第738話 14歳(春)…ぬいぐるみーズ
しょうもない日常のひとコマをお届け……。
最後だけちょっと三人称になっています。
「兄さーん、ぬいぐるみのみんなが集まって何かしてるよー」
その日、仕事部屋で精霊獣たちに負けまくって近頃すっかりふて腐れてしまったネビアを励ましていたところクロアがやって来た。
詳しく話を聞いてみると、クマ兄貴がぬいぐるみ達を引き連れて広間に入っていくのを目撃したので報告しに来たとのこと。
なるほど。
これは何かが起きる。
それはとてつもなくどうでもよい『何か』であり、気にせず放って置いても勝手に収束する『何か』であると勘が告げる。
しかし、せっかくクロアが知らせに来てくれたのだ、ここは一緒にぬいぐるみ達が何をやっているのか見学しに行くことにした。
「クロアは今日、暇なのか?」
「うん、リィさんね、新しい魔法陣を作るから少し一人で考えたいんだって。メタマルがお手伝いしてる」
そんなことを話しながら広間に向かい、ドアの隙間からそっと室内を覗いてみる。すると、ぬいぐるみ達はひとまとまりの集団となっており、正面でわちゃわちゃと両腕を動かすクマ兄貴を見つめていた。
そのクマ兄貴の隣にはプチクマがおり、バレリーナみたいにくるくる回ったり、両腕を広げて片足立ちになったりと踊っている。
「……兄さん、何してるのかな……?」
「……なんだろう。アークの踊りの発表会か何か……?」
邪魔にならないよう、俺とクロアはひそひそ囁き合う。
「……ちょっと聞いてみるか……」
このままでは何をしているのかさっぱりわからないため、ちょっと〈モノノケの電話相談室〉を使ってみる。
すると――
『かつては諍い、埃を飛ばし合ったもの同士なのは確か……。しかし、強大な勢力が現れた今、我々は過去というしがらみから脱却し、団結せねばならない!』
クマ兄貴はぬいぐるみ達に向けて熱く語りかけていた。
どうやらこの集まり、プチクマの発表会というわけではなかったらしい。
そのまま話を聞いてみたところ、ぬいぐるみ達はセレスが精霊獣ばかり構うようになってしまったことに不満を持っているらしく、クマ兄貴はこの現状を打破するためには団結し、精霊獣たちに戦いを挑む必要があると訴えかけているようだった。
『さいきん、セレスちゃんあんまりかまってくれないよねー』
『ねー』
『さびしいよねー』
『ねー』
クマ兄貴の演説を聴きながら、ぬいぐるみ達はそんなことを言っている。
ぬいぐるみ達からすると、セレスが精霊獣たちに取られちゃった、ずるい、もっと構って、ということらしい。
屋敷が精霊獣で溢れる前は、セレスから離れ、屋敷を歩き回ったり、ふよふよ宙を泳ぎ回っていたくせに……。
ひとまずクロアにこの集まりが決起集会であることを説明する。
「……でも兄さん、セレスが寝る前はみんな一緒に過ごしているはずだし、そのまま一晩一緒だし、それでもまだ足りないのかな……?」
「……触れ合う時間が減ったからってのもあるが、セレスの意識が精霊獣に向いているのがまず気に入らないのかもな……」
「……そういうものなの? それにしても、ぬいぐるみのみんなはセレス好きだよね。どうしてかな……?」
元は屋敷や領地に満ちている微精霊と同じものなのに、というのがクロアの疑問らしい。
微精霊とぬいぐるみの差とは。
「……んー、たぶん『セレスのために作られたぬいぐるみ』に取り憑いた結果じゃないかな……?」
ぬいぐるみ達は他の微精霊に比べ自我が発達している。
これは何故か?
