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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
番外 『レイヴァース家の異聞抄』編
809/820

第797話 15歳(秋)…ドリーム★キャッチャーズ(6/17)

 王都上空を飛行するシアたちが屋敷の近くまで来たところ、都市に明らかな異変が見られるようになった。いや、もうとっくに異変だらけではあるのだが、それとはまた別の、言わば現実的な異変だ。

 それは爆撃、もしくは砲撃を受けたような街並みの荒廃具合。立派だったはずの街並みは無残に破壊されており、瓦礫が散乱、建物は廃墟と化していた。

 幸い、向かう屋敷はそんな瓦礫の街並みにあってまだちゃんと現実通りの姿を保っていたが――


「シア、屋敷がマッスル兵に襲われているわ!」

「いやいや、どういう状況なんです……!?」


 ミーネが告げた通り、屋敷はマッスル兵の軍勢に包囲され、どう見ても攻められている真っ最中であった。

 押し寄せるガチムチ。

 当然のごとくサブリガ姿であるため、それは肌色の波が押し寄せているようである。

 そしてこれを防衛しているのは馴染みの顔ぶれ――屋敷で一緒に生活している者たちであった。


「はあぁ!」

「ぐおぉぉ――ッ! 筋肉に栄光あれぇ――――ッ!」


 ガチムチの大海原へ果敢に飛び込み、次々と葬っているのはどう見てもクロアだ。剣と雷撃魔術、それからお供のメタマルを使い、驚くべき奮闘振りでマッスル兵を圧倒している。


「なんだかクロアが凄いわ! あんな強かったかしら!?」

「きっとあれですよ、ご主人さまからすると、クロアちゃんはあんな感じなんでしょう。クロアちゃんならこれくらいできて当然、みたいな」


 上空から観察すると、クロアの近くでリィも戦っており、別の場所ではロークが、また別の場所ではシオンがゲラゲラ笑いながら戦っているのがわかる。

 さらに別の場所ではアエリスがパイシェを振り回して戦っていた。

 正確には、パイシェの首に前に誰かがつけていた鎖付きの首輪が取りつけられており、その鎖を握ったアエリスがパイシェをぶるんぶるんしているのだ。


「あー、ご主人様の中ではアーちゃんとパイシェさんってあんな感じなんですね……」


 リオが神妙な顔になったのは、パイシェを哀れに思ったからか、それともパイシェの前は自分がああだったのだろうかと考えたからか。


「わおわおわおーん!」

「あぁぁ――ッ!? そこは鍛えられないところぉ――――ッ!」


 クロアたちが奮闘しているのは確かだが、それでも全方位から押し寄せるマッスル兵を相手取るのは不可能だ。しかしこの屋敷の危機に立ち上がった、バスカーを始めとした精霊獣たちが屋敷の周囲に展開することでマッスル兵を食い止めていた。

 普段、庭園や領地でのんびりしている姿しか見ない精霊獣も、いざ戦闘となればそんじょそこらの魔物とは隔絶した強さを発揮する頼もしい守護者になり得るのである。

 さらに、そんな精霊獣たちにまぎれ戦う一匹の獣がいる。

 ネビアだ。


「にゃにゃ!」

『ぐあぁぁ――――ッ!?』


 ネビアが一声鳴けば竜巻を呼び――


「にゃにゃん!」

「ぐはっ!」

「ぬあぁぁ!」

「ぎゃぁ!」


 駆け抜ければ風の刃がマッスル兵たちを切り刻む。


「にゃおーん!」

『あああぁ――――ッ!』


 圧倒的な戦闘力。マッスル兵たちをバタバタと倒すその強さたるや一騎当千、鳴き声凛々しき鬼神のごとし猫、まさにゴッドニャンと呼ぶに相応しい活躍ぶりであった。

 現実とはえらい違いである。


「あー……、ご主人さまって何気にネビアさんの負けが込んでるの気にしてましたからねー……」


 せめて夢の中では強くしてあげようという願望か、それともいずれこうなるという期待の現れか、それは彼自身とてわからぬ話であろう。

 こうして敵の中に飛び込んで戦っている者たちの一方で、屋敷の入口で遠距離攻撃を加えているのがシャロ、リセリー、そしてセレスであった。

 チュドーンッ、ズガガーンッ、とシャロとリセリーは迫り来るマッスル兵たちに攻撃魔法をぶち込みまくり、たまにロークが巻き込まれてぶっ飛ぶのもお構いなしで楽しそうにきゃっきゃしている。

 そしてセレスはドレス、頭にティアラとピヨという状態で、「どーん! どーん!」と得意の魔術なのか魔法なのかもうよくわからない攻撃を連発してマッスル兵たちを吹き飛ばしていた。

 セレスが「どーん!」をするたびに、頭のピヨや、周囲に集まっているぬいぐるみ達がはしゃいで盛り上げている。


「なあ、もしかして屋敷の周りがひどいことになってんのって……」

「駄目ニャ、それ以上はいけないニャ」


 何かに気づきかけたシャンセルをリビラが窘める。

 ここで戦う者たちが彼の心理の投影であると考えてしまうと、その行動や、やらかしたであろう結果について深く考えるのはあまりよろしいことではない。それに、まだ彼が皆をそういう風に捉えていると決まったわけではないのだ。何しろデヴァスは竜化して、屋根の上で口からビームを放って後方のマッスル兵たちを薙ぎ払うように建物ごと吹き飛ばしている。こんなのは普段のデヴァスからすれば考えられない行動で、つまりこれはこういった危機的状況で皆がどのように対処するかというイメージを投影したものとも言えるのだ。


