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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
番外 『レイヴァース家の異聞抄』編
778/820

第766話 15歳(夏)…レイヴァース家のゆるい1日(8/10)

 ぽろりは未来に託すことにして、俺は安全な水上戦を提案した。

 直径三メートルほどの丸いビート板っぽい謎の板を浮かべ、その上で一対一、柔らかい謎の棒でもってぽこぽこ叩き合うのだ。

 掴みかかったり、魔法や魔技での攻撃は禁止、相手を水に落とした方が勝ちというシンプルな戦い。

 この水上戦に名乗りを上げたのはミーネ、シア、ティアウル、リビラ、シャンセル、リオ、シオン、リィの八名だ。


「シアさんや、ちょっとこの柔らかい棒を振って調子を確かめてみてくれる?」

「はいはい」


 言われるがまま、シアは謎の棒を振る。

 振るたびに、ふにゃん、ふにゃんと揺れる棒。


「うん、大丈夫みたいだな。武器として使うけど、武器にはなり得ないものは平気か」

「はあ……、はあ!? ちょっと!」


 下手するとシアの大変な姿が撮れてしまう可能性もあったが、どうやらそれは杞憂であったようだ。

 その後、厳粛で適当な抽選があり、三回戦目で優勝者が決まるこのトーナメントの組み合わせは以下のようになった。


 第一回戦

 第一試合――シャンセル対リオ

 第二試合――ミーネ対ティアウル

 第三試合――リィ対シオン

 第四試合――シア対リビラ


 優勝候補はシア、ミーネ、シオンあたりだろうか。

 ひとまず試合開始の合図はバスカーの遠吠えにしようかと考えていたところ、唐突にシアが提案してくる。


「せっかくなので、優勝者はご主人さまにちょっとしたお願いができる権利を得られるとかにしてみてはどうでしょう? ほら、何かご褒美があった方が張り合いがでるじゃないですか」


 これから第一試合が開始ってところでの提案だったが、まあその程度ならいいかと受け入れる。


「御主人様、急な提案でしたが、よかったのですか?」


 よっしゃー、とシアを始めとした数名が気合いを入れていたところサリスが尋ねてきた。


「うん、まあそれくらいならね。そもそも、ちょっとしたお願いくらいなら普通に聞くし……」

「なるほど」


 違いとしては、お願いしやすくなるかどうかくらいのものだ。

 ちょっと予定外もあったが、いよいよ第一試合――シャンセルとリオの戦いの始まりだ。


    △◆▽


「ではではー、第一試合~、始め!」

「わお~ん!」


 皆でのんびり見守るなか試合は始まった。

 開始と同時にシャンセルとリオ、両者は共に果敢に攻め始める。

 べつにしこたま叩かれたところで、怪我など負うわけも無い武器を使うのだから一気に攻めて押し切ればいいという判断なのだろう。


「こう言っては失礼ですが、残念な王女同士の戦いですね」

「そうだニャー」


 見守るアエリスは本当に失礼なことを言い、リビラはそれに同意する。

 戦いは始めこそ互角であったが、獣人であるシャンセルの方が身体能力に優れているため、時間が経過するごとにリオは手数で負け、地味に追い詰められていく。


「くっ……、地力の差が……! シャンセルさん、同じ王女のよしみで手心なんか加えていただけるとありがたいのですが!」

「あたしはこっちしか出られないからな! 手は抜かねえ!」

「そんなぁー!」


 結局、シャンセルはそのまま勢いに任せてリオを追い詰め、ビート板の隅まで追い詰められたリオはそれ以上さがれなくなり、バランスを崩して「あーれー」と情けない声を上げながら水面へと倒れ込んだ。


「はいそこまでー。第一試合、勝者シャンセルー」

「よっしゃー!」


 戦いに勝利したシャンセルは喜び、敗者となったリオは水面から顔を半分だけ出して恨めしそうにしていた。


    △◆▽


 第二試合はミーネとティアウルの戦い。

 バスカーによる開始の合図後、ティアウルはすでに及び腰でミーネと対峙している。

 正直、ティアウルは自身が強いわけではないため、ミーネ相手に勝機を見出すのは難しいと思う。

 だが、ティアウルはどの方向を向いていようが、相手の位置、そしてどのような攻撃をしてくるか把握できる。その強みを上手くいかせれば善戦できるのではないだろうか?