それは大量にいる微精霊のうちの一体ではなく、ぬいぐるみに取り憑いたことで『個』として扱われる機会が多くなったこと、そしてそのぬいぐるみが役割をもって作り出された物であるため、そうあるように自我が発達したのではないかと思う。
「……うーん、うん……」
詳しく説明してみたが、クロアはすっきりしない様子だ。
よくわからないか……。
いいんだ、わかったところでどうせ役に立つ機会なんて無い。
「……あと、ほら、俺が『セレスのぬいぐるみ』として作ったものだから、その想いに引っぱられているのかもしれないな……」
何しろファンタジーだ、物に想いが宿ってもおかしくはない。
作り手である俺の想い、持ち主であるセレスの想い、そして皆の想い、そういう想いが奴らをそうしているのでは。
「……でも兄さん、クーエルって、ほかのぬいぐるみと違って、そこまでセレスに懐いてるわけじゃないよね? どうしてそんな一生懸命になっているのかな……?」
「……おお……」
クロアの疑問に、俺はちょっと感動する。
話の内容に流されず、クマ兄貴がそれを訴えかけているという状況に違和感を覚えたようだ。
そういう客観的な意識は大切である。
例え、ぬいぐるみが決起集会を行うような屋敷であっても、だ。
「……うんうん、そうだな。たぶんあいつにはあいつの目的があって、そのためにぬいぐるみ達を扇動しているんだろう……」
「……何かって……?」
「……なんだろうなぁ、目立ちたいんじゃないか……?」
「……目立ちたい……?」
「……目立ちたいと言うか、他の精霊たちに影響力を持ちたがっているというか……、俺にもよくわからないんだけどな……」
実際のところは謎。
本当に謎なのだ。
クマ兄貴だけは、あれで他のぬいぐるみの追随を許さないレベルで奇っ怪に自我を発達させた一種の怪物なのである。
『そう、我らは戦わなければならないのだ! 我ら〝布と綿のモノたち〟の栄光を取り戻すために!』
『おー! そうだそうだー!』
『やっつけろー!』
『がんばるぞー!』
続くクマ兄貴の演説。
ぬいぐるみ達はすっかり騙され、セレスの寵愛を取り戻すべく精霊獣たちに戦いを挑むつもりになっていた。
「……陰惨な未来しか見えないんだが……」
ぬいぐるみ達は襲いかかって来たネビアを返り討ちにしたこともあるが、さすがに精霊獣となるとやっつけるのは無理だろう。
クマ兄貴はどうでもいいが、扇動されて突撃し、蹴散らされることになるぬいぐるみ達は哀れだ。ここで止めるべきかどうか悩む。
と、そこで足元がもふもふっとした。
「……?」
ふと視線を落とすと、そこには子熊のエルア。
もそもそとドアの隙間から広間に入り込み、そのままクマ兄貴に向かって行く。
『にいしゃん……』
『む? エルアか。兄は忙しい。しばらく待ちなさい』
『にいしゃん、エルアねむいの……』
クマ兄貴は待つよう言うが、エルアはお構いなしだ。
のしっと前足をクマ兄貴にひっかけ、そのまま押し倒す。
『ま、待つのだ! 兄は今、皆に大事な話を――』
『エルア、ねむいの……』
押し倒されたクマ兄貴はジタバタするがどうにもならない。
エルアはクマ兄貴のお腹をクッションにしてすっかり眠る体勢だ。
前まではネビアの寝床であったが、縄張り争い(?)の結果、現在クマ兄貴のお腹はエルアの寝床になっている。
『くっ、ええい、仕方ない。ひとまずこの場は解散だ。エルアから開放された後、我は新興勢力に戦いを挑む! 我こそはと思う勇士は是非とも参加してもらいたい!』
こうして集会は解散となり、ぬいぐるみ達は『どうするー?』『ぼくはやるよー』『わたしもー』とかお喋りしながらこちら――ドアに向かってやってくる。
『あ、あるじー、クロアー』
『わーい、あそんでくれるー?』
『なでてなでてー』
俺とクロアはぬいぐるみ達にまとわりつかれ、仕方ないので二人でせっせと撫でたりもふもふしたり揉み揉みした。
すると、いつの間にかプチクマが踊るのをやめ、エルアの寝床と化したクマ兄貴に話しかけていた。
『兄さん、ボクね、やめておいた方がいいと思うよ? きっと残念なことになるだけだよ?』
『ええい、我はやると決めたらやるのだ!』
プチクマは賢いな。
それに比べてクマ兄貴は……。
ひとまず、何がどうなるか、今日は決着が付くまで見守ることにしよう。
△◆▽
