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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
番外 『レイヴァース家の異聞抄』編
775/820

第763話 15歳(夏)…レイヴァース家のゆるい1日(5/10)

 萎れ尻尾のシャンセルに謝りまくって機嫌をとっているうちにお昼が近くなった。

 昼食も皆は協力して準備を進め、俺はその様子を撮影する。

 食事の様子も朝食時のように定点カメラで撮影を行い、腹を満たした俺は決意も新たに午後の撮影に臨むのであった。


「さーて、午後からはどうするかなぁー」

「清々しいほどにノープランですねー」


 シアに嫌味を言われながら、これからどうするかを考える。

 メイド勢揃いでティアナ校長から指導を受けていたのも今は昔、現在は決まっている仕事、あるいはこちらが何か用があるまで待機のような感じになっており、ぶっちゃけ自由時間だ。

 実家や母国に用がある者はお出かけするし、仕事がある者は仕事を進める。何らかの技術を磨くために時間を費やす者もいれば、のんびり読書をする者、お喋りに興じる者と、それぞれである。


「ふーむ、やっぱりみんなを撮影して回るか……」

「はあ。まずは誰のところへ?」

「ひとまずミーネかな。腹ごなしに庭園でシオンと暴れるのは日課みたいなものだろ? それを撮り逃すのはもったいない」


 ということで庭園へ移動すると、思った通り、そこではミーネとシオンが戦っていた。

 訓練なのか、遊んでいるのか、どちらにしても環境破壊する勢いの戦いは迫力がある。うかつに近寄ると巻き込まれかねないので、ちょっと遠くから撮影しなければならないのが残念だ。

