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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
番外 『レイヴァース家の異聞抄』編
779/820

第767話 15歳(夏)…レイヴァース家のゆるい1日(9/10)

 第二回戦、よく言うなら準決勝。

 第一試合はシャンセルとミーネの戦いだ。


「ふっふっふ、今度はちゃんと戦えそうね!」


 最初の試合はティアウルをつんつんしてたら勝ってしまったのでミーネとしては不完全燃焼だったのか、地味ながらリオと激しい叩き合いを繰り広げたシャンセルと戦えることを喜んでいた。

 しかしシャンセルの方はそうでもないらしく、苦しい戦いを予感しているのかいまいち浮かない表情である。

 そんなシャンセルに声をかけるのはリビラだ。


「負けるニャー! 無様に負けて、情けない遠吠えを聞かせるニャー!」

「うっせぇ! ぜってえ負けてやらねえ!」


 リビラの応援(?)のおかげでシャンセルに気合いが入る。

 仲がいいな。

 では、さっそく始めるとしよう。


「えー、それでは第二回戦、第一試合、始め~!」

「わおーん!」


 バスカーの合図――。


「てやー!」


 まずはミーネが果敢に攻撃をしかけた。

 ぽこぽこーっと叩かれるシャンセルだったが、これに怯まず自分も攻撃にでた。

 両者懸命な叩き合い。

 だがシャンセルとリオがなりふり構わずの叩き合いであったのに対し、ミーネは防げる攻撃は防ぎ、自分の方がより攻撃を加えられるよう戦いを支配し始めた。

 謎の棒で剣士っぽい戦いをするなら、やはりミーネの方に軍配があがる。これは仕方の無いことなのだろう。何しろ好きで剣を振り回しているお嬢さん。おまけに最近はシオンという絶好の練習相手を得てより強くなっているのだ。


「これはもう決まったニャ」


 ぐへへへ、と笑うリビラ。

 だが、そこで戦いに変化があった。

 シャンセルがミーネの振るった謎の棒をがしっと掴んだのである。


「んん!?」


 ミーネがびっくりして振り払おうとするが、シャンセルは握りしめた謎の棒を離さず、自分の棒でミーネをぽこぽこ叩き始めた。


「ちょ、ちょっとこれありなの!?」


 たまらずミーネが尋ねてきた。


「ん~、ありだな!」

「ありなの!?」


 要は危なかったり、ぽろりが起きないなら自由なのだ。

 謎の棒を使わなければならないからと、なにも剣士のように振り回して戦うことは無いのである。


「ああもう、こうなったら!」


 と、そこでミーネは自分もシャンセルの棒を掴んだ。

 二人は二本の棒をそれぞれ握りしめて向かい合う。

 結果、戦いは向かい合って手のひらで押し合う『バランス崩し』のようなものへと移行した。

 二本の棒を介しての押し合い圧し合い、身を引いたり、横にずれたりして相手の体勢を崩すという戦いの始まりだ。


「ご主人さま、なんか新しい戦いが始まってるんですが……」

「棒を使ってるんだからあれもありだな」


 シャンセルとしては苦し紛れだったのかもしれないが、剣士としての力量が問われる戦いから、身体能力・バランス感覚が求められる戦いへとミーネを引きずり込んだのだから結果オーライなのだろう。

 シャンセルとミーネはしばし牽制を続けたが、やがて動きがあった。


「でりゃぁぁ!」


 ミーネが思いっきりシャンセルを引っぱった。

 この勢いで水に放り込んでやればいい――、そう気づいたのだろう。

 だが――。


「それはあたしも考えたんだよな!」


 ぱっと。

 シャンセルは握りしめていた棒から両手を離した。


「ふぁ!?」


 あるはずだった負荷の消失。

 カラのバケツを、水が入っていると思い込んで持ち上げただけで人は容易く体勢を崩す。

 それが人ひとり分であれば……?


