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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
番外 『レイヴァース家の異聞抄』編
777/820

第765話 15歳(夏)…レイヴァース家のゆるい1日(7/10)

 それから遅れて来た面々もスライダー周回にまざり、楽しげな声を上げながら遊び始めた。

 最初は皆を眺めているだけでいいとか言っていたヴィルジオも、やっぱり遊んでみたかったらしく、結局は巻いていたパレオを脱ぎ捨てて突撃、これで俺の側に残っているのは四名となる。

 内二名はアレサとシャフリーンだ。


「二人も楽しんできたら?」

「いえ、猊下のお側に居られるならばそれで!」

「私はアレサさんを残していけませんので」


 皆が楽しんでいるのに、撮影する俺の側にいるだけというのはもったいない。

 ちょっと説得を試みる。


「アレサ、たまには童心に返って遊ぶのもいいと思うんだ。それに遊んでいるうちに俺のことが意識から消えて、少し症状が改善するかもしれない。ちょっと試してみてくれないか」

「はい、わかりました!」

「うん。というわけでシャフリーン、今ばかりは首輪を外して、アレサを好きに遊ばせてあげてくれないか。でもってシャフリーンも遊んでくるといい」

「しかしアレサさんに発作が起きると……」

「その時はその時だ」


 ぶっちゃけ、俺が抱きつかれるだけで何か被害がでるわけではない。

 シャフリーンは少し考えたが、やがて頷く。


「わかりました。ではアレサさん、行きますよ。向こうで首輪を外します」

「はい。それでは猊下、行って参ります。成長した私をご覧に入れられるよう頑張って遊んできます!」


 むん、と気合いを入れるアレサは、大丈夫だろうか、とちょっと不安げなシャフリーンに連れられまずはぐねぐねスライダーへと向かった。

 これでこっちに残るのは二人となる。


「しかし、水中訓練を行う機会をみすみす逃すのは……」

「ですから、それを今やる必要は無いという話をしているのです。せっかく皆で遊ぼうと御主人様が誘ってくださったんですよ。ここで一人黙々と訓練をしていては、楽しい雰囲気に水をさすとは思いませんか?」


 ちょっと離れたところでパイシェは正座させられ、アエリスから説教を受けている。


「何もこの湖は今日限定というわけではないのですから、訓練ならば後日、空いている時間に行えばいいのです。御主人様は皆が楽しく遊んでいる様子を記録したいと思っているのですから、今日のところは皆と一緒に楽しむ。これが大切なのです。パイシェさん、聞いていますか?」

「はい、聞いています……」

「でしたら俯いていないで、ちゃんと私を見てください。それともパイシェさんのところでは、話している相手から顔を背けておくことが正しい態度なのですか?」

「そ、そういうわけではないのですが……」


 うん、アエリスは水着姿だからな、下から見上げる形になるし、色々と気が散るわな。

 つかアエリスはそれを強いているのか。

 だがパイシェも反省しているだろうし、そろそろ気を取り直して二人で遊びに行けばいいと俺は思い、取り成すことにする。


「アエリス、それくらいでいいんじゃないか……?」

「……」


 恐る恐る声をかけたら睨まれた。

 だがそれも一瞬、アエリスは小さくため息をつき表情を緩める。


「わかりました。そうですね、ここで私がお説教をしているのもよくありません。ではパイシェさん、行きますよ。ちゃんと遊ぶんです。……おや、どうしましたか?」

「あ、足が痺れてしまいまして……」


 正座で説教されてたからな、そりゃ足も痺れるだろう。

 まあそれも少し休めば治まる話。

 だが――


「仕方ありませんね」


 アエリスはパイシェの手を取って強引に立ち上がらせると、腕にしがみつくようにして体勢を支える。


「あ、あの、アエリスさん!?」

「はい。行きますよ」

「行きます――、って、足っ、いや足はいいんですけど、あっ、そんなにくっつかれますと……!」


 パイシェは悶えるが、腕にがっちりしがみついたアエリスはまったく放すつもりが無いようでパイシェを連行していく。


「え、もしかして全部仕込み……?」


 だとしたら……、べつに俺が気を回す必要とか無かったな。

 睨まれたのはきっとパイシェの足が痺れきったか確信が持てなかったから『止めるのは早い』ということだったのだろう。

 うん、余計なことはしない方がいいな。

 アエリスはあれだ、勝手にやるお嬢さんだ。


    △◆▽


 最初こそ狂ったようにスライダーを周回していた皆だったが、さすがに何十回も滑れば満足したようで、浮き輪でぷかぷか、純粋に水と戯れる者も現れ始めた。

 だがそれでも、まだスライダー周回に執念を燃やす面々もおり、もしかして三桁に届くまで周回しなければならない呪いでもかかっているのではないかと少し心配になるくらいだった。

 ちなみに、呪われているのはセレブ(ジェミナ)、ミーネ、シオン、リオ、シャンセル、リィの六名である。

 お尻とか大丈夫なんだろうか?

