第74話 9歳(春)…冒険の書『廃坑のゴブリン王』(後編)
『町へと戻ったきみたちは町の様子がいつもと違うことに気づいた。
広場に人が集まっており、なにやら騒ぎが起きているようだ。
きみたちが広場へと向かうと、人だかりの中心になっていた男たち――元冒険者たちが大声をあげた。
「来たぞ! そうだ! そいつらがゴブリンどもによけいな刺激をあたえているんだ!」
「そいつらを放っておいたら大変なことになるぞ!」
「すぐに捕まえてどこかに閉じ込めておくべきだ!」
「このままではすぐにでもゴブリンが報復に押し寄せてこの町は滅びてしまうぞ!」
元冒険者たちはきみたちのせいで町に危機が訪れるという印象を人々に植えつけようとしていた』
「はあ!?」
ミーネがかなりイラッとしたような声をあげた。
「なによそれ! わたしたちはゴブリンたくさんたおして製錬所も安全にしたのに! それにその元冒険者ってこれまでどこでなにをしてたのよ!」
「うん、まって。悪いようにはならないからもうちょっとまって。首しめるのやめて」
全滅もしちゃったことだし、このイベントはかなりストレスになったのかミーネはおれにくってかかってきた。
これはさっさと先に進めねば……。
『元冒険者たちが好き勝手に扇動していることに怒りをおぼえたミーネはこれまでの実績を怒鳴り返すように告げ、そして持ち帰ったゴブリンリーダーの首を人々に見せた。
普通のゴブリンよりも明らかに大きいその首を見て、集まった人々は驚きの声をあげる。
するとそこに、騒ぎを聞きつけた町長が現れた。
町長はゴブリンの首を見たあと、きみたちがこれまで何をしていたかを尋ねた。
「なるほど。これまでおまえたちが町のため、色々と働いていたのは聞いていたが……まさか製錬所のゴブリンを片付けてしまうほどとは予想もしていなかった」
そう言ったあと、町長は元冒険者たちに言う。
「それで、おまえたちはこれまでいったい何をしていた? 町にこもって好き勝手に飲み食いして、ときどき町の周囲をうろついてゴブリンの首をひとつふたつ持ち帰る以外に、だ。――どうした? ついさっきまで大声をはりあげていたというのになにを黙っているんだ? そうか、言うべきことはないか。だが私にはあるのだよ。このままおまえたちがなんの成果もあげられないならば、提供した武器や防具に道具、飲み食いした代金はきっちり払ってもらう。それが嫌ならばさっさと仕事にとりかかって成果をだせ。以上だ」
町長に言われたことに愕然とした元冒険者たちは黙ってその場から逃げていった。
元冒険者たちはきみたちを陥れようと画策したが、その目論見はこれまできみたちが培ってきた信用の前にもろくも崩れ去った。
きみたちの行動は依頼主だけでなく、ほかの人々にも、そして町長にも評価され認められたのだ。
町長はきみたちに言う。
「おまえたちは実力を証明した。もしおまえたちにまだやる気があるのなら、私はおまえたちに依頼をしよう。ゴブリンを倒し、そして町を救ってくれ」
町長はきみたちに依頼をした』
「この物語における最後の依頼〈導名なき覇者〉が発生しました。達成条件はゴブリンからこの町を守りきることです。この依頼の発生により、町での買い物をするとき価格が半額になります。この依頼には時間制限があります。これより十日の間になにかしらの対処をおこなわなければ町はゴブリンの襲撃をうけて壊滅してしまいます」
「ほわ!?」
ミーネが奇声をあげた。
