第805話 15歳(秋)…ドリーム★キャッチャーズ(14/17)
火器でもっての一斉攻撃。
最初こそミーネやシャンセル、シャフリーンは自前の遠距離技で攻撃をしていたが、具現化装填による無限弾倉、銃身が焼ける心配もないというドリーム火器は常軌を逸した攻撃力であったため、すぐに攻撃手段を切り替えた。
この戦いの中で、一番輝いたのは意外なことにジェミナ。
念力でもってRPG‐7――対戦車ロケット弾発射装置を自分の周囲にずらっと並べての一斉発射、そして即装填。多連装ロケット弾発射機なんて目じゃないくらいの活躍ぶりでガチムチたちを掃討する。
が、しかしだ。
ガチムチたちは倒しても倒してもすぐに復活する。
「シアー! これ切りがないわよー!」
「埒が明かねぇー!」
「スナークよりたちが悪いってどういうことニャー!」
火器の喧しい発射音、または爆発音に掻き消されぬよう大声で叫んでくる面々に、シアはどうしたものかと考える。
焦って総攻撃を指示してしまったものの、ここまでしぶといとなればもう殲滅は諦め目標地点へ先回りすべきではないか。
が、その時――
チュドーン!
ドゴーン!
シアたちが攻撃を行っていない場所が爆発し、ガチムチたちが薙ぎ払われる。
「んん!?」
何事かと見やれば、そこには夢を侵食する邪悪なガチムチたちとはまた違う、様々な火器を手にしたガチムチたちが登場していた。
仲間割れ?
いや、違う。
彼らは戦闘のエキスパート。
どんな騒動、例え国家の存亡がかかった大事件であっても、筋肉と火器があればなんとかなると信じられた時代で活躍した戦士たち。
軍人だったり、元軍人だったり、コックだったり秘密組織のエージェントだったりとその経歴は様々だが、格好や装備が違うだけでけっこう同じ人物がいてしまうのはご愛敬である。
「シア、一緒に戦ってくれるみたいよ!」
「それは心強い話なんですけど、どうなんでしょう!?」
またおかしな事になってきた、とシアは不安を覚える。
だがそんなシアの心配をよそに、戦士たちは果敢にガチムチの群れに飛び込んで大立ち回りを始めた。
これが映画ならもうここがクライマックス。悪の滅びは待ったなし――、となるところだが、相手は不死身のガチムチ軍団、やはり倒した端から復活を果たし、次第に戦士たちの状況も悪くなっていく。
けれども、戦士たちは諦めることなく戦い続ける。
そう、戦士たちは諦めない。どんな窮地に陥ろうとも最後には敵を粉砕する。それがアクション映画の主役というものだからだ。
するとその執念が天に通じでもしたのか――
「シア、なんか来たニャ! 変なの降ってきたニャ!」
「変な――、いやまあ変ですけども!」
「リビラさん、失礼ですよ! 世界を救うヒーローの皆さんなんですから!」
リビラの言いように憤慨したのはリオだ。
夢の世界の危機に、バラエティー豊かな格好をした新たな戦士たちが次々と空から降ってきてはヒーロー着地を決める。
彼・彼女らは火器に匹敵――、いや、超越した超能力だったり技だったり身体能力でガチムチたちを狩り始める。
さらにはそこに敵役であるヴィランも参戦し、善悪の垣根を越えての共闘は始まった。
急激に苛烈さを増す戦闘。
ちょっとシアたちが状況についていけず攻撃の手を止め見守り始めたところ、また新たなる戦士が現れる。
コンバットスーツ着用済みの宇宙刑事三人組。
手にした剣を光らせ、ガチムチたちを斬っては爆発、斬っては爆発と現行犯逮捕ならぬ現行犯死刑に大忙しだ。そこに混じるのは暗黒面に堕ちたお父さん。赤く光る剣を手に、シューコーシューコーしながらの大立ち回り。空気感染に強そうな格好である。
「ぬあぁ――ッ! いくらなんでも突っ込みきれないぃ――――ッ!」
戦ってくれるのは有り難い。
だがあまりに節操のない参戦具合にシアはキレた。
けれども、いくらシアがキレたところで戦士たちの参戦が終わることはなく、今度はバイクで改造人間バイカーたちが乗りつけてきた。
由緒正しきバッタ型から、もう何だかよくわからなくなっている者まで実に様々。お葬式の帰りのような奴もいる。
色とりどりの戦隊だってやってきた。各部隊で使っている色が被りまくりである。特に赤、必ずいる。多すぎだ。
そして突如として現れたインド人はなにやら軽快に踊り始め、戦う戦士たちを鼓舞し始めた。
「カット! カァ――ット! いったんストォ――――プッ!」
「シ、シアさん、落ち着いて……! 助かってはいるんですから……!」
サリスが言う通り、助かってはいる。
自分たちだけで攻撃していた時に比べ、戦力は圧倒的なものになっているのだから。
だが、それでもガチムチ大パレードは進む。
ダッシュしてきたしゃかりきゾンビ軍団に襲われようと、オバケに取り憑かれようと、謎のバケモノに食われようと、ガチムチの進行が止まることはない。
