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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
11章 『想うはあなたひとり』編
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第722話 14歳(春)…戦い終わって日が暮れて

 実を言うと、すべて終わった後のことはあんまり考えてなかった。

 これを考えるのは俺ではなく、次に生(?)を受ける俺2号の仕事だと思っていたからだ。

 まあ俺2号からすれば『一応は考えとけよ!』と俺1号を罵ることになっていたのだろうが。

 しかしそれでも、不安がっている各国の人々に危機が去ったことを伝える計画だけは考えていたため、まずはルフィアに「あぁぁ――ッ!」と超急ぎで記事を仕上げさせ、それをイールに「ぬぁぁ――ッ!」と大量に印刷させた。

 この甲斐あって、決戦終了から三時間後には精霊門を利用して記事を大陸中にばらまくことが出来るようになった。

 そして文字通り、記事は竜騎士の皆さんに頑張ってもらって本当に空からばらまいてもらった。

 お疲れのところ申し訳ないと謝りつつのお願いだったが、竜騎士たちは快く――、ってか大喜びでこれを引き受け、アズ父さんみたくちょっと妙なことになってるデヴァスまでもが参加。イールが用意する号外(?)を抱えては飛び、ばらまき、そしてまた補充に戻ってはすぐに出発という忙しない作業を繰り返した。

 他にも、聖女や認定勇者、闘士や冒険者たちも嬉々として作業に協力してくれ、この献身的な働きによって事態が収束したことは今日の内に広く知れ渡ることになるだろう。

 そして、である。

 これ以外のことはホントに考えていなかったため、ちょっと王様たちに集まってもらって話し合いを行うことにした。

 会議の場所は『バベルの先っぽ』展望台で、現在は状況説明を行った野外講堂が再現されている。

 そんな会議場には、塔をぐるっと包囲するように囲んで大騒ぎしている人々の声が届いていた。ひとまずの食事だけでなく、もういいかとお酒も解禁したのがちょっとまずかったか、奇声やら国歌らしき大合唱やら、ともかく騒がしい声が塔の上まで響いてくるのだ。

 やかましいとは思いつつも、ここは目を瞑るところ、余計な口出しはせず好きなようにやらせている。

 嬉しそうに飲み食いしている食料がイールの用意したものであるという申し訳なさもあるか。

 あと、ふと思うのだが、俺の体ってイールが用意したものに暇神がちょいちょいと手を加えたものなのだろうか?

 ってことは、あれか?

 俺って皆が飲み食いしているものと原料は同じってことで……。

 え?

 俺ってオーク仮面の次はウンコマンなの?

 いや、いやいやいや、さすがにこれは無い。

 いくらなんでも無い。

 オーク仮面とウンコマン。

 どっちがマシかとなったら、さすがにオーク仮面である。

 厳密には、イールがウンコを材料として様々なものを作り出しているわけではないとわかっていても……、ちょっと複雑である。

 これについて深く考えるのはやめよう。

 せっかく生き返ったのに死にたくなるのでやめよう。

 あ、そう言えば仮面の奴ってどうなったんだ?

 暇神の所にいるときは、ミーネがあまりにもアホだったせいですっかり意識から抜けていた。

 ちょっと試しに心の中で呼びかけてみる。

 と――


『(何か用か?)』


 あ、反応があった。


「(おまえもこっちに戻れたのか。あいつに何か面倒押しつけられる代わりにか?)」

『(条件は新たな悪神に協力する――、つまり汝の手伝いだ。状況としては以前とそう変わりない。必要ならば呼ぶがいい)』

「(そう……、か。わかった。――あ、そうだ、あんまり変な奴らを増やすなよ)」

『(我が望んで増やすのではない。世界の有り様が決めるのだ)』

「(増やすなつってんの!)」

『(それは聞けん!)』

「(おおぉぉ――――い!)」


 そう言い返してきたきり、仮面からの反応は消える。

 野郎……、この世を怪人だらけにするつもりじゃねえだろうな。

 妙な気がかりが増えてしまったが……、まあいい、それより今はこの後どうすればいいかを王様たちと話し合わなければならない。

 まずは軽い挨拶からの事情説明と言うか、何も考えてなかったことを素直に白状する。

 このまま自由解散というのはさすがにまずいのではないかと俺ですら思うので、王様たちには何か妙案を出してもらいたいところである。


「えー、と言うわけで、これからのことは考えていませんでした。こういう場合って、何をしたらいいんでしょう?」


 ひとまず切り出してみたが……、活発な会議とはいかない。

 そもそも、まず話し合いにならない。

 王様たちの多くが何やら厳かな顔で満足そうに放心しており、とても話ができる状態ではなかったのだ。

 もう決着から何時間もたったのに、まだ満足感に身をゆだねてうっとり夢心地なのである。


「うーむ、これは話し合いのできる状態ではなさそうじゃの……」


 会議につきあってくれるシャロが困り顔で言う。

 講堂の舞台側にはシャロの他、何かのお手伝い役としてアレサやメイドたち、イールも集まっていた。


「もう夜になりますし、今日のところはゆっくりしていただいて、明日改めて話し合いの場を設けてはどうでしょう?」


 サリスがそう提案してくる。

 確かにもう夜か。


「それもありニャ。でも外で大騒ぎしてる連中くらいどうするか決めた方がいいニャ。下手するとここの住人になりそうな勢いニャ」


 確かにリビラの言う通り、お祭り騒ぎな人々をどうするかは俺の裁量で決めていいことではない。今日はこのまま好きなだけ騒がせるのか、それとも一度帰国させ、また集まってもらうのか、そこはこの場に集まった王様たちとで決めなければ。