でかいクマのぬいぐるみの上ですやすやと眠る子熊は可愛らしかったが、さすがに見守り続けるというのも暇。
そこで俺とクロアは落ちこんでいるネビアを元気づけるために、すぽっと収まる小さな木箱を作ってプレゼントすることにした。
猫は箱に収まりたがるものだからである。
「兄さん、それでネビアが元気になるの?」
「元気いっぱいにはならないだろうが、自分だけの場所を奪われた哀れなネビアの慰めにはなるはずだ。たぶん」
何故か潤沢だった木材を少し使い、木箱はすぐに完成する。
が、しかし――。
木箱は「にゃんにゃんがうがう」と、どこからともなく現れたネコ科のちびっ子ギャングたちに奪われてしまった。
単純に横取りされたのならチビたちを『めっ』と叱ることもできたが、ネビアが『奪えるものなら奪ってみろ!』といった体で徹底抗戦の構えを見せた結果であるためそれもままならなかった。
ここで木箱を譲られたら、ますますネビアがみじめな事になってしまうからである。
もはや『神も仏もありはせぬ』といった感じでふて腐れるネビア。
さすがに不憫だ。
「兄さん、どうするー?」
「うーん、そうだな、そのうち何か気晴らしをさせてやった方がいいかもしれないな。そうすれば少しは調子も戻るだろう」
「……」
そう答えると、クロアは何か言いたげな顔をして黙り込む。
「ん? どうした?」
「えっとね、兄さんはネビアじゃなくて姉さんたちをどうにかした方がいいんじゃないかなって思ったの。でも、兄さんが何かするとよけいおかしくなるから、やっぱり兄さんは何もしない方がいいのかなって」
「……」
今度は俺が黙り込むことになった。
実のところ、クロアが言う通りだったりする。
俺が下手に関わると落ち着くのが長引くので、今はそっと見守るだけにしておけとリビラにもアドバイスされていた。
しばらく皆のことは任せろ、と言うリビラはこのところ実に頼もしい。
「姉さんたち、早く落ち着くといいね」
「そうだな」
二人してしみじみと頷き合っていると、ちびっ子ギャングたちはネビアから強奪した木箱を今度は仲間同士で奪い合うという浅ましい争いを始めていた。
「もういくつか木箱を作るか……」
「そうだね」
△◆▽
その後、子熊のエルアから開放されたクマ兄貴はさっそく行動を開始した。
和気藹々とするぬいぐるみ達を引き連れ迷宮庭園へと出陣したのち、一匹とてとてと散歩をしていたポン太――子ダヌキを標的に定める。
『さあ行け、同志たちよ! まずは奴を屈服させ、我ら〝布と綿のモノたち〟の傘下に置くのだ!』
クマ兄貴の指示により、ぬいぐるみ達は『わー!』とポン太めがけて一斉に襲いかかる。
ちなみに、ポン太のちゃんとした名前はドミトリだ。
俺にはタヌキが丸っこく毛がもふもふっとしているというイメージがあったため、その姿は子ダヌキでありながら丸々もふもふした感じになっている。
「たぬ!? たぬ!?」
突如ぬいぐるみ達の強襲を受け、ポン太は戸惑ったように鳴く。
絶対にタヌキの鳴き方ではない。
ここも俺の変なイメージが影響してしまったらしい。
そもそも、奴は本来タヌキではなかった。
しかし俺が会ったことのない獣であり、シャロが日本にいるタヌキみたいな獣、と言ったのでタヌキになってしまったのである。
何というか、色々と申し訳ない。
しかし一度こうなってしまったからには、いまさら矯正することもできなかった。
ポン太の話ではないが、子ギツネのアカーシャが「こん」と鳴くため、無理にそう鳴かなくてもよいのだよ、と言ったところ――
「こん? ……こ、ここ、コ、コケェェ――」
「わかった! 好きなように鳴けばいいから!」
「こーん」
という、しょうもない事があったのである。
まあそれはさておき、今はポン太だ。
『あの、私、こういう激しい遊びはそんな得意ではないのですが!』
ぬいぐるみ達の強襲を受けたものの、ポン太としては急に遊びに巻き込まれたという認識であるらしく、戸惑いはしてるが危機感はまったく無かった。
囲まれてぽふぽふ叩かれても大して気にしていない。
これがバスカー、あるいはネコ科のちびっ子ギャングたちであれば、嬉々としてぬいぐるみ達を蹴散らすのだろうが、俺のタヌキというイメージが影響しているのか、それとも本来の種が狩りを想定した激しいじゃれ合いをしない動物だったためか、ポン太はなすがままになっている。
