第683話 14歳(春)…王さま集め
ひとまずリマルキスに王や代表を集めろと指示してみたが、果たしてメルナルディア一国の呼びかけだけですんなり集まるかどうかはちょっとあやしいところである。
となれば――
「ロシャさん」
「何だ?」
「ロシャさんは大陸にある国々の王や代表に影響力ってあります?」
「国によってまちまちだが、ある程度ならば。シャロの残した精霊門の番人のように思われているのでな」
「そうですか……。なら召集には六カ国の王と代表、ロシャさんの連名で出しましょう。これなら事の大きさの雰囲気みたいなものは伝わるはずです。こういうこと、これまでに無いですよね?」
「無いな。少なくとも私が公に名を出すことは初めてだ」
ならなおのこと『なりふり構わない感』が出て効果的、のはずである。
まあ従わなかろうが無理矢理にでも連れてきてもらうし、王宮から離れていたら竜皇国から竜を派遣してもらって迎えに行くくらいさせる。
「ひとまずかき集めて……、どうしようかな、先に到着した人には全員集まるまで待ってもらうことになるし、そのあたりは六カ国の王と代表で抑えてもらおうか。リマルキスはひとまず各国に伝える内容を考えてくれ。その間に、こっちで他の五カ国、あとザナーサリーとエルトリアに使いを出して連れてきてもらうから」
と言うわけで、うちの面々にお仕事である。
うちの者じゃないのもいるが、この際かまわない。
「アレサ、一度聖都に戻って大神官にこのことを伝えて連れてきてもらえる?」
「かしこまりました。あ、連れてきてから説明する、という段取りでもよろしいでしょうか?」
それじゃあほとんど拉致じゃねえか。
急いでもらいたいのは確かだがそれはなんか違う。
「一応、説明はしてあげて。詳しいことは連れてきてからでいいから。問答無用でいきなり抱えあげて連れてくるのはやめてね?」
「かしこまりました……」
なんでそんな残念そうなの?
ともかくセントラフロ聖教国はアレサに任せる。
「それで……、ベルガミアは王女さまがいるから問題無いな」
「いやダンナ、問題無いってわけじゃねえぜ? いやまあ強引にでも連れてくるけどさ。あー、なんて説明すっかな……」
「そこはアズアーフさんに一緒に行ってもらうから。詳しい説明は任せたらいいんじゃないか?」
と、アズ父さんを見ると、何故だろう、ちょっと困り顔だ。
すると猫娘さんが言う。
「ニャーさま、待つニャ。ととニャはあんまり口が達者じゃないからニャーも一緒に行って説明するニャ」
「そ、そうか。わかった。頼むよ」
「了解ニャ」
猫父さんがちょっと切なげな顔をしているが……、もしかすると口が達者だったら猫娘さんは家出しなかったかもしれないしな。
「ザッファーナはヴィルジオが頼む」
「任された。まあこちらは楽なものだろう。主殿とシャロ殿が呼んでいるとなればな。ふむ、ついでに招待されてこちらにいるアロヴ、それからフィンバーとレムニヴも同行させるか」
知らない名前が出たが、おそらくそれがメルナルディアの騒動のとき屋敷の皆を乗せてきてくれた竜さん二人だろう。
そして次にエクステラ森林連邦だが――
「森林連邦は私か。だよな?」
「はい。お願いします」
リィにはこれまでにもちょくちょく森林連邦へ行ってもらっていたので今回も任せる。
こうして星芒六カ国の中でメルナルディアを除く五カ国のうち、セントラフロ、ベルガミア、ザッファーナ、エクステラと四カ国は向かう者が決まったのだが……、ヴァイロ共和国はどうするか。
「ヴァイロはあたいだな!」
そう元気よく言ったのはティアウルである。
そこはかとなく不安だ。
行くならヴィルジオに同行してもらいたいところだが、ヴィルジオは自国に向かうのが最適なので一緒に行かせることはできない。
まずそもそも、ティアウルが行く必要って無いんじゃないか?
