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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
11章 『想うはあなたひとり』編
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第685話 14歳(春)…混乱の塔

 うちにいる珍獣や精霊たちが元々は何であり、何処にいたのか。

 俺に続きシャロとデヴァスも気づいたようで『あ!』と声をあげた。


「なるほどな、おまえらは古代都市の様子を知っているのか」


 その通りだ、と答えるようにバスカーは「わん」と鳴き、クマ兄弟はうんうんと頷く。

 精霊になって頭がすっからかんになってるのかと思いきや、実はそうでもなかったらしい。それとも生前の記憶は失われはしたが、瘴気領域に封じ込められていた間のことは覚えているのか。

 何にしても、現状、俺たちでは知り得ない情報を提供してくれるというのは本当に助かる。


「これなら何とか……、あれ? でもどうやって教えてもらえばいいんだ?」


 これは〈モノノケの電話相談室〉を使って、話を聞きながら俺がその様子を描くしかないだろうか。

 たぶんもう使っても平気だとは思うが……、できればもう少し体調が良くなってからにしたいところである。

 せめて明日なら――、いや、時間が惜しい。

 試しに使ってみるかと覚悟を決めかけたとき、庭園にいた精霊たちが姿を現し、ふわふわーっといっぱい集まってきた。


「ん? どうしたんだ?」

「主、見てて、って言ってる。精霊たち」

「見て?」


 うんうん、とジェミナが頷くので、俺は精霊たちが集まり、協力して何かの形を作りあげていく様子を大人しく見守った。

 やがて完成したもの――


「……都市? え?」


 それは中心部に巨大な塔を有する都市の様子であった。


「え!? これヨルドか!?」

「わん!」


 そうでさぁ、と答えるようにバスカーが吠えた。


「マジか……」

「うおお……」


 これには俺もシャロも唖然となる。


「も、もうここまでくると無茶苦茶じゃな。誰も知ることのできぬ都市の様子が、こんなに簡単に……、ちょっと混乱してくるのう」


 ありがたい、本当にありがたいのだが、現実的には無理難題のはずの問題がこうもあっさりと片付いてしまうと逆に戸惑う。


「ヨルドについてはわしも何か情報は無いかと探したものじゃが、まさかこの様な方法で知ることができるとは……。ふーむ、これがあの古代都市か。ん? のうジェミナよ、ちょっと精霊たちに確認してもらいたいのじゃが、この都市を渦のようになって囲んでおる精霊たちはもしや瘴気の濃さを表現しておるのか?」

「ん? んー、ん。そう。都市だけ、瘴気薄い」

「明るさは? 日の光は届いておるか?」

「とどいて……、る。でも暗い」

「それでも物は見えるんじゃな?」

「見える」

「よし! よしよし! その程度の濃度ならば、耐瘴気の魔道具でもそれなりにもつじゃろ! デヴァスも楽になるぞ! てっきり瘴気領域は真っ暗闇かと思っておったからな!」

「あ、そうですね。――あれ、ではどうやって私を飛ばせようと考えていたのですか?」

「そりゃ特訓じゃよ。所定の高度から、何分何秒で地上に到達するか目を瞑っての。実際には設定した時間が経過するごとに音がなる道具でも用意して、それでおおよそ判断してもらおうかと思っておった」

「……」


 あ、デヴァスの顔がちょっと引きつってる。

 でも都市が完全に瘴気に覆われた真っ暗闇だったら、本当にその訓練をやることになっていただろう。ってか、俺はその可能性について考えていなかった。

 ともかく、これは嬉しい誤算である。


「で、デヴァスに目指してもらうのは、この塔ってわけか」

「ふむ、何やら絵画にある『バベルの塔』のような塔じゃのう」


 確かに、それはよくイメージされる細長い塔ではなく、バベルの塔みたいにどっしりとした塔だった。


「バベルの塔って、確か天に届くような塔を作ろうとしたのが神の怒りに触れて、世界が混乱するきっかけになったんだっけ?」

「まあそんな感じじゃな。あっちは空想じゃが、こっちは実在し、実際に世界を大混乱に陥れた忌まわしき塔じゃ」


 神の怒りを買ったのではなく、神を造りだそうとして自滅。

 あっちは言語の統一性が失われたが、こっちは言語が統一された。

 違いはあれど、共通するのは人の愚かさが招いた惨事ということか。


「話をするにも塔の名前は必要だし、ならいっそバベルにしようか」

「よいのではないか? 反対する者などおらんじゃろう」


 こうして即席で名称を決め、さらに塔の観察をする。

 そこで気になったのは、塔の頂上あたりだけ精霊たちが球体状になってうっすら覆っていることだった。


「この先にある丸いのは何だろう?」


 この疑問については、精霊たちがジェミナ経由で答えてくれた。


「塔のてっぺん、近寄れない」

「近寄れない? スナークを遠ざける何かがあるのか。そういや悪神がなんか言っていたな。ちゃんと塔を経由しないと辿り着けないとかなんとか。なら塔の天辺からいきなり突撃ってのはダメなわけか。塔内部の様子とかわかる?」

「……んと、スナークいっぱい、強いのもいる」

「まあそうだよな、そんな感じになるよな」


 塔の内部は安全とか、そういう都合のいい話は無いようだ。


「スナークと戦いながら塔を登っていく……、骨だな。ってかこの塔どれくらいの高さなんだ? 周囲の建物と比較して……、二百階くらいあるんじゃないか?」

「高さは1キロ近くありそうじゃな。登るのは確かにしんどい。この球体の下あたりまで飛んで、壁をぶち破って侵入とかできんかの」

「それが手っとり早いんだろうな……」

「婿殿は気に入らぬか?」

「可能ならそれが一番だよ。でも悪神がわざわざ忠告したのがちょっと気になる。壁をぶち破らないまでも、シャロに内側への門を作ってもらうって手もあるんだし。何だろう、そういう横着が出来ないようになってるのかな?」