「んにゃぁぁぁ――――ッ!?」


 両手に握りしめた謎の棒をばたばたさせながら、ミーネは自らの勢いで水面へ突っ込んでいった。

 そしてじゃぽーん。

 展開の先の先まで気づけたシャンセルの作戦勝ちだった。


    △◆▽


 第二試合はシオンとリビラ。

 これでリビラが勝利すれば、決勝戦では因縁の対決が実現し、この湖はシャンセルの血で赤く染まることになる――のかもしれない。


「まずはここまで勝ち進んだことを褒めてやるニャァ」

「なんでそんな大げさなんだよ、まだ一回戦っただけじゃねえか。つかどうしてそんな偉そうなんだ」


 変なテンションになっているリビラにシオンは困惑。

 しかしリビラはお構いなしで言う。


「ニャーは誰に対しどう戦えば勝てるか、すでにわかっていたのニャ。それはつまり優勝までの道筋が見えてるということで、言ってみればニャーは優勝者なのニャ。その威厳は隠そうとしてもついつい表れてしまうのニャ」

「お、おう」


 まあリビラを抜けば参加者七名だし、戦う回数も最大で三回だからな、対策を考えるにしてもそこまで苦労はしないだろう。


「はーい、では第二試合、始めるよー!」

「わお~ん!」


 バスカーの合図があり、試合が開始。


「真っ向勝負は分が悪いニャ。だから……、さっそくやらせてもらうニャ!」


 そう宣言して、リビラはぴょんぴょん跳ね始める。

 揺れる足場、シオンは慌ててバランスを取り始めた。


「剣士としての戦い方が染みついているなら、剣士として戦えない状況を作ってやればいいニャ!」


 跳ねながら右、左と移動してシオンを翻弄しようとするリビラ。

 つるっと滑ってリィの二の舞になりそうな感じもするが、滑りそうで滑らない、絶妙な塩梅で制御を行っている。

 対し、シオンは体勢を崩すまいと攻撃どころではなくなっており、このままでは何もさせてもらえないまま、リビラの攻撃を受けることになる。

 と、思った時だった。


「一回戦でシアにやったあれは、温存してアタシにやるべきだったな」


 そうシオンは言い、一歩だけ踏み込む。

 そして跳ねたリビラの、着地する瞬間の足をスパーンッと勢いよく払った。


「ぎニャーッ!」


 ビート板に着くはずだった足が流れ、リビラは横倒しに転倒。

 ばいん、と跳ねて水面へぼちゃん。


「こ、こんなはずねえニャ! こんな――、ニャぼぼぼ……」


 こうして慢心したリビラは水没、敗北した。

 その様子を見ていたシャンセルは笑いすぎで呼吸困難になって倒れた。


    △◆▽


 栄えある決勝戦を戦うことになったのはシャンセルとシオン。

 両者共に、激しい(?)戦いを勝ち抜いた猛者(?)である。


「これに勝てばレイヴァース家、水上戦最強はアタシってわけだな!」

「勝てばな。だがそうはさせない」

「へえ、アタシに勝つって?」

「勝たせてもらう。つかここで勝って少し自己主張しとかないと不安なんだよ。最近、なんかみんなハジけちまってさ、あたしの影がどんどん薄くなってんだよ。下手するとダンナに忘れられるんじゃないかってちょっと危機感があるんだ……」