「兄さん、ドミトリは負けちゃうかな?」
「負けると言うか……、よくわからないけどとりあえず従っておこうってなるかも。あー、もしかするとそれがクーエルの狙いなのかもな」
「狙い?」
「まずは温厚な連中を仲間に引き入れて、数が揃ったところで今度はヤンチャな連中に戦いを挑むって作戦だ」
「へー。でも兄さん、たぶんその後で戦うはずの子たちがこっちに走ってきてるんだけど……」
「うん、もう終わりだな」
庭園で賑やかなことをすれば、すぐに遊び盛りのチビたちは参加しようとする。
『ぼくも仲間にいれてー!』
まずはバスカーが「うひょー!」と突っ込み、その勢いでぬいぐるみ達が薙ぎ倒された。
『あーれー!』
『てき、えんぐん!』
『あーん!』
バスカーの強襲に混乱するぬいぐるみ達。
さらにバスカーを追ってきた子オオカミ、ちょっと前に悪行の限りを尽くしていたちびっ子ギャングたちも参戦した。
ぬいぐるみとチビたち、入り乱れての乱戦(?)だ。
『あの、私もう行っていいですか!?』
ポン太はいい迷惑だな。
あとで優しく撫でておこう。
『たいちょー、もうむりだよー』
『ぐんは、かいめつ!』
『きゃー!』
『だれか、おこして!』
チビたちにじゃれつかれ、ぬいぐるみ軍はすでに崩壊。
するとそこで静観していたクマ兄貴が動いた。
『仕方あるまい! ここは我に任せよ!』
クマ兄貴がばっと両腕を掲げると、この辺りにいた微精霊たちがきらきらと姿を現しクマ兄貴へと集まっていく。
それにともない、クマ兄貴の体は内側からもこもこ蠢くという、ちょっと気持ちの悪いことになっていたが――
『はぁぁ――――ッ!』
クマ兄貴が叫んだ瞬間、目映い光りが辺りを包む。
眩しいなぁもう、と思いながら目を開けると、そこにはムキムキボディの光り輝く巨人が出現していた。
全長は五メートルほどであり、頭部はクマ兄貴のそれである。
「「……!?」」
なにアレ、と俺とクロアは二人して言葉を失う。
『まさかいきなり奥の手を使うことになるとはな! だがまあよかろう! さあ、我が力に屈服するがいい!』
微精霊たちの力を借り、巨人と化したクマ兄貴――超クマ兄貴が動く。
だが練度が低いのか、その動きは緩慢なものであり、いまいち脅威を感じなかった。
『クーエルがおっきくなった!』
『おもしろーい!』
『じゃあオレも大きくなるぞ!』
『わたしもなるー!』
超クマ兄貴の出現に、チビたちは驚いて動きをとめたものの、すぐに新たなる遊び相手だと認識。
チビの姿のまま、そのままみるみる巨大化する。
『え?』
超クマ兄貴が戸惑いの声をあげるも、すでに遅かった。
巨大な子犬とか子猫とか、その他もろもろが超クマ兄貴めがけ一斉に襲いかかり好き勝手にじゃれつき始める。
『あっ、ちょっ、あぁぁぁ――――ッ!?』
体当たりされたり、押し倒されたり、ちょっと甘噛みされたり。
それは哀れな獲物が猛獣たちに捕食される光景――、には見えないな。
ひとまず見守り、そのうち止めてやろうと思う。
これでクマ兄貴も少しは懲りるだろう。
そんなことを考えていた時だった。
「こーらーっ!」
可愛らしい怒声が響く。
見やると、自分は怒っている、ということを小さな体で精一杯表現するように両手を挙げたセレスがこっちに駆けてきていた。
珍しく頭にピヨが乗っていないな、と思ったが――
「ええい、セレス殿の御成であるぞ! 静まれ静まれーい!」
セレスに付いてくるジェミナがそう叫んだことで理解した。
今日はピヨがジェミナと合体しているらしい。
「ケンカはいけません! めーっ、です!」
いたぶられる超クマ兄貴の所まで行き、セレスがさらに怒鳴る。
すると超クマ兄貴を形作っていた微精霊たちはぶわっと散り、じゃれついていたチビたちはしおしおと萎んで小さくなった。
『ケンカじゃないよ、遊んでたんだよ』
『そうだよー』
『ホントだよー?』
キューンキューンミャウミャウとセレスをなだめようとするチビたち。
『えーん、セレスちゃーん』
『こわかったよー』
さらに、クマ兄貴の口車に乗ったばかりに意味の無い戦いに駆り出されたぬいぐるみ達がセレスに群がっていく。
「みんな仲よくしないとだめです! 家族です!」
「セレス殿のありがたいお言葉! しかと胸に刻めい!」
ピヨ入りジェミナの違和感がすごい……!