「どうやってじゃ?」

「何か不思議な力が働いているとか。ここって魔素の流れの中心になるわけだからそれくらい――、あ」


 と、そこまで言って思いつく。


「世界最大の魔素溜まりなんだから、塔が迷宮化くらいしていてもおかしくないんじゃないか?」

「迷宮化か。ふむ、充分有り得る。普通の迷宮程度ならば門を繋げてやれるが……。邪神の残した迷宮となると、下手に手を出すとどうなるかわからんか。これは門を拵えて侵入する手段の他に、下から登っていく計画も立てておいた方が良いかもしれんな」

「そうなると内部の地図とか欲しいところだけど……、精霊たちに層ごとに見せてもらって、それを描き写せば――、あ、いや、メタマルに頼めばなんとかしてくれるかもしれないな」


 そう思いついたところ――


「あのー、ちょっといいですか」


 と、話を見守っていたイールが口を開く。


「どうした?」

「ふと思ったんですけどね、なんならここにその塔を用意しましょうか?」

「……?」


 一瞬、イールが何を言っているのかわからなかった。


「いやほら、地図もいいですが、再現すれば実際に突入しての訓練とかできるでしょ? なんなら敵もどさっと配置しますが……?」

「お……」

「お?」

「おまえーッ!!」

「はいぃ!? え、なん、えっと、すみません!」

「いやいや、謝らなくていいから! そうか、おまえここに塔を作り出すことができるのか! あ、でも高さは?」

「下の方はここより地下に作ればいいんじゃないですか? 天辺のあたりだけ、ひょこっと地面から出しておく感じで。入口へはまた、えっと、あの、エレベーター? あれを作りましょう」

「素晴らしい、素晴らしいよイール君!」


 俺はイールを讃えながらバシバシ叩く。

 イールはぽよぽよ揺れた。


「ってか本当に名案だぞ。ぜひ頼む」

「では構造を把握するので待ってくださいね。精霊さんたち、ちょっと失礼しますよ」


 そう告げるとイールはうにょーんと伸び、精霊たちが再現している都市、その中心部辺りに自分の一部を突っ込んだ。たぶんこれで内部の構造とかを覚えているのだろう。


「塔の構造を事前に把握できるのは大きい。あとはどうやって最上階まで突破するかだが……、これは力押ししかないだろうな」

「婿殿、塔ばかりを気にかけておるのはまずくないか? そこは瘴気領域の中心、スナークの巣のど真ん中じゃ。塔よりも外におるスナークの方が圧倒的に多いじゃろ?」

「ああ、わかってる。軍はそこで使おう。俺が塔を登ってシアを助け出すまでの間、塔の周辺は軍に防衛してもらう」

「ふむ、そうか……、しかし瘴気にまみれながらじゃぞ?」

「そこは交代で堪えてもらうしかないかな……。うっかり瘴気を浄化したりすれば、スナークが俺めがけて一気に襲い掛かってくるから作戦が破綻するんだよ」


 一度倒して休眠状態になったスナークすら即復活しての大暴れ。

 浄化はやったら最後という感じすらある。

 ここは頑張ってもらうしかないと思ったが――


「主、主、精霊たち、押しのけられる。瘴気なら」

「押しのけられる?」

「塔の回り、その外に」

「ん? それって……、瘴気の無い安全地帯を作れるってこと?」

「そうそう」

「え、ホントに?」

「ほんとに。でもスナークは駄目。素通り」

「いや、瘴気を退けられるだけで充分だ。スナークの対処は軍にお願いしよう」

「となると、後は塔をどうやって攻略するかじゃな。婿殿を護衛しつつ最上階まで血路を切り開く決死隊を編成するか」

「決死隊か……。あんまり大人数だとスナークの気を惹きすぎるから、ほどほどの人数にしないといけないかな」

「可能ならば部隊を幾つか編成し、わしが内部で門を拵えてここに繋げて交代させるということができるんじゃがな」

「うーん……」


 そのあたりのことは、実際に塔へ行ってみないことにはわからない。

 ひとまず決死隊は編成することにして、これには冒険者や闘士たちを募集することにしよう。


「それで婿殿、ざっと道筋は決められたが、シアを奪い返すとなれば最悪、悪神と対峙することになるじゃろう。これはどうするんじゃ?」

「ああ、それなら大丈夫。ってか、そこだけは大丈夫」

「は?」

「それについては前々から考えてあったんだ」

「いやいや、それは無茶苦茶じゃぞ。婿殿はすでに悪神と対決することを予想して、対策を立てておったのか?」

「まあそうだね、二年くらい前からかな」

「二年!? そんな前からなのか!?」

「シアがうちに来てから、どうしてこいつが狙われたのかあれこれ考えたりしていてさ、二年くらい前から邪神に関係あるんじゃないかと思い始めたんだ。そうなると想定される最悪の敵は悪神だ。だから悪神に対抗する方法はないかってずっと考えてた」

「いや……、え、えぇ……」

「まあ成り行き任せ、運任せなところがあるんだけど、そこさえなんとかなれば……、あとはたぶんなんとかなる」

「なんとかって……」

「一つ、神相手に確実に効果のあるものがあるから、それでなんとかしようかと思ってさ」


 世界樹計画の再開――、状況は最悪だが、その最悪の中にあって悪神とベリアがさっさと行動に移してくれたことだけは幸いだった。

 今ならなんとかなるのだ。

 今ならば。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/09/26


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