そうこうするうちにでっかいヘビやクモ、ワニ、地面を突き破って現れた巨大ミミズ、最初に見かけた生物兵器クィーンも子供たちを連れてやって来た。
お強敵だちの宇宙首狩り族も一緒だ。
もうシアたちは攻撃することを忘れ、変化というよりも変異していく戦場を見守るばかりになってしまう。
「あ、あー……、えっと……」
突っ込み機能に甚大な負荷をかけられたシアは思考が鈍り、ほかの面々は次々に叩き込まれる情報を脳が咀嚼しきれずフリーズ気味。
しかしそれを別としても、茫然と眺めるだけになっていた可能性は高かった。
何しろ悪神との決戦で目にした激しい戦闘――もうこのような戦場を目にすることはない、そう思っていた以上の地獄を、夢の中とはいえこうして目撃することになったのだから。
さらに言えば、この戦場はまだ成長している途中なのである。
気づけばインド人はその数を増やし、派手に踊り狂っていた。
その踊りに誘われるように現れたのは、ジュラシックな恐竜たち。
どーんどーんどどんどん、とやって来た。
一緒に巨大ゴリラも来た。
車に化けていた機械生命体が人型にトランスフォームした。
加速度的におかしくなっていく戦場で、とうとう天候までもが狂い出す。
晴れているのに突然の猛吹雪、大寒波が繁華街を凍らせる。
地震が起き、ビルは倒壊、地面は裂けてそこから溶岩が噴出した。
どこからともなく竜巻が現れ、たくさんのサメを運んで来た。
そんな天変地異の中で――
『ヘアッ』
地上に降り立ったのは巨大ゴリラよりもでかい光のウルトラな巨人たちだ。一兆度の火の玉をぶっ放す宇宙恐竜やジャンケンでチョキしか出せない宇宙忍者といったお強敵だちも一緒である。
このあまりに巨大な存在の登場に、張り合ったのかなんなのか、負けじと自前のロボを呼びだして乗り込んだのは戦隊の面々。
開始された合体に次ぐ合体。
ちょっと密集しすぎているせいで周囲のビルとか派手に倒壊させていたが、もうこの際そんなことたいした問題ではないのだろう。
そのうちにギャオーンと現れたのは、熱線ブレスを吐く二足歩行のどっしりとした巨大な核トカゲ、大回転して空を飛ぶカメ、金ピカ三首ドラゴン、育ちすぎの花、そしてとてつもなく巨大な蛾。
特に蛾はあまりに大きく、よたよたと遅れて現れた二人三脚ロボたちが霞むほどである。光の巨人やほかのロボよりずっと大きいにも関わらずだ。
「あ――、あー……、うん、皆さん、そろそろ行きましょうか」
意識に再起動がかかり、色々と諦めてすっきりしたシアは晴れ晴れとした表情で皆に言う。
もう無理だ。
こんなもの、とてもではないが参戦できるレベルではない。
戦いは完全に自分たちの手を離れたのだ、早く立ち去ろう。
「な、なあシアよ、主殿の頭の中はいつもこんな感じなのか? これならばスナークの群れごときで臆すわけもないな」
「いやいやいや、さすがにいつもこんなじゃないですよ、きっと。たぶんこの状況は、体内に入り込んだ細菌を抗体が排除しようとしているようなもの……、なんじゃないですかね?」
ここで庇っておかないと彼が皆からキチガイだと思われかねなかったためシアはひとまずそれっぽい説明をしてみたが、それは案外と自分でも納得のいくものだった。
こうしてシアたちは逃げるようにこの場を離れようとした。
が――
「ん?」
地獄となった戦場で、未だ踊り続けていたインド人たちの踊りが最高潮を迎えようとしたそのとき――、現れた、第四形態までいった巨大トカゲが満を持して。
「やばい! やばい! やばい! やばい!」
それを見た瞬間、ミーネがやばいとしか言わなくなる。
だが確かにアレはやばい。
何しろ奴は内閣総辞職ビームを吐く。
「た、た、退避ぃぃ――――――ッ!!」
絶叫するようにシアは叫び、大急ぎでこの場から離脱。
もう駄目だ、繁華街は滅ぶ。
いくら夢の中であろうと、巻き込まれてはたまったものではない。
シアたちはガチムチ大パレードが目指す方向へと、無我夢中で飛ぶ。振り向かずとも、後方がやけに明るくなっているのがわかった。きっと繁華街は火の海となり、この世(?)の地獄となっていることであろう。
と、その時、不意に辺りが陰る。
何かと思えば、空を覆うほどの超巨大UFOが出現していたのだ。
『――――ッ!?』
もう誰も何も言わなかった。
何か言うよりも、とにかく離れることを優先した。
シアたちが必死に逃げる間に、UFOの中心部がゆっくりと、花の蕾が開くように開口する。
集束する莫大なエネルギー。
そして打ち下ろされる破壊光線。
波紋のように広がっていく大爆発。
『ぎぃやぁぁ――――――――ッ!!』
爆発が追ってくる。
シアたちは悲鳴を上げながら、生まれてこの方これ以上ないくらいの必死さで逃げた。
△◆▽