「そ、そうか……、大変だな……」


 シャンセルの悩みを聞き、シオンは反応に困っている。

 あとでシャンセルにはそんなこと気にしなくていいし、わざわざキャラを濃くする必要はないんだと言い聞かせることにしよう。


「え、えーっと、では! 決勝戦を開始します!」

「わおお~ん!」


 いよいよ最後の水上戦。

 勝利の女神はどちらに微笑むのか。

 優勝候補と目されていたシオンか、それともシャンセルが意地を見せるのか。

 まず攻撃を繰り出したのはシオン。

 振り上げた謎の棒を振りおろす。

 これに対し、シャンセルはかまわず前に出た。

 ぱこーん、と脳天に喰らうことになったが、真剣での勝負ではないのだ、勝負を決める一撃にはなり得ない。

 あえて攻撃を受けに行ったシャンセルは、そこで体勢を低く構え、謎の棒を腰の左へ。

 まるで、これから居合いでも行おうとするように。


「ん? おいおい、どういうことだ?」


 どんな目論見でそうなったのかシオンも検討がつかないらしく、ちょっと楽しげに戸惑った。

 柔らかい謎の棒で居合いを決めたところで、それほど効果があるとは思えない。

 しかし構えるシャンセルは真剣そのもの。

 何かあるとシオンは警戒し、シャンセルの攻撃範囲から距離を置く。

 これは結果としてシオンが退いたことになり、シャンセルが有利な状況を作ったとも言えた。

 ここで飛び出して居合いの一撃を叩き込み、その勢いでシオンを水に落とす。果たしてそんなことが可能だろうか。

 所詮は謎の棒である。

 魔技は禁止なので、変な威力を乗せることもできないのだ。

 シャンセルの狙いが読めないシオンは迂闊な手出しを控え、結果として試合は一時ここで膠着する。

 だが少しすると――


「しゃーねーな、乗ってやるよ!」


 痺れを切らしたようにシオンが動く。


「おらぁ!」


 とシオンが繰り出したのは右手での一本突き。

 シャンセルの顔面を狙うという容赦の無さ。

 だが――


「あああぁぁ――――ッ!」


 その瞬間にシャンセルも動いていた。

 わずかに体勢を右に流し、シオンの突きを左頬を擦らせるように躱しての居合い斬り。

 横一閃。

 バチコーンッとこれまでで最大の音が響く。

 だが所詮は痛いですむ程度。

 それを見越してシオンは攻めたのだ。

 が――


「いいってぇぇぇ――――ッ!?」


 痛みが来ると覚悟していたであろうシオンが、叫びながら仰け反って身をよじった。

 何故そこまで――、という疑問。

 それはすぐに氷解する。

 苦悶の表情を浮かべるシオンが左手で押さえているのは右のおっぱい。

 なんと、シャンセルは渾身の一撃でシオンのばいんとした右おっぱいを引っ叩いていたのである。

 歴戦の剣士であろうと、予想外の攻撃と、想定外の痛みを受けたならば平静ではいられない。

 まあ実戦であれば違うのだろうが、完全にお遊びだと気を抜いていたところにこんな悪辣なことをされたら取り乱すのも仕方ない。


「え、えげつねえニャ……、さすがのニャーもそれは考えなかったニャ……」


 思わずリビラもうめくなか、シャンセルはシオンに追撃。

 そのお尻めがけて強打者のごとき無慈悲なフルスイング。


「うぉりゃぁ――――ッ!」


 再びバチコーンッと響き渡る音。

 そしてシオンの悲鳴。


「ちょっとぉぉ――――ッ!?」


 これはたまらん、とシオンは謎の棒を持った右手でお尻を押さえ、ぴょんぴょん跳ねてそのまま水面へ落下した。

 これにより、水上戦の優勝者はシャンセルとなった。


「勝った……、勝ったー! うおおぉー!」


 シャンセルは両手を挙げて勝利の喜びを表現していたが、それを見守る者の多くは引いている。

 だがまあ勝ちは勝ちだ。


「えー、では水上戦の優勝者はシャンセルになりました。優勝おめでとう! 皆さんは温かい拍手をお願いします!」


 パチパチパチー、と拍手が送られるなか、仰向けで水面に浮かんでいるシオンは「酷いことされた! 酷いことされたー!」と叫んでいた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 影の薄さではリオというガチ勢が居ますからね…折角怪魚の逸話が出たのに早速1戦目でフェードアウトしてる彼女には勝てまいて…
[一言] 誰かが右のおっぱいを打つなら、左のおっぱいをも向けなさい・・・ 幸せになります。主人公が。 でも弾力くずもち覇種に感触的に負ける屈辱を味わうかも・・・
[一言] おっぱいベチコーンからのケツバットて…… ずるいやん 男性ならきゃんたまベチコーンで一発アウトやん そう考えると弱点の無いシアはキャラスペックでは最強だったのか
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