ティアウルが使者としてやってきたら、きっと向こうも困惑する。
「ねえねえ、なら私が一緒に行く?」
そう言ったのはミーネである。
不安が増大した。
ここはシ――……、は居ねえ。
まあ説明するだけならティアウルとミーネでも大丈夫だろう。
……。
ダメだ、自分を騙しきれない。
「あの、御主人様、私が同行いたしましょうか?」
サリスか、確かにサリスならこの事態をちゃんと説明してくれそうである。
「じゃあサリス、頼む。ヴァイロでは色々あったから、俺の代理ってことにすれば会ってもらえると思う。ダメでも変に粘らずにすぐ戻ってきていいよ。そしたら俺がバスカーに跨って殴り込みに行くから」
「では、あまり待たされそうならそう伝えることに致しますね」
ヴァイロはまあこれでいいだろう。
ミーネが「どうして私は無視されたのかしら、解せないわ……」などとぶつぶつ言っているが、今はそれどころではないので放置する。
「ザナーサリー国王のところには、バートランさんにお願いします」
「わかった」
「もしミリメリア姫経由の方が早そうなら、そのときはシャフリーンに頼むね」
「かしこまりました」
「それと、なんだけど――」
俺はシャフリーンに近寄り、ひそひそ耳打ちする。
「……シアが居なくなってセレスが寂しがると思うから、ミリー姉さんにセレスと一緒に居てくれるようお願いしてみてくれる……?」
これにシャフリーンは頷いて応じた。
たぶんお願いしなくても喜んで来ると思うが。
「あと、エルトリアにはリオとアエリスで頼む」
「はーい。ちゃんとここで何が起きたのか説明して、お父様にはすぐに動いてもらうので安心してくださいね」
「リオは無駄に喋ると思うので……、何とかします」
うん、アエリスが一緒だから大丈夫だな。
これで優先してもらう国については終わりだが、まだ他にも連絡しなければならないところがある。
「ロシャさんは冒険者ギルドに報告をお願いします。パイシェは闘士長として上級闘士を集めて説明を」
「わかった」
「了解しました」
これで指示はひとまず終わりか?
他に気にしておくことは……、あ、あった。
「ルフィア、今回のことを大々的に広める必要があるから大急ぎで記事を作ってもらうことになる。今すぐじゃないが、その覚悟はしておいてくれ」
「わかったわ。でも記事を作るのはいいとしても、どれくらい大々的に広めるつもりなの?」
「大陸中だ」
「え、そうなると印刷がちょっと問題のような……」
「そこは心配しなくていい。事態が事態だ、イールに働いてもらうことにする。原稿さえあれば、いくらでもあいつが量産してくれる」
「あー、なるほど。じゃあ覚悟しとくわね」
これで今指示できることはすべてだ。たぶん。
「ねえねえ、あなたはどうするの?」
何か見落としが無いか考えていたところ、ミーネが尋ねてきた。
「俺はこれから大陸中の王様が集まるまでに、思いついた案を具体的なところまで詰める」
「できるの?」
「できなくてもやらないと王様たちを集めた意味がなくなるから、なんとか頑張る」
事が大きすぎて詳しい説明をしても王様たちはこの事実を受け入れるのに時間がかかるだろう。
頭ではわかっても気持ち――実感がわかずに困惑するばかりになるのではあるまいか。
それでもやがては我に返り、何とかしなきゃならないと考える。そして、まずそもそも何をしたらいいのかわからないことに気づき、ようやく対策を練るべく話し合い、と状況は進むだろう。
しかし実感が湧いていよいよ必死になった頃には、もうとっくに俺がシアを迎えに行く日になっている。
まあ三日って指定したのは俺なんだが。
ともかく、王様たちはまず困惑する。これは間違いない。場合によっては混乱状態になるかもしれない。だからこのまともに頭が働かない状態でもやれることを伝え、強引にでもやらせておきたい。
やがて正気に戻った時、手遅れ――、ではなく、準備万端となっているように。
「できればどうやってシアを連れ戻すか、そこまで決めたいところだが……」
目指すは瘴気領域の中心、古代都市ヨルド。
どうすっかなぁ……、何か思いつくかなぁ……。
まあ考えるのは屋敷に戻ってからだ。
と、その前に――
「シャロ」
「うむ、屋敷への門じゃな?」
「あ、いや、その前に一つ頼みがある。ほら、舞台にシアの鎌が転がってるだろ? あれ世界でも有数の危険物だから、あの舞台ごと地中深くへ埋めてくれ。シアが居ない今、あれは本当に危険なんだ」
「な、なるほどのう……」
「ねえねえ、でも埋めちゃったらシアが怒らない?」
「怒るならそれでいい。それよりも、これから時間との戦いになるってのに、そんな中、誰かがうっかり触ってケツから鎌が抜けなくなってしまいましたがどうしましょう、なんて連絡されたら死にたくなる」
「でもあなたならお尻で受け止められるから回収――」
「受け止めてどうすんだよ!」
そのままか、ずっとそのままでいろってか、ケツに鎌を挟んだままシアを迎えに行けってのか。
実はステージに立って人々に向けてお話をしている時、つい目眩を起こして倒れた拍子に鎌に触れたらどうしようと恐かったのだ。
もし倒れていたら……。
ケツに鎌を挟んだ状態と、ケツに鎌が刺さった状態、いったいどちらが変態的なのだろう?
ええい、ミーネのせいで思考が変な方向に逸れた。
ともかく俺の強い要望により、シアの鎌は地の底へと封印された。
※誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/09/22
※さらに誤字の修正をしました。
ありがとうございます。
2019/11/17




