第732話 14歳(春)…そしてグダグダへ…(1/5)
本編完結後、たくさんの評価とブックマーク、そしてレビューも頂きました。
本当にありがとうございます。
この後日談のさらにその後の話は、もっと早い段階で投稿する予定でした。
が、5千字程度のつもりが2万5千字に化けてしまい時間がかかりました、すみません。
5日かけて投稿していきますので、よろしくお願いします。
【王暦――改められる暦(第二回)】
古の呪縛より世界が解き放たれた今年、歴史上、最もめでたい年であることは誰もが認めることだろう。喜び満つる祝福されたこの年を元年とし、大陸中の指導者たちにより暦が『王暦』へと改められる準備が進んでいることは先日お伝えした通りである。そこで今回は大陸規模の取り組みとはまた別に、この『王暦』が人々にどのような影響を与えているのか、そこに着目していきたい。
――中略――
【想いを秘めた人々へ】
大陸中で今年の内に婚姻を執り行おうとする機運が高まっていることは御存じだろうか? きっかけはこの祝福されし王暦が新たな門出に相応しいと、王侯貴族の方々が婚姻式の準備を急ぎ始めたことに始まり、その影響は速やかに一般の人々にも浸透していくことになった。またそればかりか、自身の想いをまだ相手に伝えていない者にとってはまさに告白するその機会ともなっている。もちろん、王暦というめでたき年にあやかろうと、想い叶わぬ者もいることだろう。今年、どれだけの人々が晴れて恋人同士となるのか、または失恋することになるのか、それを推測することは難しいが、もし恋に悩める人々の助けになればと、最後に大陸各地に存在する恋愛・縁結びの伝説が残る地の紹介を行おうと思う。
【(01)貴族街の公園 ~ザナーサリー王国・首都エイリシェ~】
恋愛・縁結びの伝説が残る地と称しておきながら、最初に紹介する場所がまったくそれら伝承とは無縁の場所であることをまずお詫びしなければならない。しかし、この公園はこれより後の時代において最も有名な場所となるに違いなく、また同時に、この紹介の始まりを飾るに相応しい場所なのである。なにしろこの公園は我らが英雄であるレイヴァース卿が意中の乙女たちに結婚を申し込み、晴れて婚約者となった場所だからである。この公園で英雄の婚約者となったのはなんと十三名の乙女たち。英雄色を好むとはよく聞く言葉であるが、レイヴァース卿に当てはめるには正しくもあり、誤りでもあるだろう。一人のメイドのため、宣言通り神すら倒したレイヴァース卿であるが、実生活は一般に想像される乙女たちとの華やかな日々を送っているわけではない。彼は仕事一辺倒であり、実は浮いた話など一つも無く、その堅物ぶりには実父であるローク・レイヴァースが将来誰かと結婚してくれるかどうか、胃を痛めるまで心配するほどであった。これは一般に噂される内容と違う珍しい話――まさに異聞であるが、誓って真実であり、であるからこそ、堅物のレイヴァース卿が告白を行ったという事実はより際立ち、その告白を行った公園は伝説となるに相応しく、いずれは『告白の聖地』と語り継がれていくことになるだろう。
△◆▽
「ルゥゥフィアはどこだぁぁぁ――――――ッ!!」
その日、俺は竜化したデヴァスに跨り、新聞握りしめてウィストーク家に突撃することになった。
これを迎えてくれたのは偉大なる親友ヴュゼアと、ウィストーク家で家令やってるルフィアの兄――レグリントである。
「いつも妹がご迷惑をお掛けして、大変申し訳ございません」
レグリントは平謝りだったが、俺はなにも奴の兄や婚約者に責任を取らせようと突撃してきたわけではない。
最初はジェミナから精霊エイリシェにお願いしてもらい、悪徳記者の位置を把握してとっ捕まえようと思ったのだ。
が、奴はこうなることを予想していたのだろう、王都から姿をくらましていやがったのである。
そこで俺はこうして行方を尋ねに来た、というわけなのだ。
