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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
11章 『想うはあなたひとり』編
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第723話 14歳(春)…俺の名は?

 決戦から一夜明け、やっと落ち着いた王様たちとの会議。

 まずはシアが感謝を述べ、それから話し合いは始まる。

 国が戦いに協力したとなれば、それなりの見返りを求めるもの。

 しかし今回は事態が事態であり、俺が半ば騙くらかしてうやむやのまま戦いに参加させたので、対価についての契約などは一切していなかった。

 それはつまり、俺には報酬を用意する義務が無いということなのである。

 しかし、さすがにそういうわけにもいかないのだ。

 切羽詰まった時ならいざしらず、大陸中の国々に喧嘩を売れるほど俺の心臓は強くないのである。

 平和が訪れたからいいじゃないですか、あははー、なんて誤魔化すのはちょっと無理。

 そう思っていたのだが、どういうことか、場の雰囲気としては割とそんな感じで俺の方がちょっと戸惑っていた。

 どうやらこれは兵を動かすための莫大な費用がずいぶんと抑えられたというのが大きいようだ。武器も食料も、怪我の治療も、すべてはイールがなんとかしたので、国の出費としては特別報奨金くらいのもの。奇跡的に死者の出ない戦いとなったので遺族への補償も必要無い。

 とは言え、だから何も無しというわけにはいかないし、王様たちとしても貰えるものなら欲しいところだろうが、ここは『無償で戦いに参加した』という名誉をとりたかったらしく大人しかった。

 もちろん、それは被害がまったく無かったから、という前提があってのものだが。

 こうなると苦しいのは発起人の俺である。

 その心意気に報い、なんかしてやらないといけなくなる。

 どうしたものかと俺が頭を悩ましていると、シャロが助け船を出してくれた。


「ではわしが何か提供しようかの。魔導袋を幾つか――、いや、それだけではつまらんな。ではそれと、あと好きな場所に精霊門を一つ設置するということでどうじゃろうか?」

『――ッ!?』


 精霊門の増設。

 シャロと一緒にいる俺からすれば大したことでは無くなってしまったが、本来であればこれは有り得ない事だ。

 魔導袋なら金を積みさえすれば入手は可能だが、精霊門となればもう金の問題ではない。

 それが一つ、望む場所に設置できるとなり、これにはちょっともじもじしていた王様たちもご満悦になった。


「……シャロ、悪いな……」

「……なに、弟のことがあるのでな、わしとしても何か詫びをせねばならんし、婿殿の助けになるならなおさらじゃ……」

「……ありがとう……」

「……うむ……」


 こうして面倒な問題がすんなり片付き、次の議題となったのだが……、王様たち、どこに門を設置してもらおうと上の空になりかけてんな。

 ここで昨日の二の舞になってもらっては困ると、俺はなんとか会議に意識を向けてもらえるよう誘導する。

 こうして会議は続き、幾つかの取り決めをしたあと、一番の問題になりかねない事柄に話が移った。

 それは浄化された瘴気領域、あの広大な荒野をどうするか、である。

 通常であれば戦いに参加した国すべてで分割という流れになりそうなものだったが……、どういうことだ、何故みんなしてあの場所を俺に放って寄こそうとするのだ。


「神聖レイヴァース王国、いいではありませんか」


 大神官ネペンテスがうっとりして何か言ってる。

 確かに大陸中の王や代表が集まる場、新しい国を誕生させるのにちょうどいいのかもしれないが、そんな『せっかくだから』みたいな感じで俺を王にさせようとするんじゃねえ。おかしいだろ。つかそれは嫌だ。マジで勘弁だ。国の運営とか、絶対苦労するやつをやらせようとすんな。俺はもうあとは悠々自適に暮らしたいんだ。それが許されるくらいの働きはしたつもりだ。

 しかしのんべんだらりと暮らしたいからお断りします、とは言えないので、何とか理由を付けて断った。

 このお断りにずいぶんと時間がかかってしまったが、こうなると話は『元瘴気領域をどうするか』という振りだしに戻る。


「僕としては六カ国に任せようと思うんですけどね」


 土地とは言っても、しばらくはただの荒れ地。雨が降れば山は崩れるわ、川は氾濫するわ、いやそもそも、現状あそこは雑草一本すら生えていない死の荒野だ。そんな地域を開発するとなれば相当な期間と多くの資金が必要になる。

 遠く離れた国々に割譲したとしても、まず管理することが難しい。


「シャロに設置してもらえる精霊門をそこに置くことにすればいいのでしょうが……、見込みが不透明な地域に門を設置することはかなりの賭けになりますから。それに六カ国はずっとスナークの防波堤になっていました。幾度も今回の様な戦いがあり、多くの犠牲を払ったことでしょう。ならば受け取ってもいいのではないかと」


