表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
11章 『想うはあなたひとり』編
703/820

第691話 14歳(春)…猶予一日目・地のバベル

 イールが用意したバベルのコピーたる『地のバベル』。

 その最下層に向かうにあたり、まずはバベル内部に巣くうスナークを殲滅する役割――決死隊に志願してくれた人々と顔合わせを行う。

 そこで俺たちの案内役となったのがバートランの爺さんだった。


「お爺さまは外じゃなくてこっち担当なのね」

「うむ、その方がいいだろうということになってな」

「うん?」

「防衛をする者は、一丸となって戦うことに長けた者の方がよいのだよ。逆に、そういった戦いに慣れていない冒険者や闘士には、塔の攻略を任せようというわけだ。――要はそういうことだろう?」

「ええ、漠然とですが、そう考えてました。ただ連携して戦うだけではどうにもならないような個体もいるでしょうし、その場合はその強い個体を受け持つ人も必要です。もしかすると、こっちではなく防衛戦に加わってもらう可能性もありますね」

「うむ、その場合はそちらで張りきるとしよう」

「すみませんね」

「なに、かまわんさ。この塔が用意されてから、昨日のうちにあれこれと話し合われはしたが、これという作戦は立案されず単純な力押しに留まってしまった。儂が必要とされない作戦があるなら、それにこしたことはない」

「……?」


 なんだろう、微妙に話が噛み合っていない気がする。

 この違和感についてちょっと考えようとしたが、バートランの爺さんはこの話題はここで終わりだろうと判断したのか、今回集まった者たちの話を始めてしまった。


「現在集まっているのは百五十名ほど。半数以上は聖都の聖女と勇者委員会の勇者、そしてその仲間たちだな。冒険者ギルドは高ランクの冒険者をすぐには召集できなかったのだろう、今日に間に合ったのは一部の者だけのようだ。あと闘士はパイシェと上級闘士九名だけが来ている」


 まあ闘士はな、今の時点で来たがる奴を全員引き連れてきたらカオスなことになるのは間違いない。

 ここは上級闘士だけ連れてきたパイシェの判断を評価しよう。


「あと、変わった者たちもいるが……、問題は無いな」


 そんな話を聞きながら、俺は『バベルの先っぽ』一階の広間で待機していた人々の所へ向かった。

 広間に到着してみると、集まった人々が入り交じって熱心にお喋りをしており、少し騒がしくなっていた。しかしそれも最初だけで、俺が現れたところですぐに静かになる。きっと皆やバートランの爺さんを連れて登場したからわかりやすかったのだろう。これが俺一人だったら、気づかれなかった可能性が高い気がする。


「よう! 久しぶり! えらいことになったな!」


 広間が静かになったあと、そう声をあげて近寄ってきたのはエルフの認定勇者であるネイバールだった。


「ああ、久しぶり。協力――してくれるんだな、ありがとう」

「ははっ、何だよ、当然のことだろ。今日はみんな一緒に――」


 とネイが言いかけたところ、つかつかとこちらにやってきたエルフのお嬢さん――リフィザネルがネイの長い耳をむぎゅっと握る。


「あだだっ、な、何だ!?」

「レイヴァース卿が来たらまず整列って話だった……!」

「あ、やべっ」

「もう。――お久しぶり。うちの馬鹿がごめんなさい」


 俺が呆気にとられるなか、リフィは会釈をして、ネイの耳を掴んだまま強引に集団へと戻っていく。

 少し待つと、ごちゃごちゃだった集団がすっかり整列。

 おそらく所属組織ごとに別れているのだろう。

 ネイとリフィ、それから二人よりもさらに久しぶりとなる仲間の剣士レトラック、世話役(?)のゼーレが先頭となっている集団は認定勇者とその仲間たちか。

 他に見てすぐにわかるのは、聖女ティゼリアを先頭とした聖女たち、それからパイシェを先頭とした闘士倶楽部である。

 聖女たちは法衣を身につけているのでわかりやすく、逆に闘士たちは上半身裸なので嫌でもわかる。

 エイリシェで冒険者ギルドの支店長やってるエドベッカが先頭になっているのは、冒険者たちのグループか。

 それから……、うん、何の冗談だと言いたくなる連中もいるが、ひとまず順番に挨拶していくことにしよう。


「こんにちは! 勇者委員会より参りました勇者ネイバールです!」

「知ってるよ!?」

「だよな! ま、そういうわけだ。他の勇者もずいぶん鍛えられた。存分に使ってくれよな!」

「ああ、ありがとう」


 そのネイの言葉に嘘は無いようで、かつては「何だこいつら?」と気にも止めなかった認定勇者たちは、どこの戦場から連れてきたのかと聞きたくなるような歴戦の戦士風に変貌していた。

 誰もが鍛え上げられた肉体に、弛みのない厳しい表情、愁いをたたえた澄んだ瞳をしており、それは数々の修羅場を乗り越えた猛者であることを証明しているようであった。

 もしかして……、これはあれか。

 レイヴァース法関係の仕事が忙しすぎちゃってこうなったのか?

