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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
11章 『想うはあなたひとり』編
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第712話 14歳(春)…王と道化

 さて、さてさてさて。

 挑発の甲斐あって、悪神をがっつりやる気にさせることはできた。

 しかし問題はここからだ。

 まともにやりあって勝てるわけもない悪神を、何とかして俺の勝ち筋にはめてやらなければならない。

 でも――、ね。

 そこまでの筋道はこの場での完全なアドリブなのよね。

 構想二年の『悪神ぶっ殺す作戦』だが、それでもアドリブに頼らなければならない所があるのはどうにもならなかった。

 さすがに、こういう状況で悪神が何してくるかなんていくら考えてもわかることではないからだ。

 まったく、作戦の成否がかかったアドリブとか、どうなのよ。

 ここでしくじろうものなら、これまでの苦労も努力もきれいさっぱり無駄になるというストレス、何だかお腹が痛くなりそうだ。

 俺は自分から焚きつけておいて弱気になっていたが、もちろん表情には出さないように努めている。

 宝石の壁にべたーっと張りついているシアは、どうもそこに勘づいているような、大丈夫かよコイツ……、って顔してるが、状況が状況なので口には出さないでいてくれるようだ。


「それで、晴れて敵同士となったわけだが……、どうするのかね?」


 背後でシアが変顔してるなんて気づきもしない悪神は、余裕たっぷりで言ってくる。

 俺なんぞ相手にならない――、そう思っているのか。


「どうするって言われてもね、まずは成り行きかな」

「成り行き、か。ふふ、どんな手段でもって私を殺そうとするのか、楽しみにしているのだがね、まだお預けということか」


 悪神は余裕綽々。

 自分が倒されるなどとは、これっぽっちも考えていない。

 それならばそれでいいし、むしろそう思っていてくれなくては困る。

 俺は企む。

 どれだけボコボコにされようが、最後には悪神を倒せればそれでいいのだ。

 そして悪神は、俺がそう企んでいることを知っている。

 それでもその企みを打ち破り、自身の悲願を達成できると考えている。

 俺も、悪神も、互いに自分が勝利すると思っている。

 いずれ勝敗が決する以上、どちらかが泣き、どちらかが笑う。

 ここまで来たんだから最後は高笑いをかましてやりたいところだ。

 そのためには……、まあ、頑張るしかないわな。

 いつも通りに。


「んじゃ、やるか」


 ため息まじりに呟き、〈針仕事の向こう側〉と〈魔女の滅多打ち〉を使用する。

 意識が加速していれば多少の攻撃には対処できるようになるし、身体強化されていればメルナルディアで散々な目に遭うついでに体に染みついた達人の動きを再現することができる。

 とは言え、やはり付け焼き刃なことは否めない。

 体はよく動いてくれるものの、そのよく動く体をどう扱って戦えばいいかがド素人、肝心なセンスがいまいちなので持ち腐れなのだ。

 羊に率いられた獅子の群れのようなものか?

 まあ穿った言い方をすれば、獅子を率いる羊なんてものがまともであるはずがなく、それこそ魔女の宴を取り仕切る悪魔のような――、って、あれは山羊か。

 うん、お高いスポーツカーに乗ったペーパードライバーと表現した方が的確だな。

 そんな俺ではあるが、手にした魔剣はなかなかのものだ。

 こいつでいい感じにでりゃーっと攻撃してやるのが理想である。

 と言うわけで、まずは〈雷花〉で牽制だ。

 ところが――


「……!?」


 パチッ、と発動した瞬間、悪神はその剣で雷撃を斬り払う。

 指鳴らし無しでの先制、ほぼ不意打ちだった。

 にも関わらず、悪神は雷撃が発動しきる前に潰してきやがった。

 撃つ瞬間にはすでに見切られていた?

 試しに今度は強雷撃を悪神からずらした位置にぶっ放す。

 いや、ぶっ放したつもりだったが、今度は雷撃が放電を始める前に潰された。位置が離れてるとか関係なく、悪神がそこに向けヒュンッと剣を振っただけで掻き消されてしまったのだ。