「まあそれでも、変わらず普段通りの者もおるようだな」


 そうヴィルジオが指摘したのは、お菓子を食べながら戦う皆を応援する妖精たちであり、派手な爆発のたびにキャッキャと喜ぶアリベルくんを抱っこしてにこにこしているレスカであった。

 もしかすると、何故か磔刑に処されてしまっているクマ兄貴も含むかもしれない。


「それでシアさん、どうします?」

「と、ともかく降りてみましょうか……、さすがにわたしたちには攻撃してこないと思いますから」


 サリスの言葉をきっかけとして、この惨状に唖然としていたシアは降りて屋敷の皆と接触を試みることにした。


「あ! シアねーさま! ねーさまー!」


 ちょっとおっかなびっくりで屋敷の上空から降下していくと、まずシアたちに気づいたのはセレスで、笑顔を浮かべながら手を振ってきた。

 攻撃されるのでは、という心配は杞憂であり、ほかの者たちもシアたちを迎え入れてくれる。


「あらあら、みんなおかえり」

「え、えっと、ただいまです」


 現在進行形でマッスル兵との戦闘を続けているにもかかわらず、リセリーは実に朗らか。またみんなで飛んできたこともまったく意に介していないようであり、このあたりはさすがに夢の住人らしかった。


「あの、お母さま、ちょっとお尋ねしたいんですけど、これ、いったいどういうことですか?」

「え? 見ての通りよ? なんだか攻めてこられたからみんなで迎撃しているの。貴方たちも一緒に戦う?」

「いやっ、あの、わたしたちは……、その、ご、ご主人さまを捜してるので……」

「……あら? そう言えばあの子がいないわね。この忙しいときにどこへ行ってしまったのかしら?」


 不思議そうな顔をしつつも魔法をぶっ放してチュドーンするリセリーの様子は、お掃除のついでにお喋りをするような何気ないものである。

 そんなリセリーの側で、やっぱりチュドーンしているシャロは少ししょぼくれた様子で言う。


「なんじゃ、婿殿はおらんのか。それは寂しいのう。最近、ワシだけのけ者になる場合が多いような気がするので余計に寂しいのう」

『……』


 つまらなそうに水面に小石を投げ込むような感じで、シャロはけっこうな威力の攻撃魔法をマッスル兵の群れにぽいぽいぶっ放し始めた。

 何気に今回も一人だけ現実で待機することになってしまったシャロのことを思い、シアたちはちょっと気まずくなる。

 一人だけ彼の夢に潜れなかったというのはやはり痼りになるのだろうか?


「今回の事が無事にすんだら、ちょっとご主人さまにはシャロさん感謝の日とか設けた方がいいって言うべきですかね……」


 おそらく彼は提案を受け入れるはずだ。

 夢の中のシャロが「寂しい」と言う、それは彼もまたシャロのことを気にかけているということなのだろう。

 そう気づくと、それはそれで羨ましく思えてしまうのは贅沢な話だろうか?


「えっと、ひとまず屋敷の防衛はみなさんで大丈夫そうなので、ちょっと相談をしましょうか」


 シアは皆を集め、ひそひそと話し合う。


「これはいったいどういうことなのだろうな。ここで戦いに参加してマッスル兵たちを殲滅すれば何か変わるだろうか?」

「どうでしょうねぇ……。コルフィーさん、コルフィーさん、リアナさんは何と言っていますか? やっぱりご主人様はここには居ません?」

「えっと……、居ないようです」

「屋敷でないとすると旦那様はどこへ……」

「あんちゃん、王都のどっかに隠れてるのかー?」

「ここ、エイリシェいない。ジェミ、捜せない。残念」


 話し合う中、ふと思いついたようにシャフリーンが言う。


「そもそもこの王都に御主人様は居るのでしょうか?」

「いやー、それ言いだしたら切りがないだろ」

「これまでニャーさまが行ったことのある場所を虱潰しに捜索するのはきびしいニャ。せめて見当をつけたいところニャ」

「ねえねえ、手分けして精霊門であっちこっち捜してみる?」

「それも手ですが……、御主人様の夢の中ですから精霊門でちゃんと目的地に出られるか分からない――、いえ、御主人様の性格からすると屋敷に篭もっても駄目だったなら精霊門で移動する……?」

「あー、それはありえますね。見に行ってみましょう」


 マッスル兵は屋敷の皆に任せ、シアたちは屋敷に入るとそのまま精霊門へと向かう。

 途中で「また開校が遅れてしまいます……」と憂鬱な表情で徘徊していたティアナ校長に遭遇したが、ちょっと恐かったので話しかけることはしなかった。

 そして到着した精霊門――


「何だか門の様子がいつもと違うわ……」


 ミーネがちょっとびっくりした様に言う。

 普段はガソリンが浮いた水面のようにうにょうにょしている精霊門がここでは渦巻き状になっていたからだ。


「考えてみれば、マッスル兵が屋敷を攻め落とそうとしているというのが解せません。ここに何かがあると考えるべきでしょう。そしていつもと違う精霊門があったとなると……、これ、当たりですかね?」

「行く? 行っちゃう?」

「行きましょう! 旦那様が私を待っています!」

「せめてそこは私たちって言ってほしいニャー」


 ここに居ても進展はなさそうだと、シアたちは精霊門をくぐって次の場所へと向かうことにした。


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/01/20


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― 新着の感想 ―
[一言] >せめて夢の中では強くしてあげようという願望か、 主人公、ネコに勝てないからね。ネコには絶対勝てないからね・・・ ネコ化しさえすればネコ化シアにもよわよわになるくらいだから。 前世から猫に弱…
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