 ……。

 できなかった!


「ぬあー!」


 ミーネに「えい、えい」と突かれまくり、ろくに反撃もできないまま追い詰められて水に落とされてしまったのだ。

 やはり斧槍がなければ、ミーネに立ち向かうのは無謀であったようである。


「楽しそうだから参加したけど、よく考えたらあたいこれ勝てるわけないぞ!?」


 いまさら何を言っているんだあの娘さんは。

 ヴィルジオが負けたらお仕置きとか宣言していたら、もっと頑張っていたかもしれない。


    △◆▽


 第三試合はリィとシオンの戦いだ。


「リィさん、がんばってー!」


 クロアの応援に手を挙げて応えるリィを見て、シオンはちょっと不思議そうな顔をする。


「こういう騒ぎには参加しない奴だと思ってたんだがな」

「私もそう思っていたんだが……、なんだか楽しくてな。せっかくだ、気持ちよく今日を終わらせるためにもここは勝たせてもらおう」

「そうはいかねえ。ご主人にはミーネみたいにアタシが魔境を探検する様子を撮影してもらわないといけないからな!」


 ミーネから聞いたのか。シアの思いつきがさっそく変な影響を及ぼしている。リィが勝つことに期待しよう。


「では第三試合、始めー!」

「わおお~ん!」


 試合開始。

 真っ先に攻撃を仕掛けたのはリィだ。


「おっとっと」


 シオンはそれを謎の棒で弾いていく。

 シャンセルとリオは防御を捨てての戦いだったが、シオンは攻撃を受けてしまうことを良しとしないようで、剣での戦いのようにしっかりとリィの攻撃を防ぎ、隙あらば反撃をしていた。

 パーン、パーンと謎の棒がぶつかり合う音が響き、こんな適当な試合でやるにはもったいないような戦いが繰り広げられる。

 つかリィが接近戦をしている様子が珍しい。


「けっこうやるじゃねえか!」

「これでも長生きしているんでな!」


 水遊びがそんなに気に入ったのか、今日のリィはやる気が違う。

 しかし、それが裏目にでたか――。

 つるっと。

 リィが足を滑らせた。

 尻もちをつき、ぼいんと跳ねて水にぼちゃん。


「えぇ……」


 けっこう接戦だっただけに、残されたシオンは唖然。

 観戦していた皆も「あっれー……」と茫然とする。


「ま、まあ三試合目ともなれば足元も濡れて滑りやすくなっているだろうから、そこも気にかけておいた方がいいってことだな、うん」


 ちょっと居たたまれなくなり、ささやかにフォローを入れてみる。

 そして敗北してしまったリィは、すぐに水面に顔を出さず、そこからするすると潜水して遠ざかり、ちょっと離れたところで水から上がるとじっと体操座りを始めた。


「ぼ、僕いってくるね……」


 苦笑いを浮かべるクロアがリィを迎えに行った。


    △◆▽


 第一回戦の最後となる第四試合はシアとリビラの戦いである。


「シアねーさま、がんばってくださーい!」


 一生懸命、姉を応援するのはセレス。


「負けろー! なんかこう、残念な感じで負けて、ダンナにあーあって顔されろー!」


 雑な感じで従姉を罵倒するのはシャンセル。


「おめえ覚えておくニャ! もし勝ち残ってたらニャーがじきじきにボコボコにしてやるニャ! この湖をおめえの血で赤く染めてやるニャ!」


 組み合わせの関係上、リビラがシャンセルと戦うのは決勝戦だ。

 二人は勝ち抜くことができるのか?