 火の粉を払うと言うより、払う必要のない火の粉を戯れに払って見せたって感じである。


「牽制にもならねえか……」

「さすがにそれは、私を見くびりすぎというものだよ」

「そいつは失礼」


 ひとまずそう返してやるが……、まいったね、さっそく想定外、他に牽制に使える攻撃なんてねえんだけど。

 他の能力つったら、妙なものを召喚したり、見つけたり、憑依させたり、元気にさせたり、でもってお話する能力とくる。

 まあ精霊を召喚すれば戦力になるが、現状、そっちはそっちでお仕事してるから楽したいがために喚ぶわけにもいかない。

 こうなったら――、あれだな。


「バスカー!」

「わおーん!」


 今やれる最大の攻撃で様子見だ。


「ぶっ飛べ!」


 頼むから――、そう思いつつ、悪神めがけ放ったのは魔剣の標準攻撃機能である『わんわん破』だ。

 ほとばしる閃光。

 その威力は床を砕き、悪神へ襲いかかる。

 これならばそれなりに――、と俺は期待した。

 だが、現実は非情だった。

 悪神は『わんわん破』を正面に構えた剣で受け止め、さらにはそのまま剣を振りおろして掻き消し、おまけに、お返しとばかりに斬撃を飛ばしてきたのだ。


「な――」


 咄嗟の回避、なりふり構わずだ。

 何か来るとわかった瞬間に横に跳んだから避けられただけで、見切れたわけではない。

 本当にかろうじて躱せただけだ。

 つか至近距離からの『わんわん破』でも牽制にならないってどういうことだ。

 さすがに焦りが出てくる。

 が――


「ちょっとご主人さま!? わたしまでぶっ飛んだらどうするつもりだったんです!?」


 シアにわめかれて気が抜けた。

 まあ、いまさら焦っても仕方ないわな。


「はいはい、ごめんなさいねぇ! 気が利かないで! でもこういう場合は『わたしに構わずやってください!』とか言うもんじゃねえの!」

「あとでセレスちゃんに言いますからね!」

「やめて!」


 ったく、とんでもねえ切り返ししてきやがって……。


「ふっ、私を前にずいぶんな余裕だな」

「どうだ、すげえだろう!」


 実際は余裕なんてねえけどな!

 せめて『わんわん破』で怯むくらいして欲しかったのだが……、いや、防いだのだから直撃すれば少しは効くのだろう。

 とは言え、下手に『わんわん破』をばかすかぶっ放してもバスカーを疲弊させるばかり、意味が無い。ここは何とかして直撃させるような隙を作らなければならないところか。

 となると……、俺ができることはもう接近して剣でやり合うくらいしかねえな。


「おらー!」


 半ばヤケになって悪神に斬りかかる。

 動きだけは達人級になっているため、単純な切り下ろしすら自分でもびっくりする冴えである。

 しかし、惜しむらくは放つのが俺ではそこ止まりということだ。

 いくら剣が力強く、速くとも、これでは易々と躱されてしまうだろう。

 ところが、悪神はこれを剣で受ける。

 受け、そして――


「ふん!」

「ぬお!?」


 俺の剣を弾く。

 いや、弾いたのか?

 何か妙な感じを覚えたが、そのせいで俺は踏鞴を踏む。

 そこに悪神の追撃。

 横凪ぎの剣が素早く鮮やかに迫る。


「くっ――」


 意識が加速していようと速いものは速い。

 迫る刃を、剣を盾にしてかろうじて防ぐ。

 が――


「んな!?」


 止めた、と思ったそこから吹っ飛ばされた。

 やっぱり何か妙だ。

 たぶん意識を加速しているからわかることで、素の状態であればただ力負けしたと感じるだけだろう。

 ともかくこのままでは押し切られる。


「バスカー頼む!」

「うぉん!」


 咄嗟にバスカーを頼り、俺が放つのではなく、バスカー自らが悪神めがけて『わんわん破』をぶっ放した。


「む――」


 あえて防がせることで悪神の追撃を阻止。

 放てる状態に無い状況からの『わんわん破』は悪神の不意を突けた。これはさすがに受け止めて掻き消すだけで精一杯らしく、ここにきてようやく牽制が成功した。

 と、そこでシアが叫ぶ。


「ご主人さま、気をつけてください! 悪神の剣は攻撃も防御も二段階です! 剣が当たってからさらに押しています! 要は〝寸勁〟みたいなものです! わかりませんか!? ならもっとわかりやすく言うと……、あ! あれです! フタエノキワミ、アッー!」

「うん、助言ありがとう! でももう黙ってくれるかな!」

「そんなぁ……!」


 シアはとんでもない例えをしてきたが、おかげで悪神が何をしているのかひとまず把握できた。


「はっ、なるほどね。剣を交えた感触が妙だったわけだ」

「これはこれは、もう見抜かれてしまったか。古い――、遙か昔に失われた王家の、ちょっとした剣術だよ。どのような攻撃も、いかなる防御も、正面から突き崩し相手を制する王の剣だ」

「避けたらいい攻撃をわざわざ受けたのも、それを弾いて隙を曝させるためってわけか」

「その通り」


 悪神は自身の剣術についてあっさり認めたが、それがわかったところで俺にはどうしようもない。

 つか、自分の剣が触れた瞬間に寸勁でぶっ飛ばすとか、いったいどんな技量だ? その一瞬に、その体勢のままで体重移動完了させてるとかおかしいだろ。神とか別にしても普通に化け物じゃねえか。

 まあ、相手が俺だから可能というのもあるのだろう。

 つまり、俺の攻撃は完全に見切られているということだ。

 それを証明するように、俺が放った『わんわん破』は即座に反撃してきたが、バスカーが放った『わんわん破』は防ぐだけに終わった。

 あらゆる状況で見切れるわけではない。

 と、なれば――、だ。

 悪神と剣でやり合うためには、見切られないためには、俺は自分の意思を超えるような攻撃を繰り出さなければならない。

 そんな方法はあるのだろうか?

 あるんだなぁ、これが!

 勝手に身についてしまった数々の変態技、異形の絶技が!

 でもね、だけどね、それは素面じゃやっていられないのよ!

 だから――


『ようやく出番か』


 俺は仮面を呼び、そして顔に被るのだ。


「『チェンジ! オォークッ!』」


 おそらくはこれで最後――、であって欲しい。

 そう思いつつ叫ぶと、俺の姿はオーク仮面のそれへと変化する。

 まあ、いつも通り服が置き換わっただけなのだが。


「ふむ、ここからが本領発揮ということかな?」


 相変わらず悪神は嫌味なほど余裕たっぷりだ。

 だが、その余裕を最後まで保つことは無理だろう。

 なにしろ、勝つのは俺たちなのだ。


「行くぞ悪神――、いや、大魔王シス! 覚悟せよ!」


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/11/19


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