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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
11章 『想うはあなたひとり』編
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第689話 14歳(春)…猶予一日目・王都屋敷

 しょうもない夢を見た。

 シアが悪神とベリアを説得できたとか言って、のこのこ帰ってくる夢である。

 俺がシアの頭を引っ叩き「ここまで大ごとになっちまってんのにどうすんの!?」と怒鳴ったところ、シアは「無事に戻って来たのに『おかえり』の一言も無いってのはどういうことですか!」と怒鳴り返してきて、そこから言い争い、そして取っ組み合いに発展するという実にしょうもない夢だった。

 目が覚めたとき、それが現実か夢か、一瞬区別がつかなかったものの、意識がはっきりしてくるに従い夢であったことを理解した。


「説得なんてできるわけねーだろ……」


 うんざりしたように呟く。

 まったく、こんな都合の良い夢を見るようになるくらいには、俺はこの状況にまいっているらしい。

 やれやれである。

 どうもいつもよりも早く目覚めてしまったらしく、皆はまだお休み中、だいたい俺と一緒に起きるアレサも眠ったままだ。


「うーん……、うぅーん……」


 何やらうなされているのはシャロ。

 原因は見てすぐにわかった。

 けっこうな確率でセレスはコアラの親子のようにシアにくっついているのだが、シアがいない今朝はシャロがその代わりになっていたのである。

 俺はそっと皆の枕元を移動し、セレスのところまで来るとよしよしと頭を撫でる。

 もう何日かしたら、姉ちゃんは帰ってくるからな。


    △◆▽


「なあなあ、なんか昨日から屋敷の様子がおかしいような気がするんだけど、何かあったのか?」


 朝の身支度をしていたところ、ピネが尋ねてきたので現在の状況を簡単に説明した。

 そしたら怒られた。


「説明しろよ! 昨日の時点で! あたしらにもよぉ!」

「あと三日もしたら片付くし、べつにいいかなって……」

「よくねえよ!」


 なんて奴だ、とさらに文句が飛んでくる。


「朝っぱらからそんな騒ぐなよ。気になってたなら、誰かに聞けばよかっただろ?」

「う……、いやまあそうだけど、なんかピリピリしてて迂闊に話しかけられる雰囲気じゃなかったからさ」


 それで一晩たってから、こっそり俺に聞きにきたのか。


「まあともかくそんな感じだ。なんとかするから気にするな」

「気にするなって無理だろおい。……なあ、何かあたしらにできることってあるか?」

「んー、特にないな。普段通りにしていてくれたらそれでいいよ」

「普段通りねぇ……」


 ひとまずピネとの話はそこで終え、その後は皆で一緒に朝食となる。

 なかなか食が進まない者が多く、さすがに賑やかとはいかなかった。


「昨日はあれこれしている内に終わったニャ。一晩して、何かの間違いだったのかとも思うニャ。でもそういうわけじゃないニャ。どうも気持ちの整理がついてねえニャ」


 リビラがうんざり――、いや、どう自分の心境を表現したらいいのかわからないといった感じで言う。

 それは皆の心境を代弁したようなもので、シャンセルも同意した。


「んだなー。まだ事実として受けとめきれてねえ。頭ではわかってるんだけど、気持ちが追いついてない感じだよ」


 昨日は悪神の登場から世界樹計画の開始と、ありがたくないイベントが目白押しだった。

 何もかもが唐突すぎてまだ受け止めきれていない者は多く、ふとした瞬間、心ここにあらず、物思いにふけってしまうようだ。

 しかし戸惑っている者がほとんどである一方、ミーネ、ティアウルはあんまり気にしていなさそうに朝食をもりもり食べている。

 君たちはあれか、無敵なのか?