 しかし、どうしたものかと思っていたその時――


「友よ、ひとついいか」

「あ、はい。何でしょう?」


 口を開いたのはドラ父さん。

 今回は何かと頼もしい感じのドラ父さん、期待が持てる。

 ドラ父さんは現在絶賛配布中の号外を手にして言う。


「この記事なのだが……、俺専用の物を用意してもらうことは可能だろうか?」

「……え?」

「ああいや、俺が特に活躍したとか、話を誇張せよと言うのではない。内容自体はそのままとして、それ以外のところをな、もっと豪華と言うか……」

「は、はあ……」

「ほら、この勝利はおそらく過去にも未来にも類を見ないほどの出来事だ。そうだろう? 記念に飾っておきたいのだが、広くばらまかれたものとまったく同じというのも芸がないので、こう、あれだ、その……」


 シャロとヴィルジオが睨むので、ドラ父さんの声は急に萎んでしまった。

 しかしそれを聞いたことで他の王様たちが我に返った。

 名案だと心惹かれたのだろう、口にこそ出さずにいたが、自分も自分もという気持ちが隠しきれずそわそわし始める。


「イール、ちょっといじるくらいなら可能だよな?」

「いけますよ。記念に残すなら紙よりも頑丈なもので用意しましょうか? 石版とか鉄板とか、あ、せっかくなので王金の板にしてみてもいいかもしれませんね」

『……ッ!』


 イールが火に油を注いだ。

 これは……、無理だな、話し合いはもう無理だな。

 でも目の前に餌をぶら下げられた今なら、確認くらいはできるだろう。


「あー、では話し合いは明日改めてということでいいですか? あと今外で大騒ぎしている人たちは、今晩はそのままにさせておいてもいいですかね?」


 この提案は賛成多数で速やかに可決された。


「それでは話し合いはまた明日ということで。あとは……、えっと、ご自由にしてください」


 こうして会議は話し合いも何も無く終了。

 すぐに王様たちがわらわらと舞台に集まってきたので、俺たちはそそくさと場所を譲った。

 王様たちは先ほどの厳かな様子とは打って変わって、自分専用の『号外』を作ってもらおうとイールにあれこれ注文をつけ始めている。

 まあ……、あれだ、これでイールは大陸中の国々に家宝となる品を提供した存在になるわけで、これなら身の安全も保証されるだろう。

 ただ、下手に神格化するのは何となくやめてもらいたいが。


「じゃあ外の人たちに、今日はこのまま好きなだけ騒いでもらっていいって伝えて……、ひとまず帰ろうか」


 そう言うと、皆はそろって同意した。

 きっと早いところ帰還してほっとひと息つきたかったのだろう。

 本音を言えば、俺だってとっととお家に戻ってゆっくりしたかったのだ。

 でも今回の作戦の発起人だし、そういうわけにはいかないだろうと音頭を取ろうとしたのだが、今の段階ではどうにもできない。

 まあ、このぐだぐだの原因は決着後、人々を前に適当な解散宣言をした俺にありそうなので文句は言えないのだが。

 あそこでそれっぽくお話して、その後について指示をしておけばこんなことにはならなかったに違いない。

 そこは反省である。

 こうして俺たちが王様たちを放置して帰還するとなったとき、ひょっこりこの場に現れた者たちがいた。


「ごー主人さまー」

「ごしゅぢんさまー」


 でっかくなったバスカーに跨るシア、そのシアに抱えられるようにしている、頭にピヨを乗せたセレス。

 あと、その周囲には大きめの光りの玉――精霊がたくさん浮かんでいた。


「どうした、何かあったか?」

「ああいえ、そうではないんです。ほら、今回のことは私が原因じゃないですか。そこで皆さんにお詫びとお礼をしないといけないなーと思いまして。そしたらセレスちゃんが一緒に来たがりまして、さらに精霊さんたちも付いてきちゃいました」

「そういうことか。でも今は無理だから、明日だな」

「どういう状況なんです、これ」

「どういう状況なんだろうなぁ……」


 ひとまずシアにどうしてこうなったかを説明してやる。

 それを話している間に、精霊たちがふわふわと俺に集まった。

 何か急かしているような感じがする。

 話を聞くこともできるが、今はやめておく。

 伝えたいことは何となくわかるが、それをやると収拾がつかなくなりそうな予感が――


「主、形がほしいって、精霊たち」


 ジェミナが言う。

 うん、そうか、やっぱりか。

 でもどうすんだこれ、結構な数いるんだが。

 獣の姿をとるようになったら、屋敷がいよいよ動物園になっちまうぞ。


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/03/09


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今回の作戦の要だったデヴァス。 飛行部隊出立前直前に、デヴァスの帰還を幼いセレスが起きて待つと約束するシーンから閑話2話分の全軍に感動的勇気と戦意向上を与え、 古代竜覇種のスナーク…
[一言] おいでよ!ぼくらのどうぶつのもり!! ファンシーケモノは何が出るかな?何が出るかな? こうなったら十二支制覇目指して、レアモンGetだぜ!!(クマとか別枠もいるけど)
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