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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
番外 『レイヴァース家の異聞抄』編
769/820

第757話 14歳(夏)…古代都市の主(3/4)

 俺はこんな古代都市ほしくなかった。

 色々問題が起きそうだったから引き受けるしかなかっただけだ。

 本当は調査だってしたくなかった。

 ただでさえ冒険の書の製作という大変な仕事を抱えているのに、誰が余計な仕事など増やしたいと思うものか。

 と言うか、本当は冒険の書も放り投げてみんなとキャッキャウフフしながら暮らしていたいのだ。

 そんな俺にとって――


『この精霊王たる我の許しも無く、貴様ら何をしておるか!』


 ヨルドさんの怒りは非常に都合のよいものであった。

 相手はこの地の精霊である。

 その精霊がお怒りになっているのなら、ここは大人しく引き下がるのが良識ある人間の振るまいというものだろう。

 やったぜ!


「ははー、まさか精霊王ヨルドさまとは露知らず、大変失礼いたしましたー。わたくしどもは、すぐ、もうすぐにここより立ち去りますので、しばしお待ちくださいませー」


 すみやかに、一刻も早くお家へ帰ろうと俺は皆へ呼びかける。


「みんな、残念なことだがヨルドさまがお怒りとあれば調査の中断はやむを得ない! すぐにここから立ち去ろう!」

「ええー」

「そんなぁー」


 と、残念がったのはミーネとコルフィーである。

 他の皆は至って冷静で、俺が調査の中止を言いだしたことに納得がいったような表情をしていた。

 きっと皆もアレと関わり合いになりたくないのだろう。

 だが――


『待てい! 立ち去れば良いという問題ではないわ!』

「ちっ」


 大人しく見送ればいいものを、ヨルドがさらに絡んでくる。


『かつて貴様ら人間は我に約束をした。我が協力することでこの地はより豊かで力の満つる地になるであろうと。ところがいざ協力をしてみれば、そこの塔の地下深くにあったよくわからん代物に封じられることになった。曖昧な意識のなか、何やらあれこれ妙なことをされてやたら力を吸い取られた。まったく酷い話だ』


 おそらくヨルドさんは『世界樹計画』を実現するための道具にでもされたのだろう。

 騙される方が悪いとは言いたくないが、この場合は騙されたこいつが悪いような気がする。

 こいつが協力しなければ『世界樹計画』もあれほどの大惨事を引き起こすことはなかったのではないだろうか?

 まあそれも『たられば』の話、その結果として俺の――、そして皆のいる今があるならむしろそれでよかったとも思う今日この頃。


『ようやく意識がはっきりして、何やら騒がしいと姿を現してみれば貴様らは我のことなど知らぬと言う。こんなふざけた話があるか。そもそもこの地が豊か――、ん? んん!?』


 何か気がかりでもあったのか、ヨルドは語るのをやめる。

 そして――


『なんでここら一帯が荒野になっとんじゃぁぁぁ――――ッ!?』


 またしてもビカビカーッと発光して怒鳴るヨルド。

 つか死の荒野になってたの気づいてなかったのか。


『許さん! 許さんぞ人間どもめ!』


 完全なとばっちり、むしろ俺はこの地に再び生命が育まれるよう浄化した立役者なのだが、そんなこと知るよしも無いヨルドは怒りまくりで話し合いができる状況ではなくなってきた。

 ここは一時撤退が得策、そう考えるも――


『我が怒りを喰らうがいい!』


 すでにヨルドは攻撃態勢。

 と、ここで精霊獣たちが動いた。


「わおーん!」


 バスカーの号令により、チビたちがヨルドに突撃。

 まとわりついて噛みついたり引っ掻いたり頭突きを喰らわせたりと総攻撃を始めた。


『なん――、何だとぉ!? ええい小癪な! 貴様らなんぞ――、って、今の我は力が戻ってないからそんな攻撃されるとつらい! 待て待て、ちょっと脅かそうとしているだけだ! べつにここにいる人間どもを皆殺しとかそんなこと考えてないから!』


