第764話 15歳(夏)…レイヴァース家のゆるい1日(6/10)
ミーネとシオンは精霊獣たちと一緒になって狂ったようにスライダーを周回し始め、その間にシアは皆を誘いに屋敷へ戻り、ほとんどの面子を引き連れて戻ってきた。
居ないのは留守番を引き受けてくれたデヴァスくらいである。
「シア姉さん、こんな感じですか!? なるほど! ちょっと待ってくださいね……、よし、これでどうでしょう! いいですか!? ではイールさん、これを出してください! さあ!」
衣装となれば騒がしいのが平常運転、拡張された簡易更衣室からはコルフィーの騒ぐ声が聞こえてくる。
要望があるためか、皆のお着替えは少し時間がかかっていたが、その一方で水着に頓着しなかった者はすでに遊び始めていた。
リィはさっさと〝りぃ〟と書かれたスクール水着姿に着替え、海パン姿のクロアを連れてスライダー周回にはいっていた。
「よぉーしクロア、次行くぞ!」
「ま、待ってリィさん、メタマルが沈んで行方不明だから!」
「大丈夫、死にゃしないから!」
リィが珍しく自主的に参加してきたのは、朝の一幕でちょっと拗ねたクロアのご機嫌取りだったらしい。しかし気遣っていたのは最初だけで、今でははしゃぎまくってクロアを引きずり回している。
その他、首から二の腕、太ももまでをカバーするウェットスーツみたいな水着を着たパイシェは泳法の訓練を始めており、量産型ミニチュア水着姿になった妖精たちは水面を飛び回っていた。
「へーいへーい! おらおらー!」
「あ、ひどいのよ! 許さないのよ!」
「皆さん、ここはまず協力してピネを沈めることにいたしましょう」
「ぎゃー!」
妖精たちが水をかけあっている様子は、なんだかトンボの産卵を彷彿とさせる。
「あいつらはあれでいいが……、ふむ、スライダーを増やすか」
回転率は早いものの、それでもすでに階段で順番待ちが起きており、ここにお着替え中の面子が加われば混雑は避けられない。
そこで俺はイールをこっちに呼びもどし、スライダーを二つ追加してもらった。
一つは十メートルくらいの高所から、一直線に滑り降りる絶叫スライダー。
もう一つはすり鉢状になっているところをぐるぐる回って最後に真ん中の穴からじゃぽーんと落下するスライダーだ。
それから水深が深いところに飛び込み台も設置した。
高さ五メートルと十メートルの二つ。
精霊獣たちがさっそく階段を上っていき、次々と身投げするように飛び込む様子はやはりシュール以外の何物でも無い。
さらに――
「ウホホーイ!」
「ホホーイ!」
なんか四本腕のゴリラ二頭が仲むつまじい感じでやってきて、何食わぬ顔で精霊獣たちに混じって身投げを始めた。
「そろそろこれをホームビデオと言い張るのが苦しくなってきたが……、まあいい。あとは――、あ、浮き輪がいるな。みんな泳げるわけじゃないだろうし」
ひとまず輪っか型の浮き輪、マット型の浮き輪を幾つか用意し、レスカがアリベルくんを連れてきているので両腕に通す小さい浮き輪も一応用意しておく。
と、そこで――
「わー!」
「ぴよー!」
更衣室からワンピース型水着に着替えたセレスが飛びだし、湖に向かってすててててっと駆けていく。
「セレスちゃーん! 一人で行っちゃ駄目ですってー!」
遅れてシアが飛び出し、慌ててセレスを追う。
シアが身につけている水着もワンピース型だが、セレスはフリルスカートの可愛らしいものであるのに比べ、シアのはゆったりとしたちょっと大人っぽい感じのものである。
さらに続いてシャンセル、リオ、ティアウルが飛び出した。
それぞれデザインの違うレオタード型だが、ティアウルだけはスクール水着で〝てぃあうる〟と書いてある。
「よっしゃー! まずはどれ行く!?」
「あれにしましょう! あの真っ直ぐのやつ!」
「え、あたいあれ恐い……」
「大丈夫だって!」
「そうですよ! まずは滑ってみてから考えましょう!」
「あああぁーッ!」
シャンセルとリオは嫌がるティアウルが逃げないようそれぞれ両手を掴み、引っぱるようにして駆けていく。
そのあと、残りの面々が更衣室から出てきて、こちらへとやって来た。
「なんて残念な姫なのニャ……、遊ぶよりもまずやることがあるニャ」
「まったくです」
呆れているのはビキニ姿のリビラとアエリス。
アエリスの方は薄いボレロを前結びにしている。
「ここはまずニャーさまに見てもらって、感想を聞くとこニャ」
「その通りです。特にリオはこれといった特徴のない人ですから、ここで自分のことを御主人様に強く印象づけて存在を忘れられないよう努力すべきところです。あ、ところでパイシェさんは……」
アエリスがきょろきょろとパイシェを捜し始めたので、そっと指で差して教える。
現在、パイシェは水深の深いところで万歳するように両手を挙げ、胸あたりから上が水に沈まないよう立ち泳ぎを続けていた。
「あれはいったい何をしているのでしょうか?」
「訓練だと思うよ」
「……」
アエリスの表情は変わらないままだったが、心なしかイラッとしているように感じられた。
リオからアエリスはパイシェに気があるから、何かあればよろしくって言われていたんだが……、なるほど、パイシェはここに引き留めておくべきだったか。
しまったことをした。
「まあ残念な王女はほっとくニャ。で、どうニャ?」