「あと十日って、十日なの? どうすればいいのよ!」
「がんばれ」
「がんばれって!?」
唐突に滅亡までのカウントダウンが始まってミーネは困惑しているが、実はそれほど深刻な状況ってわけでもない。製錬所はパーティを鍛える場所だったし、中ボスやっていた亜種は戦力のチェッカー役だ。
それをあっさりとクリアしてしまっているんだから、うまくいけば次の遠征でゴブリン王までたどり着いて倒すことができるだろう。
「えっと、じゃあどうすればいいのかしら、あ、え?」
ミーネは慌てふためいていた。ちょっと落ちつきなさい。
そんな妹をアル兄は笑顔で眺めていたが、ふと尋ねてくる。
「その依頼って、王を討伐しなければいけないものなのかな?」
「必ずしも討伐しにいく必要はありません」
「なるほど……、でも倒しにいったほうがいいよね。ミーネもそうしたいだろうし」
「ん? おにいさま、どういうこと?」
ミーネはよくわかってないが、それ以外はなんとなく理解したようだ。
依頼は町を守りきること。
なのでゴブリン王を討伐にいく以外にも、町の防衛を強化してゴブリンを撃退するという方法もとれるのだ。
襲撃してきたゴブリン王を倒せば防衛戦は成功となるが、そのとき町が受ける被害の度合いというものが設定される。この度合いはこれまでのクエスト受注数と達成数が関係する。ミーネたちはすべてクリアしてきたので、防衛戦をした場合その被害は軽微となる。ほかにも物語開始時の分岐――鉱山町内政ルートで話を進めてきた場合かなり有利な状況で戦えるなど設定してあったが、まあ、出番はない。町人を武装させてかりだしたり、元冒険者を説得して味方にするといったやりとりも、出番なしで終わりそうだ。
ちなみに、クエスト放置だった場合は元冒険者に煽られっぱなしで町人や町長の理解もえられず、防衛戦自体が行えなくなってしまい、あとはもう鉱山に突っこんでゴブ王をぶっ殺すしか選択肢がなくなったりする。
「依頼を達成する方法はこのように大きくふたつにわかれますが……、王の討伐を目標とするということでよろしいですか?」
「もちろんよ!」
まあ尋ねるまでもなかったが、とりあえず確認をした。
「だって町に被害がでるかもしれないなら、たおしにいっちゃったほうがいいでしょう?」
ミーネは当たり前のことのように言う。
これが遊びだからというわけではなく、もし現実であってもミーネはそう言うだろう。おれを逃がすためにかなわないと理解しつつも大熊と戦おうとしたくらいだ。
こういった、誰でもそう考えるが行動には移せないこと――それをやってのける勇敢さに関しては手放しで賞賛する。
おれには真似できないことだし。
「半額なんだから武器と防具を買わなくちゃいけないわ!」
「ミーネや、待ちなさい。落ち着きなさい。武器や防具でお金を使い切ってしまったら道具や食料が買えなくなってしまう。まずはそちらからだ」
ミーネは十日という時間制限は驚いたようだったが、物の価格が半額になるというメリットには大喜びだった。
一同はまず手にいれた換金アイテムを売りはらい、必要となる道具や食料を購入。それから高くて手がでなかった武器や防具を買いそろえ、パーティの戦力を向上させた。
ゲーム開始時は遠征の準備などほったらかしで任せきりだったミーネだが、今では混じってあれこれと口をだしたり尋ねたりしている。
遠征の準備はとても重要だと少しは理解できたのだろう。
……だよね?
