだったのに」

「ん? 完成なんてしてないぞ?」

「あれ? すごく美味しくなってましたけど……?」

「味はよくなったが、回復ポーションじゃなくなってたんだよ」

「ちょちょ、ちょっと待ってください! 何になっていたんです!?」

「下剤だけど?」

「え?」

「下剤」

「それ冗談――」

「下剤」

「…………」


 シアの顔色が変わった。


「な、な、なんてもの放置してくれてるんですか! ぐびびびーって飲んじゃったじゃないですか!」

「だから味見すんなって話してあっただろうが!」

「そんなこと言――」


 逆ギレしていたシアの顔色がさらに変わる。

 真顔になった。


「あ、あの、ご主人さま、お、お叱りはあとでいくらでも受けますから、ちょ、ちょっと、部屋から退出してもよろしいでしょうか?」


 徐々にその表情を歪ませながらシアは訴えてきた。

 まああんだけの下剤を飲み干せばそうなるわな。


「まあいい、どちらかといえば怒ってるんじゃなくてあきれてるだけだしな。とっとと行け。……行けるなら」

「で、では失礼しまし――、てッ!?」


 正座をとこうとしたシアが突然びくっと身震いして硬直する。

 その様子を見て思い出すのは元の世界で受けたジジイの保健体育。

 ちょっとやんちゃした男性へのお仕置きということで、たらふく下剤を飲ませてから繁華街でしばらく正座させて放置した。

 その実験でおれが学んだことは、人は臨界間近の便意と足の痺れを同時に我慢できないということだった。


「ご、ごごごごしゅじんさま、やばいやばい、おねがい、つれてってください、といれ、おねがいおねがい!」

「そのメイド服って汚れても自然と綺麗になるんだよな」

「おねがい! ほんとうにおねがいします! ちょっと冗談とかそういう場合じゃないです! いま本当にやばかったんです!」

「お腹をぐっと押していい?」

「いやちょっと本当にしゃれにならない状態なんですって! もしやったら大惨事ですよ!? そのあと泣きながらご主人さまを大惨事にしますからね!? あ、まずっ、――っ、と、ほら! 変な実験して寝たきりになってたときちゃんとお世話したじゃないですかッ!」


 そういえば〈魔女の滅多打ち〉のときの借りがあるか……。


「お願いします、どうかお願いします、トイレ、トイレに……」


 シアの顔色がどんどん悪くなっていく。

 まあ本当に大惨事にさせてもそのあとが面倒だし、ここは運んでやるべきだろう。


「あ、足には触れないで!」

「どう運べと……」


 考えた結果、お姫さま抱っこでトイレに運ぶことにした。

 才能並盛りとは言えずっと訓練を受けてきたのだ、シアくらいなら抱えて運ぶことはできる。

 ただ、これは失敗が許されないミッションだ。

 うっかり落っことそうものなら惨劇の幕が上がってしまう。

 念には念をと言うことで、おれは弱めの〈魔女の滅多打ち〉を使用することにした。

 まさか〈魔女の滅多打ち〉の最初の活躍がこれとは……。


「うぅ……、初めてのお姫さま抱っこがトイレに運ばれるためだなんて……」

「おれだって初めてのお姫さま抱っこがトイレに運ぶためだなんてうんざりだよ!」


 おれは慎重にシアを運んで行き便器に座らせてやる。

 ホントおれなにやってるんだろう……。


「ありがとうございました! ありがとうございました! あと最後にお願いです! 離れてください! しばらくこの家から離れていてください! 森へ! 森へ!」

「言われなくても離れるわボケが!」


 力一杯、叩きつけるようにドアを閉め、おれはとっととその場を離れた。

 まったく、このメイドは本当にしょうもない……。


 ※ご指摘頂いた主人公の貧弱性を修正しました。


〈修正前〉

 もちろん貧弱なおれ、素の状態ではシアをお姫さま抱っこなんて無理なので、仕方なく弱めの〈魔女の滅多打ち〉を使用する。


〈修正後〉

 才能並盛りとは言えずっと訓練を受けてきたのだ、シアくらいなら抱えて運ぶことはできる。

 ただ、これは失敗が許されないミッションだ。

 うっかり落っことそうものなら惨劇の幕が上がってしまう。

 念には念をと言うことで、おれは弱めの〈魔女の滅多打ち〉を使用することにした。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/01/31


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