 しかしそうなると、まったく変わっていないネイは仕事してなかったのだろうかという疑問も湧いてくる。

 ちょっと気になるところではあるが、これについては暇ができたら聞くとして、次に俺はティゼリアに挨拶をした。


「お久しぶりです」

「ええ、久しぶり。まったく、ちょっと目を離すと凄いことになっているんだから」

「なんかすいません」

「ふふ、いいのよ。それにしてもあの時のあの子が、今や世界を救うための旗頭になるなんて……、と、懐かしむのは後ね」


 微笑みを引っこめ、ティゼリアは真面目な顔になって言う。


「セントラフロ聖教国より、猊下の力となるべく参りました」

「ありがとうございます」


 それから俺は闘士を率いるパイシェ、そして冒険者を率いるエドベッカと挨拶をしていく。

 パイシェからは希望者多数すぎたので、ひとまず上級闘士だけ連れてきたことを報告され、エドベッカからは俺と面識があるという理由でギルドの代表にされたことを苦笑混じりに教えてもらった。

 そして、最後は問題の連中である。


「仮面の導きにより、ここに推参!」

「あ、うん、そうか」


 その、多種多様なオークの仮面を被った二十名ほどの集団、その先頭で叫んできたのはヴァイス・オークである。

 そっかー、オーク仮面ってこんなにいたのかー。

 知っている仮面はこいつと、あとヴァイロ共和国の騒動の時に湧いてきたメディカルな奴くらいである。

 いや、仮面は知らないけど、中身は知っている奴も一人いた。


「な……、なあ、あんた、さ、ここに居て……、いいの?」


 顔は何やらメカニカルな仮面で隠されているし、格好も全然違うのだが、わざわざ〈炯眼〉を使わなくてもわかった。

 こいつガレデアだ。

 しかしガレデアは、俺が何を言っているのかわからないといったように首を振って答える。


「誰かと勘違いしているようだが、私は君の知る人物ではない。私の名はサイ・オーク。禁断の魔導学、人とオークの融合を目指すサイバネティック・オークニズムにより生みだされた異形の存在だ」

「……」


 リマルキスって、慕ってた兄ちゃんが頭おかしくなってること知ってんのかな?


    △◆▽


 決死隊として協力してくれる者たちと顔合わせをしたあと、現れたイールが俺たちの居る広間を『地のバベル』の最下層――一階へとエレベーターのように移動してくれることになった。

 この移動の間、イールが自分の体を塔の形に変え、どのような構造になっているかを解説してくれる。

 結果、このバカでかい塔は、俺がイメージしていたもの――近代的なビルとはずいぶんと作りが違うことわかった。

 都市のミニチュアから推測し、てっきり二百階くらいあるのかと思いきや、この塔は六十八階しかなかったのである。

 各階層は、そのほとんどを広々とした空間が占めていた。

 例えるなら、上部にいくほど縮小していくスタジアムが六十八段積み上がっているような塔なのである。そしてその中央空間を囲うようにして、それぞれ四階建てのビルがぐるっと巻き付いている、そんな構造になっているのだ。

 このイールの解説、うちの面々は興味深そうに聞いていたが、決死隊に志願した者たちは先に説明を聞いていたらしく落ち着いたものだった。


「変な構造してるのねー。何のためかしら?」

「なんだろなー、この庭園みたいなものか?」

「なるほど、周りにある部屋は住むところで、こっちが遊び場ってわけね」

「そ、そうでしょうか……、いくらなんでも広すぎるような? 世界樹計画の中心となった塔ですし、それに関わるものだったとは考えられませんか?」


 ミーネはティアウルの仮説に納得してしまったが、サリスはさすがにそんなわけないだろうと思っているらしい。

 と、そこでリビラが吐き捨てるように言う。


「儀式のための広場だったかもしれないニャ」

「ん? 儀式ってどういうことだ?」


 シャンセルに尋ねられ、リビラは嫌そうに続ける。


「周りにあるたくさんの部屋は生贄となる者たちの生活の場ニャ。儀式が始まるとなったら各層ごとに生贄は広場に集まって、でもってお亡くなりになった、どうせこんなもんニャ」

「それは……、有り得る話じゃな、この塔ともなれば」

「碌でもない塔だな……」


 顔をしかめるシャロとヴィルジオ。

 俺もリビラの話が事実に近いのではないかと思えた。

 ともかく塔の構造はこのようになっており、各中央空間は広場の壁に沿って旋回するようにある巨大な螺旋階段によって結ばれている。


「この構造をですね、精霊さんたちにもわからなかった先端部分に当てはめると、だいたい四階相当になるようです」

「ってことは、塔は七十二階ってわけか……」


 予想した二百階よりもずいぶんと減った。

 減ったが……。

 漠然とした、嫌な予感。

 それが確信に変わったのは一階へと到着した後だった。

 中央空間を訪れ、その広さを実感したことで、この塔攻略が予想よりもずっとやっかいであることが理解できたからである。


「イール」

「はいはい、なんでしょう?」

「一度、ここに魔物を用意してくれるか?」

「わっかりました。なるべくスナークに似せた敵を用意しますね。まあ真っ黒にしたスライムなんですけど。強さについては、色々と聞いた内容から、それっぽく強化してあります。ではでは――、ほいっと」


 そうイールが言った瞬間、だだっ広いだけだった空間の床から真っ黒い怪物の集団が出現し、広場を埋め尽くした。

 その迫力には、うちの面々も、集まった決死隊の志願者たちも思わずたじろぎ、驚いたように声をあげることになった。


「精霊さんたちの情報では、各階層ごとに主がいて、あとはこんな感じでスナークがいっぱいらしいですね」

「いっぱいか、そうか、いっぱいか……」


 イールへの返事がおざなりになったのは、血の気が引いていることを隠そうとするあまり余裕が無かったからだ。

 つまり、この塔は六十八層仕立てのモンスターハウス。

 攻略は不可能ではない。

 可能だ。

 攻略するだけならば、やりようはある。

 可能なのだ。

 だが、時間がかかる。

 あまりにも時間がかかる。

 問題はそこなのだ。


※脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/10/08


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