「鉱山まではもう楽に到達できるだろう。到着する頃には夜になっているだろうが、鉱山内にはいるのであれば関係ない。製錬所で少し休息をとった後、暗闇に乗じて坑道に侵入するというのはどうだろう? 状況が変わっていなければ、だがな」
バートランはそう言うと、ちらっとおれを見る。
なんか警戒されてるなー。
まあその予想は大当たりなんですけどね。
準備を整えた翌日、ミーネたちは鉱山を目指し出発。
製錬所エリアで休憩となったが、〈夜目〉の能力をもつエドが単独で鉱山エリアの偵察に向かう。
結果、坑道の入り口には篝火がたかれ、見張りのゴブリンが配置されたことが判明する。
製錬所が制圧されたため、異変を察知したゴブリンは拠点の防衛を強化したという設定である。
「前回は落とし穴にしてやられたからのう、今度はこちらが落とし穴で仕返ししてやろうと思うんじゃが……よいかの?」
マグリフがそう提案し、その罠の詳細を説明する。
鉱山入り口から少し離れた場所にアースクリエイトで巨大な落とし穴を作り、そこにゴブリンをおびき寄せる、というものだ。
提案はみなに受けいれられ、翌朝、さっそくシャーリーが全魔力を消費して巨大な落とし穴の罠を作りあげた。穴の底には薪になる枝や枯れ草などが敷きつめられ、油がまかれるという念のいりようだ。おびき寄せたゴブリンがすべて乗ってから罠を発動させるように、蓋はアースクリエイトで成形されている。
完全なハメ殺しのための罠が完成した。
シャーリーの魔力を回復させるため一晩休息をとり、翌朝、作戦が決行される。
囮になるのは遠距離攻撃ができて素早さの高いエド。
エドは見張りのゴブにボウガンで一撃喰らわせて誘き寄せる。
見張りのゴブリンは四体。〈仲間を呼び寄せる〉の能力によってサイコロの出目の数だけ仲間を呼び寄せられる。
おれは四回ダイスをふり、結果、十四体の増援が鉱山内から現れた。
合計十八体のゴブリンがゴブゴブ言いながらエドを追っていき、待ちかまえていたミーネたちと戦闘に突入する――
「ほっほっ、では、フローズンアクシデント。アースクリエイトで落とし穴の蓋を壊す」
――こともできず、フローズンアクシデントによりまとめて落とし穴に落下が確定した。
「じゃあファイヤーアローね」
ミーネの追撃。
哀れゴブたちは炎に包まれる……。
『きみたちは見張りのゴブリンたちを片付け、鉱山入り口の安全を確保した。
鉱山の奥は暗闇に包まれており、かつて貨車を利用していたであろうレールの痕跡がきみたちを内部へといざなうように続いている。地面には歩きやすくするためか、まだ朽ちきってはいない木の板――』
「そこを調べるわ!」
『――が通路に並べ――、あ、はい。
ミーネは木の板に違和感を覚えてよく調べてみた。
すると……、板の下に落とし穴の罠があることがわかった』
こうしてミーネ一行は本格的に鉱山内部へと侵入した。
鉱山内はおれがダイスをころころしてのエンカウントではなく、要所要所にゴブリンが待ち受けるタイプになる。
なのでそのポイントに到達するまでは歩きまわり、まっさらなマップを埋める作業に専念することができる。
迷路のごとき坑道をミーネはせっせとマッピングする。
『この通路はここで行き止まりだった。
きみたちは分かれ道まで戻ることにした』
「うぅ、じゃあこっちはここで行きどまり……っと」
ちまちました作業だがミーネはわりと楽しそうに取り組んでいる。
が――
「ねえ、こっち行きたい」
『そこは壁ですね』
いきなりだったので語り口調でおごそかに突っこんでしまった。
ってかなんだ?
なんか無茶を言いだしたぞ。飽きたのか?
「壁なのはわかるけど、なんかこの先にゴブリン王がいるような気がするの。魔法で穴をつくってとおりぬけられない?」
うん、いるね、確かにそこぶち抜いていけばゴブリン王いるね。
でもいきなり壁ぶちぬいて登場したらゴブリン王もびっくりだよ。
びっくりして死ぬよ。
「アースクリエイトで穴をあけていってもいいけど、そのためには必ずいるっていう根拠がいるし、それに坑道にほいほい穴をあけるのは危険だ。だからダメ」
「むー」
ミーネはちょっと不満そうにふくれる。
まったく……。
いきなりわけのわからん直感をはたらかせるのはやめてほしい。
それからミーネはその謎の直感によってあたりをつけた場所に近づくようにルート選択し始めた。