 だがまあ、この二人が居なかったら完全なお通夜、おかげでぎりぎり会話ができる空気だということは認めないといけない。

 ともかくリビラがきっかけとなり、口を開く者が出てくる。


「これはあれですね、ご主人様が道を示してくれたので、助かっているんでしょうね。これで何をしていいのか見当も付かないままだったら、どんな状態になっていたか」

「貴方はどうしようどうしようとずっと呟いていそうですね、我が女王」

「アーちゃん、こんな時までそれなのー?」

「こんな時だからこそ、ですよ。考えてもみてください。今となってはその未来すらも喜ばしいものとは思いませんか?」

「そ、それはそうだけど……、うーん、なんだか騙されているような感じがする……」


 この状況でもいつもの流れを演出できるアエリスはまだ落ち着いている方なのか、それとも敢えてそうしているのか。


「御主人様、それで今日はどうするのですか?」


 サリスが俺に予定を聞いてくる。


「ひとまず、このあと庭園がどうなってるか様子を見に行くつもりでいる」


 投影される庭園の映像――クマビジョンには、すでに各国の兵が集められ、イールが用意した横長のバカでかい『門』から展開する様子が映し出されていた。

 ずいぶんと高い位置から見下ろしている映像である。

 どうやら動きを把握しやすいよう、六つの門の中心に塔でも拵えたらしい。

 俺が寝ている間に、向こうの状況は大きく進んだようである。

 庭園に行ったら色々と聞いてみよう。

 個人的に気になることもあるし。


「そうだ、リィさん」

「あいよ」

「今日も錬金術ギルドへ行って、出来上がったぶんの薬草汁をロンドへ届けておいてもらえますか。僕は後でそっちに向かって、さっそく『悪漢殺し』の製作にかかります」

「わかった。あ、作った酒はポーションみたいに小分けにして配布するんだろ? 瓶はどうする? 一緒にかき集めていくか?」

「あー、そうか、そうですね。あ、いや、瓶についてはイールを酷使するので大丈夫です」

「ああ、その手があったか。わかった」

「お願いします。あと他にやることは……、んー、塔をどう攻略するかの考案くらいかな」


 一番の問題であった『古代都市への到達』は目処が立った。

 この作戦の要となるデヴァスは今日から協力してくれる竜騎士と共に飛行訓練を行うことになる。この訓練の指導はシャロが行うことになっているので俺がやるべきことは特にない。


「俺がやることはもうそう多くないんだよね。昨日はみんなにも働いてもらったし」


 なかでも特に働いてもらったのは、ここには居ないルフィアである。

 大陸同盟が結成され、各国が手を取り合ってこの事態に立ち向かうことになった事実を、大陸中に知らせるべく大急ぎで記事を仕上げてもらった。

 記事はこう、あれだ、人々の不安が暴走しないよう、長きにわたり続いてきた問題に終止符を打つというヒロイックな宣伝を前面に押しだした……、要は人々の意識を誘導するプロパガンダ的なものになっている。

 一応、魔王の誕生阻止二回、邪神の誕生阻止一回という実績を持つ俺が先頭となった『史上空前の大決戦』であることも強調した(最初はルフィアが『史上最大の作戦』としていたのだが、微妙に縁起が悪いので変えさせた)。

 この原稿をイールが莫大に印刷(?)し、メイドの皆だけでなく王様たちにも手伝ってもらって大陸中にばらまいた。

 その際、この記事をばらまく目的――人々が不安にかられ余計な混乱が起きて協力してくれる国々にいらぬ手間を掛けさせたくないから、ということはちゃんと説明したのだが……、何故だろう、王様たちが俺にヤベえものでも見るような目を向けてきたのは。

 噂とか使って、民意の操作とか普通にやっているだろうに、まったく解せない話である。


「やることは少なくても、休息というわけにはいきませんか……」

「まあそこはね。昨日の今日だけど、だいぶ調子は戻ったから大丈夫だよ。塔の下見でも俺は戦ったりしないし、つらくなったらバスカーに乗って行動するようにするからさ」


 そうサリスに言ったところ、急に「え」と声を上げたのはアレサだった。


「く、車椅子でもよろしいのではないですか?」


 車椅子押し係を続けたかったのか。

 しかし、もう回りの目を気にしている段階ではないので、でっかい犬に乗っての行動でかまわないのである。


「アレサさんはクーエルを抱っこしての同行をお願いします」

「か、かしこまりました……」


 残念そうだが、ここは諦めてもらおう。


「主、主、どうする? ジェミたち」

「みんなは……、うーん、特別やってもらいたいことは無いんだけど、ひとまず俺に同行してもらおうかな」

「ん、わかた」


 こうして簡単に今日の予定を確認しつつ、朝食は終えることになった。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2021/03/08

※さらに誤字の修正をしました。

 ありがとうごうざいます。

 2021/05/14


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