にやにやとして尋ねてくるリビラ。
気の利いたことを言え、というわけか。
しかし――
「そうですよ、兄さん! よく見てください!」
「んニャ?」
そこでひらひらフリルのビキニを身につけたコルフィーが割って入り、くるっとリビラに背を向けさせる。
「ここ、ここです! このお尻のここ! 尻尾が出るところにリボンがあしらわれてるのが素敵なんです! リビラさん、もっとお尻を突き出して! しっかりと撮影してもらってください!」
「ちょ、コルフィー待つニャ! そ、そ、そこまで注目されるのは厳しいニャ!」
リビラのお尻と、慌てたせいかにょろりんする尻尾。
くっ、魂が惹かれる。凄い引力だ。
撮影機ごしでなければ即死だったことだろう。
「あ、あの、コルフィーさん、それくらいにしてあげませんと、リビラさんが暴れ出しますから……」
サリスが窘め、その隙にリビラはコルフィーの魔の手から脱する。
そして助け船を出してくれたサリスの背に隠れた。
「ありがとニャ~、お礼にニャーさまに水着姿をよく撮影してもらうといいニャー」
「リビラさん!?」
背中のリビラにぐいぐい押されて前に出るサリス。
恩を仇で返すとはこのことだ。
「サリスさんの水着はシア姉さんの提案でウサギづくしということです!」
「ほほう……」
なるほど、これ、バニーガール衣装の網タイツが無いやつだ。
首に襟と蝶ネクタイ、頭にはへの字に折れ曲がったウサ耳、その耳と耳の間には子ウサギのウサ美がぺたんとへばりつき、抱える透明なビーチボールにはウサ子が入っている。
「ウサギっぽいのは耳だけじゃないんですよ! お尻にもこもこ尻尾もついてるんですよ! サリスさん、せっかくですから――」
「そこまで見てもらわなくてもいいですから! 私よりも、ほら、ヴィルジオさんが素敵です! そっちを紹介しましょう!」
「サリス!?」
まさかサリスに売られるとは予想もしていなかったのか、ヴィルジオがすごい顔して反応した。
ヴィルジオは上がハイネックビキニ、腰に柄を合わせたパレオを片足だけ露出するよう巻いている。
「ヴィルジオさんはがっつり泳いだりする気はなかったようなので、上品で優雅な感じになっていますよ! 背があって体型もいいので、これがすごく映えるんです! 兄さん、しっかり撮ってください! ヴィルジオさん、ちょっとポーズとりましょう!」
「そ、そんなことはできん!」
「何でですか! 私なんかと違って、そんな素敵なんですから撮ってもらえばいいじゃないですかー!」
「え、ええぇ……」
コルフィーにえらい剣幕で怒鳴り返されてヴィルジオが戸惑う。
「だ、だって、恥ずかしいし……」
「兄さん! 今です! 優雅さにしなっとした感じが加わってすごく素敵です!」
「いやコルフィー、これ以上ヴィルジオを追い込むのはダメだ。せっかく調子が戻ったんだから」
「ヴィルにゃんは追い込まれると妙に素直になるニャー。でもまあ、あんまり弄るとまた部屋に引き籠もっちまうかもしれないニャ。ここは次にいくとするニャ。アレにゃんとシャフにゃんニャ」
発端となったリビラはすでに他人事のように言い、さらにコルフィーの矛先が自分へ戻らないようアレサとシャフリーンを生贄にした。
ネズミ男みたいなネコ娘である。
「猊下、どうでしょうか! シアさんが仰るには、今の私にはこれが一番似合うということなのですが!」
「ああ、似合ってるよ」
確かに似合ってる。
だが、首輪と鎖つけられたアレサに白黒の横縞――ボーダー柄のビキニとミニスカートって、これ完全に囚人服をイメージしてのものだろう。
おまけに、鎖を握るシャフリーンにもイメージが及んでいる。基本はビキニだが、上に軍服を連想させるミニベストを着用しているせいで刑務官を連想させるのだ。
「シャフリーンは……、うん、格好いい感じだな」
「ありがとうございます。私としては、もう少し可愛らしいものをお願いしたかったのですが、シアさんがこれなら御主人様の印象に残るからとお勧めされまして」
「あいつめ……」
実際、印象に残るし似合ってもいる。
もしかすると胸の魔石を隠せるようにという配慮があったのかもしれないと考えるも、そもそも皆には打ち明けているし、一緒に着替えたんだから隠すも何も無い。
やはりただの悪ノリなのだろう。
「えーっと、あとは……、あ、レスカさんはアリベル抱えてもういっちゃいましたね。うーん、じゃあ私ですね! はい、撮ってください! この胸のフリルはですね、シア姉さんが着ているワンピース型の水着と同じように控え目な胸の印象を誤魔化す効果があるんですよ!」
それから俺は「撮れ! 撮れ!」と強要してくるコルフィーの一人水着ショーにしばし付き合わされることになった。
「ところでコルフィー、シアはメイド服っぽい水着にしようとか言ったりしなかった?」
「いえ、そういう話が出たところで、下手すると兄さんの機嫌を損ねる可能性があるのでやめましょうって止めてました」
そうか……。
明確な線引きがあるわけではないが、それでもメイド服を舐めた感じの安っぽいインチキメイド服を俺は許容できない。
シアは主人の意を汲んだのだ。
ここはさすが始祖メイドと褒めるところだろう。
※脱字の修正をしました。
ありがとうございます。
2021/05/22