 そして浮き輪でぷかぷか優雅に過ごし始めたのはサリス、リビラ、ティアウル、コルフィー、アレサ、シャフリーン、ヴィルジオ、アエリスとパイシェの九名だ。

 残るクロアとセレスは浅瀬でシアから泳ぎの訓練を受け、レスカとアリベルくんは相変わらず仲良く水遊びをしていた。

 やがて、一人二人と、こちらに休憩しにきたので、俺は魔導袋からテーブルやイスを出し、おやつや飲み物を用意して簡易の休憩所を拵えた。

 ひゃっはーと集まる妖精の群れ。

 するとそれがきっかけとなったようで、まだ遊んでいた者たちもひと休みしに集まってくる。


「私は飛び込みが一番だと思います!」


 ふんす、と意気込んで言ったのはアレサ。

 どのスライダーが一番か賑やかに話し合われるなか、誰も挙げなかった飛び込み台を推すアレサはちょっと異端であった。

 しかし、純粋に遊びについての話題に混じっている様子は、最近の――、いやこれまでのアレサからしても珍しく、それを思うと遊びに行かせてよかったなと感じた。


「飛び込みかー……、あたし泳げねえから試せないんだよなー」

「飛び込んだらそのまま溺れるニャ……」


 そう、ワンニャンが言うように、泳げない者は飛び込み台にチャレンジすることができない。

 これも飛び込み台を推す者が少ない理由の一つであるのだろう。

 ちなみに、泳げる面子はシア、ミーネ、アレサ、ジェミナ(?)、リオ、アエリス、ヴィルジオ、パイシェ、リィ、シオンの十名。

 泳げるようになった理由は様々である。


「わたしは幼い頃、近くにあった湖がもっぱらの遊び場だったんで」

「私はお爺様に習ったの。冒険者になるなら覚えておいて損は無いだろうって」

「妾は……、なんとなく覚えていたな」

「アタシもそんなんだな。長く生きてるとそうだよな」

「おぬしと一緒にするな!」


 シオンの相槌に怒るヴィルジオ、関係ないのについ震えるティアウル。


「私は聖女としての訓練の一環で覚えることになりましたね」

「なるほど……、聖女は水泳技能も求められるのですか。確かにエルトリアでは役に立ちましたね」


 アレサの話にパイシェが納得したように言う。

 ふむ、エルトリアでは地底湖に落下したりしたもんな。


「はい、提案があります!」


 と、そこでリオがビシッと手を挙げる。


「せっかくこうして湖ができたことですし、泳げない皆さんは練習して泳げるようになってはどうでしょうか! 泳ぎなんて必要ない、そう思われるかもしれませんが、考えてもみてください、レイヴァース家の一員となったからには、いつ何時その機会が訪れるかわからないのですから、泳げるに越したことはありません! 大丈夫、私とアーちゃんが一生懸命教えますから! 何しろ私の国は傭兵の国、橋が落とされたら泳いで突撃って国です! 王都の近くに大きな湖があることも関係して、泳ぎの訓練はめちゃくちゃしています! 任せてくれるならこの夏で皆さんを泳ぎの達人にしてみせましょう!」

「ちなみにリオはあの湖をやすやすと往復する変態です」

「アーちゃん!?」


 リオは変態と言われて不服そうだが、あのでかい湖を往復とか変態的であることは確かだと思う。

 だがまあ、泳げるようになって損はない。

 訓練の一環として取り入れてもいいのではないか、などと考えていたところ――


「はい! 競争しましょう!」


 ミーネがビシッと手を挙げて提案する。

 これにシオンとリオが興味を持つ。


「お、いいねえ、泳ぎで勝負か」

「ほほう、ミーネさんはこの『人魚姫』と謳われた私と勝負したいというわけですね? 受けて立ちましょう! アーちゃんも一緒に!」

「私は『エルトリアの怪魚』に挑むほど泳ぎに自信があるわけではないのでやめておきます」

「えっ!? ちょっと待って! 怪魚ってあれ私のことだったの!?」

「あ……、すみません、聞かなかったことにしてください」

「聞かなかったことって……!」


 リオが地味にショックを受けているようだが、ともかく泳ぎ手として話題になっていたことは確かなようだ。


「んー、ってことは競争するのはミーネ、シオン、リオの三人? 他に試しに参加してみるって人はいるかな?」

「あ、ご主人さまー、わたしも参加してみますー」

「ではボクもお願いします」

「試しに私も参加しよう」

「ぼくも!」


 参加者を募ったところ、シア、パイシェ、リィ、セレブ(ジェミナ)が参加を表明する。


「あたしも泳げれば参加するんだけどなー……」


 と、そこでちょっと残念そうにシャンセルが言う。


「そっか……。んー、じゃあ、泳げなくても参加できるものを何か考えてみようか?」


 そうなると浅瀬で出来るもの……。

 騎馬戦とか?

 こう、お嬢さん方が取っ組み合って……、揉み合っていた拍子についぽろりなどのハプニングが起きるわけだ。

 なるほど、ぽろり――、か。

 夢のある話だな。

 でも間違いなく記録カートリッジが没収されるし、こうなることがわかっていて何故提案したとシアに説教される未来が見える。

 何しろすでに胡乱なものを見るような目を向けてきているのだ。

 どんな少年の心にもじゃじゃ丸とぴっころが住んでおり、つねにぽろりを求めている――そう説明しても笑って許してもらうことは無理だろう。

 きっとニコニコしながらプンプンではすまないガチ説教が始まる。

 まあ説教は甘んじて受けるとしても、カートリッジを没収されるのが痛い。

 せっかくここまで撮影したのだ、ここは涙を呑んでぽろりが起こりにくいものを提案すべきだろう。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/07/19

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/05/22


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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結お疲れ様でした 面白く、思わず一気見してしまいました [一言] にこにこぷん懐かしすぎて全俺が泣いた
[一言] >次々と身投げするように飛び込む様子はやはりシュール以外の何物でも無い。 ループするレミングス・・・悪夢に出そう。 いや、動かなくなって浮かび上がってぷかーっと どんどん積もっていく様子が…
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