 ヨルドがなんか弱音を吐き始めたが、精霊獣は攻撃の手を緩めない。

 このまま倒してくれたらいいな、と俺は願った。

 が――


『ぶるるるぁぁぁぁぁ――――――――ッ!!』


 ヨルドの気合い(?)によって、たかっていた精霊獣たちは弾き飛ばされてしまった。

 弱っているとはいえ精霊王、伊達ではないようだ。


『貴様ら精霊のくせに我でなく人間の味方をするとはどういうことか! そんなにそこの人間がよいのか!? 確かに妙な感じのする小僧ではあるが――、いや、そうか、なるほど、巫女がおるからか!』

「ふわっ」


 急に話の矛先を向けられ、傍観していたジェミナがちょっとびっくりしたらしく可愛らしい声を上げた。


『小僧、さては貴様、その巫女を用いてこれだけの精霊を使役しておるのだな?』

「いやそういうわけじゃないんですけど……」

『謀るか! では何か、そこの小童ども、そしてこの廃墟に満つるほどの精霊は好んで貴様に従っておるとでも言うのか!』

「はい。ありがたい? ことに。まあ、そんな感じですね」

『ぬけぬけと!』


 いや本当なんだけど……、端から信じる気がない相手にはどう言おうと無駄なのか。


『まあよい、すぐにわかる話だ。小僧、貴様が真実を語っているというのなら、その巫女をこちらによこすがよい』


 あ?


「ジェミナよこせとかふざけたこと言ってんじゃねえ、このハゲの残光が!」

『え、急に態度が変わった……』


 敵対すると面倒そうだから下手に出ていたが、そんな要求をしてくるなら話は別、敵対あるのみである。


「大昔の馬鹿どもにまんまと騙されて千年以上寝てた奴がいまさら出てきて文句言うんじゃねえ! つかお前が復活できたのも、俺がこの地一帯どころか地平線のはるか向こうまで浄化したからだ! 本来なら礼の一つも言うところを、あーだこーだと難癖ばっかつけてきやがって! 何が精霊王だこのボケが!」

『なん……!?』


 まさか罵倒を受けるとは思っていなかったのか、ヨルドは唖然としたようだ。

 これで完全に敵対――、そう思われたが、意外なことにヨルドは逆に冷静になった。


『そ、そこまで堂々と啖呵を切るとは……、ふむ、これは少し小僧のことを知るべきか。となればやはり』


 と――。

 ここでヨルドが一度落ち着いたからこそ、俺はその行動を見過ごすことになった。

 ふよふよ宙に浮いていたヨルドは、閃光となってこちら――、いや、ジェミナに突撃してきたのだ。


「ふわわ!?」


 大きな光の玉がすぽんとジェミナに入り込む。


「ジェミナ!? 大丈夫か!?」

「ん。んー。ん……」


 ジェミナは呼びかけに反応しようとするも、急にすんと大人しくなり目を瞑る。

 そして再び瞼が開かれたとき、ジェミナの表情は妙にふてぶてしい感じのものになっていた。


「ふむ、ふむふむ、なるほど……、我が封じられている間にそのようなことがな……、ほう、では小僧が言っていたことは誠なのか……」


 ジェミナ――、いや、これはジェミナに入り込んだヨルドか。

 ヨルドは呟きながらうんうんと何やら納得していたが、これはジェミナが体を使うことを許可してのものだろうか、それとも乗っ取られてしまったのか。


「おいこら、ジェミナから出ろ!」

「待て、今少しばかり巫女の記憶を覗かせてもらっておる。貴様の言う通りこの地はずいぶんなことになっていたようだな。人間がやったことではあるが、貴様を怒鳴りつけたのは浅慮であった。そこは謝罪しよう。そして感謝もしよう。よくこの地を浄化してくれた」

「お、おう、わかってくれたならそれでいいが……、ともかくジェミナから出てくんない?」

「ふーむ、それなのだが、この巫女にはここを緑豊かな地に戻す手伝いをしてもらいたいと思う。巫女は偉大な精霊に仕えるのが古よりの習わしである。精霊王たる我の依代となることは、この娘にとっても名誉なことであろう」