 ともかく、リビラはまずシアに勝利しなくては話にならない。


「シアにゃんには悪いけどここで負けてもらうニャ」

「ふふ、いけませんね。シャンセルさんに気を取られ、今から戦うわたしをおろそかにする。これは負けフラグですよ」


 シアはよほど自信があるのか余裕たっぷり。

 俺としてはシアの方が負けフラグが立っているような気がする。


「わお~ん!」


 バスカーの合図に、シアとリビラはすぐさま猛攻を開始。

 第一試合のシャンセルとリオのように、守りを放棄してとにかく攻撃で相手を圧倒しようとする。いや、リィの失敗もあるし、ここまで来ると下手に回避行動はとらず、しっかりとビート板を踏みしめておいた方がいいのか。

 こうなると、怪物級の身体能力を持つシアもいまいちその利点を活かすことができない。

 とは言え――


「これ意外と痛えニャ! でも屈するわけにはいかねえニャァ!」


 シアが力まかせに振るう謎の棒は、いくら柔らかくともそれなりに痛みをともなわせる。

 それでもリビラの闘志が衰えないのは、たぶんシャンセルをぼこぼこにするという目標があるためだろう。

 何気にシャンセルの罵倒は応援になっていたようだ。


「そーい、そーい!」


 べちこーん、ばちこーん、とシアが繰り出す攻撃に容赦は無く、リビラはじりじりと追い詰められていく。

 そしていよいよ縁へと追いやられ、もう敗北を待つばかり――、そう思われた時だった。


「ここニャァァ――――ッ!」


 何を思ったのか、リビラがその場で大きくジャンプ。

 ぴょいーんと飛び上がり、そのせいで足場が大きく揺れた。


「なっ――」


 咄嗟にバランスを取ろうとするシア。

 しかしそこでシアを飛びこえたリビラが着地。

 足場がたわみ、また揺れる。


「あっ、ちょっ!?」

「とどめニャァ――――ッ!」


 べちこーん、とリビラはシアの背中に謎の棒を叩き込む。


「あいったぁぁ――――ッ!」


 シアは思わずのけぞり、バランスを取りきれなくなって転倒。

 そのままごろんと水面へ転がってぼちゃん。


「やったニャ! 勝ったニャ!」


 喜ぶリビラ。

 しかし――


「審議、審議をお願いします!」


 シアが立ち上がり、リビラの行動がルールから逸脱していないかと抗議をしてきた。


「んー、足場は揺れるものだし? わざと揺れさせて相手を牽制するってのもありなんじゃない? それに決め手は棒を使っての攻撃だったんだから、これはリビラの作戦勝ちだろ」

「そんな~」


 やろうと思えばシアにもできる作戦だ。

 なまじ勝てると思っていたから油断していたシアと、普通にやったら負けるとわかっていたリビラ、その差が出たということだろう。

 さて、これで第一回戦は終了した。

 勝ち上がったのはシャンセル、ミーネ、シオン、リビラの四名。

 次の組み合わせはこうである


 第二回戦

 第一試合――シャンセル対ミーネ

 第二試合――シオン対リビラ


 優勝候補と目されていたミーネとシオンはやはり残り、因縁のあるシャンセルとリビラはそれぞれの対戦相手にどう戦うかというところ。

 シアはただのかませだったなー。


※シアのお尻に謎の棒がささるかどうか確認する様子を加筆しました。

 2020/07/20


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ※シアのお尻に謎の棒がささるかどうか確認する様子を加筆しました。 やっぱり…、皆気になってたのか:(っ'ヮ'c):
[一言] ※シアのお尻に謎の棒がささるかどうか確認する様子を加筆しました。 不意打ち気味なラストのこの記述は狡いと思うんですよ僕は。
[一言] シアはきっと、絶対に笑ってはいけないなら 浜ちゃんぶってるけど、その実は山崎という芸人として美味しい役だと思う。 蝶野役は誰だろう・・・?
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