第7話 1歳(夏)
おっす!
おれセクロス!
そろそろ人生に疲れてきた一歳!
まだまだ赤ちゃんだが、そこそこ成長してきた。
目や耳もどんどん発達している。
とはいっても生まれたてよりは、という程度のもので、まだ景色は水の中でものを見るようにぼんやりとしている。それでもごく近くにあるものには、それなりに焦点が合うようにはなってきた。おかげでやっと両親の顔をなんとなく知ることができた。
母親は長い黒髪で濃褐色の瞳、生前の日本ではごく一般的な色をしている。顔の作りはまだはっきりとはしないので断言できないが美人のような感じがする。そうあってほしいというおれの願望がそう見せているのだろうか? いずれ判明するだろう。
父親は短い茶髪で目は明るい褐色。ちょっと顔つき悪いような気がする。強面というのとはちょっと違う、……なんだろう、チンピラ? まあ、こっちもいずれ判明するだろう。
そんな両親が語りかけてくる言葉も、簡単なものなら少しわかるようになった。舌足らずに簡単な言葉も返せるようになった。マンマーとかパーパとかそんな感じのを。
体のほうも順調に成長している。
ほぼ眠ってばかりだった生活から、それなりに活動できるようになったのだ。すでにハイハイのスペシャリストは卒業し、現在はつかまり立ちからのよちよち歩きに移行している。移動速度からすればハイハイのほうがはやく移動できるが、どうせ閉じられた部屋のなかだけしか行動範囲がないのだからたいした意味はない。
そんなある日、アホ神の野郎が追加してくれた才能が開花した。
対象を知る能力――〈炯眼〉が。
きっかけは自分の手を「ホントにちっちぇーなー、でもちゃんと手なんだよなー」と感心しながら眺めていたときに、いきなりだった。
《セクロス・レイヴァース》
【称号】〈暇神の走狗〉
【神威】〈善神の加護〉
【秘蹟】〈厳霊〉
〈炯眼〉
〈廻甦〉
以上がはじめて〈炯眼〉を使った――というより暴発した結果わかったことである。
名前は無視するとして、次の称号とやらが神の敵対者を見つけるときに役にたつものなのだろう。
つかなんなんだあの神は。
暇神って出てるぞおい。
でもっておれはそいつの犬か!
まあそれはおいといて、次にでてきた神威。
これはよくわからない。
善神ってなんだろう?
……あ、そういえば転生前、でかいチンコがでてきたときに暇神が地域神とか悪神とか言っていたな。たぶんこの善神もそんな感じの、こっちの善い神さまってことなんだろう。きっと神威ってのは、そういう神さまからの恩恵のための項目なんだろうな、きっと。
そして最後の秘蹟。これはもっている特殊な才能とか能力だな。
なるほどなるほど、これが〈炯眼〉か。
うん、でももうちょっとどうにかなんねえこれ?
いや名前がわかるし、称号でなんとなく人となりもわかるし、神威や秘蹟で相手の脅威度とかもはかれるからすごいんだけど、もうちょっとこう、詳しくというかなんというか。
本の目次とか料理のメニューだけ見せられているこの感じ。
あともうすこしだけ、対象のことを調べられないものかと思っていたら、本当に漠然とだが情報がでてきた。
《セクロス・レイヴァース》
【身体資質】……並。
【天賦才覚】……無。
【魔導素質】……無。
うん、ありがとう。
よくわかった。おれ普通の人なんだね、がんばるよ。
ってかこれ魔法が使えなくね!?
せっかく魔法のある世界にいるのに使えないとかなにそれ!?
うわー、がっかりだわー、ちょっとだけでもあればいいのに無ときたかー。なら武器とかどうよって考えるまでもなく才能が無ってでてるし。んー、まあ、才能はないとはいえ鍛えれば人並みにはなるってことでいいのかな? 剣とかかっこよく振りまわしてみたいんだけど。
《セクロス・レイヴァース》
【剣】……並。
うん、ありがとう。
よくわかった。おれとにかく普通の人なんだね、がんばるよ。
あといちいち名前ださないでもらえるかな?
イラッとするんですよ。
さて、自分自身のリアクションしづらいステータスはこれくらいにして、ためしに両親も確認してみようか。
まずは母親――
《リセリー・レイヴァース》
【称号】〈万魔につらなる者〉
〈黒の魔導師〉
〈黒き魔女〉
【神威】〈善神の加護〉
母親の名前がやっとわかった。
あと神の話どおり、実力者っぽい感じがする。
魔導素質が高い。魔法のスペシャリストのようだ。
おれは使えないけどね!
さて、そして次に父親――
《ローク・レイヴァース》
【称号】〈リセリーの夫〉
〈死にぞこない〉
〈終焉の語り部〉
【神威】〈善神の加護〉
なんか母さんのおまけのような扱いですよローク父さん……。
そしてなんか不吉な称号ついてます。
才能を確認すると身体資質が優秀で生存能力が高い。
ふむ、サバイバルのスペシャリストっていうことか?
あっちの世界だったら軍特殊部隊の隊員のような感じだろうか。
こっちだとシーフやローグ、スカウト、レンジャーのような?
いまいちわからないが、まあそれはちゃんと喋れるようになったらきけばいいか。
両親が実力者なのははっきりしたが、ふたりともそんなことをまったく感じさせないほど無邪気におれの世話をしてくれる。なにしろおれが目を覚ましているときは必ずどちらかがそばにいて見守ってくれているのだ。たぶんおれが寝ているときもいるのだろう。
両親はおれをとても可愛がってくれている。
実は中身が歳のはなれた弟のような年齢であることに、ちょっと罪悪感を覚えるが、もしおれがいなかったら死産になっていたわけだし、そこはよかったということにしよう。
ただ、あっちでは両親がいない状態だったから、こうして愛情をそそがれている状況がなんというか、くすぐったいというか、うまく表現できない戸惑いのようなものがある。妖怪にスカウトされてもおかしくないようなジジイが一緒だったから退屈はしなかったが、それでもどこか寂しさというか、無い物ねだりをする気持ちはあったのだ。
しかし――、である。
「セクロス~、ほーらセクロス~」
ちくしょう!
呼ぶな! おれの名を呼ぶな!
全力のハイハイで部屋のなかを逃げまわるおれを、猫なで声の親父があっさりと捕まえて抱きあげる。おれは手足をじたばたさせるが、親父はまったく意にかいさない。
「ほーらほーら、セクロスー、ほーら」
高い高いをくりかえし、そして親父はおれを抱きしめるようにして渾身の頬ずりを!
ゾリゾリ! ゾリゾリゾリゾリッ!
「あーうぁー! うーうー! あー!」
オヤジィ――ッ!
剃り残しがいてぇ!
いてぇんだよ!
毎日毎日朝昼晩と頬ずりしやがって!
顔が削れたらどうすんだ!
でかくなったら覚えてろよチクショウ!
※脱字の修正をしました。
ありがとうございます。
2018/12/21