「なるほど……、話はわかった。だが生憎と、俺も姉さんが今どこにいるかは把握できていないんだ。なんでも各国で講演会を行うらしくてな、少なくとも数日は戻らないだろう」
「ぐぬぬぬ……」
奴め、俺が迂闊にお出かけできなくなっていることも計算に入れていたか。
悔しがる俺を見て、ヴュゼアは小さくため息をついて言う。
「姉さんには困ったものだが、今回はそう目くじら立てる必要は無いんじゃないか? いずれは知れ渡ることだし、どのような経緯でお前が告白することになったかについては触れられていないんだ。まあさすがの姉さんもそこに触れたらただではすまないとわかっていたからだろうが……。それにこの記事はお前たちのために用意されたものでもある。そこは何となくでもわかるだろう?」
「そ、それは……、何となくは……」
この、おそらく大陸中にばらまかれたであろう記事は、シアを巡る騒動をいい感じに誤魔化す情報戦の一環であり、さらにおまけと銘打っている割りには妙に長い婚約者たちの紹介――これはこれだけ俺に関わってやっと婚約者になれたという外部への牽制になっている。
まあこれに気づいたのはまともに記事を読み通せたシャロとリビラなのだが。
「でもね! 記事にするならこっちに話を通してくれよ、話を! 急にこんな記事掲載するもんだから、ここ数日でやっと俺も皆も落ち着いてきたのに、また告白当日みたいな有様よ!?」
この記事を目にして無邪気にはしゃぐ者、挙動不審になる者、取り乱す者、部屋に引き籠もっちゃう者――と、現在、我が家はなかなかカオスな状況になっている。
さらに、もう少し落ち着いてから皆にも伝えようと思っていたのにこれで盛大にバレた。
まあほとんどは何となく察していたようだが、察していなかったセレスはずいぶんとびっくりさせてしまった。
「ねえさまいっぱい……! あれ……、でもコルフィーとジェミナはセレスのいもーとなのに、ねーさまです?」
セレスはしばし考え込み――
「???」
そして静かに混乱した。
結局のところ、その混乱は『先に家族の一員であった自分の方が姉である』というセレス独自の主張に端を発するものであったが、ここで一気に矯正するとより混乱しかねないという判断があり、『コルフィーとジェミナはしばらく妹のままだから気にしなくて良い』と優しく諭すことで事なきを得た。
もう数年もすれば、セレスも二人の妹についての特殊性を把握できるようになるだろうし。
まあ屋敷のカオス具合についてはいいのだ。
時間がたてば落ち着くからいいのだ。
問題は、こうして明るみになってしまった以上、婚約者となった皆の親族のところへ、ご挨拶しに行かなければならないということである。
「少し落ち着いてから伺おうってみんなで決めたのに、もうすぐに行かないといけなくなっちまったんだよぉ!」
「あー、それでその取り乱しようというわけか……。そして姉さんに文句の一つも言いたくなった、と」
「そういうことだ」
ルフィアに文句を言ったところで何の解決にもならない。むしろそんな暇があったら皆とご挨拶に伺う段取りを相談すべきである。しかしそれでも言っておきたかった、えらいことしてくれやがったな、と。
「まあ、普通は一回、それでも覚悟が必要な事を、お前の場合は複数だからな。それを急がなければならなくなってしまったのは、気の毒と言うか何と言うか、うーむ……、俺からは頑張れとしか言えんな。べつに俺に何かしてくれと頼みに来たわけではないんだろ?」
「ああ、さすがにこれは頼めることじゃないしな。ルフィアの居所を聞きに来ただけだ。――あ、いや、それとこれだ。こんな訪問になっちまったが、用意してあったから持ってきた」
言いつつ、俺は小鞄をヴュゼアに差し出す。
「うん? これは?」
「相談に乗ってくれたお礼とお詫び、それからぶち破っちゃった窓の修理費と、あと皆からの感謝の気持ちです、はい。お菓子とか色々入っているので後で取りだして確認してみてください」