まあともかくこれで一件落着だろう。
なんて思っていたら――
「にーさまたちはケンカを止めてくれないとだめです!」
なんと、セレスの怒りがこっちにまで飛び火した。
「くっ、セレスに怒られた……!」
「怒られちゃったねー」
それもこれもクマ兄貴のせいだ。
そのクマ兄貴はというと、さっきまで巨獣大決戦になっていた場に仰向けに転がっているばかりでピクリとも動かない。
死んだか……?
いや、プチクマが寄っていって起こしてやろうとすると、放って置けとばかりに振り払ったので拗ねているだけらしい。
クマ兄貴の野望は泡と消えたのだ。
また扇動しようとしても、こうしてセレスを怒らせてしまったからには、もうぬいぐるみ達が協力することは無いだろう。
まあ予想通り放って置いてもかまわない騒ぎ――、いや、セレスに怒られてしまったことを思えば、放置すべきだったのかもしれない。
しかし、クロアと一緒になって動向を見守ったのは、それはそれで楽しかったのも事実。
関わって良かったのか悪かったのか、なかなか判断に困るところだ。
『あのー! 私もう行っていいですかね!』
おっとそうだ、ポン太を撫でてやらんとな……。
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ぬいぐるみ騒動――。
最後はセレスに怒られてしまったものの、兄と一緒になってあれこれ話し合いながら経過を見守るのは、クロアにとって思いのほか楽しいものであった。
(兄さん、もうしばらくお仕事を休んでくれるといいなー)
その夜、ベッドに入り、眠りの訪れを待ちながらクロアはそんなことを思う。
(姉さんたちが落ち着いたら、きっとそっちに掛かり切りだろうし……)
徐々にぼやけていく意識で、クロアはあれこれと考えた。
(そのうちクーエルはまた何か始めるのかな。本当、クーエルは変わってる……)
どうしてクーエルだけあれほど特殊なのか。
突拍子もないことを始めるクーエルだが、あれで意思疎通のために文字を覚えたりと努力家でもある。
まあその大体が台無しになるか、酷い目に遭ったりしているが、それでも意外と微精霊やぬいぐるみ達にも慕われているから不思議だ。
あと、何故か皆に影響力を持ちたがる――
(あ、そうか)
ふと、そこでクロアに閃きがあった。
(クーエルは兄さんがミーネ姉さんに贈ったぬいぐるみなんだ)
自分に会いたがっているミーネのため、兄が代わりにと作り上げて贈ったぬいぐるみ、それがクーエルだ。
つまり、その誕生がそもそも兄の代わり。
そしてミーネにとってもまさにその通りなのである。
(あと……、幼いミーネ姉さんが、兄さんに抱いていた印象……?)
そういった想いが詰まったぬいぐるみに精霊が宿り、今のクーエルになったのではないか。
これは飽くまで推測だが、それでもクロアはこの思いつきにひどく納得することになった。
(ミーネ姉さん、兄さん好きだなぁ……)
そんなことを思い、疑問が解消されてすっきりとしたクロアはやがて安らかな眠りにつくのだった。
※誤字脱字の修正をしました。
ありがとうございます。
2020/02/22