「いいから出ろ!」


 話が通じるようになったかと思ったが気のせいだった。

 ここを緑豊かって、どんだけジェミナを拘束するつもりなのか。


「ジェミナに記憶を見せてもらったなら知ってるだろうが、俺も一応は精霊王と呼ばれている。ここにいる精霊たちは俺の仲間だ。お前よりよっぽど王っぽい。だからジェミナは俺のだ」

「確かに精霊の友は多いようだな。同族の友は少ないくせに」

「そういう地味に心を抉ることを言うのはやめてもらおうか!」

「ふん、この程度のことで心を乱すとは。貴様は精霊王を名乗るには相応しくない。さらに言えば、このような幼女を娶るような変態が精霊王なとどは笑止千万! 貴様はロリコン王とでも名乗るがよい!」

「ぐふぅ……!」


 俺の心に大ダメージ!

 なんかジェミナにそう言われているような気がしてしまうのがよけいに心にくる!

 するとそこで叫ぶ者がいた。

 ティアウルだ。


「違うぞ! あんちゃんは小さい子が大好きだからジェミナと結婚するわけじゃないぞ! 結婚しようとしたジェミナがまだちっちゃかっただけだぞ! それにあんちゃんがちっちゃい子好きだったら選ばれなかった姉ちゃんも――」

「……」


 瞬間、ヴィルジオのアイアンクローがティアウルの顔面を捕らえた。


「ああぁぁぁ――――ッ!? 久しぶりだからこれよけい効くあぁぁぁ――――ッ!」


 何てことだ、ヨルドの巧みな誘導により仲間割れが始まってしまった!


「てめぇ、よくもティアウルを!」

「いや我なにもしてないよ!?」


 驚き、ヨルドが動揺を見せる。

 その時だ。


「わおーん!」


 再びバスカーが号令をかけ、ジェミナへと飛び掛かり、すぽんと体の中へもぐり込んだ。

 するとそれを皮切りに、様子を覗っていた精霊獣たちも次々とジェミナへ飛び込んでいく。


「え、それ大丈夫!?」


 精霊つめこみすぎてジェミナがパーンッってなっちゃったりしない?

 心配しながら見守ったところ――


「もう! ジェミ、そんなに入らない!」


 ジェミナが怒って声を上げ、飛び込んでいたヨルドや精霊獣がまとめてスポポーンと排出された。


「あれ、体を乗っ取られたわけじゃなかったの?」

「様子みてた」

「そうだったか、びっくりしたよ……」

「ん。ジェミは主の。ちゃんと捕まえてて」


 あらまあ、この子ったら可愛いことを。

 ひとまずこれで状況は振り出しにまで戻ったのだが――


『おのれ……、小僧、貴様は飽くまで自分が精霊王であり、その巫女は自分のものであると言うのだな……』


 ヨルドはジェミナに振られたのが腹立たしいのか、俺に対して怒りを燃やし始めた。


『よかろう、では貴様が精霊王と名乗るに相応しいか、この精霊王ヨルドが確かめてくれるわ!』


 勝手な事を宣言すると、ヨルドは本部からふわふわーっと離れていき、瓦礫の上空に位置取った。


『かつて、我への感謝を忘れた人間どもを蹂躙した伝説の巨人、ここに復活だ!』


 巨人――?

 そう困惑したとき、異変は始まった。

 破壊された建物の残骸がふわりと浮き上がり、それらがヨルドを核として組み合わさっていき、最後には瓦礫の巨人が誕生したのだ。


『さあ小僧、精霊王を名乗るのであれば、我を倒し証としてみせるがいい!』


 今はジェミナを甘やかしたい気分だったが、どうやらそんなことは言っていられないようだ。


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2020/06/10


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[気になる点] >貴様はロリコン王とでも名乗るがよい あぁっ! あえて誰も言わないようにしてたことを!
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