どんだけ自分の勘を信頼してるんだおまえは。
『きみたちが慎重に坑道を進んでいると、ふいに、ゴブリンの鳴き声が響くのを聞いた。
すると、その声をかわきりに次々と鳴き声があがり始めた……』
「仲間の死体を発見したゴブリンが仲間に警戒を呼びかけました。これから坑道内では遭遇戦が発生するようになります」
坑道内は警戒態勢になった。
だがミーネが勘にしたがった結果、ゴブリン王までもう少しだ。
これまでの戦闘でやや消耗しているが……、おそらく勝利できるだろう。
まあミーネなら、ここまできて引き返すことはしないだろうし――
「もどりましょう」
「え?」
ミーネがはっきりと撤退を宣言したことが予想外すぎて、おれは思わずきょとんとしてまぬけな声をあげた。
「……えと、戻るの?」
「もどるわ。だってこんなところでいっぱいゴブリンきたら危ないじゃない。フローなんとかももうないんでしょ? やりなおしができないなら、むりしないほうがいいもの。それにもうだいぶ道もわかったし、もどって休んで、次でいっきにいけばいいわ」
「…………」
おれはちょっと……、勝手に感動していてすぐには反応できずにいた。
やりなおしがきかない――、と。
ものすごく当然のことをミーネは言った。
が、その当然が欠落していると思ったからおれはこのゲームを用意したのだ。
このゲームを始めたばかりのときだったら、おそらくミーネは突撃を選択しただろう。
ということはだ。
ミーネはこの遊びを通して、状況を把握すること、不利ならば撤退する、という考え方を身につけることが出来たということになる。
もちろんこれは遊びだ。
現実でも同じように冷静な判断が出来るようになるわけではない。
だが、そのきっかけは――、掴めたのかもしれない。
つまり今この瞬間、おれが冒険の書をせっせと製作した目的は達成されたのだ。
もうなんかここで「コングラッチュレーション!」って拍手してゲームクリアにしていいような気さえしてきた。
まあ本当にそれやったらガチギレされそうだ。
だから……、せめて鉱山から出るまでのエンカウントころころはなしにしてやろう。
『鉱山内のゴブリンが警戒を強めたため、きみたちはいったん鉱山をでることにした』
ミーネたちは鉱山から製錬所まで移動して休息をとる。
亜種もふくめ、ゴブリンをぶっ殺しまくったのでレベルアップ。
まあこれが最後のレベルアップ作業だろう。
ミーネたちは製錬所で休息をとったあと、いよいよ決戦と覚悟を決めて鉱山へ出発する。
鉱山入り口に見張りのゴブリンが再配置されていたが、そんなものは速攻でぶっ殺して内部へ突入する。見張りゴブの〈仲間を呼び寄せる〉は前回仲間をぶっ殺されまくって使用不可能だったというのもあるが、ほぼ無傷で突破だ。
前回マッピングすることができた地点まで最小戦闘回数で到達すると、ミーネはそのまま自分の勘を頼りにマップの空白をうめていく。
そして――
『坑道を進み続けたきみたちはとうとうゴブリンたちを支配する者――ゴブリン王の潜む広間へとたどりついた。
ゴブリン王は石から削りだされた玉座に腰掛けている。
ゴブリン王の左右には護衛がそれぞれ一体ずつ。
一体は頑強な鎧を身につけ、大剣を持つゴブリンウォーリア。
もう一体は動物の毛皮で身をつつみ、骨を寄せ集めて作られた杖をもつゴブリンメイガスだ。
ゴブリン王はきみたちを睨みながらゆっくりと喋り始める。
「……よクも同朋ヲ、やッてくれたナ。忌々シい人どモめ。キサマらはいつモそウだ。我々ガ、おマえらの同朋ヲ殺スと言い、我々ヲ殺ス! 我々ガ生きルことヲ、否定する! 賢いつモりの愚カ者どモめ! おマえらの同朋ヲ殺スのは、いつもおマえらの同朋ダ! ……おマえらは同朋ヲ殺シ、我々ヲ殺シ、竜ヲ殺シ……、そして魔王すらモ殺ス! さア、来るがイイ恐るベきモノドモめ! この矮小なゴブリンの王ガ相手になろウ!」
ゴブリン王が立ちあがりきみたちに襲いかかる!』
さてラスボス戦である。
ようやくようやくラスボス戦である。
おれはラスボス戦用のマップを用意して素早くミーネたちの駒、それからゴブリン王と護衛二体を配置、そしてカードを行動順に並べる。
ちょっとみんなが渋い顔をしちゃってるのはゴブリン王のセリフにインパクトがあったせいだろうか?