 それからしばし二人の戦いを撮影した俺は、せっかくなのでぶらぶら散歩がてら庭園にいる精霊獣たちの撮影も行った。

 するとその途中、でっかい湖を発見する。


「あんなのありましたっけ?」

「増えたんだろ」


 何しろ何でもありな場所なのだ。

 湖の直径はどれくらいだろうか、漠然とだが二百メートルくらいはあるように思える。


「日常を撮影するという趣旨から少しはずれるが、ちょっと撮りに行ってみるか」

「いやー、これもある意味うちの日常だと思いますよー?」


 あまり納得したくないことを言うシアを連れ、湖のほとりまでやって来ると、かつて水生だった精霊獣たちが泳いでいるのがよく見えた。

 普段は宙を泳いでいるが、やっぱり水があった方がいいのかな。


「おーい、イール、いるかー?」

「はいはーい」


 呼びかけると、イールは地面からにょきっと生えてきた。


「おや? その担いでいる物はなんです?」

「これは映像を記録する魔道具だな。今ちょっと撮影して回っているんだ。そしたらこの湖を見つけてな」

「ああ、この湖はですね、要望があったんですよ、ジェミナさんから」

「ジェミナから?」

「ええ、正確にはジェミナさんに憑依している精霊さんですけどね」

「そういうことか……」

「じゃあジェミナさんは今ここにいるんで――、ん?」


 喋っていたシアが何かを見つけて怪訝な表情になった。

 そこにあったのは脱ぎ散らかされたメイド服、あと下着。


「ぷは!」


 と、そこで水面から顔を出したのはジェミナ。

 ……。

 すっぽんぽんだった。


「「アウトーッ!」」


 放送事故だ。

 びっくりして思わずシアと仲良く叫んでしまった。


「……うきゅ?」


 一方、ジェミナはすいすいと泳ぎ、こちらを目指し岸まで来る。


「これは……、これはまずいですね!」


 これから起きるであろう事を予測し、シアが駆けだした。

 あたふた魔導袋からシーツを取りだし、ざばーっと水から上がったジェミナを抱きしめるように包みこむ。


「捕獲ぅー!」

「よーし、よくやった!」

「え!? なになに! なんなの!?」


 いきなり確保されたジェミナ――ではなく、ジェミナの体を使っている精霊獣が驚く。


「なんなのじゃないですよもう。裸で泳いではいけません!」

「えー、でも服きてたら泳ぎにくいもん……」

「そりゃそうですけど……、ところであなたは誰ですか?」

「ぼく? セレブ!」


 セレブ……、そうか、今日ジェミナに入っているのはイルカ(角アザラシ)なのか。


「ジェミナがね、泳いでいいよって言ったから泳いでたの」

「だからって裸は駄目ですって……」

「えー、ジェミナは平気だって言ってるよー」

「いやまあ誰も来なければよかったんでしょうけども……」


 どう説得したものかと悩むシア。

 するとイールが言う。


「まあいいじゃないですか。すべては裸で生まれてきますからね!」

「おるぁ!」


 俺は巨大くず餅にローキック。


「突然の言われ無き暴力!?」

「黙れこのクソスライム。貴様のその認識が、一人の幼気な少年の心に消えぬ傷を刻むことになったのだ」


 服さえ着せていれば、ミーネが俺のタマタマをこしょこしょすることもなかったのだ。

 例え、あの状況でこしょこしょしようと思い立ったミーネがおかしいとしても、服さえ着ていればあの悲劇は起きなかったのである。


    △◆▽


 泳ぎたがるセレブ、すっぽんぽんはやめて欲しい俺とシア。

 話し合いの結果、イールに即席で水着を作らせ、セレブにはそれを着てもらうことで話は落ち着いた。

 シアに連れられ、即席更衣室から出てきたセレブはスクール水着を着用しており、正面と背後には〝じぇみな〟と書かれていた。


「どうですかね?」

「狙いすぎだ」


 まったく、ジェミナで遊びやがって。

 だが水着の由来を知らないジェミナは気にせず、泳げればいいセレブにとってはどうでもいいことだったので、すぐに湖に飛び込んですいすいと泳ぎ始めた。


「ご主人さまー、どうせならこの湖、みんなで遊べるようにしてもらいません? ほらー、暑い季節ですから」

「ふむ、クロアやセレスも喜ぶか……。となると一部は水深を浅くしてもらわないといけないな。機会がなかったから、二人は泳げないだろうし」


 まあもし溺れたとしても即座に精霊かイールが助けてくれるのだろうが、それで変に泳ぐのを恐れるようになっては可哀想だ。

 俺は一時撮影を中断し、シア、イールと共に構想を練った。

 結果、湖の三分の一は水深が浅くなり、さらには遊戯施設――ぐねぐねとしたウォータースライダーが追加された。


「ねーねー、主さまー、あれなーにー?」


 湖を改造するためちょっと上がってもらっていたセレブが、だばだばーと水を吐き出し続けるスライダーに興味を持った。


「これは……、シアさんや、教えてあげてくれるか。俺は下で撮影してるから」

「はいな」


 シアに手を引かれ、スライダーの天辺へと続く階段を上っていくセレブ。

 やがて――


「あぁぁ――――ッ!」


 悲鳴と共にセレブがスライダーを滑り始め、最後にじゃぱーんと水面へ放り出された。

 一度そこでセレブは沈んだが、そこはジェミナのお腹あたりまでしか水深のないところ、すぐに立ち上がって叫んだ。


「なにこれ、おもしろーい!」


 セレブはいそいそと岸に上がり、スライダーに向かって行く。

 それからセレブは、上る、滑る、じゃぱーん、きゃっきゃする、これを何度も繰り返した。

 するとそのあたりで、湖を泳いでいた他の精霊獣もスライダーに興味を持って遊び始めた。

 魚やクラゲ、カメ、エイやらカエルやらなんやらが滑ってきて水面に放り出される様子はなかなかシュールだったが、ここでさらにバスカー率いるヤンチャ団、他にも普段のほほーんと庭園をうろうろしている連中まで参加した。

 イヌやら、ネコやら、ヒツジ、ウマ、ウシ、ヤギ、トカゲ、次々と水面にじゃぽーんする。


「俺はいったい何を撮影しているんだ……」


 シュールさが限界突破してちょっと恐くなり始めたところ、さらに騒がしいのがどたばたやって来た。


「なにすごく楽しそうなこと始めてるのよ! 呼んでよ!」

「そーだー、そーだー! 仲間はずれにすんなー!」


 ミーネとシオンが遊ばせろと騒がしい。


「ついさっき形になったばっかなんだよ。つか遊ぶのは自由だし」

「そっか! じゃあよし、ミーネ、遊ぼうぜ! 脱げ脱げ!」

「え。ま、まあいいんだけど……」


 シオンはさっそくすぽぽーんと服を脱ぎ始めたが、ミーネはさすがに恥ずかしいか戸惑ったようだ。

 昔を知っているだけに、ミーネの恥じらいにはちょっと感動する。

 だがこのままでは、このホームビデオが厳しい監視下に置かれ、おいそれと見ることが出来ない代物になってしまうので、ここもシアにお願いすることにした。


「シアさんや、お願いしてもよいかね?」

「へーい」


 いまいち乗り気でないようだったが、シアはイールと相談、それからミーネとシオンを簡易更衣室へ連行する。

 そして――


「どうかしら!」


 ミーネはお腹丸出しタンクトップ、ホットパンツぽい感じの水着姿で現れた。


「はい、とても可愛らしくて良いと思います。せっかくなのでしっかり撮影しておきますね。あ、ちょっとポーズとかとってもらっていいですか? こう、両腕をあげて、腰を捻る感じで。ええ、そうそう、ありがとうございます」


 本当はもっと撮影したいところだが、これ以上は検閲の対象になるかもしれないのでぐっと我慢する。

 するとそこでシオンも現れた。


「っしゃー、遊ぶぜー!」


 ばいんばいーんとした三角ビキニ姿のシオンは神々しく、続いて現れたシアは闇のオーラを纏っており禍々しかった。


「じゃあミーネ、行こうぜ!」

「うん、行くー!」


 ミーネとシオンは真夏の太陽のような笑顔でスライダーへと駆け出し、残されたシアは真冬の月のような凍てつく微笑をたたえたまま静かにこちらへ戻ってきた。


「こう、あれですよ。深く暗い森の奥……、水面が鏡のようになっている泉、底からはこんこんと静かに水が湧き出ている――みたいな心境なんです。わかりますかね?」


 持たざる者の悲しみは、深く、静かで、とめどなく――。

 俺はシアを暗黒面から救い出すべく、ちょっと覚悟を決めざるを得なかった。


「シアさんや、尊さに大きさは関係ないと思いますよ。ましてや俺がシアさんを好きな気持ちに影響を及ぼすものでもないのですから」

「ちょっ、きゅ、急になに――、って、撮るのやめてください! カット! ここはカットで!」


 あたふた取り乱し始めたシアを撮影しながら、俺はほっとひと息。

 恥ずかしさを堪えて言った甲斐はあったようだ。


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[一言] シオンは恥じらいをどこに捨ててしまったのか
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