「ん? これ――、魔導袋か!? これごと!? いやいや、ちょっと過剰すぎるだろう!」
「うん、そう言われるとは思ったけどね、それくらい感謝しているんだよ。それにほら、うちにはシャロがいるし、魔導袋はそう希少ってわけでもなくなったからさ、ここは受け取ってもらえると嬉しい」
「うーむ……」
それでもヴュゼアは悩んだが、レグリントからここはありがたく受け取ってはどうかと提案され、最後にはちゃんと受け取ってくれた。
よかった、中身だけ受け取って小鞄は返すとか言われたらどうしようかと思っていたのだ。お菓子とか色々入っている、とは言ったが、実際に何が入っているのか、そこはよく把握していないからだ。皆が感謝の印と競うように色々詰めこんだからである。シャロも嬉々としてほいほい手製の魔道具を詰めこんでいたし、場合によっては魔導袋よりも凄い品が入っている可能性もあったりする。
「それじゃあ俺はこれで帰るとするよ。もう少しゆっくりしていきたいんだが……、みんなと話し合いをしないといけなくてな……」
「ああ、頑張れ。何とか乗り切ったら、その時は遊びに来い。こうして関わった以上、どうなったかも聞きたいしな」
「あ、それならお前が来てくれないか? 超歓迎するぞ。皆もぜひ遊びに来てくれと言っていたし」
「これだけの礼をされると、どんな手厚い歓迎を受けるのかと恐くて行けんのだが……」
△◆▽
屋敷に戻りデヴァスの背から下りたところ、まず子竜のサニアが飛んできて俺の頭に乗って「あぎゃ」と一声鳴いた。
それから人の姿になったデヴァスの肩に乗り、こっちでも一声鳴いてそのまま落ち着く。
ピヨの定位置がセレスの頭であるように、サニアにとってはデヴァスの肩がそれにあたるらしい。
「おかえりー!」
子竜に遅れ、玄関から飛び出してきたのはミーネで、それに続きシャロ、ティアウル、ジェミナというちびっ子組が迎えてくれる。
「ルフィアは見つかった?」
「姿をくらませてやがった……!」
「あらら。じゃあどうする?」
「こうなったらルフィアは後回しだ。皆はどうなってる?」
「特に変わり無しよ」
「変わり無しというのは……」
つい、とシャロを見ると困り顔でうなずかれる。
「問題無しという意味ではなく、混乱は未だ収まっておらんということじゃな。比較的落ち着いておるのはコルフィー、リビラ、リオ、シャフリーンといったところじゃよ。他はまだ駄目じゃな」
「どんな感じ?」
「どんな感じと言われてものう……」
「んとな、シャンセルはちょっと変だな! シアとサリスと、あとアレサはだいぶ変だな! ヴィルジオは部屋に篭もったままだぞ! ずっと唸ってるな!」
「ヴィルジオは重傷か……」
これまでどっしり構えた姉御肌な印象を与えていたヴィルジオだが、ことこれに関しては俺と同レベルでとてもとても弱かった。
「最近のねえちゃんはだらしないな!」
「そう言わんでやってくれ。俺も似たようなものだから」
「主、どうする? ジェミ、ヴィルジオ引っぱりだす?」
「やめたげて! あー、じゃあヴィルジオは俺が説得してなんとか出てきてもらうから、みんなを食堂に集めておいてもらえる?」
「みんなと言うのは、婚約者全員ということでよいのかの?」
「ああ、それで――、あ、いや、父さんと母さんにも参加してもらった方がいいし、ティアナ校長にも助言をもらいたいな」
考えた結果、話し合いには婚約者一同、それからうちの両親とティアナ校長、あとリオの補佐としてアエリスに参加してもらうことになった。
この間、リィとパイシェとデヴァスにはクロアとセレスを任せ、赤ちゃんベリア改めアリベルくんはレスカとシオンに面倒を見ていてもらうことにした。
まあ言われるまでもなくレスカはアリベルの面倒を見ているのだが。
あと外で勝手に警備している闘士連中は……、放置でいいか。




