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おれの名を呼ぶな!  作者: 古柴
11章 『想うはあなたひとり』編
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第682話 14歳(春)…ゆるいお話

「シア、連れてかれちゃったねー」

「んだなぁ……」

「あの鎌、当たればよかったのにねー」

「そだなぁ……」

「あ、あの、お二人とも、そんなのほほんとしている場合では……!」


 ミーネの言葉に相槌を打っていたところ、アレサが横から困り顔で言ってきた。

 確かにのんびりしている場合ではない。わかっている。ただあまりの急展開に頭が混乱気味だったので、ここでちょっと惚けてリセットしようとしたのだ。嘘じゃない。


「さて、じゃあ……、どうするか」


 シアを迎えに行くためには瘴気領域の中心部へ向かう必要がある。

 一応、方法もあるにはあるが、それをやると後が詰まる。

 何とか別の方法でシアのところにまで辿り着けたら、あとは成り行きでなんとか出来そうなのだが……。

 いや、これについて考える前に、まず最初にやらなければならないことがあった。

 この場に集まった人々のほとんどは、話の途中から内容にも状況にもついていけず、ただただ茫然としている。

 この水を打ったような静けさは、言わばつかの間の静寂、嵐の前の静けさ。やがて人々は我に返り、不安と混乱に呑み込まれることになるだろう。

 このままでは人々が恐慌状態に陥り、場が混乱してやたら時間をとられるという面倒くさいことになってしまう。


「よっこい、しょっと」


 ひとまず俺は車椅子から立ち上がり、シャロに言う。


「ここにいる人たちが我に返って騒動になる前に話をしたい。ちょっとあの舞台までの門を作ってくれる?」

「う、うむ、わかった。じゃが婿殿、車椅子のままでよいぞ?」

「いや、ここはなるべく元気な振りをしておかないとまずいところだからさ」


 自分でろくに動けない奴が「大丈夫だよー」と訴えかけても説得力が薄い。


「せめて自分の足で立って話すくらいしないとさ」

「猊下、では私は付き添いでご一緒します」

「あ、私も私も」

「んー、せっかくだけど、ここは一人の方がいいと思うから。でも代わりに……、バスカー、でっかくなって向こうまで乗せていってくれ」

「わん!」


 さっそくでっかくなったバスカーに俺は跨り、それから小細工に必要なクマ兄弟に手招きをする。舞台で召喚した方がインパクトは強いのだろうが、今は無闇に能力を使うのは控えたい。

 俺に呼ばれてプチクマはぴょーんとバスカーの背に飛び乗り、クマ兄貴の方はよじ登ろうともたくさし始めたため、見かねたミーネが抱えて乗せてくれた。


「よし。――あ、リマルキス、話は適当なところで切りあげるから、その間に市民を誘導して帰宅させるようにと指示を出しておいてくれ」

「わ、わかりました」

「頼むぞ。じゃあ、ちょっと行ってくる」


 俺はシャロの拵えた即席精霊門をくぐって舞台の上、さっきまで悪神が喋っていた演台の前へと移動する。

 まだ放心していた人々もでかい犬に跨った俺が現れたことにびっくり、ちょっと我に返ったようで人波が揺れた。

 悪神によってもたらされた人々の困惑は、ひとまずバスカーに跨って登場した俺によって別の困惑へとすり替えることができたようだ。

 俺はバスカーから下りると、次にクマ兄弟に指示を出す。

 プチクマが俺の姿を撮影し、クマ兄貴が遠くにいる人々にもよく見えるようにと上空へ投影する。

 ただ声が聞こえるのと、姿が見えるのでは印象が違うからな。


『あー、あー、みなさん、混乱してるところ申し訳ないのですが、ちょっとこちらに注目してください。おそらく、ここに居るだいたいの人が、誰だおまえって、言いたくなるでしょうが、聞いたことはあると思うんですよね。どうも、僕がレイヴァースです』


 話は――、まあゆるい感じでいいと思う。

 肝心なのは何となくでも安心感を覚えてもらうこと。ここで取り乱してもしかたないと理解してもらうこと。そのためには、俺がちっとも焦っていない姿を見せるのが効果的だと思う。


『さっきはいきなり悪神が出てきて驚きましたね。ええ、僕も驚いたんですよ。予定ではもうちょっと後で遭遇するんじゃないかなーって思っていたところに、突然でしたからね。おまけに世界樹計画を再開するとかなんとか……、あれって要はまた邪神を誕生させようって話です。ホント、迷惑な話ですよ』


 この場に集まった人々にとって、悪神の話は情報過多であり、理解が及ばない。

 この、話を中途半端に聞いた状態というのはなかなかやっかいだ。

 悪神が恐ろしい企みを現実のものにしようとしている、という印象がより増幅され、不安と恐怖に支配されてしまう。それは薄闇の向こうに正体のわからぬ何かが蠢いていることに気づいたあと、冷静さを失って恐ろしい存在ばかりを思い浮かべるようなものだ。