 これは今回スナーク戦を目の当たりにした王たちだからこそ受け入れられる話である。イールのような存在が不在の状態で、絶望的な戦いをしてきたことには深い敬意を覚える。


「なるほど、ではその憂いをすべて取り除いた猊下にこそ――」

「はい、黙る。そこ黙る」


 おいこら大神官、あんまりしつこいとアレサに連れだしてもらって説教させるぞ。

 大神官はアレだったが、俺の提案もあり、元瘴気領域は星芒六カ国が管理することになった。

 そしてそんな荒野のど真ん中にある古代都市ヨルド。

 そこだけは俺が管理することになってしまったが、それくらいならまだ許容範囲内である。

 そのうち歴史公園として公開でもしようかな、と俺は考えつつ、最後の議題に移る。


「ところで、やっぱり式典とかやった方がいいんですかね?」


    △◆▽


 世界救済式典――。

 この胡散臭い名称の催しは、古代都市ヨルドの郊外――千年以上ほったらかしになっていた荒野に超大規模な式典会場が用意されて執り行われることになった。

 まあ会場とは言っても、用意するのは舞台と、それから人々を集める場所の地ならしをするだけである。

 この式典では作戦に参加した人々をその役割ごとにまとめて表彰することが企画され、特に目覚ましい活躍をした者はまた別枠で盛大に表彰することになった。

 これにはまず俺やシャロ、イールといった面々が挙げられたが、それに続きデヴァスも候補に挙がった。

 作戦の第一歩であり要となる任務の遂行、その頑張りによって軍の士気を向上させ、さらに暗黒竜を押さえ続けた功績は非常に大きい。

 ドラ父さんは領地を与え、竜皇国の貴族として迎え入れる準備があるとまで言ったのだが、後でデヴァスに伝えてみたところ――


「私はこのお屋敷の使用人でありたいのですが……」


 と、気の毒になるくらいありがた迷惑な顔をしたため、俺が直接ドラ父さんにお願いに行って特別な勲章だけで勘弁してもらえることになった。

 まあデヴァスの場合はドラ父さんが張りきったせいでちょっと特殊になったが、基本、個別表彰の連絡は順調に進んだ。

 一方、順調に進まない準備もあり、例えばそれは式典参加希望の貴族や組織関係者の名簿作りなのだが、それは王様たちが各自でやることなので俺には関係が無い。

 と言うか、俺がやることはほとんど無い。

 なので俺は式典が執り行われる予定の一ヶ月後まで、屋敷でごろごろしているだけでいいのだ。

 俺はごろごろした。

 何一つ仕事をせず、本当に毎日毎日ごろごろした。

 実際はごろごろするのも三日で飽き、お仕事をしようとしたら絶対安静だと皆に止められただけである。

 体は作り直されたから、以前よりずっと健康になっているんだけどなー……。

 決戦から一週間もした頃、俺は暇を持てあまして迷宮庭園の草原に寝転がり、付き合いで一緒にいてくれる皆とだらだらお喋りしたりお昼寝したりという、贅沢な日々を送っていた。

 人々で賑わっていた迷宮庭園も、今はもうかつての静かな場所に戻っている。

 いや、以前とは違うところもあるか。

 今回のことでずいぶんと増えた珍獣が草原を走り回っていたり、のこのこ歩いていたり、空をふよふよ飛んでいたりするからだ。

 そんな珍獣たちにネビアは片っ端から喧嘩をふっかけまくり、そして負けまくっている。

 現在も敗退記録を更新中である。

 いったい何がネビアをそこまで闘争に駆り立てるのか。

 もしかしてよくわからない新入りが我が物顔で縄張りを歩き回っているのが気に入らないのだろうか?

 まあネビアは思うところがあるようだったが、珍獣たちは屋敷の皆に好意的に受け入れられている。

 デヴァスが真っ白ふわふわな子竜――元暗黒竜のサニアに懐かれまくって戸惑っているのがささいな例外というくらいだ。


「あーあ、無駄に有名になっちゃったなー……」


 今日ものんびり庭園で過ごす。

 仰向けに寝転がり、セレブと命名した白いもふもふエビフライ――ゴマフアザラシの子供にしか見えないイルカの子供(もう訳が分からない)が上空を匍匐前進している様子を眺めつつ呟く。


「いーんじゃないですかー?」


 近くで同じように寝転がっているシアが言ってくる。

 確かに悪くはないのだが、もう名声値とかいらないから有名になる必要が無いんだよな。

 一応、皆にも名前の問題がどうにかなったことは伝えてあった。

 さよならセクロス、こんにちはヴィロックなのだ。

 暇神の呪いから解き放たれた今、以前ほどセクロスという名に嫌悪感と憎しみを感じなくなってはいたが、それでもそのままにはしておけない。

 呼ばれたらやはり普通にイラッとするからである。

 変えられるなら変える。

 そりゃ変えるに決まってる。

 俺の名前はヴィロックだよーと大々的に告知するのはそのうちとして、まずは自分を始め、周りのみんなに慣れてもらうところからだ。


「ふふ、やっとあなたのことを名前で呼べるわね、ヴィロック」


 名前のことを伝えたあと、まずそう言ったのは何かを懐かしむように微笑みを浮かべたミーネだった。


「……」

「どうしたの?」

「ん、ああいや、何気にこれが初めてだなって思ってな。そっちの名前が自分の名前だってわかるようになってから、呼ばれるのがさ」

「どんな気持ち? 嬉しい?」

「違和感がすごい」

「あら、奇遇ね、私も違和感がすごいわ」


 これまでなるべく名前を呼ばせないようにしていたからな、俺はもちろんのこと、ミーネも、そして皆も違和感がひどく、結局はこれまで通りあまり名前を使わない呼ばれ方に戻ってしまった。

 なんだか切ない。

 まあ、これはおいおい慣れる・慣れてもらうということにしよう。


※最後の部分を少し変更しました。

 2019/12/09


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[一言] とうとう、クララが…起つのか? それを目にした各人の反応は。 混乱してペチコーン!ってひっぱたく子いないかな。
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