ラスボスだし、こう、王らしく盛りあがるようなセリフにしたつもりだったんだけど……。
もしかして「ウキャーッ! 殺ス!」くらいでよかったか?
「それではこれよりゴブリン王との戦闘を開始します」
戦闘開始。まずは最初に動けるバートがゴブリン王につく。攻撃はしかけず足止めすることに専念。次にエドだが、行動を保留して順番割りこみ待機。ここでいったんおれ――ゴブリン王の順番になる。
ミーネたちの作戦はバートとダリスで王とウォーリアを足止めし、その間にメイガスをミーネ、エド、シャーリーの三人で総攻撃して蒸発させるというもの。
もちろんそう簡単にはさせない。
ラスボス戦ですし。
「ゴブリン王は〈配下召喚〉の能力を使用しました。必ず三体のゴブリンが戦闘に参加するようになり、倒しても次のターンで補充されます。この能力はゴブリン王が死ぬまで効果を発揮し続けます」
おれは宣言してゴブリン三体をいやらしく散開させて配置。
ミーネが眉間に寄せてバートランに尋ねる。
「んんー、これどうしたらいいのかしら?」
「ふむ、倒しても倒しても追加されてしまうのか。……封じ込めた場合はどうなる?」
「その場合、追加はありません。倒した場合のみ追加されます」
「ということは……、やはりまずメイガスを叩くべきか?」
バートランは少し考えたあと、パーティメンバーで戦う相手を分担する提案をした。
ゴブリン王はバート、ウォーリアはダリス、メイジはエド、そして無限湧きのゴブリンたちはミーネとシャーリーでぶっ殺し続ける。ただのゴブリンなのでダイスで1のゾロ目――痛恨の失敗でもやらかさないかぎり瞬殺だ。アル兄は体力が危ないキャラを回復である。
そしてまず一ターン。
バートとダリスは回避や防御に専念しているためダメージは軽微。メイガスはエドの攻撃でうけたダメージを回復するため攻撃はできない。アル兄はシャーリーに補助魔法を。ミーネとシャーリーはそれぞれゴブリンをぶっ殺す。残ったゴブリン一体がミーネに攻撃をするも大したダメージではない。
その結果からバートランは二ターン目は戦い方を変えると説明する。
「ゴブリンはそれほど脅威というわけではないようだ。ミーネとシャーリーはエドと一緒にメイガスを叩いてくれ。メイガスを倒したらウォーリアを、そして王を、だ。アルは補助魔法を皆に。体力はそれぞれ持っているポーションで回復しよう。ポーションがきれるまでにウォーリアを倒せればこちらの勝ちだ」
うん、そうだね、って普通に勝ちだよ。
追加されたゴブを無視する判断ができたらこの戦闘の難易度は一気に下がるから。
実のところ〈配下召喚〉で登場するゴブ三体はゲーム的なブラフのようなものなのだ。すぐ殺されるし、与えてくるダメージも今となっては微々たるもの。これは対処しておかなければならない、という心理をついた罠なのだ。さらに言えば、この戦闘で最も効率のいい戦い方は全員で王に総攻撃である。王が攻撃されるとウォーリアは必ず〈かばう〉を使う。王やウォーリアの体力が一定以上減るとメイガスは必ず回復をする。そうなるとパーティが受けるダメージは王のそれなりの攻撃とゴブ三体のしょぼい攻撃だけとなるのだ。
まあこれはパーティメンバー全員が攻撃役だったりした場合の救済処置的なもの。おれが設定した戦い方はバートランがやったとおりのもの。つまり余力があるうちにゴブ三匹を無視する判断をしなければならないというものだ。……二ターン目でいきなり見切られてちょっと悲しかったけども。
バートランの的確な指示により、そしてミーネの豪運により、三ターン目にしてメイガスが回復が間に合わず死亡した。
アースクリエイトを妨害できる者がいなくなったため、シャーリーはゴブリン王を土の壁で囲んで隔離。
それから皆で仲良くウォーリアを総攻撃して五ターン目に倒した。
そして土の壁から解放されたゴブリン王はこれでもかと攻撃を叩きこまれ……、七ターン目に蒸発した。
さらばゴブリン王。
あとは残ったゴブリン三体を始末して――
「よし、よし、やったわ! これで町は大丈夫よね!」