 この得体の知れ無さを『実は動くぬいぐるみでした』くらいに収められたらいいのだが、さすがにそうもいかないので話を単純化してひとまず理解だけしてもらう。


『いやー、これが本当に迷惑な話なんですよ。だってそんなの、阻止しないわけにはいかないでしょう? まあ阻止します。するんですけど、僕って一週間前に魔王の誕生を阻止したばかりなんですよ? ちょっと忙しすぎと思いません? 僕はこれでも色々と仕事を抱えていてけっこう忙しい身なんです。一番時間がかかるのは冒険の書で……、あ、みなさん冒険の書って御存じですかね? 遊びながら冒険者に必要な知識や考え方を学べるって優れものなんですよ。もちろん純粋に遊びとしても楽しめます。現在三巻まで発売されていますから、もし興味がわいたならお近くの書店、もしくは冒険者ギルドでお買い求めください』


 うん、俺なに宣伝してるんだろうね。

 話す内容をしっかり決める間もなかったからなぁ……。


『えっと……、つい唐突に宣伝してしまいましたが、とにかく僕は忙しいのです。冒険の書の四作目を作らないといけないのに、ここでこの事態ですよ。さすがに作業を優先させるわけにはいきませんからね、これからは邪神誕生を阻止するためのお仕事です。とは言え三日したら阻止しに行くわけで、そこまで日数はかかりませんね。これさえ片付けてしまえば、もう邪神だの魔王だの気にかけて不安に思う必要は無くなります。考えようによっては、後々まで続いたかもしれない問題をここで一気に片付けられるわけですから都合が良いかもしれません』


 もちろん上手く行けば、という話。

 しかし俺はわりと本気だ。


『今日はここで魔王の誕生を阻止した記念の式典が行われるはずでしたが、悪神の妨害があったので中止ということになるでしょう。僕も少し話をする予定でしたが、これからは邪神誕生を阻止しに行くための準備をしなければなりません。せっかく集まっていただいたのに心苦しいのですが、今日のところはこれで解散となります。まあ一週間もすればすべて片付いているので、その時また盛大な式典が計画されると思いますよ。それでは皆さん、次の式典でお会いしましょう』


 俺が話し終えたところで、バスカーが「わおーん!」と吠えた。

 閉会の合図のつもりらしい。

 こうして俺が話をした意味があったのか無かったのか、市民たちは狐に摘まれたような顔をしながら誘導する兵の指示に従って大人しく王都へと帰還を始めた。

 その様子を少し眺め、それから俺はまたバスカーに乗って皆のところへと戻る。

 するとすぐにミーネが尋ねてきた。


「ねえねえ、計画を阻止するのはわかったけど、具体的にはどうするの?」

「うん、それがまだ考えてないんだ。とは言え……、何ていうか、あれだ、やることの方向性? そういうのは二通りある。A案とB案とでも言っておこうか」

「A案はどういうの?」

「瘴気領域を突破して頑張る」

「なるほど。じゃあB案はどういうの?」

「瘴気領域をどうにかしてから頑張る」

「なるほど。わかったわ」


 神妙な顔をして頷くミーネ、おそらく何もわかっていない。

 さて、ひとまずこの場が混乱することは抑えることができたが、これでひと休みというわけにはいかない。


「リマルキス」

「はい、何でしょう」

「これから無茶を言うが、何とか実現しろ」

「あ、はい……、いったい何を?」

「大陸中の王や代表にこのことを知らせてくれ。詳細までは説明しなくていいから、ともかく再び邪神が誕生しそうとかなんとか伝えて全員呼び寄せるんだ」

「え……、全員!?」

「全員、一人残らずだ」

「ど、どうしてまた……?」

「A案にしろB案にしろ、人手――軍隊が必要になる」

「軍隊……、メルナルディアだけ、あるいは六カ国だけでは足りないほどなんですか?」

「六カ国で何とかなるかもしれないが、この作戦に関わっていない国があるってのは後々まずいことになる」

「それはいったいどういう……、あ、いえ、余計なことを尋ねている場合ではありませんね」


 と言うリマルキスだが、訳もわからずただ指示に従って行動するというのはやりにくいもの。


「一緒に頑張って世界を救ったとなれば気分もよくなるわけで、そうなりゃシアのことくらいうやむやにできそうだろ? とりあえずそういうことで納得しておけ」


 実際にはもうちょっと政治的な問題が絡むが、リマルキスならその理由だけでも動くには充分だろう。


※誤字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2019/09/20

※誤字脱字の修正をしました。

 ありがとうございます。

 2022/09/09


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