かろうじて大爆発の威力が遮断される場所まで距離を置くことができたシアたちは、一度空中に留まって繁華街があった方角を眺めた。
噴火でも起きたような土煙に覆われ、どうなっているかまったくわからない。
「こ、これならさすがにどうにかなったんじゃない?」
「それならいいんですが……、どうでしょうねぇ……」
ひとまず繁華街の破壊活動は停止したようだ。
それはつまりもう破壊活動をする必要がなくなった――ガチムチたちは滅んだ、そう捉えることもできるが、シアはどうしても楽観視することができなかった。
やがて、すうっと土煙が晴れる。
繁華街から遠く離れたシアたちが目にしたもの――
『な……ッ!?』
それはのっそりと身を起こす、とてつもなく巨大なガチムチたちであった。
最初は王都をぐるっと囲んで筋トレしていたガチムチかとも考えたが……、そうではなかった。
ガチムチ大パレードを滅ぼそうと現れた様々な抗体たちの面影を残すガチムチ。それは抗体たちがガチムチに侵食され、乗っ取られてしまったことを意味した。
空に浮かぶUFOなど、超巨大マッスルスマイルが張りついている始末なのだ。
「終わりだわ……」
神にも立ち向かったミーネが諦めた。
それほどの絶望感。
「いやミーネさんなに諦めてんですか! べつにアレを倒せって話じゃないんですから!」
「そ……、そうね! 倒す必要はないのよね!」
基本、脅威は倒すという思考のせいで心が折れかけたのだろう。
しかしアレらは倒さなくてもいいのだ。
というか倒せるものではないと、今はっきりとわかった。
自分たちのやることは、奴らよりも先に彼を見つけることなのだ。
「それでは皆さん、これからご主人さまが住んでいた家を探すことになります。ではどんな家なのかって話なのですが、もうのんびりお絵描きしている時間もないので口で説明しますね。けっこう大きい家なので見分けはつけやすいと思います。池のある広い庭もあるので――」
「あんな感じの?」
「そうそう、あんな感じの……、ってあれだぁぁ――――ッ!」
すぐ先にあった立派な日本家屋、それが彼の転生前の家であった。
「あー、爆発がこの辺りで遮断されたのは自宅を破壊されないようにってことですか……。よし、ではみなさん、さっそく調査です!」
急いで家へ突撃し、全員でもって家宅捜索さながらの調査を始める。
だがうすうす予感していた通り彼はおらず、家はもぬけの殻であった。
と、そこで庭を調査していたジェミナが大慌てで皆に告げる。
「大変! 大変! 上! 空! 大変!」
いったい何事かと見に行くと、巨大隕石がこっち目掛けて降ってくるところだった。
「これ採掘ハゲが仕事しくじったパターン!?」
あれも抗体の一種なのだろうか?
だが『もう駄目っぽいから何もかも吹き飛ばそう』というやけくそな印象を受ける。この家に居れば大丈夫かもしれないが……、もしかすると大丈夫ではないかもしれない。
さらに悪いことに、超巨大ガチムチがすぐそこまで迫っていた。
勢力を増したガチムチ大パレードが到着するのが早いか、隕石がこの領域を吹っ飛ばすのが早いか、どちらにしてもシアたちがやらなければならないのは、ここで『何か』を見つけることだ。
「みみ、皆さん! 急ぎましょう! って言うか急いで!」
「急いでるけどなんにも見つからないのよぉー!」
呼びかけるシアも、答えたミーネもいっぱいいっぱい。
もちろんほかの皆もいっぱいいっぱい。
「な、何か、何かあるはずなんです! でもご主人さまの部屋には主にメイドに関するブツ以外は特に何もなかったですし……!」
さすがに名誉的な問題があると思い、シアは一人で一番重要そうな彼の部屋を調べてみたが結果はハズレ。部屋にあった液晶テレビに拳を叩き込んでも、画面がぶち破られるだけで『門』になっているわけではなかった。
と、そこでシアは面子が一人欠けていることに気づく。
「あれ!? リオさんは!?」
何かあったのか、と危機的状況ではあったが、今度は皆でリオを捜すことに。
するとリオは大型液晶テレビのあるシアタールームで映画のDVDに塗れてピチピチ跳ねていた。
「懲りないですねぇこの人は! いや、ですが――」
一縷の望みをかけてシアは部屋にあった大型液晶テレビに拳を叩き込む。
結果、とぷんっ、と拳が画面に呑み込まれた。
「あったぁぁ――――――ッ! やったぁぁ――――――ッ!」
歓喜、圧倒的歓喜。
本当ならリオには説教をくれてやるところだったが、その行動があって早急に『門』を見つけられたという功績によって不問とした。
「では皆さん、行きますよ!」
リオに蹴りを入れて正気に戻したのち、シアは液晶テレビに飛び込んだ。
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2021/01/28