ぐっ、と拳をにぎりしめてミーネが声をあげた。
「うんまあそうだけどちょっと待って。まだ町に報告とかあるからもうちょっと待って。ほらあれだ、お菓子の木をとりにいったときも言ったでしょ、お家に帰るまでが冒険だって」
『きみたちは見事ゴブリン王を討伐し、その証拠としてその首を持ち帰ることにした。
広間の奥にはゴブリンたちが集めたゴブリンの宝があった』
戦利品の入手判定。
もうゴブリン王倒しちゃったんだからいるのか? ――と思うが、まあお約束というかないよりはあったほうがいい。ミーネはやはり嬉々としてダイスを転がすわけだが、これはもう意味がないとわかっていないのか、それとも射幸心に毒されてしまったのか……。
『宝を回収したきみたちは鉱山の出口へと引き返していく。
そしてようやく外へとでたとき、きみたちの前に立ちはだかる者たちがいた。
元冒険者の男たちだ。
男たちは武器をかまえてきみたちに言う。
「その包み……まさかゴブリン王を倒しやがったのか!」
「べつにいいさ、どうせ殺すんだ!」
「おまえたちにはここで死んでもらう!」
「よけいなことをしなければ死なずにすんだのにな!」
町での立場があやしくなった男たちは手柄を奪おうと襲いかかってきた』
「殺すわ」
これまでイラッとしたりムカッとしたりしてきたが、これでとうとう限界にきたのか、ミーネは真顔で宣言した。
うん、恐い。
あとここはシステム的にぶっ殺すことはできないです、はい。
そしてこの物語における最終戦が開始されたが、まあ、あっさり終わった。
最初こそかなわなかったが、今となってはザコである。
安全な場所に戻るまで油断しないようにという教訓のためのイベントだったが……、ミーネさんは学んでくれただろうか。
もうキレてしまってそれどころではなかっただろうか。
『元冒険者たちを叩きのめしたきみたちは、彼らを縛りあげて町まで連れ帰った。
きみたちはすぐに町長にゴブリン王を討伐したことを報告し、その首を見せた。
そのあと元冒険者たちが襲ってきたことを説明し、その結果、元冒険者たちは罪人として町の牢屋に放りこまれた。
元冒険者たちはその後、町への借金、そして保身から起こした犯罪に対しての罰金を払うことができず犯罪奴隷として売りはらわれることになる。
町長は広場に町人を集め、きみたちの活躍を話した。
翌日には町ぐるみの宴会が開催されることになり、人々は町の英雄であるきみたちを大いに褒め称えた。
……それからしばらくの後、冒険者ギルドから調査員が派遣されてきた。
町長は騒動の顛末を話して聞かせた。
その報告をうけた冒険者ギルドはゴブリン王を討伐した勇敢なきみたちに王都の冒険者訓練校への紹介状を送った。
きみたちのさらなる活躍を期待して……』
「ゲームクリア。おめでとう」
「やたーっ!」
宣言した瞬間、ミーネが喜びいさんで万歳をする。
ただ勢いが強すぎて、万歳したまま椅子ごとバターンと後ろにひっくりかえった。
ミーネはびっくりしてちょっと固まっていたが、妙なテンションになってしまっているのかそのままの状態で「あはははは!」と笑いだし――
「ははは、は――、はぁ……、ぐぅ……」
そして寝た。
「寝た!?」
笑いながら寝る人間とか初めて見たわ。
だがまあ無理もない。
開始からすでに十二時間が経過、もうすっかり深夜になってしまっている。いつもならぐっすり眠っている時間だろう。
気力の限界――気を抜いた瞬間に眠りこんでしまうほど楽しんでもらえたようでなによりだ。
※誤字の修正をしました。
2017年1月26日
※さらに修正しました。
ありがとうございます。
2018/12/09
※さらにさらに修正。
ありがとうございます。
2019/01/19
※さらにさらにさらに誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2020/02/02
※さらにさらにさらにさらに誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2020/05/30




